2: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 12:43:18.73 ID:v5IqUUwo
勇者……この話の主人公の一人。男、黒髪。
魔界の奥、魔王城へ一人と乗り込んだ戦闘能力の持ち主。
魔王を倒しても戦争は終わらずより酷い結果になると説得され
魔王の仲間となった。童貞。

魔王……この話の主人公の一人。女性、むちむち体型。
(歴代の中では)戦闘能力が低い魔王。広範な知識を持ち
戦争を経済的観点から分析、戦後処理を含めて「まだ見ぬ
未来」を模索しようと勇者に持ちかける。お肉が気になるお年頃。

女騎士……この話の主人公の一人。女性、つるぺた無毛。
かつて勇者とパーティーを組んでいた3人のうち1人。
今は湖畔修道会という光の精霊をあがめる教会の位置派閥を
率いている。冬越し村修道院へと居を移し、魔王と勇者の
屋敷に足繁く通う。

冬寂王……この話の主人公の一人。男性。冬の国の王。
戦で戦死した父に代わり、冬の国を率いることになった若き英傑。
開明的な思想の持ち主で、鉄の国、氷の国との連合国家を目指す
ことを表明。魔王に興味を持つ。

メイド姉……この話の主人公の一人。女性。亜麻色の髪。
冬越し村へとやってきた魔王たちの屋敷へ逃げ込んだ農奴姉妹
のうち姉の方。思索的な性格で、書類の扱いに長ける。
当初はメイド長の下でメイドの仕事全般をおこなっていたが
その能力を見いだされて魔王の秘書のような仕事もすることに。

3: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 12:44:38.30 ID:v5IqUUwo
286 :VIPがお送りします [sage] :2009/09/08(火) 23:21:20.07 ID:I63MLpWkP
うなぎいぬー。寝る前にちょい時間が取れたので、
補足をちょろっと!!
ここ最近で見られたもの補足~!

Optics(光学)
現実世界では1609年に、ガリレオが望遠鏡(telescopium)を作成し、
天体観測にそれを使用しました。
正確な星図によって船員はよりよい航路の計画が可能になった。
また、これらの光学観測機器は戦争時の索敵行動にも影響を
あたえましたー。

Paper(紙)
相当でかい発明ですー。
情報技術(いまでいうIT)を変革しました。
紙の出現以前は粘土板、動物の皮、絹などを使用してましたが
これら多くはかさばるか、高価か、壊れやすい物で欠点が
多くありました。しかも印刷に使えるような物ではありません。
現実世界では、100年ころに中国で開発されましたが
西洋に伝来したのは1300年頃とのこと。
作中では「魔界ではメジャーだけど人間界にはなかった物」です。

Banking(銀行制度)
剰余金をプールして、現金を関心のある他者へ貸素業務。
投資のための資本の有用性によって、経済成長が加速され、
多くの新しいビジネスが可能になりましたー。
(パトロン的な関係をも含みます)
現実世界では1600年代後半に、ヨーロッパに設立されます。
作中では「『同盟』内部に存在する機関」です。
いずれ普及するのでしょうが。

4: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 12:46:28.81 ID:v5IqUUwo
Machinery(機械)
機械というと随分広い範囲ですが
ここではギヤ、駆動軸、レバー、滑車、ねじ、巻き上げ機など
を使用した中型から大型の物です。
これらの要素は木製でも機能します。とくに、船具につかわれる
動滑車などは木製ですが、この時代、冶金技術によってより
強く正確な金属部品の製造が可能になると、機械は精巧さと
使い勝手の面で急速に成長しましたー。
中世の帆船は、機械技術の結晶でもあります。
作中では、あちこちに水車、風車、粉ひき小屋をはじめ、
最近では氷の国に「製紙工場」が作られつつあるようです-。

Education (教育)
教育とは前の世代のもってる知識を後の世代に伝えることです。
非常に単純なことなのですが、作中でも指摘されるとおり
けっこう重要。人類の武器の一つです。
教育は、その初期段階をほぼ全て宗教組織に頼っていました。
境界は教育の中心で、ほとんど全ての知識が集められています。
現実世界においても、始めに作られた大学は神学校でした。

Gunpowder(火薬)
火薬は硝石、硫黄、および炭の化学混合物です。
現実世界では9世紀に中国で火薬が開発され花火に
使用されていたそうです。14世紀にヨーロッパに伝来しました。
作中では、非常に稚拙ながら、聖王国が大砲の技術を持っている
ようです。使い勝手の良い黒色火薬はまったく知られていません。

……と、魔王が居なくなってしまうので、先に技術説明だけ
させてみたしだい。
まとめ、感謝であります!

30: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 14:59:58.18 ID:I7KnzzEP
――冬越し村、屋敷の厨房

勇者「お。おお? こうか? こうか!?」

メイド姉「もっと優しくしてください、勇者様」

メイド妹「もんでぇ。お兄ちゃん。もっと揉んでー♪」

 もみもみ

勇者「なんて、ちっとも嬉しくないな。実際」

メイド妹「さぼっちゃダメだよお兄ちゃん」

メイド姉「ミルクっぽくて良い香りです」

メイド妹「ふふーん。細かい挽きの小麦だもん」

勇者「小麦は、挽きがきめ細かいほど高いからなぁ。
 これ、随分高かったろ? いいのか、散財して」

メイド妹「でも、パイ生地にするには、細かい方がいいんだよ。
 馴れたら、色んな挽き方とか、大麦とか、蕎麦も試してみる」

勇者「ふーん。パイ、ねぇ」

31: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:01:18.44 ID:I7KnzzEP
メイド姉「妹? もう最初の分は焼けたかも」
メイド妹「うん♪ みてくる」

勇者「なんか結構面倒だなぁ。生地なんて普通、
 混ぜてお仕舞いじゃないのか?」

メイド姉「えーっと、パイの場合は
 この折りたたんで伸ばすという作業が重要みたいですよ」

勇者「そうなのか?」
メイド姉「本によればそうですね」

メイド妹「わひゃお♪ うひゃひゃー♪」

勇者「なんて声出してるんだ、あいつ」
メイド姉「よっぽど嬉しいんでしょうね」くすくす

メイド妹「でーきたー! 完成~!!」

勇者「お、出来たのか?」
メイド姉「どう? 膨らんだ?」

メイド妹「すごーい! きれい! 金色でぴかぴか!!」
勇者「どれどれ? お。すごいな、確かにきれいだぞ」

メイド姉「本当ね。ひまわりみたいねっ」

33: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:03:34.58 ID:I7KnzzEP
メイド妹「はいっ! 食べてみて」
勇者「これは。熱っ、あちち」

メイド姉「布巾で持ってください、勇者様」

メイド妹「焼きたてだから、熱いよぉ?」

勇者「こいつは、ん! 馬鈴薯と、ベーコンか?」

メイド妹「うん、馬鈴薯とベーコンのパイなのっ♪」

勇者「うまいなぁ、これちょっとすごいぞ?
 なんつぅか、家庭の味なのにすごく贅沢で豪華というかっ」

メイド姉「美味しいわ。上出来よ、妹」

メイド妹「わーい♪ わーい♪」 くるくるっ

勇者「妹は才能あるなぁ。こいつはイけてるぜ?」
メイド姉「ええ、満点です」なでなで

メイド妹「えへへへ~」 にへらっ

勇者「もう1個良いか?」
メイド妹「もちろん!」

34: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:05:43.57 ID:I7KnzzEP
勇者「うまっ。うまっ」

メイド姉「これは、小麦のグレードを下げて
 原価をコントロールできれば名物料理になるかもしれないわね」

メイド妹「ほんと?」

勇者「ああ、まじだぜ。この具材の所は変えても良いんだろう?」

メイド妹「うん、鮭でも、キノコでも、羊でも良いと思うよ。
 あと、甘い味も合うんだって。プラムとか、洋なしのも
 考えてる~」

勇者「じゃぁ、酒場でも出したがるかもしれないな」
メイド姉「ええ、焼いておけば暖めるだけで出せますし」

メイド妹「ねぇねぇ、じゃぁ。わたし料理人になれるかなっ?」

勇者「はん? もう料理人だろう?」
メイド姉「ですね」 くすっ

メイド妹「やったー! わたし料理人だぁ♪」くるくるっ

勇者「何でそんなに嬉しいんだ?」
メイド姉「あの子は、食いしん坊ですしね」

メイド妹「えへへへ~。だってお仕事だよ?
 お仕事あれば、のーどに戻らないで済むんだよ。
 わたしこれから料理作って、もっと上手になって
 みんなに食べさせてあげるんだぁ♪」

35: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:07:48.34 ID:I7KnzzEP
勇者「そっか」
メイド姉「……」なでなで

メイド妹「ね、ね? 美味しい? 美味しい?」

勇者「美味しいぞ」
メイド姉「うん、美味しいよ」にこっ
メイド妹「いっぱいあるんだよ! いっぱい作ったから!」

勇者「そっか。妹は料理人かぁ。いいな、それ」にこり
メイド妹「うんっ」

勇者「で、お姉ちゃんの方は何になるんだ?」
メイド姉「え?」

勇者「いや、何になるのかな、と。――お嫁さんとかか?」
メイド姉「そんな。わたしなんてとても……」

メイド妹「おねーちゃんは、眼鏡になると良いよ♪」
メイド姉「もうっ、そんなこと云ってると叱られますよ?」
メイド妹「うー」

 ドンドンドン!

勇者「あれれ? 誰だろう」

 「夜分遅くに失礼! 誰かおられませぬかっ!?
   誰かご在宅ではございませぬかっ!?」 ドンドンドン!

39: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:25:08.13 ID:I7KnzzEP
――魔王城、最下層、冥府殿

オオオオン!
 オオオオオン!

メイド長「随分、魔素が濃くなっておりますね」

魔王「無理もない。二年近く放置していたからな」

メイド長「ええ……」

魔王「荒れておるな、魔王の魂どもめ」

メイド長「封印はいかがでしょう?」

魔王「うむ。ぎりぎりだが、どうにかなるようだ。
 わたしが中に入れば、ポテンシャルを
 内側に解放して沈静化するだろう」

メイド長「まおー様が心配です……」

魔王「こんな残留思念に乗っ取られるのは
 わたしだってごめんだ。
 150年の生のうちでも、
 これほど命を惜しむ気持ちになるのは初めてかもしれないな」

メイド長「……」

魔王「悪いことばかりでもない。ここに入れば
 それだけで戦闘能力が上がるからな」

40: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:28:10.09 ID:I7KnzzEP
メイド長「それは……。
 歴代魔王様達の能力全てが順次継承されてゆくのですから
 戦闘能力は増大するでしょうが……」

魔王「故に、魔王は魔族最強なのだな。ふふっ。
 ……歴代魔王の中には日常からこの冥府殿を寝所として
 使用していた剛の者もいたと聞く」

メイド長「それで破壊本能にとりつかれた
 まおー様なんて見たくはありませんからね」

魔王「わたしだって見たくない。
 そういう筋肉で解決! 的な思考はスマートさに欠ける。
 醜悪だ。学究の徒として耐えられない」

メイド長「まおー様は学究の徒というより、
 夢をおいかける現実主義者のような方ですよ」

魔王「ま、とにかく」

メイド長「……」

魔王「地震が起きない程度には、
 この結界の内圧を下げてやらねばならん。よいな? メイド長」

メイド長「はっ」

魔王「もしここから出てきたわたしが、
 わたしでなかった時には……」

メイド長「一命に賭けて、その“魔王”。討たせていただきます」

44: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:46:45.94 ID:I7KnzzEP
――冬越し村、魔王の屋敷

冬寂王「……」
女騎士「……」

執事「そのような次第で、
 早馬に早馬をかさねまかり越した訳でして……」

勇者「……判った」

メイド姉「……」
メイド妹「おねぇちゃん……?」 ぎゅっ

冬寂王「しかし、学士殿が留守とは」

勇者「最低でも二月は帰らないと云う話だ」

執事「そうですか……。その知恵におすがりしたく
 思っていたのですが。居ないとなりますと」

女騎士「それにしても教会め。
 ……光の精霊様をなんだと思っているんだ。
 詭弁の種に使っているだけじゃないか」

冬寂王「……」

46: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:51:32.19 ID:I7KnzzEP
執事「しかし、聞けば幻術の指輪があるとか」

女騎士「爺さん。その先を口にすると両手に
 首を抱えることになるぞ」

執事「しかし、わたしが言わずに誰ば云います」きっ

勇者「……っ」

冬寂王「すまぬ……」

女騎士「……何故、このような試練を」

冬寂王「勇者よ。……いきさつは爺から聞いた。
 本来ならばあなたの生還を祝い国を挙げて
 祭りを催すべきなのだろうが……。
 その大恩ある勇者、そのお身内にまたしてもこのような
 災禍をふりまく事になってしまった。
 すべてこの冬寂王、冬の国、南部諸王国に力なき故のこと」

執事「若……」

冬寂王「すまぬ。我が不徳ゆえ、
 故無くこのような仕儀となってしまった。
 事は全て、我が南部諸王国が中央のくびきを脱しようと
 独歩の気風を育てようとしたことから始まったこと。
 詫びて詫びきれるものではない」

47: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:55:02.72 ID:I7KnzzEP
勇者「まぁ、その話は終わってるんだ。
 気にしないで欲しいな」

女騎士「……」

メイド姉「あの、わたし……わたしが……」

勇者「それは不許可だ」
メイド姉「だけどっ」

冬寂王「……勇者、しかし」

勇者「おい、王様。その先は口に出したら感電死だぞ。
 もしここにあいつが居たらそういうオチもあったかも
 しれないけれどな」

 (なんだったら魔族に村を襲わせて……)

メイド姉「でも……」
メイド妹「お姉ちゃん~」ぎぅっ

勇者「だけど、その先は考えても、口に出したら
 王としては立ち行かないんじゃないかと思うぜ。
 それとも、その独歩の気風ってのは思いつきで云ってたのかよ」

冬寂王「……っ」

48: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 15:56:34.14 ID:I7KnzzEP
冬寂王「だがしかし、わたしには冬の国の国民全てを
 守る義務がある。そのためには……。そのためには……」

執事「……」

勇者「ま、その辺は俺の方で案配するよ」

女騎士「……勇者?」

勇者「メイド姉には迷惑掛けるが、捕まってくれ」
メイド姉「はい」

冬寂王「それは……」

勇者「で、冬の国を出て、適当なところで俺が助ける。
 なに、たかが異端審問の護送隊だろう?
 いても100人やそこらだ。たいした敵じゃない」

女騎士「だがしかし、それじゃあ!」

執事「……勇者すみませぬ。申し訳ございませぬ」

勇者「引き渡して、冬の国を出たあとならば、
 冬の国へのおと咎めはないだろう?
 責任は護送隊の方にあるはずさ。それで万事解決だ」

49: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:00:14.29 ID:I7KnzzEP
執事「勇者。……それでは、勇者はまた」

勇者「うん。まぁ……また姿をくらませなければならないけどな。
 しかたあるまいよ。教会に逆らうのは無理なんだろうし」

執事「また。この老愚は。
 勇者を一人に……。また勇者を一人で……」

勇者「あー。ならない、ならない。
 今回はこの姉妹も居るし、そのうち学士だって帰ってくる。
 女騎士だって爺さんだって王様だって、
 表だっては無理だろうが……また会ってくれるだろう?」

女騎士「論外だ、会うだなんて。わたしは共に行く」

勇者「それじゃ農民のや開拓民の支援を誰がやるんだよ」

女騎士「……それくらいっ、修道院の組織で出来るっ」

勇者「ま、そこのところが……。
 軌道に乗り始めてきた改革や新しい作物、色んな発明が
 全部無駄になっちまうのが痛いところだけどな。
 しかしまぁ、メイド姉を見殺しにしたところで、
 全部異端とか云って禁止されてしまうんだから同じ事だ。
 あいつには生ぬるいって云われるんだろうけど
 ……俺はやっぱり勇者だから、見捨てるなんて出来ないよ」

50: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:03:39.18 ID:I7KnzzEP
執事「また勇者一人に背負わせてしまうのですか……」

冬寂王「これも全て人界の醜さだというのに。
 我が身で済むことでさえあればっ」

勇者「落ち込むなよ。夜逃げには馴れてるんだ」

女騎士「では――この村ともお別れか」

メイド妹「おねーちゃん。この村から引っ越すの?」
メイド姉「……」

メイド妹「酒場のおいちゃんにパイ教えてあげちゃだめ?」
メイド姉「……」

冬寂王「……っ」

執事「若。若には、国を守る責務がおありです。
 背筋を伸ばしてくだされっ」

勇者「そうそう、笑っておこうぜ。空元気でもな!」

女騎士「勇者……。勇者であれば、聖王都の軍でさえ
 相手に回して戦うことも出来るのに……」

勇者「残念ながら、俺のオーナーがそう言うやり方は
 許してくれないんだよ。戦って勝つとか、倒して奪うとか。
 ……だからって、奪わせる気なんかないけどな」

56: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:29:49.75 ID:I7KnzzEP
――冬の国、名も知れぬ村

 なんだって? 学士様が?
 まさか、そんなわけがあるわけないべ!

 だって、教会の人が道ばたでそう怒鳴っていただよ。
 教会? 修道会じゃないのけぇ?

 うん、中央の教会から来たっていう、おっかない人だっただぁよ。
 まさかぁ。
 学士様が異端? そんなこと……。

 でも、そう言ってただよ。
 学士様がもってきた馬鈴薯は、悪魔の食べ物だって。

 だって馬鈴薯がなかったらどうするんだべ?
 学士様が居なかったら、うちの孫娘は死んでいたんだべや。

 何かの間違いに決まってるだぁよ。
 でも……学士様が連れて行かれたらどうすんだべ。

57: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:31:27.31 ID:I7KnzzEP
 ほーうい! ほーうい!!
 ほーうい!

 どうしたんだべか?
 そっただ慌てで、羊でも逃げちまっただかぁ?

 おい、森の中の道にっ。はぁっ、はぁっ!

 へ?

 森の中の道に、学士様をとらえるって
 檻と鎖を引きずった、おっかない兵隊さん達が進んでるだよっ!

 え? 本当けっ!?

 あれは、この国の兵隊じゃないべ、なしてだ?

 なして冬の国に、人間の国が攻めてくるんだべやっ?

 学士様を、学士様を出せって叫んでるべやぁ!

 それじゃ学士様が異端だってのは……。
 恐ろしい、なんてことだべや。精霊様、どうかお慈悲を!

   ガシャン。ガシャーン。ガシャーン。

 ああ、聞こえてきた。どうなっちまうんだべ。
 せっかく暮らし向きも良くなってきたと思ったのに……。
 この国はどうなっちまうんだべ……。

63: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:43:44.52 ID:I7KnzzEP
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室

辣腕会計「……以上です」
青年商人「そう、ですか……」

辣腕会計「これはやはり」

青年商人「ええ、教皇選挙の結果でしょうね。
 今度の教皇は大陸中央、生粋の聖王国主義者です。
 おそらく、教会の威信の低下を察知したのでしょう。
 その回復のために、三回目の聖鍵遠征軍を企画して
 いるのですね」

辣腕会計「そのためには、内政を回復させつつある
 南部諸王国が邪魔である、と」

青年商人「そうです。
 このところの魔族の進軍の鈍化。
 いえ、鈍化というよりは空白ですね。
 その影響で、西部諸王国が経済的自立を強め
 結果、中央の発言力が低下している」

辣腕会計「中央が南部諸王国のとりまとめを
 させようとしていた白夜王は、敗戦責任を取り
 半ば以上失脚した形ですからね」

青年商人「ええ、その上、中央がノーマークだった
 冬寂王などという英傑まで現われて、
 人心を掌握しつつある。
 さらには謎の学士が様々な農業改革や
 機械開発を通して、南方の荒れ果てた地でも
 その人口を養えるだけの食料が生産されてしまった」

64: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:45:08.90 ID:I7KnzzEP
辣腕会計「食料は、中央が南部諸王国につけた
 いわば番犬の鎖でしたからね」

青年商人「……中央は、教会権力の権威を見せつけるために
 魔族との軍事行動において勝利を喧伝しなければなりませんが
 南部諸王国が国力をつけることは、望んでいない。
 そう言うことになりますね」

辣腕会計「はい……」

青年商人「……」

辣腕会計「委員、『同盟』としてはどうしますか?」

青年商人「現状では、身動きが取れませんね」

辣腕会計「……」

青年商人「目下すべきは別のことです。
 10人委員会の準備をしましょう。
 ……彼は居ますか?」

 ガチャ

中年商人「おう、そろそろかと思ってたぜ」

貴族子弟「お邪魔します、青年商人さん」

67: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:48:09.53 ID:I7KnzzEP
青年商人「いえいえ、いつでも歓迎ですよ」にこにこ

貴族子弟「足がありませんでしたから、
 こちらこそありがたいですよ。
 ああ、そうだ。これ、氷雪女王からの代金です」

辣腕会計「それはわたしが受け取りましょう」 がさごそ

青年商人「女王はいかがお過ごしですか?」

貴族子弟「今回の件では心を痛めていますよ。
 だがしかし“三国通商同盟の盟主は冬寂王だ”と。
 それだけははっきりと申されました」

青年商人「そうですか」

中年商人「さぁて、俺はどこに行けば良いんだい?」

青年商人「中央へ。他の10人委員へと会ってきてください」
中年商人「この坊主は?」

青年商人「どうされます?」

貴族子弟「いやー。わたしは、氷雪宮にいても役立たず
 なんですよ。女王もね。丁度良いから各国をまわって
 お土産の饅頭でも配ってこい、なんて仰られて」

中年商人「良いのかよ、そんな暢気で」

70: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:50:25.45 ID:I7KnzzEP
貴族子弟「氷雪の国は別名、詩人のふるさと。
 吟遊詩人を多く輩出する芸術の発祥地ですからね。
 わたしみたいな穀潰しでも居心地が良いんです。
 ま、ダンスと口説き文句が冴えないと
 居心地悪くなってしまう国なんですけどね」

青年商人「では、決まりですね」
中年商人「ふむ」

青年商人「当面は静観です。決して天秤を揺らさぬよう。
 そして、静かに10人委員に接触を持ってください」

中年商人「こいつはどうするんだ?」

青年商人「ご本人の仰るとおり、船に乗せて
 行き先々でご挨拶させてあげればいいのではないですか?
 手を貸す必要はありませんよ。
 もちろん、あなたが紹介したい相手でも居れば、
 そうなさることに反対はありませんが」

貴族子弟「一つよろしくお願いします」にこにこ

中年商人「まったく、俺はガキの子守かよぉ」

貴族子弟「そこを何とか。美味しい酒あるんですからっ」

 とっとっとっと、がちゃん。

71: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 16:52:17.21 ID:I7KnzzEP
辣腕会計「――さて」
青年商人「はい」

辣腕会計「10人委員会への接触は、任せるとして」

青年商人「彼ならば他の委員の旗色を伺ってくれるでしょう。
 教皇派がどれくらい居るのか、早急に把握したいですね」

辣腕会計「委員はどちらなのです?」

青年商人「どちらでもありませんよ。むしろどちらかに
 偏っていたら、きっとあの人に軽蔑されてしまう」

辣腕会計「わたしはどうしましょう」
青年商人「……ふむ」

 ぺらっ

青年商人「資産調査をお願いします」

辣腕会計「は?」

青年商人「『同盟』各支部の動的財産の規模把握、
 および『同盟』参加商人に資産状況の把握です」

辣腕会計「資本……ですか?」

青年商人「ええ。聖鍵遠征軍が組織されるにせよ
 そうでないにせよ、次に吹く風は生半可ではありませんから」

74: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:00:46.59 ID:I7KnzzEP
――冬の国、王宮、控えの間

     うわぁぁ、うわぁぁ

勇者「外はすごい群衆だ」
女騎士「ああ、魔王は農民たちに慕われていたからな」

メイド姉「はい」

勇者「横柄な態度の女なのにな」

女騎士「そうか? 修道院にやってくる
 開拓民や農奴の中には、魔王を本当の女神様だと
 思い込んでるやつだって沢山いるんだぞ?」

メイド姉「わたしと妹が村の道を歩いていると」

勇者「……?」

メイド姉「みなさん、笑って手を振ってくれるんです。
 笑顔で話しかけてくれるんですよ?
 この春はこんなに馬鈴薯が取れたって。
 この秋は小麦の育ちが良いって。
 それでベリーをくれたり、
 タマゴを持っていけって云ってくれたり。
 ウズラを届けてくれたり。
 あの屋敷で、村の人から貰ったものが
 食卓に並ばない日なんてありませんでした」

勇者「そうだったのか」

女騎士「……あの村らしいな」

75: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:01:41.49 ID:I7KnzzEP
メイド姉「みんな本当にいい人で、
 わたしや妹のことを可愛がってくれて。
 当主様の役にたってやってくれ、って。
 自分たちは本当にお世話になってるけれど
 色んなお手伝いは直接できないから、って。
 馬鈴薯をくれてありがとう、って。
 時には赤ちゃんを連れてきて
 小さな葉っぱみたいな手に触らせてくれるんです。
 賢くて優しくなるように、って。
 ただの農奴だったわたしにですよ?
 当主様に仕える、偉い人だからって」

勇者「……」

メイド姉「あの村は、良い村ですね。
 わたしたちが逃げ出した地主は、
 隣村で没落してしまったみたいですが。
 あの村では開拓民の方も、地主さんも、農奴の方も
 本当に一生懸命で。支え合って、健やかで。
 修道院で教えて貰った歌を夕暮れの畑で
 麦を刈りながら何時までも歌っているんです」

勇者「うん」

メイド姉「……お別れするのは、少し寂しいですね」

女騎士「なに、次の住まいでも、きっと良い出会いがある」

77: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:03:34.19 ID:I7KnzzEP
女騎士「王は、すでに向かったか?」

勇者「ああ、引き渡しは広場の中央という話だったな」

女騎士「見せしめにしたいのだろうさ」 ぎりっ

勇者「あれが……使者か」

     うわぁぁ、うわぁぁ

女騎士「わたしも行かねばならぬな。
 湖畔修道会の長としてあの下卑た男の言葉を
 受ける必要があるのだ。汚らわしいが」

メイド姉「はい、あの」
女騎士「?」

メイド姉「いってらっしゃいませ」

女騎士「メイド姉。君だってわたしの友人だ。
 思い悩む必要なんて無いのだぞ」

 カッカッカッ

勇者「……。よし、俺も移動する。無いとは思うが
 周辺の監視もしておきたい。平気か?」

メイド姉「はい」

78: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:05:29.02 ID:I7KnzzEP
勇者「大丈夫だよ。メイド姉はなにも怖がる必要も
 難しく考える必要もないんだ。二日以内にきっと
 助け出してやる。少しだけ辛抱してくれ。
 済まないな、こんな役を押しつけて
 この国や人々を守るのは、俺や女騎士や、王の仕事なのに」

メイド姉「はい……」じっ

勇者「どうした?」

メイド姉「いえ。……わたし」
勇者「ん?」

メイド姉「いえ、なんでもないんです」

勇者「……? では、行く。ずっと見ているからな」

メイド姉「はい」

 カッカッカッ

メイド姉「……。……っ」

メイド姉「わたし……」

メイド姉「……」ぐすっ

メイド姉「何でこんなに、何も出来ないんだろう……」

80: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:13:27.99 ID:I7KnzzEP
――冥府殿、闇の奥底

オオオーン。
 オオオオオオーン。

魔王「こんな所……勇者には。みせ、られないな……」

 殺せ! 殺せ! 人の全てを! ゲートを破壊せよ。
 全ての大地は我が魔族のもの。世界の全ては我が魔族のもの!

魔王「違うであろう。……お前が言っているのは
 “俺のもの”でしか……ないではないか」

 そのどこがいけないっ。それのどこが悪いっ。
 実りは全て手を伸ばした者の獲物。
 剣を、鋼を持ち。
 奪ったものが全てを手に入れる。
 それが太古から続くただ一つの掟。絶対の法則ではないかっ!

魔王「芸のないことを。……太古から続く?
 新しい掟を作るだけの想像力……の……欠如をことさらに
 自慢をするなっ。何のために脳が……ついているのだ」

 そのような脆弱な魔翌力で如何にこの世を統べる?
 どうあがこうがこの世は力。

魔王「力にも……色々種類……が……あるのだ」

81: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:15:05.98 ID:I7KnzzEP
 結局は貴様とて雌ではないか。
 我が力、比類無き魔翌力、無敵の肉体、鉄をも引き裂く
 戦の力を求めてこのしとねに入ったのであろう?
 良かろう、くれてやる。我にその心を明け渡せっ。

魔王「馬鹿も休み休み云え。……わたしは……売約済みだ」

 ふはははは!
 そうか、魔王。新しき魔王よ!
 好いた男でも出来たのか。まさに女だな。
 だがしかし、貴様が如何に愛そうと
 その愛ごとに勇者は粉々に引き裂くぞ?
 お前が魔王である限り、勇者がお前を討ちに来る!
 それを避けるために、
 お前は結局我が力を求めねばならんのだっ。

魔王「時代遅れの旧弊な老害め。
 殺すの、殺されるの。それだけかっ。
 その問題は……すでに解決しているわっ」

 だがしかし、この闇にいる間、
 主導権は我にある。
 がはははは! 波に揺られる木の葉のような貴様が
 いつまで己を保てるかなっ。がはははは!

魔王「ごふぅっ……ああ……これは……
 流石に……げふっ、げふぅっ……」

82: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:17:00.71 ID:I7KnzzEP
 苦しかろう! 身を任せるが良い。
 我が力、大地を砕く無類の能力を与えてやろうっ。

魔王「ふふっ」

 何がおかしいっ。新参の魔王よっ。

魔王「あはは……げふっ。げふっ、ごふっんっ。
 これじゃ、ゆうしゃに……見せられない……
 嫌われて……しまうなぁ……」

魔王「可愛くない……し、色気も……
 ないのに……。
 せめて……清潔に……してないと……」

 何を余裕ぶった態度を! 冥府の波動を受け入れるが良い!
 魔王など、所詮は代々続く“器”にすぎぬのにっ。

魔王「……なら……“器”の残滓が……偉そうにほざくな
 ……ごふっ。げふんっ……内蔵が……よじれ……
 はは。
 知っておるか……?」

 墜ちろっ! 墜ちろっ! 貴様に魂などないのだっ!

魔王「……ゆうしゃの、くろかみは
 ……もふもふ、なのだぞ?

 ああ、あったかい。
 いつまでも、触って……いたい……な……」

87: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:28:22.55 ID:I7KnzzEP
――冬の国、王宮前広場

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

執事「すごい人の数だな」
将官「ええ、付近の村からも人が詰めかけているようです」

執事「何も起きなければよいが……」
将官「警備を増やしましょう」

執事「そうしてくれ」

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

  押すな、押すな。みろ、あの台の上か?
  あれが王か? いやよく見ろ、俺たちの王はあんな
  貧相じゃない。じゃぁ、使者とか云うやつか?

  まさか本当に学士様が異端なのか? そんなことはないよな。
  学士様に限ってそんなことがあるはずが……

  あ! 見ろ! 王が、王がお出ましになったぞ!

冬寂王「……諸君、大儀である」

使者「王よ。約束どおり、捕縛したのだろうな?」

89: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:29:41.38 ID:I7KnzzEP
冬寂王「引き渡そう」すっ

 ザッザッザ
治安兵士「……こちらへどうぞ」
メイド姉「……」

  学士様! あれは学士様だよ! 間違いないっ!
  そうだ、俺の息子も、あの学士様に畑のことを教えて貰った。
  だぁよ。うちの豚だって学士様に見て貰っただぁ。

  病気の姉ちゃんを見て貰ったのに……。学士様行っちゃうの?
  学士様が異端だって、そんな! 精霊様、お慈悲をっ!

使者「ふむふむ。うむ、間違いないな?
 替え玉を使おうとしても無駄だ。こちらには学士の
 顔を知っている人間だって用意しているのだからな。
 だがこれは間違いなく本人のようだ」

冬寂王「ご異存無いか?」

使者「如何にも。召し捕らえよっ!」

審問僧兵「はっ!」 ビシィ!
審問僧兵「抵抗するなっ!」 ドスンッ

メイド姉「……くふっ」

93: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:32:26.91 ID:I7KnzzEP
冬寂王「……っ」めらっ

使者「さて、冬寂王、女騎士殿。
 教会はあなた方の協力を感謝しますよ。
 このような異端の女と関係性が無かったことが判り、
 これは両者にとって誠に重畳であると申せましょうな」

冬寂王「痛み入る」

女騎士「……ああ」

使者「ふっ。殊勝な態度ですな。それでよいのです。
 南部諸王国にとって中央との関係をこじらせ
 良いことなど一つもないのですからね。
 我らは魔族の驚異の前に、強固かつ永続的に
 手を組む必要があるのです。
 そうでしょう、王よ?」

冬寂王「……っ」ぎりっ

女騎士「……」

使者「ふっ」 くるっ

使者「捕縛士、その異端者を打ち据えよ。
 外套をはげっ! 手かせをはめて王都まで連行するぞ」

審問僧兵「はっ!」 ビシィ!

96: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:35:04.28 ID:I7KnzzEP
執事(堪えてください、若。
 すまぬ、罪も無き少女よ……。
 このような責めをおわせた世よ、呪われてあれ……)

審問僧兵「這いつくばれっ。枷をっ!」

メイド姉「……」キッ

使者「これは反抗的な。まさに異端者の目。
 何か申し開きでも?
 精霊の教えに背く悪魔の使いが、ですが」

  学士様……。学士様、嘘だよな? 異端だなんてそんな。
  あんなに皮膚が裂けて、血が流れて……。精霊様……。
  お姉ちゃんは何でぶたれてるの? わるいことしたの?
  もうそんな。おら見てらんねぇだ。


メイド姉「わたしは……。
 わたしは、魂持つ者として皆さんに語らなければならない
 ことがあります」

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

メイド姉「……わたしは。
 わたしは、農奴の子として生まれました」

  学士様が!? そ、そうなのかやっ!?
  おらたちといっしょの農奴だって!?

99: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:38:03.42 ID:I7KnzzEP
メイド姉「農奴の生活は苦しいものです……。
 もちろん地域や地主、貴族などによって違うのでしょうが
 少なくともわたしが過ごした幼少期のそれは苦しいものでした。
 わたしは七人の兄弟姉妹の三番目として生まれました。
 ある兄は農作業中、腕を折り、
 そのまま衰弱して捨て置かれました。
 ある姉は、ある晩地主に招かれ、帰りませんでした」

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

メイド姉「冬の良く晴れた朝、
 一番下の弟は、とうとう目を覚ましませんでした。
 疱瘡にかかった姉妹も居ます。わたしは何も出来ませんでした。
 生き残ったのは、わたしと二つ下の妹くらいのものです……。
 
 あるとき逃げ出したわたし達に転機が訪れ
 それは運命の輝きを持っていましたが
 わたしはずっと悩んでいました」

メイド姉「ずっと……」

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

メイド姉「運命は暖かく、わたしに優しくしてくれました。
 あんなにも優しい言葉を聞いたのは初めてです。
 ――安心しろ、と。何とかしてやる、と」

103: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:42:06.78 ID:I7KnzzEP
メイド姉「しかし、みなさん。

 貴族の皆さんっ。兵士の皆さんっ。
 開拓民のみなさんっ。そして農奴の皆さんっ。

 わたしはそれを拒否しなければなりません。
 あんなに恩のある、優しくしてくれた手なのに。

 優しくしてくれたのに。
 優しくしてくれたからこそ。

 拒まねばなりませんっ」

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

メイド姉「わたしは、“人間”だからですっ。

 わたしにはまだ自信がありません。この身体の中には
 卑しい農奴の血が流れているじゃないかと、
 そうあざ笑うわたしも確かに胸の内にいます。
 
 しかしだからこそ、だとしてもわたしは“人間”だと
 云いきらねばなりません。なぜなら自らをそう呼ぶことが
 “人間”である最初の条件だとわたしは思うからです」

メイド姉「夏の日差しに頬を照らされるとき
 目をつぶってもその恵みが判るように、
 胸の内側に暖かさを感じたことがありませんか?
 たわいのない優しさに幸せを感じることはありませんか?
 それは皆さんが、光の精霊の愛し子で、人間である証明です」

104: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:44:51.05 ID:I7KnzzEP
使者「い、異端めっ!」 ビシィッ!

メイド姉「異端かどうかなど、問題にもしていませんっ。

 わたしは人間として、冬越し村の恵みを受けたものとして
 仲間に話しかけているのですっ!!」 きっ

メイド姉「みなさんっ。
 望むこと、願うこと、考えること、働き続けることを
 止めては、いけませんっ。
 精霊様は……精霊様はその奇跡を持って人間に生命を
 あたえてくださり、その大地の恵みを持って財産を与えて
 くださり、その魂のかけらを持ってわたし達に自由を
 与えてくださいました」

  自由――?

メイド姉「そうです。それはより善き行いをする自由。
 より善き者になろうとする自由です。
 精霊様は、まったき善として人間を作らずに、
 毎日、ちょっとずつがんばるという
 自由を与えてくださった。それが――喜びだから」

メイド姉「だから、楽だからと手放さないでくださいっ。
 精霊様のくださった贈り物は、

 たとえ王でも!
 たとえ教会であっても!

 犯すことのない神聖な一人一人の宝物なのですっ!」

108: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:47:57.60 ID:I7KnzzEP
使者「異端めっ! その口を閉じろっ」 ビシィッ!

メイド姉「閉じませんっ。
 わたしは“人間”ですっ。

 もうわたしはその宝物を捨てたりしないっ。
 もう虫には戻りませんっ。たとえその宝を持つのが辛く、
 苦しくても、あの冥い微睡みには戻りはしないっ。

 光があるからっ。
 優しくして貰ったからっ!」

使者「この異端の売女めに石を投げろ! 何をしているのだ。
 民草たちよ、この者のに石を投げ、その口を閉じさせよっ!
 石を投げない者は全て背教者だっ!!」

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

メイド姉「投げようと思うなら投げなさいっ。
 この狭く冷たい世界の中で、家族を守り、自分を守るために
 石を投げることが必要なこともあるでしょう。
 わたしはそれを責めたりしないっ。
 むしろ同じ人間として誇りに思うっ。

 あなたが石を投げて救われる人がいるなら、
 救われた方が良いのですっ。
 その判断の自由もまた人間のもの。
 その人の心が流す血と同じだけの血をわたしは流しますっ」きっ

冬寂王「……っ」ぎりっ

111: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:50:17.69 ID:I7KnzzEP
メイド姉「しかし、他人に言われたからっ
 命令されたからと云う理由で石を投げるというのならばっ!
 その人は虫ですっ。
 己の意志を持たない、精霊様に与えられた大切な贈り物を
 他人に譲り渡して、考えることを止めた虫ですっ。

 それがどんなに安逸な道であっても、
 宝物を譲り渡した者は虫になるのですっ。
 
 わたしは虫を軽蔑しますっ。
 わたしは虫にはならないっ。
 わたしは“人間”だからっ」

 こつん。
  こつんっ!
   ごつん、どつんっ! どんっ!

使者「止めよ! 石を投げるのはこの汚れた女にだっ!
 能のない農民風情がっ! 貴様らも、貴様らも全て背教徒だ!!
 何をしている冬寂王! この場にいる民衆全てを取り押さえよっ!
 捕縛士っ! もはや異端は明白だっ。
 その娘っ! 即刻首を切り落とせぇっ!」

  あ、ああっ。学士様が。学士様の言葉がっ。

 ざわざわざわ、ざわざわざわ

メイド姉(ごめんなさい。勇者様……。
 勇者様が任せておけって云ってくださったのに……。
 わたし、出来ませんでした。
 メイド長様。一度も呼べなかったけれど……
 先生って呼んでも、許してくれますか?)

117: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 17:58:47.27 ID:I7KnzzEP
 ギィンッ!

冬寂王「それには及ばない」
女騎士「……」 びゅんっ! 「立てるか?」

メイド姉「あ……あ……」

使者「な、何をする気だ!? お前達っ」

冬寂王「わたしは、この国の王だっ!」
使者「っ!」

冬寂王「だがしかし、その前に一人の“人間”でもある。
 わたしは中央に繋がれた犬の国の王子として過ごしてきて、
 判っていたつもりであったが、いつの間にか心まで虫に
 なっていたようだ。
 ……このような娘に教えられるとは。
 己が不明を恥じるばかりだ。

 そして我が国の民の心に
 このような誇りが育っていようとはな」

  冬寂王! 冬寂王! 冬寂王!
  王様、王様だ! それに姫騎士将軍だぁ!!!

女騎士「わたしは光の精霊のしもべの一人として、使者殿。
 そなたの立ち居振る舞いが恥ずかしい。
 そして中央の教会の為したことも、だ。
 精霊様は仰られた。“あなたは罪を治めなければならない”と。
 罪を犯す自由もまた人間に与えた上で……」

119: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 18:01:25.04 ID:I7KnzzEP
使者「な、何を言い始めるのだ、貴公達!?」

冬寂王「我が冬の国は、紅の学士に正式なる保護を与える」
女騎士「湖畔修道会は、紅の学士を聖人として認める」

使者「っ!?」

 うわぁぁぁ!!!

  王様が、王様が学士様をお守りくださった!
  やはり学士様は異端なんかじゃなかっただなや!
  修道会の人が言ってくれだな! 聖人さまって!
  そうだなや、学士様は。おら達の学士様は聖人さまだなや!

 かえれ! かえれ! 使者は、国へ帰れっ!

  こつんっ!
   ごつん、どつんっ! どんっ!

女騎士「お引き取り願おう、使者殿」

冬寂王「これもまた、お前達の目論見のうちなのであろうが……
 以降は別の形でお目にかかろう。今はお引き取りを」

使者「おっ! 覚えておれっ。この背教の国々めがっ!
 精霊の子たる中央協会に背いて、地上に存在できると
 思わぬ事だなっ!!」

166: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:10:25.46 ID:I7KnzzEP
――冬の王宮、広間、対策会議

勇者「あー。まったくねっ!」 だむんっ!!

メイド姉「すみません……」

勇者「俺はもー。あいつに言われまくってたから
 丸く収めよう、丸く収めようとしてたのに、
 こんなんだったら
 上級炎熱地獄呪文でぱぁっと焼き馬鈴薯にでもだなぁ!?」

  メイド妹「おなかへった」
  将官「何かお持ちしましょうか?」
  商人子息「いいね。ポリッジでも」
  メイド妹「ぽりっじー!? あれ美味しくない」
  将官「では、クルミのパンなどあったはずですから」

冬寂王「面目ない」
女騎士「大丈夫だ、勇者。わたしがついているっ」

氷雪の女王「勇者殿、勇者殿。どうか気を静めて」
鉄腕王「がははは。起きちまったことは仕方なかろう!」

勇者「大体なんだ、お前ら! おまえら自分の国
 どうこうしようって言う気があんのかこら!
 しかも何で王族増えてるんだよっ!」

鉄腕王「いや、事態が事態じゃからして。
 あの演説は聴いておったよ。呼ばれてたし」

氷雪の女王「あれは素晴らしいものでした。
 是非国民にも伝えなければ」

171: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:16:17.31 ID:I7KnzzEP
勇者「だったら余計にどうにかしろよ、じゃなければ怒れよ!」

鉄腕王「とはいえ、事態はもはや異端が
 どうという範囲でもないしのう」

氷雪の女王「ええ」ほぅー

勇者「へ?」

鉄腕王「あんなことを言い切られてはなぁ」
冬寂王「はい」

勇者「……?」

氷雪の女王「いえ、ちゃんと説明せねば。勇者殿は、その……。
 人間界に帰られて日が浅いのでしょうしね。
 つまり、おそらく中央はまだ異端という言いがかりを
 つけてくるとは思うのです。もちろんそれはあくまで言いがかり。
 中央の狙いは我らが結束を脅かし、弱体化することですが……」

冬寂王「つまり、問題の本質は
 “我らが中央にたいして独立するか、否か”
 と云う問題だったわけだ。」

勇者「そんなこたぁ、判ってますよ」

冬寂王「しかしメイド姉くんの演説で、風向きは変わってしまった。
 中央にとっては今までどおりかもしれないが、
 我らにとっては……つまり、南部諸王国にとっては
 “独立を希望する民に、国がどう向き合うか”
 と云う問題になってしまったのだ」

175: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:22:28.37 ID:I7KnzzEP
勇者「……」
メイド姉「す、す、すみません」

冬寂王「あの演説の衝撃はけして小さくなかった。
 そして燎原の火のごとく勢いを強めて燃えさかるだろう」

将官「現に、近郊では農奴を奴隷扱いしていた地主への
 反乱めいた騒動もいくつか起きているようですし」

女騎士「うむ」

鉄腕王「と、なればわしらとしてもな」
氷雪の女王「ええ」こくり

冬寂王「せめて民と共に歩みたい」

鉄腕王「なーんていっちゃって。
 農民に串刺しにされるのが嫌なだけかもしれないがのっ!」

氷雪の女王「あらあら。我が国ではそんなことは
 起きませんわ。おほほほほほ。ひっく」

勇者「って、あんたらぁ!? 飲んでるじゃないですかっ!」

冬寂王「いやぁ、そう言うこともあるようだな。あはは」
鉄腕王「ごっきゅ、ごっきゅ、ごっきゅ」

氷雪の女王「まぁまぁ、この程度南部諸王国では
 気付け程度の意味合いですわ」 ぽわぁ

180: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:30:22.49 ID:I7KnzzEP
  メイド妹「美味しい! 美味しいよ、このパン♪」
  将官「美味いですよねぇ」ほくほく
  商人子息「暖かいところが良いねぇ」
  メイド妹「どうやって、この甘さを出してるのかなぁ」
  将官「干し葡萄だとか云ってましたよ」

勇者「じゃぁ、もうそのっ! そっちの事情はわかったとして!」

冬寂王「ふむふむ」

勇者「これからの方策とか、方針とか、作戦とかを
 かんがえてるのかよ、ちゃんとっ!」

女騎士「勇者」きりっ

勇者「そこっ、一番。女騎士っ」

女騎士「わたしは考えることが苦手だ」 えへんっ

鉄腕王「あはははははは!!」

女騎士「勇者の純潔は、わたしがまもるっ!」きりっ

勇者「誰だこいつに飲ましたの、うわっ。酒くせぇ。
 ……ひーふーみー。4? 5杯かぁ!?」

女騎士「湖畔騎士流戦闘術と、愛剣・惨殺三昧は無敵だっ!」

185: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:37:41.59 ID:I7KnzzEP
氷雪の女王「では次はわたしですね」

勇者「よし、二番。氷雪の女王。胸はでかいが年増」

氷雪の女王「既婚者ですからね。
 そそういう突っ込みを入れる殿方は埋めますよ?

 さて、問題の対応策ですが、これはもう
 農奴の開放政策しかないでしょうね……」

勇者「以外にまともな意見だ」

氷雪の女王「馬鈴薯のお陰で扶養人口は倍増していますから
 今なら、さほど無理なく方向転換が出来るとも思えます」

鉄腕王「しかし、それは中央との戦争がなければであろう?」

勇者「その辺はどうするんだ?」

氷雪の女王「戦争は殿方のお気に入りですからお任せします。
 ぐっぴ、ぐっぴ、ぐっぴ。あら、もう一杯お願いね」

将官「はぁ、もってまいります」

勇者「だ、だめだ。このおばさんも何も考えてない……」

189: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:41:41.42 ID:I7KnzzEP
鉄腕王「ふふん、では真打ちの登場と
 行こうじゃないか。勇者殿っ。我こそは鉄の国6代、鉄腕王じゃ!」

 ドーン!

勇者「あんまり気乗りしないけど、じゃ三番、鉄腕王」

鉄腕王「まずは我が三カ国連合軍で、北の平野に前線をひく。
 我が領土の収穫量を減らさぬため、今度は出戦となろう。
 余剰食料を元手に傭兵も雇い入れる。
 なあに、まだ中央からの義援金は残っておる。
 いいや、実を言えば先代王の頃から少しずつ蓄えておったよ」

勇者「おおお! 初めて堅実な言葉が聞けたっ!」

鉄腕王「そして、進軍してくる異端審問官および捕縛軍、
 または中央国家連合軍を、北の平原で迎え撃つ。
 過去の遠征軍の規模からして、5万を超えると云うことは
 まずありえないだろう。これを初戦で撃破!」

勇者「ふむふむっ」

鉄腕王「そのまま北上、駐留軍を撃破! 城を攻略!
 恭順の意を示す国家は次々と組み入れ、連戦連勝!
 とどろく我が無敵鉄鋼からくり部隊っ!」

勇者「……」

鉄腕王「そのまま聖王都に肉薄し、昼夜を分かたぬ
 波状攻撃にて、王都陥落っ! 後顧の憂い無し。
 物語は大団円を迎えるのじゃー! がははははは」

勇者「はい消えたー」

192: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:49:21.56 ID:I7KnzzEP
勇者「……もうね、なんかね」
メイド姉「すいません、勇者様」

冬寂王「ふぅむ。これは政策の根本から見直す必要があるな」

勇者「何か良い考えでもあるのか? 王様」

冬寂王「正直、無い」
勇者「がくっ」

冬寂王「だが、整理をしてみれば……、何か思いつくかもしれん」

勇者「あーもう。おい、誰かー?
 何か思いついたやつは居ないのかよ」

将官「あのー」

勇者「おお、君は?」
将官「将官は名も無き軍人であります、勇者殿!」したっ

勇者「いや、素面というだけで君は有用な人材だ」

将官「将官もなにも思いつきはしませんが、
 いくつか気にかかることを。
 いや、気が付いたこと、とでも云いますか」

勇者「ふむ」

194: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 21:56:17.97 ID:I7KnzzEP
将官「まず、おそらく、中央はすぐには
 軍を発しないと思われます」

商人子息「それはそうでしょうね」

勇者「根拠は?」

商人子息「まず、第一に中央の意図は、南部諸王国を屈服
 させることであって滅ぼすことではないということです。
 南部諸王国が滅びたあと、魔族の侵攻があった場合
 結局は自分達の身を守る盾が無いことに気がつくでしょう?
 ですから、このあと、さらに圧力を強める何らかの
 手を打ってくるのではないでしょうか?」

将官「それに、中央の持っている軍事力の殆どは
 貴族の元に分散されています。
 ですから集合や準備に時間もかかりますし
 もし軍を発するのならば、その報酬も問題になります。
 この場合、報酬は……考えたくはありませんが
 わが南部諸王国を解体して、
 貴族に分け与えることになるでしょう。
 ですから、軍を発するとなれば、南部諸王国を
 消滅させるつもりです。その準備には時間がかかる」

勇者「ふむふむ。どれくらい猶予があるんだ?」

冬寂王「いまは冬だからな。短くても春まで。
 普通に考えれば、半年以上はかかるだろう」

200: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:05:40.90 ID:I7KnzzEP
勇者「半年かぁ……」

冬寂王「だが……いや……。そのような……ある、とすれば」
将官「……?」

勇者「どうしたんだ、王様?」

冬寂王「いや、なに。ちょっとした、懸念をな。
 無いとは思う。ありえないとは、思うのだが……」

氷雪の女王「なんですか、若き王よ。じらしてはいけませんよ」
鉄腕王「がっはっはっは。なんでも忌憚なく言うが良い!」

冬寂王「聖王都が、魔族と……すくなくとも、魔族の一部と
 手を握るなどということがあるだろうか?」

 ぞくっ

冬寂王「いや、ただの思い付きだが。あははは。
 まぁ、そうなれば、魔族の再侵攻についてもある程度は
 安心が得られようしな。我らが西部諸王国に対する圧力も
 ずっと自由度が上がるのではないか。
 たとえば、魔族の侵攻にあわせて、再び異端告発を行い
 同様と経済的疲弊を狙う、といったような……。
 いや、空想的なことを云ってしまった」


205: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:12:29.51 ID:I7KnzzEP
勇者「まぁ、そいつについては、俺が偵察して事情を
 探ってくるしかないとして……」

女騎士「なぬ!? お出かけか? お出かけなら
 お供するぞ勇者っ。地の果てまでも惨状、いや参上だっ」

勇者「えい、沈んでやがれ」スコンッ

女騎士「くふっ」 どでん!

勇者(えーっと、何から手をつけりゃ良いんだ……。
 どれがどうなってんだよ、もう……っ)

勇者(こんなとき、あいつならどうする?
 あいつならどう考える? 表面を考えちゃダメだ。
 構造と、利害関係を……。
 わ、わからーんっ!?)

  メイド妹「でねー! じゃーん! これがパイですー!」
  将官「おお! これはなんとも雅な……」

勇者(そもそも、何で戦ってるんだ。俺達は。
 領土争い……なのか? 豊かになるための。
 豊かってなんだっけ……?)

――……つまり、富をため込むってのは『お金持ち』にはなれても
 『豊か』にはなれないんだ。
 お金を渡して、使ってもらう。物もお金も流れが
 よどみなく太いことが豊かなんだよ。

208: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:21:57.10 ID:I7KnzzEP
勇者(つまり、それは、その。
 関係があるってことだよな。
 物を売ったり、買ったりして流れて……
 それが豊かってことだろう?
 じゃぁ、俺達の世界は豊かになってないんじゃないか?
 だって閉じてるんだから。
 ……教会がやってること、聖王都がやってること。
 それはなんなんだ? 世界を限定して、狭くして……
 その意図はどこにあるんだ?)

  鉄腕王「黄金色で綺麗じゃのう!」
  氷雪の女王「これはなんじゃ? ウズラのタマゴと肉なのか?」

勇者(つまりそれは……
 教会がなりたいのは『お金持ち』なのか?
 それは“富の独占”。いや、富ばかりじゃない。
 知識も、人気も、権力も……“独占”するってことなのか?)

  商人子息「おもしろいですね、さくりとした感触が」
  メイド妹「そうだよー! 洋ナシのもあるよー♪」

勇者(閉じられた環境下で、他者から吸い上げることによって
 階層構造を作り出し、それを永続化させることか?
 そうなのか……。魔王が“違う”といったのはそういうことか)

メイド姉「勇者……さま?」

――精霊様は……
 精霊様はその奇跡を持って人間に生命をあたえてくださり、
 その大地の恵みを持って財産を与えてくださり、
 その魂のかけらを持ってわたし達に自由を与えてくださいました。

212: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:25:49.48 ID:I7KnzzEP
勇者(“独占”……“生命”……“財産”
 そして“自由”……。独占とは、一者が全てを占めること。

  冬寂王「ほほう、甘い味のもあるのか。うむ、美味い!」
  将官「これは絶品でありますね」
  鉄腕王「酒にも合うぞ、もっと塩辛くてもいけるのぅ」
  氷雪の女王「軽やかで宮廷料理に比べても引けをとりませぬね」

勇者(一者とは……中心。集中する点。積み上げた石組みの、頂点)

  商人子息「これは新商品になりますよ!」
  メイド妹「えへへ~そうかなぁ?」

  冬寂王「おお、王直筆の勅書をあたえよう!」
  将官「御用達というヤツですね王様っ」

  鉄腕王「おお、わしのもやるぞ」
  氷雪の女王「氷の国でも是非流行させてください」

勇者「じゃかしいわっ! お前ら王族かよっ!!」

メイド姉「す、す、すみません。勇者様っ」

鉄腕王「がははは! 勇者殿も、そう泣き笑いしても
 しかたあるまい。勇者殿はどっちを食べる?」

勇者「どっち?」

メイド妹「ウズラのパイと、洋ナシのパイだよ♪」

219: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:33:09.65 ID:I7KnzzEP
メイド妹「はい♪ どっちにする?」

勇者「――」

将官「勇者殿?」
冬寂王「しっ」

勇者「――」

メイド姉「……ゆうしゃ、さま?」

勇者「公布を出そう」
商人子息「公布? 新しい税ですか? 法律ですか?」

勇者「南部諸王国三カ国は、湖畔修道会を、
 国家宗教として認めると。正当なる光の精霊信仰だと」

将官「へ?」

勇者「そうだよなっ! 別に1つしかないなんて決まりは無いし!
 二つあっても良いじゃんな! 選べた方が幸せじゃん!
 そうしよう! そうしようぜ。おい、起きろ、女騎士」ぐらぐら

女騎士「う、うぅうーん」

勇者「で、印刷機でどんどん刷らせよう! ほら、例のさ!
 メイド姉の演説? あれを表紙にして、湖畔修道会の教えをさ。
 農業技術だって載せちまおうぜ! なぁ、いいじゃないか。
 教科書の代わりにもなる。なんだったら種芋の引換券を
 つけちゃうってどうだ!?」

氷雪の女王「それにどういう意味があるのだ?」

勇者「頂点を二つにするのさっ。広報戦争だっ」

231: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:53:01.12 ID:I7KnzzEP
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室

青年商人「は?」

辣腕会計「えっと、ですから……。もう1つの教会である、と」
青年商人「……湖畔修道会が?」

辣腕会計「ええ、少なくとも南部三カ国通商同盟はそう公布しました」

青年商人「……」

辣腕会計「どう、されました?」

青年商人「ふふふふっ」
辣腕会計「?」

青年商人「ふははははははっ! そうですか!
 そんな手を打ちましたかっ!
 誰ですかね、これは。
 あの人かな。いや、違う気がしますね。
 あの人はああ見えて保険を忘れない人ですから。
 私にも言質はくれませんでしたしね。
 このやぶれかぶりっぷりは、勇者ですかねっ。
 あはははっ!」

辣腕会計「委員……」

青年商人「そうですか、もう1つの教会。あははっ。
 これはすごい、傑作ですね! 聖光教会の偉いがたは
 赤、青を通り越してどす黒くなっているのではありませんか?」

辣腕会計「それはもう。すさまじい怒声だそうです」

236: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 22:59:20.48 ID:I7KnzzEP
青年商人「あははは。素晴らしいっ!
 見世物だとしたところで、金貨千枚の価値がある!
 あの老人達も冷水を浴びせかけられたような気分でしょうよ」

辣腕会計「それはそうですよ。まったく!
 自分達が異端指定した人物を、聖人に祭り上げた挙句に
 真っ向から対立されたんですよ?」

青年商人「情勢は?」

辣腕会計「それは、中央聖光協会が圧倒的な人数と支持ですよ。
 当たり前ですがね。ただ、気になることも……」

青年商人「気になること?」

辣腕会計「こんなものが配られているんです」
青年商人「紙ですか? まだ高価でしょうに」

辣腕会計「いえ、それが、どうやら氷の国に工場なるものが
 あるらしく……」
青年商人「工場?」

辣腕会計「工房に似たもののようです。
 沢山紙を作っているのだとか。さらにそれを鉄の国で
 印刷なる方法で、文字を記しているようで」

青年商人「ふぅむ。なるほど、これは……
 ハンコのようなもののようですね」

辣腕会計「ええ、読めば判りますが、どうもこれは……」

青年商人「……」こくり

辣腕会計「ええ、そうです。
 農奴の権利開放を意図しているようなんです。
 ですから、南部に近い王国では、この半月で
 ずいぶんな数の農奴が三カ国通商同盟に流入しているらしく」

240: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 23:05:31.15 ID:I7KnzzEP
青年商人「ほほう」にやっ
辣腕会計「驚きませんね」

青年商人「彼らなら、それくらいはするでしょう」
辣腕会計「そうですか」

青年商人「『同盟』内部の状況はどうです?」

辣腕会計「教皇派は3人のようです。三カ国派は2名。
 残りは中立です。資産状況はこちらにまとめました」

 ペラッ

青年商人「まだ機は熟していませんが……。
 こちらも動き出すべきのようですね。小麦の価格は?」

辣腕会計「先週より2ポイントあがっています。上昇基調ですね。
 冬ですし、このところ中央大陸の景気は低調ですから
 しかたありません。今年も餓死者が出そうです」

青年商人「買いです」

辣腕会計「買い、ですか? 『同盟』の抑えている小麦を
 放出すれば、かなりの利ざやが期待できますが?」

青年商人「……まぁ、そういう意見が多いでしょうから
 “まだ値上がりしそうなので買い”と。しておきましょう」

243: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/10(木) 23:12:32.27 ID:I7KnzzEP
辣腕会計「は、はぁ」
青年商人「小麦の買い指定は、とりあえず6ポイント上乗せまで
 『同盟』全て、それに取引のある商人に回してください」

辣腕会計「了解」 さらさら

青年商人「それから、これは『同盟』内部の担当部署に
 向けての発注です。鉄鉱石、木炭、銀。全て買いで」

辣腕会計「ポイントは?」

青年商人「不自然にならない範囲で、部署に任せます」
辣腕会計「はっ」 さらさら

青年商人「来週には100ポイント、来月一杯で250ポイントまで
 小麦を買い付けますよ」

辣腕会計「っ!?」
青年商人「どうしました?」

辣腕会計「3倍以上の値段ですよ!? それは常識外れですっ!
 そんな買いなど、聞いたことがありません。
 だいたいそれだけの資本金をどうやって調達するんですか!?」

青年商人「調査して貰った資本で十分にまかなえますよ」

辣腕会計「それにしたって常軌を逸しているっ」

青年商人「あはははっ。そう見えるだけです。
 わたし達は、買い付けなんかをしている訳じゃないんですよ?」

辣腕会計「何をしていると云うんですかっ?」

青年商人「王国の金貨を、売っているんです」にこっ

336: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:38:13.54 ID:sQx9tPoP
まとめてくれているサイト向け、本日のお茶請け。


勇者……この話の主人公の一人。男、黒髪。
魔界の奥、魔王城へ一人と乗り込んだ戦闘能力の持ち主。
魔王を倒しても戦争は終わらずより酷い結果になると説得され
魔王の仲間となった。童貞。当然女性への興味は尽きない。
物語の変遷に翻弄され、様々な女性に好意を寄せられるが
ラブコメ体質と空気が読めない性格のために誰一人として
キスもしたことがないというチェリー臭さ。
魔王と過ごした時間や、一人で行動する時間が
次第に彼を「ただの無敵勇者」から別の存在へと進化させてゆく。
正体を隠すために人間界では“白の剣士”、
魔界では“黒騎士”を名乗る。


魔王……この話の主人公の一人。女性、むちむち体型。
(歴代の中では)戦闘能力が低い魔王。広範な知識を持ち
戦争を経済的観点から分析、戦後処理を含めて「まだ見ぬ
未来」を模索しようと勇者に持ちかける。お肉が気になるお年頃。
星の最果てにあると云われる『外なる図書館』で育ち
この世界ではまだ誰もたどり着いていないような
高度な知識をもつ、勇者と並ぶ『世界の特異点』の片割れ。
長い間待ち焦がれていた勇者と相互所有契約を交わす。
人間界ではその正体を隠すために“紅の学士”を名乗るが
あまりにも先端的、先鋭的なその行動のために中央聖教会から
異端指定を受けてしまう。

337: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:41:36.83 ID:sQx9tPoP
女騎士……この話の主人公の一人。女性、つるぺた無毛。
かつて勇者とパーティーを組んでいた3人のうち1人。
元聖銀冠騎士団所属で今は湖畔修道会という光の精霊を
あがめる教会の位置派閥を率いている。
冬越し村修道院へと居を移し、魔王と勇者の屋敷に足繁く通う。
胸がないのにコンプレックスを持つが、内心はさっぱりした
気性の娘。魔王の正体や勇者との関係を知り、それでも
友情を結ぶ。
当時の二つ名は ”鬼面の騎士””怪力皇女”
”石壁しぼりの女夜叉” など。


冬寂王……この話の主人公の一人。男性。冬の国の王。
戦で戦死した父に代わり、冬の国を率いることになった若き英傑。
開明的な思想の持ち主で、鉄の国、氷の国との連合国家を目指す
ことを表明。魔王に興味を持つ。
王としての初陣は極光島奪還作戦であり、その時は戦場の
地の利を知り尽くした地元であることを生かし、流氷を連結し
海峡に陸を作ることで、海上戦を避けるという知略を見せる。
その後、南部諸王国のうち3カ国をまとめる通商同盟の締結など
様々な改革で王としての頭角を現してゆく。


メイド姉……この話の主人公の一人。女性。亜麻色の髪。
冬越し村へとやってきた魔王たちの屋敷へ逃げ込んだ農奴姉妹
のうち姉の方。思索的な性格で、書類の扱いに長ける。
当初はメイド長の下でメイドの仕事全般をおこなっていたが
その能力を見いだされて魔王の秘書のような仕事もすることに。
メイドとして雇われるきっかけともなったメイド長の問いかけから
自分がいかなる存在なのか、人間とは何なのかを常に悩んで
きたが、異端審問騒動を契機に思想家としての側面を見せ始める。

339: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:44:40.48 ID:sQx9tPoP
青年商人……この話の主人公の一人。男性。栗色の毛。
中央大陸全土に強い影響力を持つ経済的な団体『同盟』の
若き幹部。
魔王との交渉の結果、強い感銘を受けて、取引相手としての
関係を結ぶ。
『同盟』の最高幹部10人委員会の一人に出世した彼は
勇者とも語り合い、商人として新しい境地へ。
三国通商同盟と大陸中央部、聖王国との軋轢を利用した
巨大な商戦をしかけ、その規模は、この時代には珍しく
経済戦争の域に達する。利にさとい辣腕商人として巨額の
富を扱いつつも、ポーカーフェイスを崩さないようだ。


執事……この話の主人公の一人。男性。すでに白髪。
かつて勇者とパーティーを組んでいた3人のうち1人。
現在おそらく60代であるが、まだ背はしゃっきりと伸びた変態紳士。
常にタキシードを着用し、現在では冬寂王の執事として
ことあるごとに「若、若」と呼びかけている様子。
どうやら勇者パーティーでは男二人(勇者と)で
さんざんな悪さをしていたようで、勇者からはパフパフの
師匠と呼ばれている。
当時の二つ名は ”黒点の射手” “突然死”など。


女魔法使い……この話の主人公の一人。女性。卯の花色髪。
かつて勇者とパーティーを組んでいた3人のうち1人。
未登場だが現在は魔界のどこか(『外なる図書館』?)に
居ると思われる。
当時の二つ名は ”出来の悪い悪夢”“昼寝魔道士” など。

341: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:46:27.17 ID:sQx9tPoP
東の砦将……この話の主人公の一人。男性、茶髪巨漢。
歴戦の勇士。どうやら東方出身の血を引くらしい。
人間統治下の開門都市にあり、東の砦を治める士官の一人
だったが無能で横暴な司令官の夜逃げ同然の退却を受け
たった500の手勢で開門都市の維持を引き受けることになる。
魔族に対しても公正な視点を持つ好漢だった彼は、
いち早く周辺魔族との交渉を開始。
開門都市の自治独立を目指す非凡な統治センスをも見せつける。


火竜公女……この話の主人公の一人。女性、紅玉髪。
火竜族の娘の一人。黒騎士(勇者)との賭けにやぶれた
火竜大公がその男気に惚れて嫁でも妾でも、とさしだした。
公女本人はそのつもりなのだが、勇者の方がヘタレで
色っぽい関係にはならずにいる。
現在は開門都市の自治委員の一人として内政を見ているが、
元来は好奇心が強く多少驕慢な性格。おてんば娘だったようだ。
(魔界のではあるが)高等な教育を受けている、この時代では
進歩的な女性。

343: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:53:53.03 ID:sQx9tPoP
――冬の王宮、広間、対策会議

将官「国境街道で見る限り、昨日は12人ですね」
勇者「うーん。思ったようもペースが鈍いな」

冬寂王「ふむ」
メイド姉「やはり、自由という考えは
 受け入れられないのでしょうか……」

勇者「まぁ、難しいってのはあるだろうな」
冬寂王「言葉のない者に言葉を教えるようなものだからなぁ」

氷雪の女王「でしょうね……」

女騎士「いっそ、こう。どかんと人さらいをだな」
勇者「お前、本当に聖職者か?」

冬寂王「だが、あまりペースが遅いと冬が終わってしまうだろう」

勇者「そうだな、少なくとも冬の間にある程度の数を
 取り込まないと、結局は既存路線の強さが出てしまうだろうし。
 時間を掛けると、あっちの教会は信者も聖職者も
 わんさといるんだ。押し負ける。
 うーん……
 文字を読む、ってのが意外とハードルが高いのかもなぁ」

女騎士「説法士を派遣はしているのだが、
 湖畔修道会全体で50人も居ないのだ。
 とても大陸はカバーできない」

勇者「ふむ……」

氷雪の女王「説法士ですか。――説法ではなくとも
 良いのではないですか?」

女騎士「ん? 当てがあるのか?」

346: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:56:27.27 ID:sQx9tPoP
氷雪の女王「詩人はどうですか?
 我が国は吟遊詩人のふるさとです。
 幸い今は冬ですから、旅回りの吟遊詩人達も王都に
 集まっているでしょう。
 彼らに報償を出して、諸国で歌って貰うのですよ。
 内容は、新しい修道会の教えで良いでしょう?
 そして、三カ国の行いも歌って貰う。
 歌は強いですよ? 農民でも節回しさえあれば
 かなり難しい言葉を覚えてくれるものです。
 覚えてくれれば、吟遊詩人が立ち去ったあとでも
 歌の響きが続くでしょう」

女騎士「それは良い考えだな!」

勇者「どれくらいの人数が居るんだ?」

氷雪の女王「そうですね。腕の如何を問わなければ
 500人近くは居るかと思います」

冬寂王「よし、早速依頼しよう。
 旅の支度金はこちらで用意してもかまわぬぞ」

氷雪の女王「そうですね。……いっそ、吟遊詩人には、
 この国当ての紹介状を書かせ、沢山の開拓民を
 送り込んでくれた吟遊詩人には開拓民ひとりにつき、
 金貨1枚の褒賞を与えるという事にしたらどうでしょう」

勇者「ああ、それがいいな! えっと、なんだっけ。
 学士がいうところの、いんせんちぶだ」

冬寂王「いんせんちぶ?」

勇者「やる気があるやつに金を出す、みたいな意味だよ」

348: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 15:57:34.68 ID:sQx9tPoP
メイド姉「あのぅ」

冬寂王「ん、どうしたのだ?」

メイド姉「今回の目的は、戦争じゃないんですよね?」

冬寂王「ああ、そうだ。出来れば戦争は避けたいと思っている」

氷雪の女王「そうですわね。
 魔族の襲撃が何時あるか判らないこの状況では
 争うのは愚かという他ないですわ」

メイド姉「では、教会とは喧嘩をするべきではないと思うんです」

勇者「……ふむ」
女騎士「どういうことだ?」

メイド姉「たぶん、教会のひとたちは、修道会の説法士さんや
 吟遊詩人さんをあしざまに罵倒すると思うんです。
 嘘つきだとか、悪魔の使いだとか……背教者だとか」

勇者「するだろうな」
女騎士「馬鹿の一つ覚えというやつだ」

メイド姉「ですけれど、そこで喧嘩を買ってしまったら
 戦いになってしまいます。
 人間同士で戦いはしたくないですよね」

冬寂王「そうだな」

メイド姉「ですから、説法士さんや吟遊詩人さん、
 それをいうならばこれから印刷する紙にも、
 教会を非難するような内容は盛り込むべきでは
 ないと思うんです」

349: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 16:00:24.41 ID:sQx9tPoP
女騎士「とはいえ、あいつらの根性が曲がっているのは
 確かなことだぞ。やられっぱなしではないか」

メイド姉「そうかもしれませんけれど、
 大部分の信仰者の人は、本当に光の精霊様を信じているだけの
 普通の人々なんですよ? そういう人まで争いに巻き込んでも
 益はないはずです」

勇者「そうだな……」

女騎士「では、無視か? こう、つーんとな。
 馬鹿は相手にしないっ。と」

メイド姉「それもあまり適当ではないと思うんです。
 むしろ、褒めて良いと思うんですよ。
 光の精霊様は尊い存在です。
 正直、勤勉、平和。
 そう言った点では同意が出来ると思うんです。
 ですから、中央の聖教会も否定せず、その信仰を
 守っている人も尊重すべきです」

氷雪の女王「それでは開拓民達を勧誘できないではないか」

メイド姉「それは手法の差で表現するんです。
 南方の荒れ地は未だ開拓されていない。
 そこには苦労もあるけれど、チャンスもある、と。
 のうちを手に入れる機会は、精霊様がくれたものです、と。
 南部の諸王国は、新しい開拓民を求めていて、
 そこには農奴制度はなくて、誰でも頑張って働きさえすれば
 飢えないだけの実りが取れる。租税もかなり安いぞ、って」

冬寂王「……夢見がちな理想論を唱えるかと思えば
 嫌になるほど冷静な現実を武器として持ち出すな」

勇者「あいつの教え子はみんなそうなるんだよなぁ」

356: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 16:36:56.25 ID:sQx9tPoP
――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室

辣腕会計「委員、小麦の価格が多くの都市で
 +6ポイントまで上昇しました」

青年貴族「市場動向はどのような印象ですか?」

辣腕会計「貴族や商人はむしろ好感触のようですね。
 手持ちの小麦に余裕あるからでしょうか、
 換金する動きも見て取れます。
 農場主は警戒感を強めています。
 彼らにとっては冬の間の食料ですからね。
 しかし、金額によっては手放すものも少なくありません」

青年貴族「そうですか」

辣腕会計「今のところ相場の上昇は例年とそう変わりなく
 ある意味織り込み済みですから激しい反応は出ていませんが」

青年貴族「了解です。――次の手を打っておきましょう。
 “生産物買い取り証書”の発行、ですね」

辣腕会計「聞き慣れない言葉です。なんですか?」

青年貴族「今でっち上げましたからね。まぁ、聞いてください」

359: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 16:41:25.91 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「黒板に板書してみます」カッカッ

青年商人「現在は冬です。冬小麦は秋に籾を蒔き、冬を越えて
 初夏の収穫と云うことになりますね。
 現在畑に籾はあるけれど、収穫はまだまだ……そうですね、
 6ヶ月は先でしょう。
 この先、畑にはどんなトラブルがあるか判らないが、順調に
 行けば半年後には収穫が望める」

辣腕会計「ふむふむ。まぁ、常識ですね」

青年商人「しかし、何らかのトラブルの発生で小麦の生産が
 減ってしまうと、地主や領主の収入は激減してしまう。
 またはそうでなかった場合でも、天候に恵まれて大豊作に
 なってしまっえば小麦の相場が安くなってしまう」

辣腕会計「ふむ」 カッカッカッ

青年商人「そこで、“小麦引き渡し証書”の出番です。
 つまり、“できあがった小麦を買い取る約束”です」

辣腕会計「それは、代金を先払いするという意味ですか?」

青年商人「そうです」

辣腕会計「地主や領主は手元にない麦でも売れるわけですね」

青年商人「そうなりますね。しかし、引き渡し時期……
 年明けの初夏には、契約した量の小麦は必ずそろえて貰う」

362: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 16:47:34.92 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「つまり豊作であれば、領主達は、
 “小麦の販売時と引き渡し時の差益”を得ることが出来る」

青年商人「引き渡し時に凶作などの理由で相場が上昇していれば
 わたし達は“相場より安い金額で小麦を手にする”ことが出来る」

辣腕会計「相場が上昇する読みはあるのですか?」 カリカリ

青年商人「中央聖王都と教会が異端告発を意図している以上
 戦争が開始される可能性は高いでしょうね。
 それに――仮に戦争が回避されても問題はないでしょう」

辣腕会計「なぜです?」

青年商人「戦争がなければ、その人口は減らない。
 今まで足りなかったのは、資本と輸送力。
 それから市場間の“膜”ですよ。
 食べる口さえあれば、人為的な小麦の枯渇を作れる、
 小麦相場が下がることはあり得ない」

辣腕会計「……」ごくっ

青年商人「もし仮に、大陸の小麦生産量がわたしの予想より
 倍も大きければ『同盟』は破産するかもしれませんけどね」

辣腕会計「……なるほど。
 人為的な相場形成の一つの手段にすると。
 となると、この“小麦引き渡し証書”は
 最終的には、貴族を縛る鎖となりますね」

青年商人「それも一つの過程。あり得る選択肢ですね」

364: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 16:49:48.13 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「意図がよく判りませんね」

青年商人「領主や地主の判断を重くするんですよ。
 来年の小麦相場のことを考えさせるのです。
 “小麦引き渡し証書”がこちらの手にある限り
 それは云ってみれば、多量の小麦を借りているに等しい状況。
 自領内の畑を損なうような動きは取れない。
 また、初夏の収穫から、あらかじめ引き渡す分は
 除外して考えなければならない」

辣腕会計「そうなりますね……」

青年商人「小麦の流通のイニシアチブを押さえるのが
 目下の目的です。そこが第1段階のステップ。
 初夏になっても小麦を自由に出来る量が少ない。
 手元にはさほど残らない。
 しかも小麦は高騰を続けていたら……。

 なにも本当に高騰している必要はない。
 “そうであったら困る”。
 そう思って貰うだけで、その不安は利益になります。
 証書を発行して、王国の金貨を渡しましょう。
 なに、安い投資ですよ」 にこにこ

辣腕会計「……」ぞくっ

青年商人「中央貴族の皆さんには、
 今しばらく長い冬を味わって貰おうじゃないですか。
 楽しい舞踏会の始まりです。
 この円舞曲。――買い、売り、交換する。
 その響きが大陸を満たすまで」

368: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 17:23:08.38 ID:sQx9tPoP
――開門都市、自治議会、執務室

 コンコンッ

東の砦将「開いてるぞー。どうぞー」

火竜公女「ごきげんいかがかや、砦将?」

東の砦将「可もなく不可もなく。

 天気は良いが仕事は山積み。
 やってもやっても終わらんな」

火竜公女「やってもやっても終わらないのであれば、
 やらなくても良いのではないかや?」

東の砦将「おお! 尻尾のお嬢はいいこというなぁ!!」
副将「全然良くありませんっ!」 だむんっ

魔族豪商「ははは。相変わらずだのぅ」

火竜公女「これはこれは! 八鎧のお爺さまっ」

東の砦将「通商の用件で尋ねてきてくださったんだ」

火竜公女「それはお邪魔をしましたかや?
 妾は席を外す故、お話などゆるりと」

魔族豪商「かまわんよ。話は簡単なもので、

 ものの数分で片がついてしまったわ。

 じつに剛胆な御仁じゃな」

369: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 17:25:17.44 ID:sQx9tPoP
東の砦将「いやいや。自治都市とは名ばかりの
 張りぼて所帯ですからね。
 商売に来てくれるってんならこんなにありがたい
 事はないってやつですよ」

副将「ええ、本当に。ああ、公女様、加糊茶をどうぞ」

魔族豪商「はっはっは。こんな具合で、細かい書類も調べも
 袖の下もな。何にもなかったんじゃよ」

火竜公女「それはもう。
 この開門都市は自治委員会で運営されていますゆえ。
 執行役とはいえ、賄賂なんてもらったら一発で首を
 撥ねられてしまうのです。
 ――お爺さま? この都市には何を商いにいらっ
 しゃったのですか?」

魔族豪商「なぁに、細々とした日常品じゃよ。
 塩、鉄、馬鈴薯に、玉蜀黍。可可樹。綿花。
 それに砂金を少々」

火竜公女「そんなことを云って、お爺さまの商会は
 いつでも大商いをなさるではありませぬか」

東の砦将「豪商どのは馬鈴薯を入れてくださることに
 なってな。塩を求めているらしいんだが……」
副将「いやはや」

魔族豪商「以前は極光島から潤沢な塩が送られてきた
 ものだがな。いや、あれは痛かった」

火竜公女「そうでありました……」

371: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 17:27:48.78 ID:sQx9tPoP
魔族豪商「いやいや、人間である砦将殿が居る前で、
 詮方ないことを云ってしまった。老人の繰り言と
 思って許されよ」

火竜公女「……」ちらり

東の砦将「いやいや。お気遣いなどなさらずに。
 開き直るわけではありませんが、我らも沢山の
 魔族の方を手に掛けた。我が部下も沢山散っていった。
 争いもこの世の習いの一つですから……。
 今は明日を生きることが出来ることを感謝したいと。
 ――そう思います」

魔族豪商「若いのに、肝が据わっておるの」

東の砦将「塩は何とかしてみましょう」

魔族豪商「ではよろしく頼みましたぞ。
 いや、茶を馳走になりましたな」

東の砦将「副将、お送りして差し上げてくれ」
副将「はっ!」

 ザッザッザッ。ガチャン

東の砦将「存在感のある爺さんだな」

火竜公女「それは、お爺さまは魔族でも重鎮ですゆえ。
 ああ見えて、昔は相当強面だったとの話」

372: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 17:30:50.81 ID:sQx9tPoP
東の砦将「さぁて、話がある」
火竜公女「妾もですわ」

東の砦将「先にそちらを聞きましょう」

火竜公女「気になることがありまして。
 ……砦将どのは蒼魔族をご存じかや?」

東の砦将「蒼魔族ですか? 戦ったことはあるが、
 あんまり詳しくはないな。そもそも、あのころは
 魔族の見分けもついちゃ居なかった」

火竜公女「蒼魔族とは蒼い肌をもつ魔神の末裔たる魔族。
 魔界四氏族の一つにして、勢力も強い一族なのです。
 中には小型の者から大型の者まで、様々な亜種族を
 含みますが、総じて魔翌力、戦闘能力に秀でております」

東の砦将「ふむ……」

火竜公女「我ら竜族、妖精族などとはあまり交わろうとは
 しませぬね。我らもまた他族と交わる気風を持ちませぬが。
 ――蒼魔族は歴代のうち4名の魔王を輩出した、大氏族と
 いえるでしょう。そして、人間界を欲する氏族でもあり
 まする」

東の砦将「どうもきな臭い氏族だな」

火竜公女「その蒼魔族を最近、この都市で見かけると……」
東の砦将「……」

374: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 17:32:10.76 ID:sQx9tPoP
火竜公女「妾も直接確認したわけではないが、
 そのような話が出ております。
 開門都市はいまや人間族と魔族が混交した珍しき地。
 もちろん蒼魔族が住まって悪いわけではないのです。が」

東の砦将「気になる、と」

火竜公女 こくり

東の砦将「判った、配下を出そう。
 いや、魔族の方に頼んだ方が目立たないかな?
 とにかく、手を打ってみますよ。お任せあれ」

火竜公女「感謝いたします。……して、そちらの用件は?」

東の砦将「あー。んー。さっきのな」
火竜公女「?」

東の砦将「豪商どのの求めているのは塩なんだ」
火竜公女「はい、そのようで」

東の砦将「でも、この都市にも今そこまでの塩の備蓄はない」
火竜公女「はぁ……」

東の砦将「調達してきてくれないか?」
火竜公女「それはそれで無体な要求。塩の需要はどこでも
 高く、随分高価です。我が一族の領内にも塩山はひとつ
 しかないのですよ?」

東の砦将「いや、まぁ……。行く場所はあるんだ」
火竜公女「?」

東の砦将「人間界だよ」

386: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 18:00:02.88 ID:sQx9tPoP
――思い出の庭、魔王の回想

魔王「……ん。……うぬぬ! うわぁっ!?」

 きょろきょろ

魔王「もうこんな時間か。……おわっ。な、なんだ。
 背中が痛いぞ。と云うか、全身が痛む……。
 な、なぜだ」

メイド長「“こんな時間か”、が二日ぶりだからですよ」
魔王「おわっ」

メイド長「いい加減にしないと身体をこわしますよ」
魔王「うーん。しかし、面白いのだ、止められん」

メイド長「気持ちはわかりますが」
魔王「そちらはどうなんだ?」

メイド長「わたしの専門は実技を伴いますからね。
 身体を動かして技術を身につける以上、
 そこまで本や資料を読みあさって、
 筋が硬くなるなんて事はないんですよ」

魔王「そういえばそうか」

メイド長「お茶でも入れましょうか?」
魔王「なにも気を遣わなくても良いのに」

メイド長「あなたには恩がありますからね」
魔王「あれは行きがかり上だ」

387: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 18:01:10.10 ID:sQx9tPoP
メイド長「だとしても奴隷だったわたしには救いでした」
魔王「……」

メイド長「いえ、別にそれだけが理由ではありません。
 そんなことより目下重要なことがあるんです」

魔王「なんだ? 新しい研究か?」
メイド長「ええ、お茶を出すときの新しい作法です」

魔王「何だ、作法に新しいだの古いだの、いらないだろうに」

メイド長「必要なものだけがある世界なんて
 味気ないじゃありませんか。これも彩りです。
 そもそも“メイド道”は彩り重視なんですよ」

魔王「お茶がもらえるならありがたくもらうけど」

メイド長「承知しました、お嬢様」

魔王「お嬢様ぁ?」

メイド長「演出の一環ですよ。しばらくお付き合いください」

 とっとっとっ

魔王「しかし、我が一族は奇人変人ばかりだが……
 というか奇人変人が我が一族になるわけだが、
 あそこまでの変わり者もなかなかいないなぁ。
 部屋が片づいて良いけど」

魔王「……」

388: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 18:03:26.08 ID:sQx9tPoP
魔王「――ファンダメンタルズ、最適化、パレート
 ――債権、内需、所得、産業、成長率、空洞化」

魔王「興味は尽きないな。これはおそらく、価値観か」

魔王「名前、が本体なのだろうな。
 概念に名前――名詞をつけることによって、
 新しい価値観が発見/創造される。
 
 この場合発見と創造は同じ行為で、その瞬間に世界が
 拡張される。
 新しい視座を得て、今までの全ての事象は再評価されるわけだ。
 
 つまり、視座の数は、世界に対する係数。
 視座を多く持つほどに多くの世界を見ることが叶う。
 それが知識の、学習の意味。
 我が一族の、存在意義。
 
 我らは概念に名前をつける。
 新しい概念で世界を拡張する。
 概念と概念は時に出会い、融合して、生み出した我々にも
 思いつかなかったような変化を遂げることがある。
 
 それは、我らが手にする実り。
 世界の、果実。
 理論面においてはl=n(n-1)/2を取るのかな。
 
 素晴らしいな。……知ることは素晴らしい。
 けれど、それ以上にこの世界は素晴らしいな。
 この世界には、この世界を加速度的に拡張する存在が
 沢山いるんだ。
 それは魔族だけじゃなくて……」

389: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 18:05:54.96 ID:sQx9tPoP
魔王「……“魂持つ者”」

魔王「そう呼べたら素敵だな。
 あの向こうには、どれほど豊かな世界が広がっているんだろう?
 二つの世界が出会ったら、どれだけの組み合わせ爆発が
 起こるんだろう? 概念と概念が融合し、どんなに
 素晴らしい世界を見せてくれるんだろう?」

魔王「人間、世界か……。
 ただの魔物の一匹であるわたしには、触れ得ないだろうけれど。
 城ってどんなものなんだろうな。
 村って云うのは、魔族のそれといっしょなのかな。
 なかなかにもどかしいな。
 映像資料がもうちょっと充実してればよいのだろうが……」

魔王「我らも、物も、貨幣も流れる。
 決して留まりたるを知らない。
 時も流れる。
 でも、現われたものは、けして消えない。
 消えたかに見えて、必ずや残る。
 この瀬良の図書館のように。

 いくつも、いくつも、数千数億の世界の記録が
 歌っているのが聞こえる。
 何でみんなには聞こえないのかな?」

魔王「こんなにも見つけて欲しいと
 誇らしげに、高らかに、歌っているのに。
 わたしの想いも、
 やはり誰にも……届かないのかな」

392: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 18:07:46.47 ID:sQx9tPoP
メイド長「お嬢様、お茶が入りました」

魔王「ん? 何だ、そんなところに立って」

メイド長「……新しい作法でして」
魔王「ふむ」

メイド長「きゃー」
魔王「きゃー?」

メイド長「あー、ちょっと、ちょっと。わわわ、きゃふうん」

魔王「何を言っているんだ?」

メイド長「ここで素早くカップを投げつける」
魔王「へ?」

 ばしゃぁ!

魔王「熱っ! 熱っ! 熱いではないかっ!!」

メイド長「だ、だいじょうぶですかぁ。きゃふーん」
魔王「なんで雑巾っ、こっ、こらぁ!!」

メイド長「新しい作法でございます」すちゃ
魔王「……」

メイド長「まったく知識は素晴らしい。
 研鑽に果てはございません」きらきらっ

魔王「どんな資料を参照しているのだっ!」

402: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:14:02.57 ID:sQx9tPoP
――霧の国、地方都市の街角で

吟遊詩人「~♪

 いざ生き者の学をまなばん!
 まずあぐるは、自由の民よ、四族の名前。
 はじめに生(あ)れし草の民らよ。
 次は、水辺を治めし、湖の民。
 三が荒れ地の砂の民。真に剛毅闊達なる。
 四が南の、荒れ地に住まいし風、開拓の民にして興武なり。


 黄金なる小麦の乗り手よ、何処(いずこ)へゆくか。
 吹き鳴られたる角笛、今どこに。
 土に触れたるたくましい指、紅く燃えたる炉辺の火よ。

 春は何処? 春は何処?
 実りの時よ、丈高く、頭を垂れる黄金の麦。
 土に埋もれる馬鈴薯の丘、山なす実りをいざ求め。

 南へ、南へ。実りをもとめ。
 南へ、南へ。いざ旅立たん

 ~♪」

403: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:16:13.76 ID:sQx9tPoP
――冬の王宮、広間、対策会議

ガチャリ

勇者「案配はどうだ~?」

冬寂王「やはり文字の読み書きが一つの障害になっていたようだ。
 吟遊詩人の効果が徐々に出てきて、流入してくる開拓民が
 徐々に増えてきたようだな」
将官「冬の間は、南の国でなくても娯楽が必要ですからね」

勇者「この資料か?」

 ぺらぺら

勇者「……」

冬寂王「何か気になることでもあるのか?」

勇者「いや、この世界には俺たちしか居ない訳じゃないからな」
冬寂王「そうだな」

将官「は?」

冬寂王「我らと利害を共にする、または異にする“誰か”も
 同じように様々な策謀を練っている可能性がある。
 それを常に忘れてはいけないと云うことだ」

404: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:17:58.69 ID:sQx9tPoP
執事「そういえば、他の皆様は?」

冬寂王「ああ、鉄腕王も氷雪の女王も国元へと帰ったよ。
 何時までも宮殿を留守にするわけにも行かないだろう」

執事「……」はぁ

勇者「どうしたんだ?」

執事「華やかさのない男臭い部屋でございますね」

勇者「あの姉妹は氷雪の女王の所へ行ったよ。
 吟遊詩人に言葉を伝えるにしても、直接の方がいいだろうし。
 その後は、活版印刷の原盤を作るために、
 鉄の国へ向かうはずだ。
 女騎士も、護衛で同行。よって、ここは男パラダイス」

将官「姫騎士将軍もでありますか」
執事「あれは絶壁ですからようございます」

勇者「そうかな、あれはあれでいいやつだぞ?」

執事「……」ちらっ&ため息

勇者「そういえば、何か言ってきたか?」

冬寂王「ああ、もちろん。ほら」

 ドサリ

勇者「うへぇ、なんて量だ。何でこんなにあるんだよ!?」

406: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:20:22.80 ID:sQx9tPoP
冬寂王「まぁ、中央大陸と云っても
 統一されているわけではないからな。
 20年前までは領土戦争もしていた国同士が
 魔族の侵攻という現実を前に、
 一つの宗教を中心に結託しただけのことだ。
 だから、非難するにしても、自然とこうなってしまう」

勇者「じゃぁ、内容は似たり寄ったり?」

冬寂王「そうだ。
 中心となるのは、聖光教会からの公式な非難書だな。
 今回の書状には破門もちらつかせてある。
 そのほかは、王族や諸侯からの書状だ。
 内容は一言で言うならば“早く謝れ”だな」

将官「いやいや、言葉が飾られておりますので、
 それだけのことを3ページにもわけて書いてあるのですよ」

勇者「やっぱアホなんだなぁ」

冬寂王「いいや。……これは仕方がない。
 おそらくこの非難書、似たようなこの文面を出さないと
 大陸中央国家の派閥から外れてしまうことを恐れたのだろう。
 逆に言えば、これだけの国家、諸侯から非難された
 すなわち三カ国同盟は世界で孤立して居るぞ、という
 脅しを含んでいるのだ」

勇者「まぁ、わからんじゃない。実際破門された場合、
 商取引も事実上停止するんだろうしなぁ」

執事「そうですなぁ」

勇者「それが恐ろしくて、教会に逆らった国は今まで
 無かったわけだ」

冬寂王「そうなるな」

408: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:23:24.29 ID:sQx9tPoP
冬寂王「いずれにしろ、軍を小部隊に編制して、
 国境地帯を見回らせようと思う」

勇者「それがいいだろうな」

将官「小官は国内治安も不安であります」

執事「それについては、わたしも報告を受けておりますな。
 国境付近では、野盗化した傭兵団が出没しておるとのことです。
 また国内では、急速に自由化が進んでいるために
 地主に対する略奪事件が起きているとか」

冬寂王「なかなか頭が痛い問題だが、そちらの方はわたしが
 面倒を見ているよ」

勇者「ああ、すまないなぁ。なんか俺、そういうのは苦手だ。
 良い案がないってーか、うすうす判っちゃ居るんだが」

冬寂王「これについて、奇跡の妙手はないのだと考える。
 地道に説き、問題の起きた箇所をそのたびに手直しせねば
 ならないのだろうな。
 農奴が全て自由開拓民になって、独自の畑を持てるようになるのは
 なるほど素晴らしいことなのだろが
 その場合、どうしても、開墾されていない土地が
 割り当てられることになる。
 開墾をした土地は、開墾者に権利があるべきだからだ。
 だが、未開墾の土地では栽培もままならないだろうし、
 飢えれば暴力的な事件も起きるだろう」

勇者「そうだな」

409: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:27:07.22 ID:sQx9tPoP
冬寂王「また、地主による集団的な労働管理が無くなれば
 開墾のような多数の人手を必要とする作業も出来ないし
 付近のみんなが使うような、いわば公共の施設の維持や
 管理もままならない。
 実際、このような乱暴な改革が曲がりなりにも
 実施できたのは、土地の面積に比べて、住んでいる
 国民の数が少ない、貧しい国だったからに過ぎないよ。

 農奴を解放したはいいが、地主に変わる機構が
 何も出来てやしないのだからな」

勇者「解決の方策はあるのか?」

冬寂王「まずは、巡回衛視だ。
 兵の中から常識のある者を選抜し、領内の村を巡回させている。
 もめ事に対処させるためだ。
 また法を犯した者は現住に処罰する。
 地主的な存在が居なくなったいま、全ての国民は
 等しく尊法精神を身につけて貰わねばならぬ」

将官「わたしも衛視なのですよ。
 わたし達は国内の村々を廻り、
 二週間ごとに戻ってくるような巡回経路が
 それぞれ組まれているのです」

勇者「ふむ」

冬寂王「次に、戸籍と里家制度だな」

勇者「里家?」

410: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 19:31:02.92 ID:sQx9tPoP
冬寂王「ああ、数軒から十軒程度の自由開拓民の家を
 ひとつの“里家”とする。
 開拓や、公共物の管理は“里家”を単位として
 受け持って貰う。税の徴収や賦役も同じくだ。
 “里家”ごとに、種芋や必需品を配り配分をし
 力を合わせて発展して貰う」

冬寂王「もめ事が起きた場合は、巡回衛視が対応する。
 問題があるような一家は訴えなどを聞きつつ、
 “里家”を移す」

勇者「理念は判るが、大変そうだな」

冬寂王「そうだな、大変だ。恐ろしく手間がかかる。
 その上、これは過渡的な制度だ。いまは、流入してきた
 開拓民を“里家”に強制的に編入しているが
 将来的には“里家”さえも自由に選べるのが理想なのだろう。
 
 大変だが、仕方あるまい。これが正しいと信じたのだ。
 学士殿が残してくれた『紙』が役に立っているよ」

勇者「そらまた、どうして」

執事「このようなことには大量の記録を保存する必要が
 あるのですよ。ここまで詳細な戸籍調査が行われ
 きめ細かい対応を実施できるのは記録のたまものです」

勇者「はぁ……俺や女騎士には無理な領域の話だな」

417: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:02:20.18 ID:sQx9tPoP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部


 カッカッカ。ガチャン!

辣腕会計「……小麦の価格が異常上昇を開始しましたっ」

青年商人「来ましたね」

辣腕会計「はい。例年よりも64%、先週より9ポイント増しです」

青年商人「湖の国に本部を移した直後でよかったですね、
 手遅れにならずに済みます」

辣腕会計「開始しますか」
青年商人「まだためらいでも?」

辣腕会計「いいえ、わたしも商人に生まれた者。
 ここまで来れば腹をくくりました。果てを見ましょうっ」

青年商人「そうですね。通達準備、早馬の準備は?」
辣腕会計「整っています」

青年商人「ここからは潮目次第の勝負もあります。
 この本部は不眠不休になりますよ」

   職員「「「「はいっ」」」」

418: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:03:20.73 ID:sQx9tPoP
青年商人「でが、通達を」
辣腕会計「はっ」さらさら

青年商人「現時刻から『同盟』は、
 小麦、鉄、塩、木炭を中心とした生活必需品の
 買い占めを行います。
 小麦は例年の320%、そのほかの品については240%を
 一旦の上限として買い増し」

辣腕会計「……」サラサラっ

青年商人「もちろん、不必要に金を払う必要はありません。
 取引ごとには、いつもどおり細心の注意を持って利益を
 求めること。ただし、今の風は現金よりも現物です。
 物資を持つべきです」

辣腕会計「はいっ」

青年商人「治安悪化も予想されます。物資の輸送と保管
 には注意を払い、警備の傭兵を増やしてください。
 傭兵への支払いは現金を中心としますが、
 つなぎ止めに必要とあらば、直接小麦やそのほか穀物
 での支払いも認めます。
 その場合は月払いではなく週払いにするように」

辣腕会計「心得ました」

青年商人「“小麦引き渡し証書”についてはどうですか?」

辣腕会計「順調に契約が進んでいます」

青年商人「大規模な地主と領主に交渉を集中させてください」

419: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:06:57.12 ID:sQx9tPoP
辣腕会計「……」サラサラ

青年商人「さて、ここからですね」
辣腕会計「?」

青年商人「教皇派委員はこれ以上の買い占めには
 難色を示すでしょうから」

 ペラッ

辣腕会計「はい、すでに口頭での不快感表明をしていますね」

青年商人「教皇に尾をふってどうします。
 目の前の利益を捨ててまで権力の歓心を買おうとは
 それはそれで商人としての筋が通りません」

辣腕会計「……何か対処を?」

青年商人「『黒の手』を回します。
 教皇派委員3人は、二週間現場を離れて貰います」

辣腕会計「……っ」

青年商人「二週間で形勢を作ります。
 一度始まった楽曲を、中途で止めさせはしません」

辣腕会計「判りました」

青年商人「ぎりぎりまで物資の買い付けを装いましょう。
 この手を予想しているひとは、中央には居ないと思いますが
 それも長くは持たない。この偽装で2週間は突っ張ります」

431: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:27:20.01 ID:sQx9tPoP
――聖王の国、地方都市、貴族領

地方市民「はぁ!? なんでだよっ!」

穀物商「だから、云っただろう? 小麦一袋で、金貨19枚」
地方市民「馬鹿じゃねぇのか? 何でそんな値段なんだよ」

穀物商「あんた買い物に来るのは久しぶりなのかい?」

地方市民「ああ、そうりゃそうだ。わざわざ荷馬車を
 御してまで、買い付けに来たんだ。この買い物で
 一家八人が食うんだぞ!?」

旅商人「親父、小麦をくれ」
穀物商「はいはい、商人さんだね。いくつだい?」

旅商人「いくらだ?」
穀物商「小麦一袋で、金貨19枚。挽きが粗い二級のものなら
 金貨15枚半だ。大麦は金貨12枚」

旅商人「二級を見せてもらおう」
穀物商「こいつだ!」

旅商人「ふむ……。多少虫が混じっているな」
穀物商「今日日どこでもこんなもんだ。買手は他にも居るんだよ」

旅商人「良かろう。25袋積んでくれ」
穀物商「よしきた、売買成立だっ」

433: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:28:39.82 ID:sQx9tPoP
 カッポ、カッポ、カッポ……

地方市民「……くそ。親父、じゃぁ、俺にもその二級のをくれ」
穀物商「一袋、金貨16枚だ」

地方市民「はぁ!? さっきは15枚半って云ったじゃねぇか!」

穀物商「お客さん。この二級の小麦、
 先週は一袋で金貨8枚だったんだ。
 この先もどうなるか判りゃしない。
 わたしだって、売らないで取っておいた方が
 儲かるかもしれないんだ」

地方市民「……くぅ。くれっ! 2袋だ。それと大麦も4袋くれ」
穀物商「お客さんはよい買い物をしたと思うよ」

  パン屋「安いよぉ! 安いよぉ! いまなら
   バターをつけた大きな葡萄パンが、二つで
   金貨一枚だっ」

 カッポ、カッポ、カッポ……

地方市民「何が安いもんか。あんなに小さいじゃないか。
 それが金貨一枚だなんて。いったいどうすりゃいいってんだ」

地方市民「……仕方ない。レンズ豆とカラス豆も
 仕入れるとしよう。今年は精霊様のお恵みがなかったんだ。
 来年になれば良いこともあるさ」

435: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:30:31.48 ID:sQx9tPoP
地方市民「え!?」

商家「レンズ豆は一袋、金貨9枚。カラス豆は11枚半だ」

地方市民「なんでそんなことになるんだよっ!?
 小麦は不作だったかもしれない。確かに天気がちょっと
 良くなかったから。しかし、豆は豊作だったはずだろう!?」

商家「ああ、確かにね。しかしね、お客さん」
地方市民「あ、ああ」

商家「考えてみてくれ。普段小麦を食べている人でも、
 小麦が高ければ、大麦やカラス麦のパンを食べるだろう?
 普段大麦やカラス麦のパンを食べている人でも、
 それが高ければ、マメや、蕎麦、クルミまでも食べ
 なけりゃならん。
 判るだろう? 普段より大勢の人間が、豆を求めてるんだ。
 値段が上がってしまうんだよ」

地方市民「何でこんなことになってしまったんだ……」

商家「これでも、わたしは努力しているんだよ。
 ちょっとでも安くしようとね」
地方市民「……?」

商家「と、いうのも、領主が来月には、豆や穀物、
 さらにはパンの値段を固定しようとしているんだ」

地方市民「固定……?」

商家「ああ、定価販売を義務づけるというんだ」

438: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:33:03.84 ID:sQx9tPoP
地方市民「素晴らしいじゃないか! じゃぁ、来月まで
 待てば麦も豆ももっと安く買えるんだっ!」

 カッポ、カッポ、カッポ……
 
旅商人「やれやれ」

地方市民「あぁ、あなたはさっきの」

旅商人「さきほどの穀物商でもお会いしましたな」
地方市民「ええ、旅商人の方ですか? ごきげんよろしく」

旅商人「何にも判っていないようですね」 ちらっ
商家「仕方ありません。畑を耕している方には本来無関係
 何ですからね」

地方市民「どういうことです? どうしたのです?」
商家「……はぁぁ」

旅商人「本来こういうことを言ってはいけないかも
 しれないのだが、わたしは旅の者だし、差し支えないだろう」

商家「わたしは、豆の重さでも量っていますよ」

地方市民「?」

旅商人「麦の値段は、小麦も、大麦も、オート麦に至るまで
 上昇の一途だ。来月に下がるとはとても思えない。
 こんな状況で、麦やパンの販売価格を決められたらどうなると
 思う? あっという間に破産してしまう。
 仕入れるべき小麦は高いままなのだからね。
 正気の穀物商やパン屋なら、店を開くこともしないだろう」

439: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 20:35:08.64 ID:sQx9tPoP
地方市民「あっ!」

旅商人「そういうことだ。値段は上がっているが、
 彼らもある程度は売り切ってしまいたいのさ。
 もちろん、自分たちが食べる分くらいは残さないと
 飢えてしまうがね」

地方市民「……そ、そんな」

商家「よいしょっと。……そうですよ、お客さん。
 もしかしたら、来月のこの通りは一軒の店も開いて
 無いかもしれない。わたしだって、こんなベーコンや
 豆は始末して、少しは大麦を買い入れておきたいんだ」

地方市民「わ、わ、わかった。買うよ!」

商家「今日は店じまいだ。おまけしておくよ」
地方市民「レンズ豆とカラス豆を2袋ずつ頼む」

商家「金貨20枚にしておこうかね」
旅商人「こちらはカラス豆を20袋だ」

商家「よしきた。おーうぃ、大口のお客だ。
 運ぶのを手伝っておくれ~」

456: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:43:43.65 ID:sQx9tPoP
――冬の王宮、広間、対策会議

 ガチャ。ザッザッザ!

商人子弟「王よ、冬寂王よっ!」
従僕「わわわ。はわーっ」

将官「これは商人子弟さんではありませんか、
 どうされたんですか?」

商人子弟「緊急の上奏があってきました。王はどこに」

執事「おや、商人子弟殿。若はこちらですよ」
冬寂王「なにごとだ?」

商人子弟「おお。冬寂王っ。至急案件です。
 上奏があります、公布を出して頂きたい」
従僕「はうー」

冬寂王「なにごとだ?
 税のことでそのような緊急事態など起きるものなのか?
 それともまさか軍事のことなのか?」

商人子弟「違います、まさに税のことです」
従僕 こくんっこくんっ

冬寂王「上奏文を読もう」

商人子弟「読まないでいいです。時間がもったいないから」

執事「随分たくましくなって……」

商人子弟「王との付き合い方を学びました」

458: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:46:09.19 ID:sQx9tPoP
商人子弟「判りやすく口頭で説明をします。
 おい、フリップ!」
従僕「はいっ!」 ペラッ

将官「紙芝居……?」

商人子弟「現在、大陸中央部の諸王国で急速に物価の上昇が
 発生しています。と、同時に金貨の流通量が増えています」
従僕「ですっ」

冬寂王「どういうことなのだ?」

商人子弟「つまり、先週金貨5枚で買えた品物が、
 今週は10枚、来週は20枚というように
 どんどん値上がりしているんです」

執事「それでは庶民の暮らしが立ちゆかないではないか」

商人子弟「当然そうなります。
 しかし、これに対して、領主を中心に金貨の流通量も
 増大しつつあるんです。
 領主が民衆に金をばらまけば、もしかしたら均衡が取れるの
 かもしれませんが、現在は物価の上昇に対応するだけの
 貨幣が民衆の側に無いのが実情です。
 そのため加速度的に事態は進行中。
 おい、フリップその2」
従僕「はいっ!」 ペラッ

商人子弟「この図にあるとおり、現在価格はおよそ例年の
 2倍に迫りつつあり、その速度は衰えていません」
従僕「ですっ」

将官「わ、わかりやすい。……おまけに何故かどきどきする」
執事「これは一大事なのでは」

冬寂王「ふむ」

461: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:49:39.52 ID:sQx9tPoP
商人子弟「これは何者かによる、
 小麦を中心とした物資の買い占め工作かと考えられます」

冬寂王「工作? 目的は?」

商人子弟「それは後回しです。今はそんな暇はありません。
 ただでさえ、こんな凄腕のプレイヤーを相手に回して
 うちは後手に回ってるんですからねっ」

将官「プレイヤー?」
商人子弟「ああ、それも忘れて良いです」ぽいぽいっ

商人子弟「目下重要なのは、これから何が起きるかです」

冬寂王「判った。対応が先というわけだな。
 いったいどのような事態が予測されるのだ?」

商人子弟「中央の国家全てに、
 激しい富の変調が発生しています。
 市中には金貨がないにもかかわらず一部の大商人、
 地主、領主、貴族、王族には金貨が集中しているんです。
 しかし、価格高騰は全ての物資に波及していて、
 多量の金貨を持っても物資の調達は思うように
 行えない事になるでしょう。時間差はあるでしょうが
 ゆくゆくは、全ての価格が上昇するはずです」

執事「ふむ……」

465: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:52:03.03 ID:sQx9tPoP
商人子弟「このような状況には
 財政出動などの政策が効果を持っていて、一部の賢明な
 領主は着手したようですが効果は非常に限定的です。
 理由ははしょりますが、“一部の賢い領主”の努力程度では、
 この流れは止まりそうにありません、となると。
 おい、三枚目出せ」

従僕「はいっ!」 ペラッ

執事「っ!?」

商人子弟「そうです。まだ価格の高騰していない、遠方。
 つまり南部諸王国ですね。ここで大量の物資を調達する
 というのが彼らが次に執る手段です。
 一部にその兆候が見え始めています」

冬寂王「それに巻き込まれた場合は、我が国でも物価が?」

商人子弟「ええ、間違いなく高騰します」
従僕「すごいことになりますぅ」うるっ

執事「た、対処方法は?」

商人子弟「今述べます。まず、第一にこれはある種の
 攻撃であると認識してください。
 向こうにその意図がなかった場合は、災害です。
 防衛しなければなりません。
 これはかなりの危機です。道を誤れば国が傾きます」

466: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:53:49.86 ID:sQx9tPoP
冬寂王「承知した」

商人子弟「まずは、関税です。
 小麦を中心に、三カ国通商同盟の内側から外側へ
 品物が出て行く場合は税を取りましょう」

冬寂王「通行税のようなものか?」

商人子弟「フリップ」
従僕「はいっ!」 ペラッ

商人子弟「似ていますが、方向が限定的です。
 この場合出て行く物資にかければ良いだけです。
 小麦でも馬鈴薯でも、持ち出す場合は
 荷馬車一台につき金貨50枚」

将官「50枚!? べらぼうなっ!」

商人子弟「なぁに、わたし達の懐が痛むわけではありません。
 それにこの関税をかけなかった場合、わたし達の食料は
 すべて中央に買い上げられ、冬に飢えることになるんですよ?」

将官「そ、そうだなっ。60枚でも良いかもしれない」
執事「飢えるのだけは勘弁して欲しいですからなぁ」

商人子弟「次に宮殿関連の給金制度の段階的な休止」

冬寂王「それはどういう意味があるのだ?」

468: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:55:52.50 ID:sQx9tPoP
商人子弟「この現象は、“金貨一枚で何が出来るのか?”
 という問いの答えがあやふやになったから起きているのです。
 つまり、普段ならパンが四つは買えた金貨で、
 今何が出来るか判らない。そこに問題があります」

執事「ふむ」

商人子弟「普段金貨30枚もあれば一月暮らすことが
 出来ていたとしても、今は出来るかどうか判らない。
 今出来たとしても、今後どうなるか判らない。
 これはつまり、貨幣の信用が崩壊しているせいです。
 
 ですから、通貨の使用を一部減らします。
 必要であれば、兵士や文官の給与は金貨ではなく、
 今貯蔵のある小麦で支払います」

将官「馬鈴薯ではいけないのか?
 あれは旨いし、沢山あるだろう?」

商人子弟「フリップつぎっ!」
従僕「はいっ!」 ペラッ

商人子弟「さいわい、我が国および通商三カ国は
 食料の中心を麦から馬鈴薯に移行しつつあります。
 これは不幸中の幸いです。何せ馬鈴薯は中央から見れば
 異端指定の作物ですからね。生半可なことでは
 これを買おうとは思わないでしょう。
 そこを利用します」

冬寂王「そうか、定価制だな」

470: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 21:58:19.30 ID:sQx9tPoP
商人子弟「そうです。馬鈴薯の生産者からは一定の金額で
 これを買い上げます。そして馬鈴薯を食べたいものや、
 市中の食堂などには一定価格で馬鈴薯を売ります。
 この一定価格は、2ヶ月毎程度で見直すべきですが」

商人子弟「また、開拓者に飢饉が発生した場合などは
 この馬鈴薯を中心に対処を行うべきです。
 これによって、少なくとも三カ国通商内部では
 貨幣の信用力が比較において安定するはずです。
 
 つまり、金貨一枚で、馬鈴薯がいくつ買えるか?
 という問いに答えが出るわけですからね。
 金貨十数枚で一月暮らせるだけの馬鈴薯が保証される
 のならば、金貨を持っている意味は保証される。
 
 加えて云うならば、気になることも何点かあり
 馬鈴薯の貯蓄はなるだけ伸ばした方がいいでしょう。
 生産を奨励してください」

冬寂王「対処としてはそのようなところか?」

商人子弟「ええ、これがとりあえず財政の
 処方箋です。しかし、まだ有ります」

冬寂王「なんと」

商人子弟「こちらはわたしの専門ではありませんが
 大陸中央の物価が上昇すると云うことは、
 餓死者が出るはずです。当然治安悪化も予想されます」

473: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 22:01:16.27 ID:sQx9tPoP
執事「おお、そう言うことでしたかっ」ぽむんっ!

冬寂王「ん? どうした爺」

執事「いやいや。
 最近、野盗化する傭兵団の噂が後を絶たぬのですよ。
 連中、食い詰めて盗賊に身を落としているのだな」

冬寂王「そのような話も出ていたな」

商人子弟「野盗であるなら異端指定だからと云って
 馬鈴薯を嫌がったりもしないでしょう。
 領内に強盗、いや略奪が発生しないとも限りません」

将官「それは小官の役目でありますね! ご安心あれ。
 常備軍を通常の国の三倍もおいているのは
 我が南部の諸王国だけです。
 強盗ごときにどうして引けを取りましょう」

執事「野盗とはいえ、元は傭兵団。慢心するでないぞ」
将官「はっ!」

商人子弟「もう一点が、流入する民衆です。
 これから越冬に向かいもし中央部がもっと冷えるのであれば
 飢饉になるやもしれません。そうすれば、大規模な移民が
 発生する可能性があります」

冬寂王「ははは、そうなれば、それはそれでありがたいがな」

商人子弟「それもこれも食べさせることが出来れば、です。
 その点もあり、馬鈴薯の増産を進言しました」

475: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 22:03:40.30 ID:sQx9tPoP
冬寂王「委細承知した。良く進言してくれたな」

商人子弟「いえいえ、これもお役目」
従僕「ですっ」にこっ

冬寂王「貴公の見識は良く把握した。今日から財務長だ」
商人子弟「え」ぴきっ

冬寂王「侯爵位だ。給金や手当はおって考えよう」
商人子弟「いや」

冬寂王「遠慮はするな。財務長となったからには
 三倍の仕事もこなせるはず。よろしく頼むぞっ」

商人子弟「ちょ、ちょっとまってくださいよ!
 そういうんじゃないですよ! 死んじゃいますよっ!」

冬寂王「ははははっ。我は早速布告作業にはいる。
 何かあれば何時なりと来てくれるが良い。
 そうだ、こんど晩餐でも共にしよう。たのんだぞっ!」

将官「ご愁傷様です」

執事「はやく奥様を貰われることですな。
 おっぱいは男を癒す摩訶不思議な力がありますぞ?」

商人子弟 がくっ

従僕「……」なでなで

477: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 22:05:49.20 ID:sQx9tPoP
冬寂王「ははははっ。では、行ってくる!」
執事「お待ちください、若~。爺もまいりますぞっ」

 かっかっかっ。がちゃん

商人子弟「……ふぁぁぁ」がくり
従僕「大丈夫ですか?」

商人子弟「ダメかもしんない」
従僕「お茶入れましょうか?」

商人子弟「たのむよ」

従僕「はーい♪」 ぱたたたっ

商人子弟「それにしても……この流れ……」

商人子弟(誰の仕掛けかなんて事は判っている
 こんな規模の商戦をしかけられるのは
 『同盟』以外にあるものか。
 連中が大規模な買い占めをやっているんだ。
 だが、その目的は何だ? 連中は敵か? 味方なのか?)

商人子弟(俺みたいな三下の商人の小せがれじゃぁ
 どうやったって化け物みたいな商人連中のそのまた
 集合体である『同盟』になんか太刀打ちできないぞ。
 だが……。はぁぁぁ。今さら逃げるわけにも行かないし)

商人子弟(小麦と生活必要物資を買ってどうする?
 その費用はどこからひねり出したんだ? 他の物資の
 売買の兆候はない。とすれば、何らかの契約か、自分の
 財布から金をひねり出したんだろうが……。
 そんなことに何の意味がある? ただの投機なのか?
 食料品の価格を高騰させて、売り抜けて利益を得る。
 ――可能だろうが、それだけが目的なのか?)

503: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:00:03.23 ID:sQx9tPoP
――思い出の庭、魔王の回想

メイド長「――!」
魔王 かちゃかちゃ

メイド長「――! ――!」
魔王「むぅ、変換式が違うのか?」

メイド長「――! 
 もうっ、呼びかけたら返事くらいしてくださいっ」

魔王「うぉっ! びっくりしたではないか」
メイド長「びっくりしたのは、こっちですよ!」

魔王「むぅ。お互いびっくりでは間抜けではないか」
メイド長「それこそお互い様ですっ」

魔王「むぅ」

メイド長 くんくん 「ん? ――! いつから
 着替えてないんですかっ!?」

魔王「そんなこと良いではないか。
 ライオンも熊も着替えはせぬ。
 竜も殺戮機兵もだ。
 そんなことしなくても生きていける」

メイド長「ダメですよ。そんなの。
 あなたは人型形態なんですから。
 そもそも年頃の女の子なんですよ? 弁えてくださいっ」

魔王「年頃なんて云ったって、もう100年もこのままではないか」

メイド長「そりゃ、ここは『外なる図書館』だからですっ」

504: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:01:45.14 ID:sQx9tPoP
魔王「身支度は苦手だ」

メイド長「ああっ。もうっ!
 そういう話じゃなかった。
 ――! 魔王になるってのは本当なんですか!?」

魔王「ああ、うん……」
メイド長「照れないでくださいっ!」

魔王「なるのだ」えへん
メイド長「無駄に成長した胸を張らないでくださいよっ」

魔王「だめだったか?」
メイド長「……まさか、わたしのためじゃないでしょうね?」

魔王「いや、違うぞ」
メイド長「それなら良いんですが……」

魔王「あれは本当に行きがかりのことだ。
 気にする方がおかしいのだ」

メイド長「……」
魔王「来月には、継承をする」

メイド長「――魔王になる意味、判ってるんですか?」
魔王「うむ」

メイド長「冥府宮にはいるんですよ?
 他の魔族ならいざしらず、この一族には
 冥府宮に関する知識だって伝わっているじゃないですかっ!」

魔王「“この一族”なんていうな。“我が一族”と云うべきだ」
メイド長「わたしは……新参ですから」

魔王「新参だろうが何だろうが、一族だ」

507: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:03:47.48 ID:sQx9tPoP
メイド長「そんなことより、あそこに行ったら歴代魔王に
 意識も身体も乗っ取られるんですよ?」

魔王「正確には乗っ取りではない。汚染だ」

メイド長「同じじゃないですか」

魔王「全然違うぞ。汚染はわたし自身の変化だ。
 乗っ取りなら元に戻る方法もあるかもしれないが
 汚染に方法はない」

メイド長「余計に悪いじゃないですかっ?」

魔王「いや、そうとも限らない。
 物事には何でも利点と欠点があるのだ。
 まず、汚染されてもわたしはわたしだ。
 最後までわたしの罪はわたしについて回る」
メイド長「欠点にしか聞こえません」

魔王「それに、乗っ取りは一瞬だろうが、汚染には
 時間がかかろう? そこが目の付け所だ」

メイド長「はぁ?」

魔王「冥府宮にはちょっぴりだけ入る」
メイド長「へ?」

魔王「ちょぅぴり入って、すぐ出てくる」

メイド長「はぁ~? な、何を言ってるんですか!?
 それじゃ魔王の戦闘能力が身につかないじゃないですかっ。
 そんなのでどうやって魔界を統治するんですかっ?
 そもそもどうやって戦うんですかっ!?」

510: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:05:57.83 ID:sQx9tPoP
魔王「統治に暴力なんて使わない」
メイド長「何を言ってるんですか、そんなっ」

魔王「NDC310番台を見てみろ。
 人間は個体の戦闘能力など中級魔族以下なのに
 それでも統治も政治もやって居る。
 戦闘能力など統治の必須要件ではない証明だ」

メイド長「そ、それはそうかもしれませんけれど。
 だいたい、何で魔王になんてなるつもりなんですかっ。
 そこからして変じゃないですか。研究の虫のくせにっ」

魔王「これも一つの実習だ。お前だってしているだろう?」

メイド長「実習……」

魔王「うん。わたしは、二つの世界がふれあう様を見てみたい。
 出来うるならば、わたしの運命に出会いたいんだ」

メイド長「え?」

魔王「ほら」

 キラキラキラ、キラキラキラ

メイド長「これ……え……?」

魔王「先週、生まれたんだ」
メイド長「にん、げん?」

魔王「遠隔映像に過ぎないし、酷く画質は悪いし、
 これっきりだけどな。瀬良の図書館も、万能ではないから」

513: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:10:24.46 ID:sQx9tPoP
メイド長「男の子……なんですか?」
魔王「勇者だよ」

メイド長「……っ!?」

魔王「この世界にたったふたつのLiving Singularity。
 運命の子供だ。きっと15年もすれば格好良くなるんだろうな」

メイド長「まさか……」

魔王「うん。ふふふっ。――この人に会いたいんだ」

メイド長「そ、そんなっ。この人は、魔王を殺しに来る
 存在ですよっ!? 何を考えてるんですかっ!!」

魔王「それが良いんじゃないか」
メイド長「――」

魔王「わたしに会いに来てくれるんだ。
 遠いところから触れあえないはずのところから来てくれるんだよ。
 それはまぁ、彼の剣はわたしを殺すかもしれないけれど、
 殺される前に“こんにちは”位は云えるだろう。
 もしかしたら“ご機嫌いかが”も云えるかもしれない。
 奇跡でも起きたら――あの黒髪に
 触れさせてもらえるかもしれない。あれはきっと、
 もふもふしてて、くしゃくしゃにすると幸せなんだ」

メイド長「正気じゃありませんっ」

魔王「いたって正気だ。それがわたしの持っている
 唯一のチャンスだと思う。“見たことのない未来”を
 見るための。この図書館に収められていない物語を
 読むための。――運命と出会うための」

515: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:13:40.57 ID:sQx9tPoP
メイド長「そんな……だって」
魔王「決めたんだ」

メイド長「継承候補者戦はどうするんですかっ」
魔王「それは、まぁ、適当に」

メイド長「魔界からとっておきの猛者や従者が6人も
 集まるんですよ? 勝てるわけ無いじゃないですかっ。
 無理に決まっています、魔王になることも出来ませんよっ」

魔王「それはまぁ、うまくやるよ。
 戦闘は苦手だけど損得勘定は得意だ。
 棄権して貰うように話をまとめるとか。
 手加減して貰うとか」

メイド長「出来るわけありません」 どんっ

魔王「手厳しいな」

メイド長「――はっ! ――は馬鹿ですかっ!?」

魔王「勝ち負けは問題じゃないんだ。
 ここが唯一のチャンスだから。
 問題はもはや勝ち負けではなく
 “賭けずに後悔するか、賭けてみるか”でしかないんだ」

メイド長「……あなたは」
魔王「ん? 変なことを云ったか?」

メイド長「いえ」
魔王「……」

メイド長「…………マイマスター」
魔王「なんだそれ?」

518: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:16:24.08 ID:sQx9tPoP
メイド長「マイマスター。あなたは酷く馬鹿ですから」

魔王「何を言い出すんだっ。異界の博士号だって取れるんだぞ」

メイド長「それでも馬鹿ですから」

魔王「む」

メイド長「わたしがメイドとしてあなたに仕えましょう」
魔王「え?」

メイド長「あなたの従者になりましょう」

魔王「何を言っているんだ。馬鹿を云うな。
 これはわたしの夢で、わたしのチャンスなんだっ。
 他人を巻き込んで良いものじゃないっ」

メイド長「ならさっさと諦めるべきです。
 王になる、統治者になるというのは、
 “他人を巻き込む”以外の何だというのですかっ!?
 その程度で曲げるような夢に命を掛ける馬鹿がいますかっ!」

魔王「――っ」

メイド長「これは、わたしの夢でもあります。マイマスター。
 わたしも、“メイド道”を極めたいですからね。
 あなたには多少の恩もある。
 でもそれ以上に、こんなにぐうたらでいい加減な人は
 見たことがありません。素材は良いのに宝の持ち腐れ。
 本当に理想のご主人様です」

魔王「いいのか? そっちだって馬鹿の相乗りになるぞ。
 死ぬかも、というか死ぬっぽいんだぞ? かなり確実に」

521: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:19:35.57 ID:sQx9tPoP
メイド長「それはマイマスターがメイドをご存じないからでしょう」
魔王「はぁ?」

メイド長「どの書物を読んでもメイドの卓越した美意識、
 実務能力、家政能力、問題処理能力、
 さらに特筆すべきはその戦闘能力について絶賛されていますよ?
 ヴィクトリア朝とヤーパンにおける
 メイドはまさに現人神のようなものです」

魔王「そう……なのか?」

メイド長「ええ、ご安心あれ」
魔王「そ、そうか。その」

メイド長「お茶でも入れましょうね」
魔王「う、うむ。頼む。その……メイド長」

メイド長「まだ部下は居ませんけれどね」
魔王「部下がいなくても、長に相応しい」

メイド長「ありがとうございます」 にこり
魔王「でも、その……良いのか?」

メイド長「ええ、もちろん。――だって」

魔王「……」

メイド長「“さだめられたあの方を待つために”なんて
 そんな夢、応援しないわけには行きませんでしょう?
 わたしだって女性の身に生まれているのですから」

534: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:46:03.44 ID:sQx9tPoP
――大陸中央、霧の国、領主の館

家令「領主様っ! 領主様ぁっ!」

肥満領主「んー。もう1個プラム向いてくれたまえっ」
 少女メイド「はい……」

家令「領主様っ!」

肥満領主「ええいっ! うるさいっ! 聞こえているわっ!
 何事だ、騒々しいっ!」

家令「き、き、来ましたっ!」

肥満領主「召集令かっ!?」

家令「その通りでございますっ!」

 ぱらっ、するするするっ

肥満領主「ふむっ。総大将は霧の国の灰青王か……。
 招集が掛かるは思っていたが、このように早くとはなっ。
 ふははははっ! 南部の蛮王どもめ、我らが書面による
 交渉を繰り返すと高をくくっていたのだろうな。
 現実はそうそううまくはいかんよっ」

家令「いかがいたしましょう?」

肥満領主「領主の義務ゆえ、至急馳せ散じると返書を送れ!」

家令「ははぁっ!」 がちゃっ!

肥満領主「何とも良いタイミングで招集をかけてくれたものよ。
 こちらは小麦の売買を通してたっぷりと軍資金を蓄えておる。
 今年に限って“小麦引き渡し証書”なるものまで
 出現する始末。わが宝物庫には金貨がうなっておるわ」

536: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/11(金) 23:47:48.34 ID:sQx9tPoP
 少女メイド「あ、あの……剥けました……」

肥満領主「ふふっ。おうっ、これは甘いなっ」くっちゃくっちゃ

肥満領主「これだけの金があれば、騎士達への給金も
 余裕を持って払えようし、傭兵団を雇うことも
 容易かろう……」

肥満領主「700、いや1000の兵をそろえれば、
 灰青王の本軍よりもさらに人数で上回ることも
 可能かもしれんな。そうなれば司教様の覚えもめでたくなる。
 光の白十字章か、いや……伯位も夢ではないかもしれん」

肥満領主「丁度小麦も値あがっていたのだ。
 これだけの金貨があればどうとでもなるとはいえ、
 ふふふふっ。
 最近肥え太っているという、南部の豚料理をいただくのも
 それはそれで悪くなかろう」

肥満領主「その宮殿にはたっぷりと
 宝物が蓄えられていようゆえな。くっくっくぁっはっは。
 今から胸が高鳴るわ。
 戦は、ふむ……集合は半月後。
 冬ではあるが、年を越して雪が本格的になる前に
 けりをつけるつもりか。
 これはこれは、灰青王も血気にはやっていると見ゆる」

ガチャリ

家令「返書を手配してまいりりましたっ!」

肥満領主「よいだろう。領内の騎士のリストを持てっ!
 招集する部下の選定を始めるぞっ! 武具を確かめよっ!」

630: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 13:12:44.49 ID:Xzdt3noP
――湖の国、富裕街、路地

青年商人「はははは。ではお嬢様も?」

金満貴族「ははっ。ミーの娘ももう年頃なのだがネ。
 いろいろヤンチャがオゥバァヒィトでこまるよ。ははっ」

青年商人「いえいえ、女性は花に舞う蝶のようなもの。
 そのようなお嬢様に憧れる騎士や貴族の方も
 多いかと思いますよ」にこにこ

金満貴族「そういうユーはどうなのかね? ん?
 『同盟』の中でもかなりの地位があるのだろう?」

青年商人「いえいえ。わたしなどまだまだ未熟でして。
 こうして貴族様とお近づきになれるチャンスがありますと
 未だにあがってしまうんですよ」

金満貴族「ははは。謙虚な男だな、君は。
 どうだい、今度我が領内で、舞踏会があるのだよ。
 何人か貴族の娘もでるはずだ。ご招待しよう」

青年商人「わたくし不調法でして、
 とんだ粗相をしないとも限らないのですが……」

金満貴族「はっはっは。気にしないでくれ。
 なぁに、新しい冬の別邸のお披露目をかねた
 内輪の小さな……そう、100名程度のパァティなのだよ」

青年商人「すばらしいですね」にこっ

631: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 13:14:05.87 ID:Xzdt3noP
金満貴族「ははははっ。今日は本当にナイスな取引が
 出来たよ。ふぅむ、北方産の鳩血紅玉が45万とはね。
 ふふふふっ。良く手に入れてくれた」

青年商人「勉強させて頂きました。今後ともご贔屓に
 お願いいたします」

金満貴族「ああ、貴族仲間にも紹介しようじゃないか。
 では、舞踏会の日取りが決まったら招待状を送ろう」

カッポカッポカッポカッポ

青年商人「さ、馬車の用意が出来たようですよ」
金満貴族「そのようだ。では行かせて貰うよ」

青年商人「真にありがとうございました」 ふかぶか
金満貴族「うむっ」

がちゃん、カッポカッポカッポカッポ

青年商人「……」

青年商人「ふぅ。……結構なことだ。
 紅玉髄(ルビー)に45万とは。一晩の稼ぎとしては悪くない。
 代価は麦でいただけるとは、あの方本人は把握もしてないん
 だろうが……。その紅玉、食べれればさぞ美味いだろうな」

 ヒュルルルゥーン

632: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 13:15:44.48 ID:Xzdt3noP
青年商人「冷えるな。まぁ、湖の国でももう冬だ。
 南はそろそろ雪もきつかろうな。――っくしっ」

青年商人「宿に帰るか。今晩は作戦本部もいいだろう。
 馬車は……乗るまでもないな」

カッカッカッ

乞食「おねげぇでございますだ、旦那さな」
青年商人「……」ちゃりん

青年商人「柄にも、ない。か」

 どんっ

????「ひゃ」

青年商人「こりゃ済まないな」
青年商人(この夜更けに、フードにケープ? 北方の人か?
 声は若い女性のようだが……)

????「いや妾こそ」

青年商人「こんな時間に女性の一人歩きは危ないですよ。
 お気をつけて宿にお戻りなさい」

????「お待ちくださるかや」

633: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 13:16:42.98 ID:Xzdt3noP
青年商人「は?」
????「お客人」

青年商人「はぁ」

????「一度お会いしました」

青年商人「は? え。流石にそのフードだと」
火竜公女「そうでありましたね、申し訳ない」 はらり

青年商人「あ。ああっ!」
火竜公女「思い出してくださいましたかや」にこり

青年商人「どうしてこんなところにっ」
火竜公女「お客人を探しておりました」

青年商人「なんでわたしを?」
火竜公女「お客人は、商人だと。どのようなものでも
 手に入れらるる方だと、あの宴で聞きましたゆえ」

青年商人「それは商人ですが。……あっ」
火竜公女「?」

青年商人「尻尾。……尻尾を」
火竜公女「尻尾が何か?」 ゆらゆら

青年商人「いえ、場所が悪い。移しましょう」
火竜公女「はい。妾も話があります」

641: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 13:57:26.02 ID:Xzdt3noP
――湖の国、富裕街、青年の取った宿

青年商人「胆が冷えました」
火竜公女「なにゆえです?」

青年商人「あー。人間には尻尾がないですからね」
火竜公女「そうでありますな」きょとん

青年商人「茶でも飲みますか?」
火竜公女「あれば火酒を。……ここは寒くてかまいませぬ」

青年商人「そう言えば、あちらよりぐっと寒いですね」
火竜公女「こちらに来てから尻尾の先が暖まったことが
 一度もありませぬ。本当に人間界は冷え切った場所」

青年商人「まぁ、今は冬ですから」
火竜公女「冬……」

青年商人「ええ、魔界にはないんですか?」

火竜公女「聞き慣れぬ言葉ですね。いえ、意味はわかりますが。
 二つのゲートに近きところは寒く、遠きところは熱い。
 それが魔界です」

 とぷとぷとぷ……

青年商人「ん……。入りましたよ」
火竜公女「有り難く頂戴しまする」

642: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 13:59:03.80 ID:Xzdt3noP
青年商人「さて、と。どうして公女がここにいるんです?」
火竜公女「お客人に会いにまいりました」

青年商人「そのお客人ってのは止めましょう」
火竜公女「ではなんとお呼びすれば?」

青年商人「商人と」
火竜公女「では、商人様に会いに」くぴくぴくぴ

青年商人「はぁ……。はるばる魔界から。というか、
 転移呪文ですか? 魔族の魔法は人間のより
 強力なんですかね」

火竜公女「そのようなことはありませぬ。
 むしろ人間の儀式法術の方が強力だと、
 父様などは云っているくらいで。
 魔族は、魔翌力は品に込めるのが得意なだけ。
 人間界へも転移符で来たくらいです」

青年商人「どうやって居場所を? 勇者ですか?」

火竜公女「いえ、我が君には内緒です。
 ――此度は妾の仕事ですゆえ。
 居場所は探知魔法をかけて貰ったのですよ。
 通りすがりの魔法使いに」くぴくぴ

青年商人「常識の削られる音がしますね」
火竜公女「削る分があるうちは取り返しがつくというもの」

青年商人「ごもっとも。削って売れれば文句はありません。
 常識に元手は掛からないですからね」

643: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 14:00:30.81 ID:Xzdt3noP
青年商人「して、どのような品物をお求めでしょう、公女様」
火竜公女「塩を」

青年商人「いかほど?」
火竜公女「判りませぬ。必要なだけ」

青年商人「何とも曖昧は注文ですね」

火竜公女「ですから来ました」
青年商人「……?」

火竜公女「この注文をこなせるのは、
 商人様しかいないと踏んで出向きました」
青年商人「ふむ」

火竜公女「塩は魔界では貴重品。これを融通して頂きたいのです」
青年商人「……」

火竜公女「……」くぴくぴ
青年商人「……」

火竜公女「……」とぷとぷとぷ、くぴ
青年商人「……」

火竜公女「……暖まります」
青年商人「その壺全部飲んで良いですよ」

火竜公女「聞いていたのかや」
青年商人「ちょっと考え事を」

644: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 14:05:49.24 ID:Xzdt3noP
火竜公女「……?」
青年商人「これは謎かけでしょうか?」

火竜公女「妾は愚かしき子女ゆえ、考え深い殿御に
 とっては謎かけかもしれませぬ」

青年商人「考えすぎだ、と?」

火竜公女「賢きおなごは、万象の識をあつめ
 知を尽くして物事に当たります。
 しかし、心得を持つおなごは、殿方を立てることにより
 何もせずともそれ以上を手にしまする。
 それが妾が母上から受けた竜の教え。
 商人様に、なるべく多くを手に入れて貰うためならば
 謎かけでも何でもいたしましょう。
 殿御にお力をふるって頂くのが
 子女の誉れと心得ておりまする」

青年商人「塩なら造作もないんですけどねー」

火竜公女「……ああ、尻尾の先まで暖まりまする」こくん、こくん

青年商人「よく飲みますね」
火竜公女「人界の酒は珍しいゆえ」

青年商人「人間世界は初めてですか?」

火竜公女「もちろん初めてです。何もかもが珍しい。
 パンという食べ物は美味しいものですね。
 聞いていたのより随分高くて路銀で苦労しますが……。
 それから教会というのも良い。
 賛美歌というのはわくわくする代物ゆえ。
 一つの建物が丸ごと楽器などとは、これは仰天の
 体験でございます。人界とはまこと興味が尽きぬ」

645: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 14:08:53.43 ID:Xzdt3noP
青年商人「……しばらく、人界にいますか?」ぽつり
火竜公女「?」

青年商人「当面の塩は手配しましょう」
火竜公女「本当かや?」

青年商人「ええ」
火竜公女「それはかたじけない」

青年商人「ここまで危難に遭わなかったのが不思議ですよ」
火竜公女「尻尾かや?」

青年商人「ええ、まぁ。角も」
火竜公女「隠してはいたのですだ。
 人界の人はみな慌ただしいゆえ、注意を払われぬ」

青年商人「……」
火竜公女「……」くぴくぴ

青年商人「あなたは」
火竜公女「?」

青年商人「あなたが。あなたの存在が、
 “割り切れぬもの”に繋がるかもしれませんね。
 わたしたちは、知らなすぎるのではないでしょうか?」

火竜公女「何を?」
青年商人「おそらく、互いを」

647: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 14:28:33.88 ID:Xzdt3noP
――白夜の国、白夜王の宮殿

片目司令官「ええい! だから云ったのだ!」

 ガッシャァン!

白夜王「やつらはなぜ生きている!?
 なぜ地上の光を浴びている!?
 背教者だぞ? 我らが密告を受け、異端審問まで
 行ったというのに、なぜのうのうとこの世にはびこっているのだ」

片目司令官「くくくくっ。ははははっ」

白夜王「何がおかしいっ!」

片目司令官「悪魔だからに決まっておるではないかっ!
 豚に向かって“貴様は豚だ!”と言ったところで
 何の意味があるのだっ。
 ふんっ。屠殺しなければ終わるものではないっ」

白夜王「何を賢しらなことをっ!」

片目司令官「我は最初から剣で事を決しようと
 云ったではないか、それを策謀にて進めようとしたのは
 白夜王、あなたであろう?」

白夜王「うるさいっ! 我が国をみよっ!
 今年は麦が高騰を続けているのだ。
 中央からの義援金は例年よりも多く入ってきた。
 四カ国に送る予定だったのだからな。
 普段の二倍近い。
 しかし、それで買える麦は普段より
 少ないくらいでしかない位でしかないのだぞっ」

649: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 14:32:33.89 ID:Xzdt3noP
白夜王「そのうえ……」ぎりぎりっ

白夜王「昼も夜も絶えず、農奴どもが国境を越え、
 鉄の国へと流れておる。三カ国がなんだというのだ!?
 所詮は農奴を騙す新しいお題目を唱えているだけだというのに
 冬寂王、あやつにだけなぜ人々が味方をするっ」

片目司令官「それはな、あやつが天を欺いておるからよ」

白夜王「~っ!!」

片目司令官「クカカカカッ」

白夜王「このままでは我が白夜は。我が白夜だけが……ッ」

片目司令官「なぁ、白夜王」

白夜王「……」

片目司令官「奪えば良いではないか? ほら、見ろ。
 鉄腕王の国、氷雪の女王の国。
 たっぷりと身の詰まった果物のように熟れておる。
 いずれにせよ、背教者。
 遠からず人間世界で腐って落ちよう?
 それなら、その前に奪って食って悪い道理があるものか」

白夜王「……いけるのか」

片目司令官「中央の兵達は、戦になれば呼び集められる
 招集の騎士と歩兵。誇り高いが実戦経験で劣る。
 この国にいるのはなんだ?
 世界で最高の経験を経た常備軍だと抜かしていたではないか」

661: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 15:17:37.23 ID:Xzdt3noP
白夜王「しかし、我は手勢の多くを極光島で失った。
 一年の訓練は施したが、同じ南部諸王国が相手では
 練度で劣るやもしれぬのだっ……」

片目司令官「あはははっ! 中央も、貴様も!
 そしてその冬寂王とか云う小せがれもまったく判っておらんな!」

白夜王「なに?」
片目司令官「常備軍の強さというものを」

白夜王「それはなんだというのだ」
片目司令官「奇襲だよ」にぃっ

白夜王「それでは野盗と同じではないかっ!
 人間同士の戦でそのようなことをしてどうする。
 教会の非難に遭えば国が危ういのだぞっ」

片目司令官「その教会の敵が相手なのだ、相手は獣と同じ」

白夜王「!!」

片目司令官「野盗? 結構っ! 国境の盗賊どもに
 金を払い、鉄の王国を荒らさせるのだ。
 防備が分散した時点で騎兵による強行奇襲をかける。
 畑も家も燃やし、一気呵成に鉄の国を落とすのだ」

白夜王「ふふふっ。それしかないようだな」ぐびっ
片目司令官「この片目の闇を、鉄の国にぶちまけてくれよう」

673: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 16:50:54.18 ID:Xzdt3noP
――冬の王宮、謁見室

 ガチャン!

勇者「宣戦布告があったって!?」

執事「勇者、来ていただけましたかっ」

冬寂王「そうだ。
 これが今朝届いた書面による正式な宣戦布告だ。
 そのうえ同時に教会からは破門状も送られてきた」

勇者「早すぎる」

将官「もうしわけありませんっ。小官が甘い予想を」

冬寂王「いや、それは仕方ない。――事態が変わったのだ」

勇者「事態……?」

冬寂王「うむ、おそらく向こうも苦しいのだろう。
 小麦を初めとして全ての物価が上昇しているのだそうだ」

勇者「物価が? 食い物が買えなくなるのか?」

冬寂王「そうらしい。詳しいことは商人子弟にでも聞いてくれ。
 わたしもその構造や原因はわからぬ。だが、例年の二倍
 以上にはなっているようだ」

執事「恐ろしい冬にならねば良いのですが」

674: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 16:52:52.01 ID:Xzdt3noP
冬寂王「おそらく、その物価の上昇が教会か中央の首脳を
 刺激してしまったのだろう。
 もしくは手に入った多量の金貨を用いて、
 短期決戦を決意したのやもしれぬ。
 それがこのような急を告げる知らせになった」

勇者「そうか……」

将官「王よ、詳しい書状の話を」

執事「それは私から。えぇー。ごほんっ。
 冬の1月め、第四兎の日に南部草原にて会戦、
 との宣戦状であります」

冬寂王「ふんっ。一応体裁だけは取り繕ったわけだ」
勇者「あと十日か」

執事「出向かなければどうなります?」

将官「今までの戦でいえば、我らがこの宣戦状を無視すれば
 中央軍はそのまま進軍。向こうから見れば、攻城戦となりますね。
 ――しかし、我が国を始め、南部諸王国は
 魔族に備える砦は多くとも、領土の北部、大陸中心部方面
 つまり今回中央軍がやってくる方向には、警備のための
 塔がいくつかある程度で砦らしき砦はありません。
 と、なれば、いずれかの首都決戦になってしまうかと」

冬寂王「そうだな。この会戦を受けぬという選択肢は、無い」

勇者「くっそぉ。戦いたくないのにっ。
 ――戦いたくないんだ、俺はっ!」

676: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 16:54:28.79 ID:Xzdt3noP
冬寂王「これは、我ら愚かしい人間の戦だ」

勇者「だって、これは俺の、俺やあいつが撒いた」

冬寂王「違う。
 “農奴の権利を認める”と判断したときから
 これは人間の手による、人間の戦になったのだ。
 勇者。
 勇者が背負う必要など、どこにもない」

将官「そうですよ、勇者殿っ!」
執事「我らは今のこの時を、感謝こそすれ、けっして
 恨みに思っていたりはしませんぞ」

勇者「ちがう……。違うんだ」

執事「勇者……」

勇者「うまく言えないけれど、これは違う。
 こんな物が、あいつの目指した物であるはずがない。
 これが結末だなんてあり得ないっ」

将官「……」

冬寂王「確かにここで戦力を消耗するのは、
 我らにとっても益のないこと。
 我らにとってもはや戦は国力を増す手段にはならぬのだから。
 なぜ中央はその道理を判らぬ」

勇者(戦を望むのは、独占者。
 限られた世界の中で、“豊かさ”ではなく“優越”を
 求めるために寡占しようとする者。
 ……そこは間違っちゃいないはずだ)

677: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 16:55:48.59 ID:Xzdt3noP
勇者(どうすれば良いんだ?
 どうすれば止められる?
 聖王の、暗殺? ……馬鹿か、俺は。
 それじゃ魔王のところに行ったときと同じじゃねぇか。
 せめて。
 せめて、あと半年。いや、3ヶ月の時間があれば……)

勇者「せめて、いましばらく……」

勇者(この物価の上昇は、あの商人がやっているはずだ。
 あいつなら、これくらいのことはやる。
 きっとやる。……そういう目をしていた。
 あいつだけじゃないかもしれないけれど、
 あいつはきっと、中枢に噛みつけるような場所にいる。
 ……なんでだ? 何で小麦の値段や物価を上げる?
 あー、もう判らねぇよっ!
 なんで魔王はこう言う時にいねーんだよっ。
 あいつだったらさくっと解決しちまいそうなのにっ)

(そうだろう? 勇者だものな!)

勇者(何でこんな時に思い出すんだよ……)

(“あの丘の向こうに何があるんだろう?”って
 思ったことはないかい?
 “この船の向かう先には何があるんだろう?”って
 ワクワクした覚えは?)

勇者(なんであいつ、生きるの死ぬののって云う時に、
 のど元に剣を突きつけられて、あんなキラキラした
 瞳してやがったんだよっ)

679: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 16:56:53.39 ID:Xzdt3noP
(だから“そう言うもの”が見たいんだ)

勇者(あんなに無防備にっ)

(でも、だからこそ、それが“別の結末”を
 迎える事ができるのならば、
 それは私にとってだけじゃない。
 三千世界にとって“未だ見ぬもの”じゃないだろうか?)

勇者「~ッ」 ガツンッ

将官「勇者殿っ」

勇者「冬寂王、戦になったとしてどれくらい被害を
 出さずに戦える?」

冬寂王「相手の戦意と数次第だな。
 この種の戦は、平野に両軍が終結し、時間指定も為される。
 その後合図……大抵はホルンによって騎士は騎乗し、
 正面から衝突することになる。
 両者の戦意や数、戦略に大きな食い違いがなければ
 これが一日につき1~2回、数日の間繰り返されるだろう。
 指揮官が虜囚になるなどのアクシデントがあれば
 一方が加速度的に崩れることもある。
 はっきりした形で決着がつけば、負けた方は降伏するな」

勇者「犠牲は出したくない。味方にも、中央の軍にも」

冬寂王「……」

勇者「これは甘さじゃない。今後の展開上、必須だ」

680: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:00:06.76 ID:Xzdt3noP
冬寂王「……」

将官「冬寂王……」

冬寂王「天気次第、だな」

勇者「――雪かっ」

冬寂王「そうだ。こちらではもう積もっているが、
 あの平原にはまだ降雪はないだろう。
 山脈が雲から雪を搾り取るのだ。
 あの平原が雪に覆われるのはどれくらい先か
 雪が降れば戦意も下がるし、戦は停滞せざるを得ない。

 10日先に降り始めていればよし、天気が続くようならば
 会戦には問題が無くなってしまう。
 逆に本格的な降雪が始まれば、雪の降る間は
 戦を避けることが出来よう」

勇者「……」

冬寂王「おそらく、四週。
 早ければ、二週持ちこたえれば雪は降るはずだ。
 それだけの時間を凌ぐ、と云うことか」

勇者「できるか?」

冬寂王「……引き受けよう。
 わたしは、冬の戦ならば負けぬ。この名にかけて」

686: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:23:48.74 ID:Xzdt3noP
――魔王城、最下層、冥府殿、魔王の回想

魔王「ふわぁぁ」
メイド長「何をしているんです? 魔王様」

魔王「む」
メイド長「だらけていますね」

魔王「ちょっと疲れたのだ」
メイド長「やれやれ。魔王になってもあまり変わりませんね」

魔王「変わってたまるか」

メイド長「ふふふ。そうですね。
 お変わりなくて、本当に良かった」

魔王「あんなに運動をしたのは初めてだ。
 もう一生分の運動をしたから、
 あとは研究三昧で勇者が来るのを待ちたいものだな」

メイド長「変わったのは、呼び名ぐらいですね。魔王様」

魔王「それだ」
メイド長「はい?」

魔王「その、“魔王様”というのが良くない」

メイド長「そうですか? だって魔王になられたじゃありませんか」

688: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:26:28.16 ID:Xzdt3noP
魔王「背中がむずむずする。どうにかならんか」

メイド長「とはいえ、もう名前も剥奪されたわけですしね。
 旧名でお呼びするわけにも行かないでしょう?
 では、いっそ“胸ばかり太った無駄な肉、略して駄肉”
 というのはいかがですか?」

魔王「おぬしはわたしを嫌悪しているのではないかと
 思う時がある。たまに、より多い頻度で」
メイド長「困りましたね」

魔王「せめて、もうちょっとこう。明るく」
メイド長「そうですか。ふむ。まぁ、そう仰られるのなら」

魔王「出来るのか?」ぱぁっ
メイド長「我がメイド術に死角はありません」

魔王「おおっ!」

メイド長「こほん。――まおー様♪」きらきらっ

魔王「な、なんだ!? いま背後に花が見えたぞ!?」
メイド長「メイド術でございます」

魔王「それはそれで気色悪いな」

メイド長「まおー様。なんでそんなこと仰るんですか
 こんなにお慕い申し上げていますのに。まおー様ぁ♪」

魔王「ううう。何でそう甘ったるい声を出す!?」

メイド長「この術の要点ですので」すちゃ
魔王「うううっ。早まったかもしれん」

690: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:28:23.80 ID:Xzdt3noP
メイド長「それにしても」
魔王「なんだ?」

メイド長「いいんですか、こんなに『図書館』に引きこもって」
魔王「まぁな、統治するならこっちの方が都合が良い」

メイド長「判らないではないですが」

魔王「魔界にはこれだけの資料も情報素子海もないからな。
 プリンタもなければ汎用機もない。原始の世界だ」

メイド長「逆です。この空間が特殊なんですよ」
魔王「それはそうだがな。よいしょっと」

メイド長「どうされました?」

魔王「いや、多少はな。テコ入れしないと、
 統治もままならないと思ってな。計画書を作っているのだ」

メイド長「ふむ」

魔王「魔界は部族や氏族が入り乱れて戦乱状態だ。
 それは精霊五家の罪もあるから仕方がないが、
 逆に云えばそれだけ戦える豊かさがあると云うことでもあるしな。
 戦争が貨幣経済や流通網の発展を加速する側面がある以上、
 一方的に非難するわけにもいかんのだが」

メイド長「はい」

魔王「とりあえずは、これだ!」

692: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:30:27.48 ID:Xzdt3noP
メイド長「これは紙ですね。随分粗いですが」

魔王「そう。図書館製ではなく、魔界製の『紙』だ。
 森歌族に命令して作らせた」

メイド長「はぁ。これでどうなるのです?」

魔王「戦争の記録を義務づけるんだ。
 勝敗から場所、日時、敵味方の人数や被害、
 おおよその用意した物資、かかった費用、参加した武将」

メイド長「よく判りません」

魔王「目的はいくつかある。
 まずは“記録を取る”という事に馴れて貰う。
 専門職が育成されることもあるだろうが
 長い目で見れば識字率の向上にも役立とう。
 もう一つは自分たちのやっていることを理解して貰う」

メイド長「理解、ですか?」

魔王「戦を一方的に否定する気はないんだが
 本当に必要な戦と、気分や遺恨でやってる戦を
 混同するのも困る。自分たちがやっていることは
 果たして支払った代価に見合った効果が得られる行為なのか
 自覚して欲しいのだ」

メイド長「気の長い話ですね」

魔王「勇者が来るまで、そう時間はないから急ぎたいがな」

693: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:32:15.30 ID:Xzdt3noP
メイド長「勇者……ですか」

魔王「見るか? 新しい画像が手に入ったんだ」
メイド長「はぁ」

魔王「ほら、もう立てるようになったらしいぞ?
 可愛いだろう? すごいだろうっ?
 うーん、声を聞いてみたいなぁ」

メイド長「会いたくてたまらなさそうですね」

魔王「それは会いたいさ。
 ゲートが封印されてさえなければお忍びで出掛けて
 しまいたいくらいだ。
 ほら、こっちの画像は寝ているところだぞ?」

メイド長「わんこと大差ありませんね」
魔王「そうだ! そこが良いんだよっ」

メイド長「まったく呆れたものです。まさに盲目ですね」

魔王「?」

メイド長「まおー様は可愛いですね」

魔王「馬鹿を云うな。可愛くなんて無いぞ。
 勇者とわたしは、この世でたった二つのLiving Singularityだ。
 勇者と出会えば、何かが変わる。
 概念と概念が衝突し、化合し、反応して何かが始まる」

メイド長「多分それは戦闘かと思われます」

695: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:34:30.70 ID:Xzdt3noP
魔王「新しい視座が得られるんだ」
メイド長「はい……」

魔王「頭でっかちで、引きこもって、
 無駄に長生きしてしまったわたしに、何かが起きるんだ。
 その時になれば、わたし達は言葉を交わし
 ほんの一瞬でも、何かを感じられる」

メイド長「……この件だけはロマンチックですね」

魔王「ロマンなど感じていない。
 これは純粋な経済学的な市場拡大に対する欲求だ」

 チカ、チカ、チカ

メイド長「そういう物でしょうか……おや」

魔王「どうした?」
メイド長「連絡です。失礼して」

魔王「部下も増えたな、メイド長。良いことだ」

   メイド長「――。――――。――?」

魔王「早いところ啓蒙思想くらいは広めておかないとなぁ。
 思想史くらいは広めたいんだが……NDC130番台かな?
 あんまり機械文明を広めると、勇者が来た時揉めそうだしな。
 海とか云うのさえあれば、色々やりようもあるのになぁ」

   メイド長「――!? ――!!」

696: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 17:35:52.96 ID:Xzdt3noP
メイド長「魔王様っ」 くるっ!

魔王「どうした?」

メイド長「ゲートの封印が、解除されました」
魔王「は?」

メイド長「大規模な儀式法術により、封印が解除されたようです」

魔王「馬鹿な!?
 勇者は言葉もまだろくにしゃべれないんだぞっ?
 早すぎるっ。誰が封印を解除したんだ。
 こちらから中和術式を呪核に注入できるわけがっ」

メイド長「いえ、人間です。人間界からです。
 ゲート解除後、約1500名ほどが転移にて侵入。
 ――第一次聖鍵遠征軍。
 そう名乗って付近の魔族の降伏を求めています」

魔王「至急使者を。急がせろっ」
メイド長「はっ」

魔王「わたしたちも、魔王城へ戻るぞっ」
メイド長「もちろんでございますっ」

魔王「なんでだ。何で人間がこっちに来るんだ!?
 ――勇者の誕生で結界強度が下がっていたのか?
 だが、人間がこちら側に何の用があるって言うんだっ」

707: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:23:17.58 ID:Xzdt3noP
――大陸草原、雪の集合地

肥満領主「おお、寒い。なんて寒さだ!」
家令「さようですな」

肥満領主「何をしておる、もっと薪をくべんか」
小姓「はいっ」

肥満領主「夕飯はまだか? このような旅のテント暮らしでは、
 せいぜいが精のつく物でも食べんとやっていられん」

家令「はぁ、では尋ねて参りましょう。少々お待ちを」

肥満領主「ふぅぅ。寒いな」ぶるるっ

ガサ、ガサッ

近衛兵士「失礼しますっ」

肥満領主「どうした?」

近衛兵士「我が領内の全騎士、全兵士そろいましたっ。
 今回の出兵、我ら合計650でありますっ」

肥満領主「ふむ、思ったより少ないな。まぁ、よい。
 傭兵団を加えれば1000は優に超えよう」

近衛兵士「はっ!」

708: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:24:55.35 ID:Xzdt3noP
肥満領主「他の陣幕はどうなっておる?」

近衛兵士「灰青王は近衛騎士団、斧騎士団を率いて到着。
 山の国の重装騎士団、梢の国の弓騎士団もそろっておりますが
 全体としては、まだ参集は進行中であります」

肥満領主「どれくらい掛かりそうなのだ」いらいら

近衛兵士「はっ。あと二三日はかかるかと……」

肥満領主「今日が参集日時ではないかっ。
 何をしているのだっ!!
 うすのろどもが、勝利が欲しくはないのかっ」

近衛兵士「騎士および兵士の配置はいかがしましょう」

肥満領主「このテントを中心に円陣の形態に天幕をはれ。
 やれやれ、この分では戦までもうしばらく待つ必要が
 ありそうだ」

近衛兵士「申し訳ございません」

肥満領主「よい。腰抜け領主どもめの仕業だ。
 敵は? 南部の豚どもはどうしている」

近衛兵士「敵軍総数は、約2500程度。
 森林の縁に張り付くように布陣しております」

肥満領主「ふっ。世界の辺境に張り付くように
 生きていた野ねずみども、平原の中央に出るのが
 恐ろしくて仕方ないと見えるな」

709: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:27:05.78 ID:Xzdt3noP
ガサ、ガサッ

傭兵隊長「領主の大将、いるかい?」

肥満領主「おお。隊長か? 数はどうであった?」

傭兵隊長「ご注文どおり、古強者どもを400そろえたぜ」

肥満領主「それはありがたい!
 これで総数は1000を越える。圧勝は間違いのないところだな」

近衛兵士「ですなっ」

傭兵隊長「報酬の方は忘れて貰っちゃ困るぜ」

肥満領主「無論だ。金貨ははずもう。
 また、活躍次第ではたっぷりとした恩賞も
 期待してくれてかまわないぞ」

傭兵隊長「まぁ、そいつはいいとして、
 もう一つの約束の方が大事さね」

肥満領主「無論覚えておる。冬の国に入った暁には、
 最初の村とふたつめの村で二日間の略奪を許そう」

傭兵隊長「へっ。そいつが聞けりゃ十分だ。
 石弓兵も用意してある。用があれば声をかけてくれ」

710: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:28:14.38 ID:Xzdt3noP
パサッ

家令「領主様。夕飯のお支度が調いましたようで。
 よろしければ、いまからでも召し上がって頂けると」

肥満領主「よしっ」

家令「それから、なんでも付近の地主から樽酒の献上品が
 あったそうです。なかなか上質の氷酒でして、それが
 20樽もだそうです」

傭兵隊長「ははは。農民ども。よほど自分たちの農地が
 荒らされるのが恐ろしいらしい」

肥満領主「まったくだな! 地に這いつくばるものの
 せめてもの知恵か。ふふふっ。頂こうではないか。
 そう言えば、隊長は夕飯はまだなのであろう?」

傭兵隊長「おう」

肥満領主「2,3日は戦闘も始まらぬようだ。
 晩餐というわけにはいかんだろうが、一緒にどうだ。
 ふむ、そうだ。傭兵の隊の方にも酒1樽を差し入れに
 いってはいかがか?」

傭兵隊長「そいつはありがてぇな。寒さが紛れるってもんだ」

肥満領主「ははははっ。宮殿料理というわけにはいくまいが
 今宵は、我らが勝利の前祝いと行こうではないかっ。
 ふはははははっ!」

713: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:54:37.33 ID:Xzdt3noP
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部

 ガヤガヤッ
  3ポイント上昇。買い指示だっ。強気で行け
 銅の国、銅を積んだ船を発見
  押さえろ。倍値でかまわんっ!!

青年商人「……物珍しいですか」
火竜公女「はい」 きょろきょろ

青年商人「まぁ。情報は交換の約束ですからね」
火竜公女「取引は公平でなければゆけませぬ」

青年商人「いいんですか? こんな場所で。
 わたしは忙しいですが、腕の立つ護衛くらいは
 手配出来ますよ? 市中の案内くらいされては。
 魔界の情報を色々貰いましたからね、遠慮せずとも」

火竜公女「いぇ、いいのです」
青年商人「はぁ」

火竜公女「ここは商人様の仕事場なのでしょう?
 壁に掛けられたあの大きな地図は、この世界ので
 ございますね?」

青年商人「そうです」

火竜公女「では、街を見回るよりここに一日いましょう。
 お邪魔はしませぬ。声も立てませぬ。
 街と人々の暮らしに興味は尽きませぬが、
 おそらくここは世界の中心の1つ。
 ――そうでございましょう?」

714: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:55:34.78 ID:Xzdt3noP
青年商人「……」

火竜公女「わたしは異境からの旅人ですが愚か者ではございませぬ」

青年商人「そうですね。これも取引です」
火竜公女「ええ、公平です」

青年商人「だがもう決して明け方に潜り込むようなことは
 しないでくださいよ」

火竜公女「あれは何かの間違いでござりまするっ!
 わたしには我が君とお慕いする殿御がいるというのにっ。
 傷物にでもなったらどうするのです。いかが心得ますっ」

青年商人「被害者ぶっても通用しません」
火竜公女「この話は終わりと云ったはずですっ!!」

青年商人「かしましいですね、本当に」

 カチャッ

職員「委員。昨晩の動きです」 バサッ

青年商人「了解、目を通します。――梢の国の買い付けは?」

    職員「進んでいます! 小麦の相場は+165、一昨日付」

青年商人「……鈍化してきたな」

715: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:57:08.57 ID:Xzdt3noP
ガチャッ

辣腕会計「征伐軍、集合を継続中。遅れが出ているようです」
青年商人「遅れ?」

辣腕会計「士気が低く、どうも軍規に乱れがあるようで」
青年商人「驕っているのか……。冬寂王の策略か」

辣腕会計「策略だと見ますね」
青年商人「なぜ?」

辣腕会計「迂回されてはいますが、
 冬の国の商人に氷酒が随分売れたようです」

ダッダッダッダ、ガチャン!!

 職員「委員ッ!! 緊急ですっ!!」

青年商人「報告を」

職員「教会がバックにつき、
 聖王国が金貨の再鋳造を計画しているようですっ!。

 未確定ですが、現行の金貨28枚を新金貨10枚へと交換っ。
 現行金貨は法によって所持も使用も禁止するとの
 見方が強まっていますっ。
 会わせてこの新金貨、交換比率を超えた数
 鋳造されるとの情報もあります。確認急がせますが……」

719: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:58:51.32 ID:Xzdt3noP
青年商人「……ふふっ」

職員「い、委員……?」

青年商人「なかなか気の利いた手ではあるのでしょうが。
 ……勝負をかけてきたのは認めます。
 
 新金貨は、現行金貨の2.8倍の価値を持つはずですが
 その価値、守れるでしょうかね。
 
 教皇ですか。それとも王かな。
 本当に、本当の自分の国を知っているんですか?
 知ることが出来るほど愛してるんですか?
 大地から麦を得ると言うこと、岩を切り出し、
 木炭を焼き、鉄を鍛え、パンを焼き、家畜を育てる。
 それらのことを、どこまで理解しているんでしょうね。
 
 我らは卑しい商人ですが
 卑しいからこそ、そのことを忘れた日はない。
 忘れれば、その炎はすぐさま我ら自身を焼き尽くすんですから。
 
 いまこそ云えますよ。
 “損得勘定こそ我らが共通の言葉”
 ――その意味するところは
 “誰もが、少しでも幸福になりたい”ということ。
 他者の幸福を認めると云うことだと」

青年商人「その一手で、民衆が幸せになれるのならば
 わが『同盟』の負け、と云うことですがね」

720: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 18:59:58.70 ID:Xzdt3noP
辣腕会計「どうされます?」

青年商人「おそらく戦場は膠着します」
辣腕会計「はっ」

青年商人「“小麦引き渡し証書”なんてね……。
 早すぎたんですよ。こんな物に頼って溺れようだなんて。
 手元にない物を売るだなんて、自分で考えついて何ですがね。
 それは、信用を売買するのと同じ事」

辣腕会計「……」

青年商人「信用に応える力があるのか無いのか。
 連中、勘違いしてやしませんかね。
 王侯や貴族、領主に教会。そんなものに信用があるなどと。
 信用の源泉は大地。求められたものを生み出す事、
 それを相手に必ず渡すこと。取引を凍てつかせないこと。
 結局は大地からの収入が信用なのに。
 信用を奪うことは出来ても、増やすことが出来ない
 その農民を痛めつけるだけとは、商人とは云えませんね」

辣腕会計「彼らは、商人ではないんです」

青年商人「ええ。我らは商人の義を通しに行きましょう」
辣腕会計「はいっ」

青年商人「公女。冬の国へと行きます」
火竜公女「お供しましょう」

728: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 19:27:43.12 ID:Xzdt3noP
――貴族子弟からの手紙、氷雪の女王宛

 我が敬愛する氷雪の女王へ。
 
 過日国元を出ましてからずいぶんな時が流れました。
 大陸中央部はまだ秋の気配を残しておりますが
 道を行き交う馬車の量は少なく、人々の表情は冴えません。
 麦を初めとして物資の値段が高騰しているようです。
 
 こちらに来てから多くの領主や貴族、王族の方に
 ご挨拶しましたが、顔色は三色。
 戦の喜びに輝いているか、
 決断の苦渋にしかめられているか
 この冬の民を思って憂いておられるか
 そのどれかのようです。
 
 とはいえ、流石中央。
 社交界は洗練されていますし、
 流行のドレスは襟ぐりが深く悩殺されてしまいますね。
 こちらに来てからリュートなども手すさびに始めまして、
 楽しく過ごさせて頂いています。
 まったく、国のお金で遊んでいるようで気が咎めるのですが
 女王におかれましては、いかがお過ごしですか?
 
 最新のドレスを一着、長手袋を2揃い送らせて頂きます。
 すみれ色は女王にお似合いになるかと思います。
 
 追伸.出来ましたら路銀の追加をお願いします。
 
 追伸の追伸.そういえば、湖の国の女王が関税60%は
 きついって云ってました。秘密同盟とかすればよい
 ですよ、と云っておきました。他にも6領主が今年の
 飢饉を乗り切るのが辛いとのこと。氷の国に甘えれば?
 などと適当な事を喋っておきました。そういえば湖の国
 から木炭と毛皮を送ったそうです。着きました?

738: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:09:42.28 ID:Xzdt3noP
――冬の王宮、広間、対策本部

冬寂王「では、堅守を意識した布陣で」

女騎士「と、なれば騎兵戦力よりも、歩兵を。
 特に槍兵を重視したいな。多少の工兵も必要だろう」

将官「防寒具も必要でございますね」
女騎士「揃うか?」

将官「それについては極光島の時に、
 たっぷり中央に作ってもらいましたからね」

女騎士「すぐ手配してくれ」

勇者「わるいな。お守りのあとにはすぐに将軍で」

女騎士「いや、いいさ。
 あの姉妹は無事に鉄の国に向かったよ。
 いまこの状況では、戦場に近い冬の国よりも、
 鉄の国にいた方が遙かに安全だろう?」

執事「……ふむ。暇を見つけて様子を見に行きましょう」
将官「おっぱい見たいだけですか?」

執事「にょにょにょっ。失敬な!」

冬寂王「これで、出来うる限りではある」


739: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:11:04.12 ID:Xzdt3noP
女騎士「わたしに任せろ、勇者。なるだけ誰も傷つけないさ」

勇者「でも、お前の愛剣って物騒だからなぁ」

女騎士「何を言うんだ。愛剣も愛馬も凶暴なくらいが丁度良いんだ」

勇者「無茶はするなよ?」

女騎士「もちろんだ! 必要とあれば1人も
 怪我させることなくことごとく首をはねてみせるっ!」

執事「……」

冬寂王「将官。おまえも物資をとりまとめ次第、
 後詰めとして補給持って合流、姫騎士将軍どのをお助けせよ」

将官「はぁ」

女騎士「中央の征伐軍か。総数はおそらく2万に迫るだろうな」
執事「聖鍵遠征軍以外で、ここまでの規模は類例がありませぬな」

冬寂王「こちらは、4500が良いところだろう」

勇者「……」

冬寂王「そんなに顔をしかめるな。
 いずれにせよ、軍の指揮は勇者よりも将軍の方が
 向いているだろう?」

女騎士「任せておけ! 腕が鳴る」

741: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:13:33.11 ID:Xzdt3noP
タッタッタッタ! ガチャン!

伝令「伝令、伝令であります!!」
執事「何事だっ」

冬寂王「申すが良い」
伝令「南氷海より伝令っ! ま、ま、魔族です!」

勇者「っ!」  女騎士「!!」  執事「!!」

冬寂王「数はっ!?」

伝令「不明です。現在集合中。遠隔目視では最低1500!」

勇者「こんなタイミングでっ」

女騎士「魔族の侵攻……。魔王……」

勇者「こんな時にな。はぁぁぁ~。
 ああ、俺が行く……。
 あいつ、なにやってやがる。何かあったのかよっ」だんっ!

執事「勇者殿……」

冬寂王「勇者であれば……。相手が万の軍勢でも
 平気なのかもしれぬが……。
 すまぬ、これ以上の軍は割けぬのだ」

勇者「冬寂王」

冬寂王「ん?」

勇者「魔族ともやり合いたくないって云ったら呆れるか?」

742: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:14:53.04 ID:Xzdt3noP
冬寂王「……」
将官「そ、それは……」

冬寂王「どんなことをしてでも、二正面作戦は避けるべきだろう」

勇者「……」
執事「若……」

冬寂王「いまはそれしか云えないな」

勇者「そっか。ありがとう。って云うべきなんだろな」

女騎士「勇者、そ、その……。大丈夫なのか?」

勇者「余裕だぜ」

 しゅわんっ!

女騎士「……」
執事「どういう事なのでしょう?」

冬寂王「……」

ガチャンッ!

伝令「伝令っ、伝令でありますっ!!」

冬寂王「何事だ! 魔族についてはすでに第一報がきているっ」

伝令「違います。早馬よりっ!
 鉄の国に白夜王が軍2000が強襲っ! 一昨日の日付ですっ」

751: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:34:07.96 ID:Xzdt3noP
――冬の国、王宮、予算編纂室

 ダッダッダッダ! ダタン! ダッダ!

青年商人「なかなかに活気がありますね」
商人子弟「殺気立っているんです。騒がしくて済みません」
火竜公女「……」

青年商人「いえいえ、この状況ですから、お察ししますよ。
 このようにお手紙を差し上げることもなく、
 突然押しかけて申し訳ありません」

商人子弟「いえ、お待ちしていたところです」

青年商人「ほう」

商人子弟「確認させて頂きますが……」
青年商人「はい」

商人子弟「このテーブルでゲームをされていたのはあなたですね?」
青年商人「なぜそう思うのです?」

商人子弟「でなければ、いま、ここに訪れる意味がない」

青年商人「わたしは操り人形で、
 本当のプレイヤーは背後に控えているかもしれない」

商人子弟「遠隔操縦で交渉を?
 それは時間が余っている時の手法でしょう。
 こういった場合、交渉者に裁量権を与えない限り機能はしません。
 そして、もしあなたが人形だとしてもこの場の裁量権を預かって、
 ある程度自分の判断で交渉の可否を決定できるのならば、
 それは傀儡ではなくプレイヤーの1人と認識します」

752: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:35:00.73 ID:Xzdt3noP
青年商人「ふふふっ」
商人子弟「もし僕なら自分で出向きます。物見高いですから」

青年商人「よく判ります。荷物に関税をかけたのはあなたですね?」
商人子弟「そうです」
従僕「はぅー」

商人子弟「ああ。お茶を頼むよ」
従僕「はいっ!」たたたっ

青年商人「可愛らしい少年ですね」
商人子弟「見習い、のようなものです」

青年商人「では、交渉とまいりましょうか」
商人子弟「……」ごくり

青年商人「今日の交渉は多岐にわたります。
 要点をかいつまんでお話ししましょう。
 第一点。三カ国同盟領内の通行権、この勅書を頂きたい。
 現在の関税ですと、品物が出て行く時に貨物に応じた
 額となりますね。これを『同盟』に限っては
 特例を設けて頂きたい」

商人子弟「特例、とは?」

青年商人「それは三カ国通商内部で商いを行わない場合です。
 持ってきた荷物を、ただ単純に通過させたい場合。
 これならば通商圏内の経済には影響を与えないでしょう?」

商人子弟「それは……そうですね」

753: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:35:53.82 ID:Xzdt3noP
青年商人「第二に極光島の租借交渉です」
商人子弟「は?」

青年商人「極光島は地理的に云って冬の国の領内にありますね。
 これを貴族領、もしくは荘園に準じたような形態で租借したい。
 『同盟』が借り上げるのでもかまいませんが
 これについては第三者がおります。
 この交渉は代理交渉であると理解して頂いてかまいません」

商人子弟「はぁ……。どこの誰です? あんな場所を」

青年商人「第三。『同盟』内部には銀行組織があります。
 ご存じですか?」

商人子弟「知っていますよ。その銀行による
 資金の流動化と集中が『同盟』の大きな武器の1つですよね」

青年商人「その銀行組織を含む、『同盟』の商館を
 通商同盟三カ国の首都にそれぞれ構えたい。
 この許可を頂きたい」

商人子弟「それは比較的有り難く、わかりやすい話です」

青年商人「第四に、わが『同盟』は三カ国通商同盟の備蓄する
 全ての馬鈴薯を引き取る用意があります」

商人子弟「……は?」

青年商人「以上が本日の案件です。特記事項として、お察しか
 とは思いますが、現在『同盟』には金貨が殆どありません。
 これらの交渉は金貨を用いないやり方でお願いしたい」

754: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:38:16.40 ID:Xzdt3noP
商人子弟「……」

ぱたんっ!

従僕「お茶をお持ちしましたぁ!」

商人子弟「ああ、お配りしてくれ」
従僕「はいっ!」

商人子弟「……」こくっ
青年商人「これは暖まりますね。ジャムを入れるのですか」
商人子弟「ええ、雪国ですからね」

火竜公女「ありがとう、坊」
従僕「えへへへ~」

商人子弟(あんなフードをかぶってるからどんな面相かと
 思えば、ずいぶんな美人じゃないか)

従僕「あっ。お菓子も持ってきます!」 ぱたぱたっ

青年商人「落ち着く執務室ですね」
火竜公女「ええ、本当に」

商人子弟(どういう事だ……。考えろ。
 一連の交渉に、どんな意図がある?)

759: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:47:15.94 ID:Xzdt3noP
商人子弟(まず、第一に銀行つきの商会、だ。
 あんな言い方をする以上、銀行機能を解放……
 少なくとも、ギルドか国には解放すると云うことなのだろが。
 それにどんな意味がある? そりゃ、いま人が増えている
 我が国にとっては渡りに船の話だが……。
 しかし、そんなことが公になったならば、
 そりゃぁおおっぴらにではないだろうが、
 中央や教会での『同盟』の立場が悪化するんじゃないのか?)

商人子弟(いや、そうか)

商人子弟(これは、順番が重要なんだ。つまり、三番目に
 話した商会の話は、1,2を通した後のご褒美、と云った
 ところか……)

商人子弟(と、なると順番に考えないとな。
 1は通行権の勅書か。これは容易いな。
 そもそもあの関税は国内の物資流流出を防ぐためのもの。
 ただ通り抜けるなら、この商人の云うとおり、
 我が国にはほとんど影響がない。
 ……が。
 何だろう、この違和感は)

商人子弟(次は2についてか。
 相手が判らないと何とも云えない不気味さはあるが。
 付近の漁業や海運に問題を生じないのならば検討の余地はあるな。
 だが、誰が? 何のために?
 あの島で何を行うつもりだ? 塩か?
 島の租借をしてまでそんなことをする意味はどこにある?)

761: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:48:21.18 ID:Xzdt3noP
商人子弟(3は良いとして、4か。
 4についても順番としてはご褒美なんだろうが、意味が不明だ。
 そもそもこの商人は三ヶ国がどれほどの
 馬鈴薯を保有しているか把握しているのか?
 なまじっかな相手に売りさばけるような分量ではないんだぞ。
 小国とは言え国家備蓄だ。
 そもそも馬鈴薯が食料として通用する国はそこまで多くない。
 通商同盟三ヶ国、それに湖畔修道会の元本拠地だった
 湖の国やその隣国、梢の国。
 その辺までは、多少広まったはずだが、現在の異端作物指定で
 どこまで買ってもらえるものか……。
 だいたいその二ヶ国でさばける量じゃないはずだ。
 いったい誰に食べさせようと云うんだ)

商人子弟(意味……誰……何処……。
 どこ……?
 そうだ。1についても同様だ。
 我が領内を通り抜けて何処に行くと言うんだ?
 白夜の国だろうが、他の国だろうが、我が領内を
 通らなくてもいけるじゃないか。
 我が国を通り抜けることで圧倒的に輸送コストが
 安くつくような航路があるのか?
 いや、新発見されたのでもなければそんな航路は存在しない。
 氷の国か鉄の国で商売を? 意味がない。
 その関税は通商同盟の内部では効力を持たない設定だ。
 “三ヶ国から外に出る”が発生条件なのだから)

762: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:50:41.54 ID:Xzdt3noP
商人子弟(金貨がない、ということは今回の買い占めで
 金貨を吐き出したと云うことなのだろうな。
 無理もない。これだけの規模だ。
 中央の物価上昇はすさまじい状況だろう。
 国民は塗炭の苦しみだろうな。
 ……一部の領主は財政出動、社会保障や公共工事によって、
 民間に貨幣を回そうと頑張ったようだが、
 大陸全土の貨幣、通商が繋がっている状態では焼け石に水だ。
 どんなに貨幣をばらまいても、他国にも流れている限り、
 自分の領地のインフレは、薄まらない。
 大ダライの氷水を、スプーンの湯で暖めようとするものだ)

商人子弟(先生の話ではこの種の財政出動、財政政策は
 状況によっては有効と云うことだがな。今回ばかりは
 状況が酷すぎる。全領主が同時にするのでもない限りは。
 ……財政政策。
 銀行……? 金融?
 金融……政策? 金融政策が向こうなのは固定相場を採用?
 先生の言葉によれ貨幣が一種しかないこの大陸は
 完全固定相場を敷いてるわけだ。だからこそ財政出動が有効で)

商人子弟(あ、あ、あっ……)

商人子弟「あなたはっ。小麦を物資だとは見ていないっ。
 現在、疑似通貨としてみているっ」

青年商人「ええ」にこっ

763: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:52:08.75 ID:Xzdt3noP
商人子弟「そしてその小麦を、
 三ヶ国通商同盟に投資するおつもりかっ!?」

青年商人「ご名答です」

商人子弟「そ、そ、その心は……」
青年商人「心は?」

商人子弟「――二大通貨体制」 ぞくっ

青年商人「はい、そうです」にこっ
商人子弟「本気なのかっ!?」

青年商人「中央の成長能力は弱まっている。で、あれば
 新興市場で成長が期待できる地域に投資するのは
 もっともな判断かと思いますが?」

商人子弟「我が国はその中央と戦争中なんだぞ!?」

青年商人「戦場で稼ぎたければ、火の粉が飛んでくる距離が良い。
 ……我が師の言葉です。命をはるのは兵士ばかりではない」

商人子弟「それだけの成長保証が何処にあるんですかっ!?」
青年商人「1と2の中に」

商人子弟「……」
従僕「う-?」おろおろ

商人子弟「……っ!」

765: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:55:11.16 ID:Xzdt3noP
青年商人「そうです」

商人子弟「そ、そのようなことが出来ると思っているんですか?
 わたしたちは、やっとの思いであの島を取り戻したんですよっ」

青年商人「勝ったから出来るのです」

商人子弟「どうしてそんなことを思いつきます。
 なぜそのようなことを実行しようとするんですっ!?
 あ、あなたは。我が国の領海を抜けて……。
 
 魔族との通商を開始するおつもりだっ!」

青年商人「はい」

商人子弟「なぜ……。そんな……」

青年商人「わたしが商人だからです」
商人子弟「しょう……にん?」

青年商人「商人だから、魔族と取引できるのです。
 この世界は敵と味方だけですか? 白と黒だけですか?
 そうであれば……勇者は何を苦労しているのですか?
 あの方は何を夢見ているというのですか?」

商人子弟「……っ」

青年商人「誰もが異なる正義を持っているのです。
 我らは誰しもが、そうなのです。
 正義ではわかり合えない我らは、誰しもが
 “もうちょっと幸せになりたい”とささやかな願いを抱いている。
 ならばその一点で妥協し取引するのは、
 我らが役目でしょう。ちがいますか?」

766: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 21:57:46.76 ID:Xzdt3noP
パサッ

火竜公女「妾からも伏してお願い申し上げる」

商人子弟「あ、そ……その……角」

青年商人「彼女は火竜公女。
 現在魔界にて唯一、人間と魔族が共存する街、開門都市。
 その自治政府の代表者です」

火竜公女「我らには塩が必要なのだ。
 ……あの島を、貸して欲しい。
 謝罪もしよう。代価も払おう。
 我らは、あの島において敗者であった。
 どうかどうかお願いする」

商人子弟「あ、あっ」がたがたっ

火竜公女「衛兵を呼ぶまでもない。
 望むならこのまま虜囚にもなろう。
 ただ、どうかこの件だけでも検討して頂けまいか?」

従僕「それ、つの?」

火竜公女「そうじゃ。坊。妾の自慢の薔薇水晶の角だ」

従僕「あの……」どきどき
火竜公女「?」

従僕「触って、良いですか?」
火竜公女「もちろんだ」にこっ

790: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:18:34.28 ID:Xzdt3noP
――南極海、ゲート周辺

しゅわんっ!

勇者「この辺か? ――“飛行呪”っ」

勇者「っと、こいつは目立つんだよなぁ。
 特にこんな氷原だと。……あっちか?」

(戦争を終わらせるのが軍だとすれば
 終わる着地点を模索するのが王の役目だ)

勇者「わりぃな。魔王。……魔王はさ、魔の王だけど
 俺は王じゃなくて勇者だから。やっぱり着地点なんか
 探せなかったよ。何でこうなっちまうのかなぁ」

(どうだ? 私の物にならないか?
 私はあんまり我が儘は言わないぞ)


勇者「嘘つけ、お前会ってからこっち、
 ずっと我が儘ばっかりじゃないか。
 あれをする、これをする。
 あっちに行きたい、何処へ連れてけ。
 今度はあれやそれを作る。――そんなんばっかりで。
 そのくせ、おれが魔界へ行く時もちっとも反対なんかしなくて。
 我が儘言わなきゃいけないタイミングで
 1回も我が儘言わなかったじゃないか」

791: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:19:46.03 ID:Xzdt3noP
(『丘の向こう側』に一緒に行ってくれればそれだけで満足だ)

勇者「そんなのな」

勇者「そんなの俺だって絶対見てみてぇよ」

勇者「魔王と、俺と、女騎士と、爺と、王様と、
 メイド姉妹にメイド長に女魔法使いに開門都市のみんな、
 南部の国のみんな、冬越し村のみんなに、
 実を言えば中央の連中にだって見せてやりたいよ。
 魔族にだって見せたいよっ」

勇者「……だって」

勇者「だって、おれ。
 壊したり殺したりするばっかりで
 何にも作ってないじゃんね」

 ヒュバァァァァァ!!

勇者「他人に見せられるような作品なんて
 一個も作ってないじゃんね」

勇者「だからさ」

 ヒュバァァァァァ!!

勇者「だからもう、やめろよっ。
 俺には微塵も云えた義理はないけどっ。
 壊したり殺したり、それで何かが達成出来り
 偉いと思ったりするのさっ!!」

792: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:20:49.56 ID:Xzdt3noP
 ヒュバァァァァァ!!

勇者「あれかっ。蒼い肌……。蒼魔族の大型種。
 長距離侵攻用の装備か、糧食もあるな。撤退させるとすれば
 アレを狙うか……」

「おうけい」

勇者「……?」

「……数に入ってた」

勇者「は?」

「……数にはいってたのは、すこし偉い」

勇者「え ……あ?」

女魔法使い「……」こくり

勇者「おまえ、何処にいたんだよっ!?」

女魔法使い「……出待ち」
勇者「はぁ?」

女魔法使い「……うそ。図書館」

勇者「『外なる図書館』かっ? 
 どうやってもたどり着けなかったあの場所か!?」

女魔法使い こくり

793: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:21:43.93 ID:Xzdt3noP
勇者「それにしたって……」
女魔法使い「……あそこは一族しか入れない」

勇者「……?」

女魔法使い「あれ」ぴしっ
勇者「ん? ……ああ、魔族だ」

女魔法使い「まだ、ころしたい?」
勇者「……いや。さっぱり。ただ、止めたいだけだ」

女魔法使い「……判った」
勇者「は?」

女魔法使い「目をつむって」
勇者「……? 判った」

女魔法使い ぴとっ

勇者「ぅわ、ひゃっこいっ!!」
女魔法使い「……連絡回路を形成した」

勇者「通信魔法か?」
女魔法使い こくり

勇者「相変わらず、なんか昼寝してそうな雰囲気だな」

女魔法使い「きのせい」

799: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:22:35.94 ID:Xzdt3noP
女魔法使い「行って」

勇者「?」
女魔法使い「……魔王が、待ってる」

勇者「魔王を知っているのか?」

女魔法使い「……待ってる。あなたのかわりは、わたしがする。
 わたしがあいつらを始末したら……最大呪文で、ゲートを
 壊して」

勇者「そんなことしたら、魔界へ行けなくなっちまうだろっ」

女魔法使い「……」

勇者「……壊せば、いいのか?」

女魔法使い こくり

勇者「どれくらい?」
女魔法使い「最強」

勇者「どんだけえぐれるか保証できないぞ!?」

女魔法使い「必要」

勇者「なにが?」

女魔法使い「勇者が、必要」

813: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:40:47.36 ID:Xzdt3noP
――南極海、ゲート直情

女魔法使い「魔族総数2670。距離測定開始」

女魔法使い「照準固定、圧縮術式解凍中」

女魔法使い「解凍15%……37%……59%……81%」

女魔法使い「指定範囲カレントエリア、コンフリクト解除」

女魔法使い「勇者の……」くわっ!!

 ぎりぎりぎりぎりぎりっ

女魔法使い「勇者を助けるためにっ、
 こっちは連続圧縮で時間伸張してまで術式ため込んでるんだっ。
 
 あぁん!? わかるか、お前らっ!
 こっちの年期と覚悟がっ!!
 
 勇者に何かがあれば必ず駆けつけっ、
 その願いを叶える。
 その魔法使いがっ。魔法を使うあたしがっ!
 あの日。
 あの夕暮れの中でっ!
 何も出来なかったあたしのプライドがっ!
 
 どんだけ軋んだかっ!
 いくつの夜を歯ぎしりと共に過ごしたかっ
 
 お前らみたいなぁっ!! 三下のドさんぴんっ!!
 あ い て にぃぃぃぃ!!
 出来るかよぉぉぉぉっ!!!!」

816: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:41:48.80 ID:Xzdt3noP
勇者「あいつ……また過激になってやがる……」

女魔法使い「消し飛べっ! このち○かすがぁっ!!」

 ヒュバッ!   ヒュバッ!   ヒュバッ!
     ヒュバッ!   ヒュバッ!   ヒュバッ!
 ヒュバッ!   ヒュバッ!   ヒュバッ!

勇者「転移っ!?
 まさか、こんだけの数を個別転移してるのか!?」

「……除去完了」

勇者「わ、わかった。行く。広域雷撃っ!!」

 ごろごろごろごろ! ズガーン!

「たりない」

勇者「っ!? くっそぉ、魔翌力結晶! 超高域雷撃、撃滅呪文!!」

「もっと」

勇者「その声、テンション下がるんよっ。
 いや、さっきのはいいです……。。うううぅ!
 雷撃! 雷撃! 雷撃! 極大雷撃殲滅ッッ!!」

勇者「ど、どうだっ」

「……広域破砕を確認」

817: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/12(土) 22:42:56.79 ID:Xzdt3noP
「飛行呪で土煙内部に特攻」

勇者「おうっ!」

 ヒュバァァァァァ!!

「あと25秒」

勇者「……我ながらやり過ぎたか?
 とんでもないクレーター出来ちまったんじゃないか?」

「臨海面接触」

勇者「え?」

「加速して突破」

勇者「おっ、おうっ!」

 ヒュバァァァァァ!! パァァァァア!

勇者「明るいっ、な、なんだ。この風っ。何処に抜けたっ!?」

「ちかせかい」

勇者「え?」

「斥力光球に照らされた地下世界。
 ……“魔界という別世界”は、存在しない」

916: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:23:05.27 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、峠道

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

片目司令官「駆れ! 駆れっ!」
将校「ハイヤッ! ドウドウッ!」

片目司令官「フハハハハっ。見せてやる、地獄を見せてやるぞ」
将校「はっ! 士気も上々でありますっ」

片目司令官「ふんっ。酒と女。略奪の褒美だ」
将校「ふはは。そうでありますな」

片目司令官「数と隊列は」

将校「は。軽騎兵1500! 歩兵500! 傭騎兵400、傭兵600。
 徒歩の歩兵500は後方距離、1日。
 傭騎兵400はあと一時間で合流っ。そのほか傭兵600のほうは
 別ルートから森を抜けて進軍中」

片目司令官「用意しておいた軍使はどうなった?」

将校「はっ。捕虜の鉄の国兵士をつかいます。
 明朝の夜明けとともに宮殿へ到着。
 我らの宣戦布告を通達するでありましょうっ」

片目司令官「よっし、全軍停止!!」

  軽騎兵「停止! 停止っ!!」

  軽騎兵「止まれぇ」

将校「静聴っ! ただいまより司令官の指示があるっ!」

918: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:24:58.50 ID:6HXLExsP
片目司令官「聞けっ! 白夜の騎兵達よ!
 われらは明朝、夜明けより1時間の後、鉄の国を強襲するッ!!
 鉄の国は三ヶ国通商同盟なる愚劣な世迷いごとをほざく
 背教者の一党である。
 きゃつらは愚かにも光の精霊に背を向けた破門の輩となった。
 これは聖なる戦であり、奴らの頭上には精霊の
 怒りが降り注ぐだろうっ」

  「――背教者に鉄槌をっ!」

片目司令官「我が軍は、この後しばらく並足にて移動、
 森林近くで休憩、仮眠を取る。交代で休むが良い。
 騎馬の世話を行え。明日は存分に働いて貰うぞ。
 武器の手入れも怠るな。
 血を吸う飢えた刃を愛でて眠るのだっ!
 白夜の子らよ、貴様らに精霊の祝福あれっ」

  「――おぉぉおっ!!」

将校「ふふふっ。奴らも仰天しましょう」

片目司令官「鉄の国のような弱敵、相手にもならぬ。
 ぐぅっ!! ~っつぅ!!」 ぎゅっ

将校「ど、どうなさいましたっ!」

片目司令官「く、暗闇がっ! 燃えるっ。この瞳が燃えるっ。
 囓るなっ、わ、わ、我を囓るなっ! 去れっ、悪魔の使いめっ!
 我が瞳を、我が光を。グギャハハハっ。ああ、そうだ。
 見返してやるぞ、冬寂王とやらっ。
 忘れはしないぞ、裏切り者の砦将めっ。
 我があの苛烈なる魔界の彷徨を決死の思いで抜け出た先に
 魔族の伏兵を配した冬寂王っ。そのうえ、何の落ち度もないかの
 ように振る舞いおって。地獄の業火すら生ぬるいっ。
 鉄の国は始まりに過ぎん。
 我を侮辱した者どもに最高の恥辱を味あわせてくれるっ」

919: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:26:50.37 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地

斥候「きっ! 来ました! 鏡光信号確認っ」

鉄国少尉「本当に来ましたね……」

軍人子弟「かえってすっきりしたでござろう。
 長い間出番の待機するのは嘘偽りなく疲れるでござるよ」

斥候「詳しい情報は山中より鳩がくると思いますが……」

軍人子弟「なに。おおよそは判るでござる。
 軽騎兵中心の高速機動戦力2000。
 白夜の国の常備軍と傭兵の混合部隊。
 出発は斥候の目視で確認済みでござるしね」

斥候「はっ」

鉄国少尉「2000ですか」

軍人子弟「もうちょっと多いかと思ってござったが。
 まぁ、このタイミングでこの数と云うことは国内治安にも
 不安が生じているのでござろう。
 王宮内権力掌握のためか、農奴の反乱に備えるためか、
 白夜王が手元にも多少の兵を起きたがった証拠と云えるで
 ござろうな」

鉄国少尉「しかし、こちらは冬の国へも兵力を送った関係で
 訓練を受けた兵士400、開拓民をざっと訓練した即席兵が
 これも500とすこし……勝負になりません」

920: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:28:56.29 ID:6HXLExsP
軍人子弟「笑うでござるよ」 にかっ

鉄国少尉「……そんな無茶な」

軍人子弟「おのおのがたっ!!!」

  ざわざわ

軍人子弟「ただいま斥候により連絡があった!
 鉄の国の騎兵約2000がここに向かっている!!
 これは非常によい知らせでござるっ!
 なぜなら鉄の国がこのような戦に
 騎兵2000しか送ってよこさぬと云うことは、
 鉄の国はもはや最低限の兵力しか
 残っていないと云うことを示すからでござる!
 
 おのおのがた!
 さらに云えば、ここはおのおの方の国でござるっ!
 おのおの方のかけがえのない大地でござるっ!
 つまり、この一戦に勝利すれば、おのおのがたの故郷たる
 土地も、家も、畑も、家族も守ることが出来るのでござるっ!
 確かに敵の数は多い。
 しかし、勝機は十分以上にあるでござるっ!
 
 おのおの方の中には、白夜の国から逃げてきたものもいれば
 白夜の国に同胞とも友も呼べる身内を持つ者もいるでござろうっ。
 この一戦は、彼らのために行うものでもあるっ!
 
 馬鈴薯を食って、笑うでござる!
 
 姫将軍、白き剣士……。我が師は云ってござった。
 “苦しい戦いで笑えれば勝利は自ずと手の中にある”と。
 敵の数は倍なれど、それ見据えて笑うでござる! 覚悟を決めよ!
 たった一つ断言するっ。勝つのは我らでござるっ!」

930: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:38:59.48 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、峠の裾

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

片目司令官「もはや国境も越えたっ、
 今日の大地はたっぷり血の供物を受け取るだろう。あはははっ」

軽騎兵「司令っ! 前方、敵兵を発見っ!!」

将校「なんだって!? そんなっ。まだ殆ど夜明けだぞっ。
 宣戦布告は届いていないか、届いたとしてもその直後のはずだっ」

軽騎兵「数は不明、街道で動揺している模様っ!」

片目司令官「狼狽えるなぁっ!!!」 ビリビリっ

将校「はっ!」

片目司令官「おそらく国境警備兵でしかないっ。
 多少数はそろえているかもしれんが、多くて数百っ。
 練度も一線とは比較にならぬっ。
 鉄の国が中央との会戦に備えて兵力を供出している事実は
 内通者を通じて入手しているっ」

将校「はっ!」

片目司令官「全軍全速前進っ! 前方の人影は敵兵だっ!
 村ではないぞ、略奪には及ばぬっ!
 残敵掃討は遅れてくる歩兵に任せておけっ。
 一気に襲いかかり、蹴散らせっ!!」

将校「全速前進っ!」

  軽騎兵「「「白夜の勇猛をっ!」」」

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

931: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:40:22.92 ID:6HXLExsP
軽騎兵「見えた、あいつらかっ!」

軽騎兵「はっ。なんだあれは!? 冗談なのか?
 自分たちが掘った落とし穴に自分たちで勝手に落ちているのかっ!
 鉄の国の兵士は馬鹿なのかっ」

軽騎兵「一気に行くぞっ!」
軽騎兵「「「おうっ!」」」

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

軽騎兵「っ!?」 ドシャァ!

軽騎兵「落馬っ、間抜けが。あはははっ。
 一番乗りはこの俺――ギャッ!!??」

軽騎兵「な、なんだっ!? 落馬、なぜっ!?
 馬が暴れるっ。何をされているっ!?」

軽騎兵「どけぇっ! 馬にぶつかるっ。何をしているんだっ」

軽騎兵「これはっ、網だっ。……魚取り用の網が何で地面にっ」

軽騎兵「切れっ! 網くらいっ! 下馬して切るんだっ」

 ジャッ

軽騎兵「くっ、この糞網めっ! 小細工をグフッ!」

 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!

軽騎兵「弓だっ。石弓っ!? どこからっ!?」

932: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:41:50.68 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地

軍人子弟「さて、講義の時間でござる」

鉄国少尉「こんな時にっ。敵は目の前ですよっ」

軍人子弟「我が師は教育を説いてござった。
 何時いかなる時でも後続を育てなければ、と。
 これは伝統でござるよ」

鉄国少尉「は、はぁっ」

軍人子弟「騎馬の持つ意味とは大きく三つあるでござる。
 まずは高速移動。
 これは戦場と戦場の間を早く移動すると云うことでござるね。
 遠征などには重要な要素でござるが
 今回のような場合にはあまり関係ござらん。
 
 第二はその機動力でござる。
 第一と混同されがちでござるが、これは戦場において、
 敵の弱点に敵が反応仕切れないうちに攻撃を行う能力でござる。
 本質的に移動力と機動力は別の意味合いをもつでござるね。
 機動力は敵の部隊に隙が存在し、それを見抜くことが出来る
 司令官の下では強力な武器になるでござる。
 この機動力に対抗するには情報遮断と、
 こちらの軍の有機的連携が重要でござる」

鉄国少尉「は、はぁ……」

斥候「敵兵接近! 土埃が見えます! あと1分前後で
 到着すると思われますっ!!」

933: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:42:58.90 ID:6HXLExsP
軍人子弟「第三のポイント。
 今回のような戦闘で、もっとも恐ろしいのは突破力でござる。
 そもそも騎兵の攻撃翌力は高くないはずでござる。
 なぜなら攻撃翌力の高い両手用の武器が使えないのでござるからね。
 にもかかわらず騎兵がこれほどの戦闘能力を発揮できるのは、
 まず、馬そのもの戦闘能力があり、
 また馬に乗るという技術を習得できる階級が裕福であり
 戦闘訓練を十分に得られるという事実。
 そして高所からの攻撃による振り下ろし破壊力によるところが
 大きいのでござる。
 
 これらに馬の突進力が加わり、
 騎兵は瞠目に値する高い突破力を有するのでござるよ」

鉄国少尉「その突破力がこちらに向かっているんですよっ!」

軍人子弟「慌ててはいけないでござる」

斥候「接触30秒前っ!!」

軍人子弟「おのおの方っ!! 石弓の準備をっ!!」

鉄国兵士 ガチャ、ジャキッ!

軍人子弟「第一射撃の優先目標!
 立ち止まった兵馬。および下馬した兵士!
 敵は速度重視の軽騎兵でござる。
 石弓を防ぐ板金鎧の装備はないっ!
 無理せずマトの大きい胴体を狙えっ!」

斥候「接触! あ! 混乱してますっ! 馬が転んだり
 ああ、突っ込んできた! ち、近いですっ!」

軍人子弟「まだまだぁっ! 引きつけよ……っ。斉射ッ!!」

934: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:43:54.12 ID:6HXLExsP
 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!

鉄国少尉「命中多数! 倒れていますっ!!」

軍人子弟「喜ぶなっ!! 役目をこなすでござるっ!
 即席兵っ! 射出済み石弓を受け取れっ!
 装弾済み石弓を即座に交換っ! 鉄国兵士は照準っ!!

 そこっ! 頭を上げるなっ! 体勢を低くっ!
 塹壕を信頼して、集中して作業を続けるでござるっ」

  うわぁっ!
    これはっ、網だっ。……魚取り用の網が……
  切れっ! 網くらいっ! 下馬して切るんだっ

軍人子弟「第一射撃の優先目標!
 馬を狙って混乱誘発! 引き寄せよっ。誘い込むでござるっ!」

鉄国兵士 ガチャ、ジャキッ!

軍人子弟「斉射ッ!!」

 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!

鉄国兵士「やった! 落ちてるぞっ!」
即席兵士「装填完了っ。次をどうぞっ!」ごしごし、にかっ!

鉄国兵士「おお、どんどんいこうっ!」にやりっ

935: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 14:44:47.48 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地

片目司令官「何が起きているっ!? 何故止まるのだっ!」

将校「敵兵の抵抗かと……」

片目司令官「速度を行かして突破せぬかっ! 前進せよっ!」

将校「全軍前進っ! 敵は少数だっ! 押しつぶせっ!」

片目司令官「何をしているのだっ!」

  わぁぁぁぁ!!!
    わあああぁぁぁああ!!

軽騎兵「し、司令っ! 前方には足止めの網がっ!」
片目司令官「網!?」

軽騎兵「はっ! 鉄線で強化された魚取りの網が街路に
 配置され、それが馬に絡みついて足止めをっ!
 そこに石弓が飛来していますっ!」

片目司令官「敵数はっ?」
軽騎兵「未確認っ」

片目司令官「なぜ判らぬっ。撃たれているのだろうっ」

軽騎兵「敵はどうやら、地面に穴か溝のようなものを
 掘って落ちているらしく、視認が困難ですっ」

片目司令官「っ!! 機動力を生かせ。
 前線を押し上げると共に後列兵力を左右に回すのだっ!!」

943: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 15:00:25.98 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地

 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!

軍人子弟「いま隠れているのは塹壕と呼ぶでござる」

鉄国少尉「はっ、はいっ」

軍人子弟「また、こういった人工の地形全般を
 野戦陣地などというでござるね。
 もっとも先生から聞いたことで、他で聞いたことはござらんから
 先生の思いついたことかもしれないでござるが」

斥候「落馬多数! 前線は混乱していますっ!」

軍人子弟「敵の突破力を殺すための手法の一つとして
 覚えると良いでござるよ。
 ――連続射撃っ!!

 装填係の即席兵はあらかじめの割り振りどおり、
 防御と装填に班を分けよっ!
 防御班は陣地に侵入した敵兵の排除、および落下してきた
 馬などを邪魔にならぬように移動っ!
 
 射撃兵と装填は右翼に攻撃を集中っ!
 自由目標射撃でござるっ!
 焦らず照準をすることっ。
 おのおの方の隣では兵士ではないにも関わらず
 勇気を持って参加してくれた仲間が石弓に鉄矢を
 装填してくれているでござるっ!
 
 じっくり照準をしても、
 普段よりずっと早く射撃できるでござるよっ」

944: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 15:01:49.05 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地

片目司令官「ええい、まだ突破できんのかっ!」

将校「はっ」

片目司令官「殺せっ! 殺すのだっ!!
 前線を突破した兵士には金貨百枚の褒賞を与えるぞっ!
 鉄の国の軟弱兵など、木っ端微塵に打ち砕いてしまえっ!」

軽騎兵「膠着打破っ!」

片目司令官「動いたかっ?」

軽騎兵「側面攻撃が効果をあらわしつつありますっ。
 左翼の防御は固いようですが、右翼は手薄の模様っ。
 まばらな林を抜ければ、敵の陣地の後背さえつけますっ!」

片目司令官「よっし! 全軍投入っ!
 正面の落とし穴に圧力を加えつつ右翼重心で前進っ!!」

  軽騎兵「「「白夜の勇猛をっ!」」」

 ダカダッ! ダカダッ! ダカダッ!

将校「……いや」
軽騎兵「どうされました、副官殿?」

将校「こ、これはっ」
片目司令官「何だと云うんだっ」

将校「右翼の前進が早いのでは……と。
 こ、これは……吸い込まれるようなっ」

946: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 15:05:38.28 ID:6HXLExsP
――鉄の国、国境付近の街道、山裾の平地

鉄国少尉「敵が左翼へ流れ始めましたっ」

軍人子弟「そもそも、この陣地は斜線陣地でござるからね。
 前進を繰り返せば、主力軽騎兵ほど左翼へ流れるでござる。
 しかし、一度混乱した前線を抜けた騎兵に突破力はない。
 突破力はないが、後ろから押されるように狭い密集地帯に
 圧縮誘導される。そういう陣地でござるよ」

鉄国少尉 ごくり

軍人子弟「さぁ、仕上げでござる。少尉も拙者も出番でござるよ」

鉄国少尉「はっ!」

 ザッザッザッ

鉄国少尉「行くぞっ! 防御抽出部隊っ!!
 長槍装備で、左翼に集中した軽騎兵を叩くっ!
 恐れるなっ! 敵の数はもはや我らと変わらぬっ!」

軍人子弟(同数だなどと……。乗せるのが上手いでござるね)

鉄国少尉「農民兵の諸君!! 頭を低くして槍を突き出せっ!
 馬を恐れるな! 相手の剣は馬を下りない限り、
 塹壕の中の諸君には届きはしないのだっ!」にやり

鉄国少尉「行くぞっ! 大地のためにっ!」

鉄国兵士・即席兵士「「「大地のためにっ!!」」」

947: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 15:07:08.33 ID:6HXLExsP
ザシュ! ザシュン!!
 ズビシャッ! ガシュッ!!!

斥候「左翼の長槍部隊、敵と接触。敵前線膠着、崩壊の兆し」

軍人子弟「右翼もどうやら敵が退いた様子。
 おのおの方っ! 今一度石弓の確認をっ!
 ――総攻撃の時は来たっ!!」

鉄国兵士 ガチャ、ジャキッ!

軍人子弟「敵はこの陣地の攻略を半ば以上断念し、
 左翼に向かって流れているでござるっ!
 この好機を生かすっ。照準! 馬の横腹、
 および司令官が目視できれば司令官とおぼしき騎士!

 連中は無防備に部隊の横っ腹をこちらに向けているっ!
 転進中の後列から順次撃って、部隊を混乱に陥れよ!
 左翼長槍部隊を助けるために、一兵でも多く倒すのだっ!
 
 行くでござるっ! 一斉射撃ッ!!!」

 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!

軽騎兵「なっ!?」

 ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!
    ヒュダダン! ヒュダダンッ!!!

軽騎兵「うわぁぁぁーっ!!」

973: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 17:30:49.98 ID:6HXLExsP
――魔王城、最下層、冥府殿

メイド長「なぜ出てこないんですか……。まおー様」

オオオオン!
 オオオオオン!

魔王「もう、一月ですよ? ――もう十分です。
 これ以上の吸収は魂の構成因子さえ汚染されます。
 何をやっているんですか」

 オオオオ……オン!!!
 オ……オオン
 オン……

メイド長「鳴動が……」

きぃ

メイド長「止まりました……」

きぃ

メイド長「……」

ギギィィィィィ

974: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 17:32:14.96 ID:6HXLExsP
メイド長「まおーさま……?」

魔王「良い気分だ」

メイド長「まおーさま?」
魔王「どうしたんだー? メイド長-。きょとんとした顔をして」

メイド長「まおー、様?」
魔王「おなかも減った、疲れた。まったく酷い目にあった」

メイド長「……」

魔王「ふふん。もう大丈夫だ。戻ろう」

メイド長「どこへ?」

魔王「――戦場へ」 にたぁり

メイド長「うわぁぁぁっ!!」 ザシュッ!

魔王「くぅっ! 主人に手を挙げるとは、
 しつけがなっていないぞ雌犬めっ」

メイド長「わたしのまおー様は! まおー様はっ!
 魔王なんかじゃ、ないっ!!」 ヒュバッ!

 キンッ! キンッ! ギキンッ!

魔王「どこから出した、その長剣……」

メイド長「わたしのまおー様は、そんな下卑た、物欲しげで
 下品に笑ったりはしませんっ!」

976: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 17:33:51.10 ID:6HXLExsP
魔王「それは残念、可哀想に。これからはこの表情で笑うのだ」

メイド長「せりゃぁぁっ!!」 ザッ! シュバっ! ヒュインッ!

魔王「上級魔族並みか。
“技”とはすごいな、獣鬼にまさる我が筋力さえも凌ぐのか」

メイド長「まおー様っ! まおー様っ!!」

魔王「ええいっ! 間抜けな呼び方で我が名前を連呼するなっ!」

メイド長「あなたなどの名を呼ぶつもりはないっ。
 わたしのまおー様は、マイマスターはただ1人っ」

魔王「こざかしいっ!」 ドシュっ!

メイド長「まおー様はっ。賢くて、聡明で、理知的で、
 合理的で、冷静で、シニカルで、嫌って云うほど現実的なのに
 はにかんだ笑顔は可愛らしいマイマスターっ。
 だらしなくて着替えも洗濯もいやがって、
 掃除も料理もろくに出来ない、わたしの選んだわたしの運命っ!」


魔王「これほどのっ……たかが魔族がっ」
メイド長「わたしはメイドですっ!!」 ギュバン!!

魔王「~っ!」

メイド長「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
魔王「はっ。手駒になると手加減すれば……」

978: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 17:34:36.24 ID:6HXLExsP
メイド長「っ!」ぞくっ

魔王「ふふん。……執事やしもべなどいくらでも作れる。
 貴様の血液で喉を潤し、城へ戻るとしよう」

メイド長「……」じりっじりっ

魔王「死ぬが良いっ!!」

 ガキィィッ!

メイド長「~っ!! ま、お……」

魔王「ふっ。何処を狙っているのだ。相打ち狙いか?
 ……はははは、残念だな。我は無傷で、貴様の腕は。
 ほれ。ここだ」

 どしゃ

メイド長「はぁっ、はぁ……。まおー様?」

魔王「?」

メイド長「……ねぇ、まおー様?
 もう一回だけ、がんばりましょうよ……。
 ね? だって、あんなに黒くて、もふもふで、
 温かそうだったじゃありませんか?」

魔王「なにを笑わせる」

メイド長「きゃー」
魔王「きゃぁ?」

979: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/13(日) 17:35:53.29 ID:6HXLExsP
メイド長「そこでっ! あなたをっ! 投げるッ!!」

魔王「くっ、なんでっ。捉え……きれないっ!?」

メイド長「せぇい、やぁっ!!」 シュダン!!
魔王「突き飛ばしたくらいで何をっ」

 ガチン! ゴゴゴゴ!!

メイド長「はぁっ、はぁ……。もう一度出てきたら
 わたしは、死んじゃうのでしょうね……」

ギギギギギギギッ

魔王「ここはっ、玄室!? きさまっ!!」

ギギギギッ

メイド長「まおーさま。それでも、わたし待ってますから」

ギギッ

魔王「時間稼ぎかっ! ばかなっ!
 判らんのか、この身体は我の物だっ! 我が魔王なのだっ!!」

ドォォーン!!

メイド長「はぁっ、はぁ……。痴れ者め……。うくっ。
 まおー様は。……まおー様は。
 あなたなんかより
 ――何十倍も強いのです」

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