105: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:01:11.20 ID:o0eNIb.P
――湖の国、首都、『同盟』作戦本部

同盟職員「早馬の知らせですっ!
 南部で、南部の諸国と中央の聖鍵遠征軍のあいだに
 軍事衝突が発生したと!」

同盟職員娘「っ!」

留守部長「……出遅れたな」
同盟職員「はい」

同盟職員娘「間に合わなかったんですね……」

留守部長「鉄を抑える速度が遅かった。
 静粛性を優先した結果でもあるし、
 おそらく以前から備蓄をしていたんだろう……。
 そうでなければ鉄の値段が揺れても、
 反応が無いのがおかしすぎる」

同盟職員「これでは武器製造への圧力として機能していません」

同盟職員娘「このままでは、資金的な傷口が広がります。
 撤退時期を探るべきでは?」

留守部長「……」

同盟職員「すみません。もうちょっと実態把握さえ早ければ」

留守部長「いや。これは開始時期の見切りの問題だった。
 やはり商圏の拡大と共に目が行き届いていない部分が
 広がりつつあるんだな」

がちゃり

青年商人「……いあいや。まだこれから、といきましょう」

107: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:02:47.48 ID:o0eNIb.P
同盟職員「委員っ!」
留守部長「いつお戻りに?」

青年商人「たった今です。開門都市は任せてきました」
女魔法使い「……」ぽやー

同盟職員「えっと、その方は?」

青年商人「ああ。ここまで運んでくれたんです。
 とびきりの食事と甘い物を用意してください」

女魔法使い「……」こくこく

青年商人「さて。……状況報告を」

同盟職員「たった今はいった情報ですが、
 南部諸国と中央の遠征軍のあいだに
 軍事衝突が発生した模様です。
 ……中央の新型武器が使用されたとのこと」

青年商人「それがマスケットですか?」
女魔法使い「……そう」

青年商人「より詳しい状況をお願いしていいですかね?」

女魔法使い「……当初、南部諸王国は
 白夜国を制圧した蒼魔族との戦闘を想定していた。
 女騎士は司令官として鉄の国と白夜国の国境付近、
 蔓穂ヶ原に約1万数千人をもって布陣。
 蒼魔族約2万を迎撃、丸一日にわたる戦闘を耐えきる。
 しかし、ここに後背から約4万の聖鍵遠征軍が強襲」

108: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:04:57.52 ID:o0eNIb.P
女魔法使い「……聖鍵遠征軍は蒼魔族を中心としながらも、
 ほぼ無差別に南部諸王国をも攻撃。
 その攻撃の中心となったのが、聖鍵遠征軍の新兵装。
 マスケット銃と、その部隊。
 
 女騎士率いる南部諸王国軍は、当初蒼魔族に使用する
 予定だった火炎の罠を持って蔓穂ヶ原を退却。
 聖鍵遠征軍も約5時間の激突を充分と見たのか、
 兵を引き上げ、蒼魔族から奪還した白夜王国を
 本拠と定め、総統の後、駐留。
 ……現在は軍事的な緊張はあるものの、
 一時的な平穏状態にある。
 
 なお、この戦闘において、蒼魔族約2万はほぼ完全に壊滅。
 南部諸王国軍は兵3500あまりを、
 聖鍵遠征軍は6000名程度を失う。
 
 ただし、これらを損耗率の観点から見ると、
 南部諸王国軍は参加した兵の30%、全軍の12%。
 聖鍵遠征軍においては会戦参加兵員の15%、
 3%程度に過ぎないと推測される」

青年商人「では聖鍵遠征軍の現在規模は……」

女魔法使い「訓練度を度外視するならば20数万に達する」

青年商人「南部諸王国は、滅亡寸前ですか……」

109: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:07:18.28 ID:o0eNIb.P
女魔法使い「そうとも言い切れない。理由は二つある。
 まず、ひとつ目は聖鍵遠征軍は南部諸王国攻略よりも
 魔界侵攻を優先事項として決定したようだから」

青年商人「ふむ。……たしかに教会が大きな発言権を持つ
 聖鍵遠征軍ですから、その決定は理解できなくもないですが
 南部諸王国軍を放置するというのも解せませんね」

女魔法使い「……これは推測だが、おそらく聖鍵遠征軍は
 その強大な軍事力の1/3程度でも動員すれば南部の王国を
 殲滅できる。つまり、挟撃などといった策略を恐れないで
 済むという事情によるものと思われる」

同盟職員「20万の軍勢があればそれも可能なのか……」

青年商人「もう一点は?」

女魔法使い「開戦直後、南部三ヶ国通商同盟はその名称を破棄。
 あらたに湖の国、梢の国、葦風の国、赤馬の国および
 自由通商の独立都市七つを加え
 『南部連合』の樹立を宣言した」

留守部長「とうとう、ですね」

青年商人「ここ以外にはないというタイミングです。
 そう言うことでしたか。
 20万の兵力動員は、確かに素晴らしい攻撃力を
 教会勢力にもたらしましたが、その分、貴族や領主、
 多くの国の地元は防御力の殆どを失っているはずだ。
 
 もちろん、それらの国々全ては、聖光教会の指導下にあり
 一斉に攻撃能力も防御能力も失う。そう言う前提で軍が
 国元を離れたわけですが、『南部連合』の樹立は
 その前提条件を大きく揺るがした」

110: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:08:58.04 ID:o0eNIb.P
同盟職員娘「いま、聖鍵遠征軍が南部連合を攻撃した場合、
 より自分たちの内側に近い国――たとえば、湖の国や
 梢の国が、防衛軍不在の中央国家群を蹂躙するかも知れない。
 農民を中心に編成された聖鍵遠征軍であっても、
 支援物資や指揮系統は、やはり貴族の力が欠かせない。
 政治的な均衡状態が訪れているのですね」

留守部長「どちら側も、相手を人質に取った形か……」

同盟職員「そうですね。聖鍵遠征軍は、
 その強大な武力で南部連合の中枢部を人質に取っている。
 南部連合は、その新しく広がった友邦で、無防備となった
 中央諸国を人質に取っている」

青年商人「それだけじゃありませんけどね。
 ……これは相当に複雑になってきました」くすっ

同盟職員娘「?」

青年商人「何から何まで相似形になってきましたね。
 民衆に自由という武器を与えたゆえ、
 民衆の支持を失うような政策をとれない南部連合。
 民衆にマスケットという武器を与えたゆえに
 民衆の怒りが自分に向いたら破滅する中央国家群……。
 
 どちらも難しい舵取りになってきたようです。
 我が『同盟』、『魔族会議』、『魔界』……」

同盟職員「勝てますか?」

青年商人「保養は出来ませんけれどね。
 ですが、ただの力勝負では知恵を働かせる隙がない。
 ある程度状況が複雑でないと、商人は勝機を見いだせません。
 その意味ではまだチャンスは去っていない。
 プレイヤーが多数参加した乱戦こそが商人の
 活躍できる戦場です」

111: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:14:21.64 ID:o0eNIb.P
同盟職員「しかし、現に軍事衝突は……」

青年商人「ええ、起きてしまっています。
 だが、まだ手遅れと決まったわけではない。
 向こうに専門のスタッフがいなければチャンスは広がる」

同盟職員「専門……?」

青年商人「物資調達の、ですよ。
 ……中央の秘密製鉄工房の所在地は突き止めましたか?」

同盟職員「はい、それは。銅の国です。合計三カ所」

青年商人「良いでしょう。本部長、三カ所に出店の準備を」

留守部長「出店?」

青年商人「酒場と娼館ですよ。……耳目を忍び込ませないとね」
留守部長「了解です」にやっ

青年商人「聖鍵遠征軍に配置されているマスケットの量を
 算定してください。
 いくら何でも20万の兵に20万の
 マスケットが配置されているとは思えない。
 それにマスケットは機械です。
 故障もすれば、予備部品も必要のはず。
 そして弾薬がいるんですよね?」

女魔法使い「……そう。運用中の補給が常に必要」

同盟職員「とはいえ、鉄鉱石は相当量の備蓄が
 聖王国にあると推測されるんです……。
 すでに一定数のマスケットが配備されている以上、
 これ以上圧力を加えても意味がないのでは?」

113: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:16:36.08 ID:o0eNIb.P
青年商人「いいえ。意味はあります。相手は中央国家群。
 その巨大さは武器ですが、弱点でもある。
 末端の壊死が中央に認識されるまでのタイムラグがね」

同盟職員「え?」

青年商人「鉄製品の最終的な製造原価の内訳を
 考えてください。そこから今回は攻めます」

同盟職員「……加工費?
 しかし、加工費はすなわち人件費です。
 今回の集約工場では、多くの職人を丸ごと抱えて、
 殆ど監禁のような状況で生産のピッチを上げているはず」

青年商人「加工費はそれだけに留まりませんよ」

留守部長「そうかっ!」ぱしんっ

青年商人「ええ。木炭です。
 製鉄を行なうためには鉄鉱石の二倍から三倍の量の
 木炭を必要とする。石炭の採鉱権は?」

留守部長「そちらはぬかりなく押さえています」

青年商人「で、あれば風向きは良い。
 聖王国周辺でもっとも木炭を多く算出する
 梢の国は、南部連合に参入したとのこと。
 であれば、木炭の量をコントロールしていくのは、
 さほど困難な話ではない」

同盟職員娘「資金はどうします?」

青年商人「その中央諸国からいただくとしましょう。
 白夜王国へと移動した20万人、
 それを丸ごと食べさせるには大量の食料が必要です。
 この食料を、海上輸送。自由貿易都市の港から、
 白夜王国の港へと運び、その差益を得ます」

同盟職員「了解っ! 手配を行ないますっ」

114: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:17:51.58 ID:o0eNIb.P
青年商人「取りかかってください」

同盟職員娘「はいっ」
留守部長「承知っ」 たったったっ

青年商人「ふぅ。……間に合いますかね」
女魔法使い「……終わった?」

青年商人「ええ、なんとか」
女魔法使い「……」

青年商人「食い物ですか?」
女魔法使い こくり

青年商人「判りました、用意させましょう。
 貴女の助けがなければ、手遅れになったかも知れない。
 伝説の魔法使いに感謝しますよ」

女魔法使い「……こっちの都合」

青年商人「しかし転移魔法ですか……。
 もうちょっと敷居が低ければ普及間違いないんですけどね」

女魔法使い「……もどる?」

青年商人「いえ、しばらくここで指揮を執るべきでしょう」

女魔法使い「……」じぃ

青年商人「開門都市ですか?
 あっちには公女がいます。あれで聡い人ですから。
 騙されて言いようにされるって事はないでしょう。
 会計さんもいますしね」

女魔法使い「……相方?」

青年商人「よしてください。
 ……そんなものじゃありませんよ。
 取引相手ってのは、もっと神聖なものです」

123: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:38:00.61 ID:o0eNIb.P
――冬越し村、魔王の屋敷、食堂

もそもそ

魔王「……」
勇者「……魔王、塩とって」

魔王「判った」とん

ぱらぱら、もそもそ

勇者「……もぐもぐ」
魔王「なぁ、勇者」

勇者「ん?」

もそもそ

魔王「昨日の夜って何を食べただろう」
勇者「茹でた馬鈴薯に塩振ったのだろう?」

魔王「一昨日は?」
勇者「茹でた馬鈴薯に塩振ったの」

もそもそ

魔王「……」
勇者「……」

魔王「何でこんな事になっているのだっ!」うがぁ

124: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:39:13.51 ID:o0eNIb.P
勇者「だって仕方ないじゃん!
 メイド長は魔王城の手入れをするために突発出張中だし、
 メイド妹は冬の国へと料理修行中だしっ」

魔王「それにしたって三食茹で馬鈴薯はないと思う」

勇者「だってこれは魔王が作ったんだろう?」

魔王「それくらいしかまともに作れる気がしなかったのだ」

勇者「じゃぁ、納得して食うべきだ」

魔王「勇者が作った昼食だって同じだったではないか」

勇者「それしか作れないんだ仕方ないだろうっ」

もそもそ

魔王「……負ける」
勇者「は?」

魔王「このままでは負ける。確実に。魔界は滅びる」
勇者「何言ってるんだ?」

魔王「そんな予感がする」
勇者「……うわっ。暗いぞ、表情が」

128: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 21:42:54.49 ID:o0eNIb.P
もそもそ

魔王「そうだ」
勇者「どうした? もっぎゅもっぎゅ」

魔王「ジャムくらいならあるであろう?
 あれを馬鈴薯に落とせばきっと甘くて美味しいはずだ!」

勇者「おい、早まるなっ」

ぽとっ。ぬりぬり。もしゃもしゃ

魔王「……負けた。魔界は滅びた。
 勇者、私はもうダメだ。そして三千年の時が流れた」
勇者「早いよ、いくら何でもっ」

がたり

魔王「書を捨て街に出よう」
勇者「はぁ?」

魔王「私の職業は魔王なのだ」
勇者「どうしたの?」

魔王「正直煮詰まっているのだ」どよーん
勇者「判らないじゃないけれど」

魔王「どうにかしてくれないか、勇者」
勇者「どうにかしたいのは山々だけどさぁ。
 ……はぁ。仕方ないなぁ」

149: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:04:50.33 ID:o0eNIb.P
――冬の国、王宮、予算編成室

商人子弟「んぅ~。こいつぁ……」
従僕「商人さまぁ!」ぱたぱたっ

商人子弟「なかなかどうして、侮れないなぁ」

従僕「商人さまっ!!」

商人子弟「おう。どうしたわんこ」

従僕「わんこじゃありません!」
商人子弟「しっぽ揺れてるぞ?」

従僕「えっ? ――生えてるわけ無いじゃないですかっ」
商人子弟「で、どうしたんだ?」

従僕「そうでしたっ」えへん
商人子弟「?」

従僕「課題が出来ましたっ!」
商人子弟「課題?」

従僕「チーズですっ!」
商人子弟「なんだっけそれ?」

従僕「えーっと、チーズを安定して低価格に市場に
 供給するために考えてきました!」

151: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:06:30.55 ID:o0eNIb.P
商人子弟「おお。そう言えばそんな課題も
 出してたな。よーし、わんこ。聞かせてくれ」

従僕「まず、チーズの作り方を勉強しましたっ」
商人子弟「ふむ、基本は大事だな」

従僕「簡単に云うと、チーズは乳製品です。
 乳を暖めて、かき回し、これに触媒を加えます。
 触媒って言うのは薊の花から作るんですって。
 こうすると、固まり初めて水分が出てきます。
 加熱しながら水分を飛ばして、
 型に入れたら生チーズの完成です。
 でも、ちゃんとしたチーズはこれからが本番で
 この生チーズを塩水につけて、味を調えてから
 冷暗所に数ヶ月から数年のあいだ保存して、
 熟成って云うのをさせないと、完成しません……。
 時間がかかるんですね。で、出来上がりです」

商人子弟「なかなか手間がかかるんだな」

従僕「ですです! でも美味しいですよね。
 ぼく勉強ついでに一杯味見しました」にへらぁ

商人子弟「これ。ほっぺた緩んでるぞ!」

従僕「わわわっ」
商人子弟「で、基礎知識はそれでいいとして、
 そこから何をどう考えたんだ?」

従僕「えっと、最初に考えたのは。
 ミルクからチーズを作ると量が減っちゃうので
 寂しいということです」

商人子弟「ふむ」

153: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:08:43.16 ID:o0eNIb.P
商人子弟「でも、それは減って当たり前だろう?
 説明に出てきたとおり、水分が抜けるんだから」

従僕「ええ、そうなんですけれど、
 どれくらい減るかですよね。
 いろいろ聞いてみたんですけれど、
 ミルクを鍋に10杯用意すれば、
 1杯分のチーズが出来るみたいです」

商人子弟「1/10か」

従僕「でも、市価で言うと、
 チーズは同じ重さのミルクの30倍くらいの
 値段で売れているんです。
 1/10なら、値段は10倍で良いはずでしょう?」

商人子弟「ふぅむ、つまりその余剰部分は、
 人件費とか、他の材料費とか何だろうな。運送費とか」

従僕「えーっと、それもあるんですけれど、
 大きいのは熟成にかかる費用なんです」
商人子弟「熟成……」

従僕「つまり、チーズは冷暗所で熟成させなければ
 ならないでしょう?
 農家の人から見るとミルクを仕入れてチーズを作っても、
 すぐにはお金にはならないんです。
 お金になるのは、半年から二年ほどたったあと。
 しかも、そのころまでチーズが無事かどうかは
 判らないし、チーズの値段が上がっているか
 下がっているかも判らないんです」

商人子弟「ふむ」

155: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:11:46.49 ID:o0eNIb.P
従僕「ぼくの調べたところ、チーズを作るって言うのは、
 ずいぶん、なんていえばいいのか……。
 宝くじを買うようなものみたいなんです。
 だから大きくいっぱい作るわけには、行かないみたいな」

商人子弟「ふむ。で?」

従僕「で、考えたのはこれです」

ごそごそ

商人子弟「ふむふむ」

従僕「この紙に書いたんですけれど……」
商人子弟「これは、保管所だな?」

従僕「です。……えっと、えっと。
 塩水につけてあとは塾生を待つだけのチーズを、
 “販売後の価格の6割”を基準に買い取るんです。
 そうすれば、チーズを作った人はチーズを作った
 次の週には現金を受け取ることが出来ますよね?」
商人子弟「そうなるな」

従僕「で、この保管所の人は、一定期間、チーズを
 裏返したりして管理して、出荷時期が来たら販売するんです。
 この保管所のお店にはいつでもチーズが並ぶことになるし、
 材料調達や製造のための人手や道具、技術は必要ないです。
 どちらかというと、管理業務に近いです」

158: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:18:03.27 ID:o0eNIb.P
商人子弟「でも、管理の途中で虫食いが発生したりして
 トラブルが起きたら、チーズはダメになっちゃうだろう?」

従僕「ですです。だから6割で買い取りなんです。
 4割は、利益率と考えるのがおかしくて、
 これは、危機とか、保険とか……」

商人子弟「リスク?」

従僕「です。そのりすくの、費用です。
 ポイントは、数です。
 
 つまり、何ヵ所かの保管所を作ってチーズを熟成のあいだ
 保存することによって、そのりすくを低下させるんです。
 一個一個のチーズはダメかも知れないし、
 無事出来るかも知れないし、美味しくできるかも
 知れないでしょ?
 
 小さな農家のおじさんは、チーズが四つ続けて失敗したら
 次にミルクを買うお金もなくなっちゃうんです。
 
 でも、一杯チーズを扱っていれば、全体の1/10が
 失敗しても、それは他の成功部分で吸収できますよね。
 だから、ここではチーズを中間の価格で買い取って
 売れた儲けで、平均化しようって言う考えなんです。
 
 ……あの、変なこと言ってますか?」

商人子弟「いいや、いいぞ。続けて」

159: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:19:03.93 ID:o0eNIb.P
従僕「この買い取り価格は、いまとりあえずで6割って
 決めてありますけれど、
 これはこの数式にいままでの市場価格を代入した
 だいたいの数字です。もし、チーズが沢山ダメになるなら
 この買い取り価格の割合を下げればいいし、
 成功率が高いのなら上げればいいですよね?
 えと、これはですね……んっと」
 
商人子弟「代替え的な意味で、金利なんだな」

従僕「はいです! で、もっとあるんです。
 今後はこの価格を元に、納入してくれる農家さんの
 チーズのおいしさとか、売れ具合とか、
 その年のチーズの多さとか少なさを入れて
 細かく買い取り価格を分けてゆくと良いと思うんです」

商人子弟「ふむ、そのこころは?」にこり

従僕「だって、美味しいって褒めてもらえたら
 それで“チーズ一等賞まーく”とかもらえたら
 頑張ってもっと美味しいチーズを作るでしょう?」

商人子弟「よーし。良くできたぞ」くしゃくしゃ

従僕「ふふふーん」にこにこ

商人子弟「なかなか優秀になったじゃないか!」

従僕「ですか? ですか? ご褒美ですか♪」

商人子弟「ご褒美は次の課題だ」
従僕「……」ピシッ

商人子弟「次も難問。……そう。長靴だな」

175: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:51:14.88 ID:o0eNIb.P
――開門都市、改築された酒場

ちりんちりーん♪

勇者「おぃーっす」
魔王「おい。いいのか?」

勇者「いいんだ、気安い店なんだ」

有角娘「いらっしゃいませー♪」

酒場の主人「おー。これはこれは、黒騎士の旦那じゃ
 ありやせんか。さぁさぁ、こっちへどうぞ!」

勇者「な? 顔なじみなんだよ」
有角娘「何を飲みますかー?」

魔王「あー」
勇者「冷たいエール二杯ね」

 がやがやがや
 
魔王「わたし決めていないぞ」
勇者「これがお約束なの」

魔王「そうなのか。……わたしは、その。
 この種の酒場には初めて入ったぞ」

勇者「そうなの?」
魔王「必要がなかったからな」

有角娘「おまちどうさまー!」 ドドンッ!

176: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:52:57.95 ID:o0eNIb.P
魔王「あ、ありがとう」
勇者「さぁ飲むかっ! 今日は飲みまくるぞ」

魔王「う、うん。代金は良いのか?」
勇者「あとでまとめて払うんだよ。
 ……メイド長いないと、ほんっとに常識的なことは
 判らないんだなぁ、魔王は」

魔王「すまん」
勇者「しょげるなよ。せっかく旨い物くいにきたんだし」

魔王「そうだな」

勇者「かんぱーい!」
魔王「かんぱい」

 がやがやがや

   人間商人「おーい! こっちに葡萄酒くれ! ビンで!」
   魔族商人「それから羊の焼き串を二本だ!」

勇者「何食おうか?」
魔王「わたしは何を食べればいいのだ?」きょときょと

勇者「おっちゃーん、何があるの?」

酒場の主人「なんでもあるが、今日はパンを焼いたぞ。
 馬鈴薯もあるし、羊も潰したな。卵は新鮮なのがあって
 キャベツの漬け物もあるし、ベーコンもソーセージもある。
 ソーセージは最近人気の、胡椒と軟骨の入ったヤツだ」

勇者「じゃぁ、それ。それから、チーズな。
 んで、岩塩振った羊肉の軟らかいところと、
 野菜の壺煮に、リンゴも」

179: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:54:31.80 ID:o0eNIb.P
酒場の主人「あいよう! 順番は適当でいいよな」
勇者「任せるよ~」

魔王「な、なんだ。勇者、手慣れているではないか」
勇者「そりゃ勇者だもの。あちこち旅してるから」

 がやがやがや

魔王「そうか……。混んでいるな」
勇者「ああ、この店は結構人気があるんだ。
 開門都市が人間に攻略する前からの老舗だし、
 商売は堅実で、料理の味は良いときてる」

酒場の主人「おうおう、褒めてくれてるじゃねぇか。
 おらよぅ、まずはチーズと、ソーセージだ。
 たっぷり盛っておいたからな」

魔王「ありがとう……」
勇者「何かしこまってるんだ?」

酒場の主人「はははっ! しかたあるめぇ!
 きっと、このお嬢様はこういう下品な店には
 慣れてねぇんだよ。この童貞小僧っ! がはははっ!
 デートの店くらいは選びやがれってんだ!」

勇者「そんなに自分の店をこき下ろして
 泣きたくならないのかよ、おやっさんはよっ」

酒場の主人「こきゃぁがれ。この店は、下品でいいんだよ。
 街で働いているそう言う連中が酒と旨いメシを目当てに来る。
 そう言う店なんだからよ」

181: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 22:56:16.42 ID:o0eNIb.P
魔王「……」もぐもぐ

勇者「どうよ、最近」

酒場の主人「あー。いい感じだよ。
 どうだい? 広くなったろ。区画整理とやらで
 道が一本つぶれて、その分店を少し建てましたんだ。
 金を借りることも出来たし、
 最近じゃ、食料も安く入ってくるようになった。
 人が増えてるんだな、日々の稼ぎも何とかだ」

勇者「そっか。なら良かったよ」

酒場の主人「黒騎士さまのお陰って感謝もしてるんだぜ?」
勇者「よせやい」

有角娘「お代わりいかがですかー?」

酒場の主人「だ、そうだ。どうだい?」

勇者「おい、次は何を飲む?」
魔王「えーっと、その」
有角娘「葡萄酒とかいかがですか?」

魔王「じゃぁ、それ」
勇者「二つ頼むよ」
有角娘「うけたまわりましたぁ♪」

酒場の主人「まあ、ゆっくりしていってくれ!
 羊が焼けたら運んできてやるよっ」

184: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:01:41.33 ID:o0eNIb.P
 がやがやがや

  人間商人「塩はどんなあんばいだ」
  魔族商人「儲かるって言えば儲かるが、安定してきたし
   以前のように金塊を運ぶって感じではないな」

  紋様店主「いやいやいや、大変ですよ。あははは」
  旅の傭兵「そう言うこともあるかも知れぬなぁ!」

 がやがやがや

魔王「――」きょろきょろ

勇者「どうした? ぽやんとして」

魔王「え、あ」
勇者「?」

魔王「う、うん」
勇者「もしかして、不味かったか?」

魔王「違うぞ。このソーセージはすごく美味しい」
勇者「じゃぁ、こういう店は苦手か? ごめんな」

魔王「いやっ。そんなことはないっ。ただ、その。
 はじめてで。こんな風に賑やかで、楽しそうで。
 そうではないかと思っていたが、やはりわたしは
 世間知らずなんだな」

勇者「そっか」

187: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:03:44.98 ID:o0eNIb.P
  獣人狩人「今年の毛皮はよく売れた。これで土産が買える」
  人間商人「では碧玉なんてどうです?
   気になる娘さんに上げれば、2人の仲も進むこと
   間違いなしですよ。あるいは鉄の鍋などは?
   足がついていてどんな所でも使えますしね」

 がやがやがや

魔王「――」
勇者「ん?」

魔王「あれらは、何を話しているのだろう?」

勇者「いろーんなことだよ。
 ほら、あそこにいる獣牙の男は森から毛皮を売りに来たんだ。
 彼はよい年頃だから、そろそろ独り立ちの時期なんだろう。
 剣の鞘もまだ新品同然だし、随分ほっとしているな。
 多分1人で街に毛皮を売りに来たのは
 初めてなんじゃないかな? 良い値段で売れたんだろうな。
 俺はあんまり詳しくないけれど、彼はこれで儲けをもって
 集落に帰れば、一人前だ。結婚も認められるようになる」

魔王「そうか。……わたしは獣牙の政治や経済規模や
 人口統計や支配者には詳しい。
 文化だって一通りは知っているつもりだ。
 だからそうやって説明されている通過儀礼としての
 行商だって知ってはいるけれど、見たのは初めてだ」

勇者「うん」

有角娘「野菜の壺煮ですよ~♪ どうぞ」

魔王「暖かそうだ」
有角娘「暖かくて美味しいですよ! 召し上がれ」にこっ

188: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:05:49.61 ID:o0eNIb.P
勇者「あんがとさんっ!」
有角娘「いえいえっ」

魔王「……」こくっ、こくっ
勇者「美味いなぁ! もきゅもきゅ」

魔王「うん」
勇者「?」

魔王「いや、美味しいな。……それに」
勇者「……」

 がやがやがや

  水竜娘「あははははっ。お上手です」
  旅の詩人「いえいえ、真心のみですよ」

魔王「みんな、楽しそうだ」
勇者「そうだな」

魔王「顔を真っ赤に火照らせて、笑っている」
勇者「酒場だし、そんなもんだよ」

魔王「そうなのか? でも」
勇者「もぐもぐ」

魔王「なんだか、すごいなぁ……。
 胸の内側が、思いであふれそうな気分だ」

勇者「もきゅもきゅ」

191: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:08:23.23 ID:o0eNIb.P
酒場の主人「ほいきた! こんどは子羊の網焼き、
 岩塩とハーブ、タマネギ添えだ。
 ――ん、どうした?」

魔王「ご主人。ここの料理は美味しい」
勇者「へ?」

酒場の主人「おやおや、どうしたってんだ、
 美人のお嬢さんに褒められちまったよ。こりゃまいるな!」

魔王「いや、嘘偽りのない気持ちだ」
勇者「そりゃ、茹で馬鈴薯10連発のあとならなー」

酒場の主人「ま、いいやな! よし、葡萄酒をもってこい!
 この2人に一杯ずつ注ぐんだ!
 この方は魔王様直属の黒騎士殿なんだぞ!
 考えてみれば、童貞でこれはすごいことだ!」

勇者「やかましいわっ!」

酒場の主人「我が店の最も栄誉ある常連様だ。
 なんたって、あの解放作戦を
 この店で計画してくだすったんだからな!」

魔王「そうなのか?」
勇者「まぁ」

獣人狩人「そうなのか? 黒騎士殿なのか!?」

人間商人「なんてこったい!
 こんなところでお目にかかるとは!」

魔族商人「魔王様は大丈夫なんですけぇ?
 なんでも大会議でお倒れになったと聞きましたが」

紋様店主「おかげさまで、私たちは商いを続けさせて
 もらってますよ! 魔王様には感謝してるんです」

196: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:12:00.20 ID:o0eNIb.P
魔王「え、あ……。あっと」

勇者「……よし」 ガタン!

有角娘「え? え!?」
酒場の主人「ほほう!」

勇者「あー! 聞いてくれ諸君っ!!
 確かに俺は魔王直属の騎士、魔界の剣、黒騎士だっ!
 心配には及ばぬ。確かに狂賊の一矢に魔王は倒れたが
 その傷もすっかり癒えて、今日も魔王城からこの魔界
 全ての平安の繁栄を祈っている!!
 
 この魔王直轄地、開門都市を見ろっ!
 人間と魔族が互いに杯を干し、喧嘩をしながらも
 仲良くやっている。様々なものを売り買いしてなっ!
 
 おやじぃ!」

酒場の主人「あいよぅ!!」

勇者「全員に好きなものを注いでくれっ!
 最初の一杯の上がりは俺が持つぜ!
 さぁみんな、杯を掲げろっ! 魔王様に乾杯だ!
 あの方は喧嘩は弱いが、皆を気にかけることでは
 並ぶものがないぞ! その一杯が魔王の力となることを
 願って杯を干してくれっ!」

有角娘「あわあわ」ぱたぱた「どうぞ、こっちもどうぞ」

「「我らが魔王に栄えあれ! この地に永久の平安あれっ」」

202: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:23:36.96 ID:o0eNIb.P
――蔓穂ヶ原にほど近い廃砦

器用な少年「ほれ、これで、こうやって、こうよ」

ガチャリ!

貴族子弟「ほほう。見事です」
傭兵の生き残り「うまいもんだ」

器用な少年「へっへーん!」

貴族子弟「いや、誰にでも取り柄があるものですね」
傭兵の生き残り「ははは」

器用な少年「くそぅ! お前ら今に見てろよ」

貴族子弟「褒めているのに」

傭兵の生き残り「いいじゃねぇか。坊主。
 暖かい服も買ってもらったし、
 メシも食わせてもらってるんだろう」

器用な少年「これは正統な報酬ってヤツだ!」

貴族子弟「そうそう。報酬です。貸し借りはない」
器用な少年「なっ。こう言っている」

貴族子弟「ただし。故郷の敵討ちのチャンスを
 与えられたという意味で、まともな道義心のある少年ならば
 当然のように感謝をするでしょうがね」

器用な少年「……それは、してる」

203: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:25:24.32 ID:o0eNIb.P
貴族子弟「よろしいでしょう。
 しかし、はぁ……。こりゃしつけは大変だ」

器用な少年「はぁー!?」

貴族子弟「いえいえ、こちらのことですよ。少年」

傭兵の生き残り「俺たちも良いんですかい?
 隊長もいなくなっちまったのに」

貴族子弟「あなた方の隊長はわたしの依頼を
 一分の隙無く果たしてくれました。
 今度はこちらが契約を守る番です」

傭兵の生き残り「ならありがたいけどな」

器用な少年「よー。あんちゃん。こんな場所で良いのかよ?」

貴族子弟「ええ、逆に私たちの国に運び込んだら
 きっと発見されてしまいますよ。監視されていると
 思って間違いないでしょう。敵も馬鹿じゃない。
 それに……。ずいぶんな量でしたからね」

傭兵の生き残り「そうですな。へとへとだ」

器用な少年「ところで、あれはなんだったの?」

貴族子弟「硝石です」
傭兵の生き残り「……宝石にしては汚かったな」

器用な少年「ただのくず石じゃねぇの?」
貴族子弟「ただのくずでで終わって欲しいですね」

222: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/09/30(水) 23:59:02.59 ID:o0eNIb.P
――開門都市近郊、虹の降る丘

さくっさくっ

魔王「……」
勇者「……」

魔王「……うー」
勇者「起きたか?」

魔王「……起きた」
勇者「大丈夫か? そろそろ転移できるけど」

魔王「ダメだ」
勇者「は?」

魔王「いま転移したら終わってしまう」
勇者「ええと」

魔王「魔王の威厳も乙女のイメージも勇者との関係も終わりだ」
勇者「またまたぁ」

魔王「ううっー。とにかく今はダメだ」
勇者「わぁったよ。降ろそうか?」

魔王「うん」
勇者「ほい。……平気か?」

223: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 00:00:15.32 ID:chcZF3wP
魔王「割とダメだ」
勇者「あー」

魔王「お水あるかな」
勇者「持たせてくれたけど。親父は手回しいいなぁ」

魔王「……こくん、こくんっ」
勇者「……」

魔王「ううう。頭がぐらぐらするぞ」
勇者「相当飲んだものな」

魔王「魔王にあるまじきていたらく。
 今なら理解できそうだ。
 三軸以外の戦闘機動というものを。
 ああ。世界は他にも次元があるのだなぁ」

勇者「何を言っているんだ」
魔王「首から上がデフレで、首から下はインフレなんだ」

勇者「なんだか良く判らないけれど、
 凄まじい状態だって事は判った」

魔王「勇者に掴まってないと、世界から落ちる」
勇者「思うぞんぶん掴まっててくれ」

魔王「助かる、勇者」
勇者「酔っぱらいの開放くらいだぞ、俺が感謝されるのって」

225: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 00:01:11.17 ID:chcZF3wP
魔王「そんなことはないのになぁ」ぐてん
勇者「おい、夜露で濡れるぞ」

魔王「ひんやりして気持ちがよい」
勇者「まったく」

魔王「メイド長がいないから怒られないのだ」
勇者「そうだけどさ」

魔王「勇者勇者」
勇者「ん?」 ぷす

魔王「ふふふ。ひっかかった頬つっかい棒~」
勇者「子供か、魔王は」

魔王「やけに愉快な気分だ」
勇者「子供ではなく酔っぱらいだった」

魔王「だって美味しかった」
勇者「美味かったな」

魔王「それに、乾杯してもらえた」
勇者「うん、そうだな」

魔王「……」
勇者「……」

魔王「ふふふふふっ」

226: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 00:02:29.12 ID:chcZF3wP
勇者「どうした、突然」
魔王「無敵感満タンだ!」

勇者「機嫌治ったのか? 煮詰まり治ったか?」

魔王「うん、どっかにいってしまった」
勇者「そりゃ良かった」

魔王「あとはもふもふで完璧だ」
勇者「それは今度な」

魔王「けち」
勇者「濡れちゃうだろう」
魔王「けちけち勇者」
勇者「やっぱ、酔っぱらいだな」

魔王「あれを見ろ、勇者っ」びしっ
勇者「そんなのに引っかかるかよ。そういうのは
 百万回くらい爺に騙されてるんだっての」

魔王「いいからっ」
勇者「なんだってんだよ」

魔王「虹が、降っているよ?」

勇者「ああ……」

魔王「綺麗だろう?」にこり

勇者「ああ」

227: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 00:04:13.15 ID:chcZF3wP
魔王「やっぱり負けるのはダメらしい」
勇者「うん」

魔王「わたしはこれから、計画の練り直しだ。
 マスケットを敵に与えてしまったのはわたしのミスだ。
 本来であれば、わたしは責任をとるために、
 もっと強い武器を南部連合に提供しなければいけないと思う。
 でも、それをすれば、死者の数はもっともっと増えてしまう」

勇者「ああ」

魔王「でも、わたしのそんな躊躇い……。
 火薬を広めて良いのか悪いのかという躊躇いが、
 マスケットを敵に量産させる結果を招いてしまったんだな」

勇者「……うん、そうだな」

魔王「なんのことはない。勇者に偉そうに講釈しておきながら
 一番覚悟が出来ていなかったのがわたしだったというわけだ」

勇者「……」

魔王「何度でも思い知る。
 やはりわたしは1人じゃ何も出来ない。
 この件に関しても、もっと早くに相談すべきだったんだ。
 彼女であれば、それを用いても被害を増やさない方法を
 思いついたかも知れないのに」

勇者「うん」

魔王「吹っ切れた。
 わたしもこの件から逃げ回るのはやめよう。
 女騎士と話し合うべき時期が、来たのだと思う」

269: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 18:37:08.36 ID:chcZF3wP
――鉄の国南部、辺境の森の中

ガササッ。ガササッ。

鉄国少尉「もう少し先ですね」
衛門案内兵「そうです」

鉄腕王「……」

軍人子弟「王よ、そんなに気むずかしい顔はしないでござるよ」
鉄国少尉「そうですよ」
鉄腕王「うむ。しかし……」

ガササッ。ガササッ。

衛門案内兵「この谷をお借りしています」
鉄腕王「ふむ」

ザッザッザッ

衛門案内兵「鉄の国の王をご案内しました」

ガサッ

東の砦将「ご苦労さん」

軍人子弟「ふむ」
鉄国少尉(随分出来る気配の人だな……)

東の砦将「色々お礼を述べなければなりませんが、
 あちらに天幕が張ってあります。ご案内しましょう」

271: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 18:40:16.01 ID:chcZF3wP
――鉄の国南部、辺境の森、獣人族の大天幕

バサッ

鉄国少尉(ふむ……)

東の砦将「こちらにどうぞ。……あー。
 すいませんね、根ががさつなやつらばかりなもので。
 おい、飲み物をお持ちしろ」

獣牙戦士「はっ」

軍人子弟「いや、お気になさらず、楽に。
 拙者達も軍人でござるから。
 礼儀作法にこだわりはないでござるよ」

東の砦将「そう言っていただけると助るな。
 いや、生まれが悪いもんで言葉遣いは勘弁してくれ。

 俺は、東の砦将。もとは第二回聖鍵遠征軍参加の
 傭兵で、そのあとは長い間開門都市の駐留部隊の
 分隊長をやっていた。
 運命の変転だか数奇な偶然だかに巻き込まれて、
 いまでは開門都市自治委員会のとりまとめ、
 九氏族の一つ、衛門族の長をやっている。
 
 今回の蒼魔討伐作戦では、左府将軍を仰せつかった」

銀虎公「我の名は銀虎公。
 魔界の九氏族の一つ、獣牙一族の長。
 今回の戦いでは、右府将軍を務めるものだ」

鉄国少尉(……こっちの将軍は、すごい闘気だな)

273: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 18:41:49.99 ID:chcZF3wP
軍人子弟「拙者は鉄の国の護民卿を拝命している
 軍人子弟と申す者でござる。
 先だっての蔓穂ヶ原の戦いでは副司令官を
 つとめてござった。
 こちらにいらっしゃるのが、鉄腕王。
 
 この鉄の国の王にして、南部連合首脳でござる。
 本日は、南部連合の代表としてこの会見に
 参加しているでござるよ」

鉄腕王 こくり

銀虎公「まずは、この場を借りてお礼を申し上げる。
 蒼魔族は我ら魔族にとっても魔王殿に弓引く逆賊。
 その討伐のために軍の通行を許可いただいた。
 我らは恩義を感じている」

東の砦将「魔族の勢力争い、いわば内輪もめの
 とばっちりを人間界にかけたことに関しても
 氏族は謝意をもっている」

鉄腕王「……」

軍人子弟「王。鉄腕王。……意地張っている場合
 じゃないでござるってば」

鉄国少尉「そ、そうですよっ」

鉄腕王「……」じぃっ
銀虎公「……」じっ

276: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 18:44:25.10 ID:chcZF3wP
鉄腕王「……今回の戦いでは、獣牙一族も
 大きな犠牲を出したと聞くが」

銀虎公「たしかに。人間の乱入軍のもつ
 得体の知れない武器に傷つき倒れた者もいる。
 しかしいずれの獣牙の勇者達。雄々しく散ったのだ」

鉄腕王「心中お察しする」
銀虎公「……」

東の砦将(ふぅ……)
軍人子弟(何とかなったでござるか)

鉄腕王「この森は深い。未開の原生林だ。不便はないかね」

銀虎公「ない。我らは山野の民だ。ここは空気が美しく
 過ごすのによい場所だ。提供してくれたことを感謝しよう」

軍人子弟「食料はどうですか?」

東の砦将「あっちから持ってきたものがある。
 あと箱森で、猪だの鹿だのを多少とらせてもらえば
 それで間に合うはずだ。なんにせよ、長居するつもりもない」

鉄腕王「では、後ほど、いくつかの物資と酒を届けさせよう」

銀虎公「かたじけない」

鉄腕王「では、行くぞ」がたり

278: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 18:45:38.97 ID:chcZF3wP
東の砦将「いやいやっ。せっかく来ていただいたんだ」
軍人子弟「そうでござるよ。この機会に詰めておくべき事も」

鉄腕王「互いにともがらを失ったのだ。
 それを送るには、今少しの時間と酒がいるだろう。
 われら鉄の国は武の国だ。武には武の礼節がある」

銀虎公「……」
東の砦将「……」

軍人子弟「そう……で、ござるね」
東の砦将「お気遣い、感謝いたす」

鉄腕王「それに細々しい外向的な用向きは
 冬の女王と、そちらの外交使節団が片付けるだろうよ。
 まだ魔族と急に握手をする気にはなれん。
 多くの国民もそうだろ。
 
 しかし今度逢う時は、もうちょっと
 わだかまり無く酒が飲める。そんな時代になるといいな」

銀虎公 こくり
東の砦将「……」

鉄腕王「では、行く」

ざっ

銀虎公「獣牙の戦士を、槍を掲げてお送りしろ」

獣牙戦士「はっ」
獣牙戦士「戦士の一族の魂に慰めあれっ」

282: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:17:36.57 ID:chcZF3wP
――冬越しの村、湖畔修道院、院長の私室

女騎士「ふむ……」
魔王「覚悟は決めた」

メイド長「まおー様も立派になられて」うるっ

女騎士「で、どうするつもりなの?」
魔王「それが全く判らない」

女騎士「……おいおい」

魔王「いや、私たちの一族は誰でもそうだが
 基本的には自分の研究ジャンル以外には疎いのだ。
 わたしは経済と言うことで、技術史や社会学にも
 多少の知識はあるが、それでも専門からはほど遠い。
 ましてや軍事学など専門外なのだ」

女騎士「そうか……。
 魔王だからてっきりそっちの専門家かと」

魔王「とんでもない」

女騎士「だがしかし、マスケットとかは
 魔王がアイデアをスケッチして、
 鉄の国の技術者に施策を依頼したのだろう?」

魔王「そうだ。その情報が漏れて、
 中央に伝わったとしか考えられない。
 わたしは異端騒ぎで掴まっていたりしたからな。
 そんなときに怖くなった職人の誰かから
 聖教会へと漏れたのだろう」

メイド長「……そうですね」

283: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:19:59.35 ID:chcZF3wP
女騎士「これか」 かちゃり
メイド長「あら、手に入れたのですか?」

女騎士「戦場を捜索して何個かはな。
 だが、やはり良く判らない。
 説明をしてみてくれないか?」

ガチャガチャ

魔王「ふむ、思ったよりも軽いな。
 工作精度の問題か……。
 乱暴に説明をするとこのマスケットは、鉄の筒だ。
 筒の中に、丸い金属の玉と、火薬を詰める」

女騎士「火薬というのは昔話していたあれ?」

魔王「そうだ。ガンパウダーだ。
 この火薬という物質は、火を付けると激しい勢いで爆発する。
 密閉された容器での爆発力は開放部分に集中するので、
 高速で玉が飛び出す。言ってしまえばそれだけの仕掛けだ」

女騎士「聞いてみると随分単純な武器なんだね」

魔王「単純だが、要するに刃のついた棒を
 振り回しているだけの剣や槍よりは複雑だな」

女騎士「それもそうか……。
 で、このマスケットは武器としての性能は
 どのようなものなの?」

魔王「正確なものは実験しなくては判らない。
 と、いうものの、基本構造は今言ったように単純だが、
 精度や工夫には様々な課題があるからだ」

284: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:21:25.50 ID:chcZF3wP
女騎士「……そうか」

魔王「だが、見た感じで言うと、
 射程距離はおおよそ100歩くらいで、
 威力は板金鎧を打ち抜くほどではないだろうか」

女騎士「たいしたものだ。石弓を上回るんだね」

魔王「そうだ。発射間隔は5分に一度から、
 1分に一度程度まで、これは射手の練習度に大きく依存する。
 命中精度もまた同じく射手次第だな」

女騎士「ふむふむ」

魔王「ただし、この長い筒を玉が駆け抜けていって
 殆ど直線上に飛ぶし、矢よりも風の影響は受けづらい。
 だから、素人が使うのならば、矢よりも命中率はいいはずだ」

女騎士「……」

魔王「それに、説明でうすうす想像もついているかと思うが
 弓の反発力で矢を飛ばす長弓は、弓の大きさ素材が威力を
 決める。つまり、引く力が威力に直結する。
 石弓も同じ機構だが、クランクやギアなどで引く力を
 肩代わりできる点が違うわけだな。
 
 そこへゆくと、このマスケットは火薬の爆発力が
 威力を決める。
 
 力が強いものが使っても威力は増えないが、
 逆に力が弱いものが使っても威力は減らない。
 どんな痩せた小男であろうと、板金鎧を貫く力が手に入る」

285: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:22:45.86 ID:chcZF3wP
女騎士「だいたい、判った」
魔王「ふむ」

女騎士「この武器自体は問題じゃない」
魔王「そうなのか?」

女騎士「やっかいな武器ではあるけれど、所詮武器。
 戦術を適切に立てれば、勝つことは難しくない。
 だいたい射程の百歩だって、そこまではないと思う。
 50歩もはなれたら、鎧で止まるのじゃないかな。
 それに、命中精度は相当に低い。
 司令官を狙うのなら熟練の長弓兵の方が期待できる」

魔王「そうなのか?」

女騎士「しかし、それは人数が等しい場合だ。
 この武器がやっかいなのは、いや、そうじゃないな。
 こんどの聖鍵遠征軍がやっかいなのは、
 このマスケットの持つ考え方に正しく気がついて
 運用してきた所にある。
 
 つまり、“この発明は人間同士の力の差を小さくする”
 って言う部分なんだろうな。
 おそらくこのマスケットを配った10人の農夫と
 10人の騎士が闘えば、10人の騎士が勝つだろう。
 
 でも、30人の農夫ならば、農夫が勝つ。
 騎馬の持つ力や重装甲の絶対的有利が
 崩れてしまう武器なんだな」

魔王「……」
メイド長「……」

286: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:24:41.55 ID:chcZF3wP
女騎士「おそらくこの武器を最も有効に活用する方法は
 平原における会戦で、歩兵の密集隊形からの射撃だろうな」

魔王「ふむ」

女騎士「……さて」
魔王「どうだ?」

女騎士「魔王が思いつく、この武器の弱点は?」

魔王「簡単な所では、着火機構だな。
 火のついた縄を用いるせいで信頼度が低い。
 つまり、発射しない時があるのだ。
 それに射撃姿勢の自由度も失われる。
 水平射撃が最も安定するな。
 また、当然火を使うために水気に弱い。雨は大敵だ。
 火縄を用いる構造上、完全な密集隊形はとりづらいと
 言うこと点ある。
 補給にも問題があるな。
 火薬がないと無用の長物になるし、火薬は、たとえば
 予備の矢の用に戦場で作るわけには行かないから」

女騎士「……そう言った機構上の弱点を改良する
 方法はあるのだろう?」

魔王「うむ。それはフリントロックと言われている、
 このマスケットの一段階進歩したタイプでな。
 着火機構に火打ち石を使うことによりいくつかの
 弱点を克服できることになる。密集率をより上げるとか」

女騎士「うーん。その情報も漏れている可能性は?」
魔王「否定は出来ない。けれど、量産はまだなんだろうな。
 もし量産が成功していたら、
 こんな旧式が沢山配備されているのはおかしい」

289: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:27:29.73 ID:chcZF3wP
女騎士「……まず、このマスケットを我が
 南部連合でも大量に生産するというアイデアは却下だ」

魔王「そうか」ぱっ

女騎士「別に魔王の良心におもんばかっている訳じゃない。
 けれど、このマスケットの一番の特徴は
 “人数を戦闘力に置き換える”と言う部分だと思う。
 
 だとすれば、同じマスケットと同じ戦法でぶつかり合えば
 人数が多い方が勝ってしまう。
 もちろん現場での用兵で寡兵が多数に勝つこともあるが
 その場合でも、少数の側の被害を押さえることは難しい。
 
 その“人数を戦闘力に置き換える”というのは
 おそらく専門の軍人ではない、短期間の訓練を施した
 即席兵を戦場にかり出すことで実現されるはずだ。
 
 聖鍵遠征軍なんて、まさにそのためのお題目なんだから。
 相手の得意な戦場で戦ってはだめだ。
 三ヶ国は人工ではまだまだ中央国家に及ばないんだからな。
 わたしは馬鹿だけど、それくらいは戦場の常識だ」えへん

魔王「そうだな。それでは意味がない」

女騎士「一番良いのは、兵糧攻めだ。
 闘わずして勝つことが出来る。相手は数も多いしな」

魔王「それならば専門分野にも近い。多少は協力できるはずだ」

女騎士「だが、そうなると、今度は暴走が怖いんだ。
 飢えて凶暴になった20万の軍が、自暴自棄になって
 襲いかかってきたら、どんな国の軍だって
 引き裂かれてしまう」

魔王「うん」

290: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 19:29:04.87 ID:chcZF3wP
女騎士「それに戦場では常に想定していないことが起きる。
 それをわたしは今回高い代価を払って学んだ。
 兵糧攻めだけでどうにかなるなんて
 甘い考えはよした方がいいな」

魔王「うん……」

メイド長「でも、マスケットの集団と闘うのは
 どうやっても犠牲が大きくなりすぎますよね……」

女騎士「……」
魔王「……」
メイド長「……」

女騎士「魔王、威力は力には依存しないと言ったけれど
 では火薬の量には依存するのか?」

魔王「おおむねそうだな。
 火薬を増やし、火薬に耐えうるだけの筒の強度を保証し
 玉の大きさを大きくすれば、当然威力は上がる」

女騎士「威力が上がれば射程も伸びるか?」
魔王「当然な。だが、まぁ、玉も重くなるから
 火薬を二倍にすれば二倍、と言うわけにはならない」

女騎士「射程だけを増やす方法はないのか?」

魔王「射程……」

女騎士「相手と同じ戦場で戦うのは、
 無意味であるばかりか有害だ。
 で、あるならば、同じ戦場にいるべきではない。
 そうだろう? 射程があれば、それが可能だ」

魔王「射程……か」

314: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 20:38:23.39 ID:chcZF3wP
――開門都市、『同盟』の商館

がやがや

辣腕会計「ふぅ」
同盟職員「一通りの手紙の処理は終わりましたかね?」

火竜公女「あとは、私的なものだけですゆえ」

辣腕会計「転移魔法ももうちょっと気楽に
 使えればいいんですけれどね。
 週一回で、小包程度じゃ貿易には使えない」

同盟職員「それでも、無ければ連絡だけで
 大変な手間になってしまっていましたよ」

火竜公女「その辺は追々工夫してゆかぬといけませぬね」

辣腕会計「委員からの手紙は無かったんですか?」
同盟職員「へぇー」にやにや

火竜公女「私的に手紙をもらうような関係では
 ありませぬゆえ、当たり前です」ぷいっ

辣腕会計「そう言うことにしておきましょうか」

同盟職員「あれ、じゃぁこれは?」

火竜公女「ああ。これは妾の文通相手です」

316: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 20:40:05.48 ID:chcZF3wP
辣腕会計「へ? 文通?」

火竜公女「ええ。妾の大事な薔薇水晶の角を触らせた
 おのこですゆえ。慕ってきて可愛いのです」

辣腕会計「えーっと」
同盟職員「内緒にしておきます?」

辣腕会計「記憶にあるような無いような」
同盟職員「進んでいるなぁ」

火竜公女「ふぅむ」

「こんにちは!
 火竜の公女さま。お仕事いかがですか?
 冬の国では、いま、一年で一番良い季節を迎えています。
 夏なので馬鈴薯が沢山取れて、毎日王宮にも運ばれてきますし
 食卓も彩り豊かです。ことしは、カブがとても豊作でした。
 だから、豚さんもいっぱい食べて元気です。
 
 この間。鉄の国で痛ましい戦争がありました。
 商人先生は毎日難しい顔をしています。
 ぼくは毎日帳簿の整理と清書をしています。
 最近では、6桁の暗算も出来るようになりました。
 毎日やるとすごく早くできるようになりますね。
 でも、まだ先生には内緒です。
 
 公女さまは、また冬の国に来ませんか?
 はちみつのお菓子の新しいのがとても美味しいのです」

317: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 20:41:19.03 ID:chcZF3wP
火竜公女 くすくすっ

「えっと。それで。
 この間、考えてもらったチーズの作戦は
 やっぱり公女さまの言うとおりでした。
 一生懸命調べたら、担保になる期間がありました。
 担保と蒲公英って似てますよね?
 熟成っていうんですよ。
 公女さまは知ってらっしゃいましたか?
 一緒に入れたのは立ててみた計画です。
 先生にはお褒めいただきました。
 でも、先生は意地悪なので、ご褒美ではなくて
 また新しい課題を出してきたんです」

火竜公女「おやおや」

「今度は長靴です。僕たちは、柔らかい皮で作った
 長靴を履きます。たいていの人は、靴を二足もっています。
 長靴と、夏用の短い靴ですよ?
 貴族の人はもっともっていますけれどね。
 
 冬には、フェルトや毛皮で作った外靴を履いて
 雪や寒さを防いだりします。
 靴は大事なので、寝る時はベッドの下にしまいます。
 村には裁縫の得意な人や専門の人がいて皮をなめしたり
 靴の修理をしてくれます。新しく頼むのもこの人達です。
 先生は、この靴をどうにかしたい、と言います。
 本当は予算とか国の仕事じゃないんだけれど
 今は人手が足りないのだそうです。
 軍の人が履く、長い距離を歩いても疲れない靴って
 ご存じないですか? 知ってたら教えてください。
 
 またお手紙します。公女さまとお菓子が食べたいです」

辣腕会計「……楽しそうですね」

火竜公女「なかなかにな。
 苦労しているさまが目に浮かぶゆえ」くすくす

318: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 20:43:55.08 ID:chcZF3wP
同盟職員「良く判りませんね」

火竜公女「商売の種は何処に転がっているか
 判らぬとは、本当にその通りよな」

辣腕会計「儲け話ですか?」

火竜公女「“儲かる話に化けさせる”ではないかの?」
辣腕会計「ははは。呑み込んできましたね」

火竜公女「この都市には腕の良い靴職人はいるかや?」
辣腕会計「それは探せばいるでしょう」

火竜公女「今年は獣の皮が随分取れていると聞きますゆえ」

辣腕会計「ええ、鹿に猪、それから氷蛇。季候も良かったし
 大きなは戦もありませんでしたから」

同盟職員「そう言う意味では、仕入れ時かも知れないですね」

火竜公女「それにしても行軍用の靴、か」

辣腕会計「面白い話かもしれません」
同盟職員「そう言えば、魔界の靴は出来がいいですね」

火竜公女「靴底すらない人間界の靴が
 おかしいように妾には思える。
 あれでは厚手の革製靴下ではないか」

辣腕会計「でも、あっちではそれが普通ですしね」
同盟職員「これは確かに商売になるかも知れないな」

324: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:08:27.40 ID:chcZF3wP
――冬越しの村、村はずれの館、厨房

ぐらぐら、ぐらぐら

魔王「沸騰したぞ、勇者」
勇者「ここで塩をひとつまみ」

魔王「こうか」 どさっ
勇者「それはひとつかみじゃないか?」

魔王「む。違うのか?」
勇者「同じだろう。塩は塩だ」

ぐらぐら、ぐらぐら

魔王「うむ。大差はあるまい、で?」
勇者「そこのソーセージを入れる」

ちゃぷん、ちゃぷん、ぐらぐら

魔王「で?」
勇者「次は、切ったキャベツも入れる」

魔王「ほほう。切るとは?」
勇者「俺がやるよ」シャキーン! ひゅばんっ!

ぼちゃ

魔王「完璧ではないか」
勇者「ああ、自分が恐ろしいぜ」

327: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:11:03.29 ID:chcZF3wP
魔王「これでいいのか? もう食べられるのか?」
勇者「いや、まて。じっくり茹でて加熱する。
 おおよそ5分茹でるべし、とある」

魔王「5分か」そわそわ
勇者「うん、5分だ」

魔王「もういいかな?」
勇者「そんなに早いわけがあるかっ」

魔王「時間が判らないではないか」
勇者「しかたないなぁ。……いーち、にーい、さーん、しー」

魔王「……」わくわく
勇者「にじゅうごーにじゅうろくーにじゅうしちー」

ぐらぐら、ぐらぐら

魔王「かき回してみるか」ぐるぐる
勇者「さんじゅうしーさんじゅうごーさんじゅうろくー」

魔王「ああ、いい匂いだ」
勇者「ごじゅうにーごじゅうさんーごじゅうしー」

ガチャン

女騎士「なんだ。いるじゃない。……何をやってるの?」

魔王「いや、夕食の用意を」
勇者「ななじゅうはーちななじゅうきゅーはちじゅー」

330: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:12:31.17 ID:chcZF3wP
女騎士「なんで?」
魔王「この間から非情に貧しい食事を続けていてな。
 それをメイド長にぼやいた所、レシピを押しつけられて
 最低限出来ないとどうにもならないので学べ、と……」

勇者「ひゃくいちーひゃくにーひゃくさんー」

女騎士「それはもっとも。――メニューは?」
魔王「茹でソーセージとキャベツ。あと、パン」

女騎士「そうか。失敗のしようもないね。
 で、勇者は何をやっているんだ?」

勇者「ひゃくにじゅうにーひゃくにじゅうさーん」

魔王「ああ、数字を数えているのだ。
 茹で時間を計らねばならぬからな」

ぐらぐら、ぐらぐら

女騎士「適当ではまずいのか?」

魔王「適当っ!? 我らに適当なものを
 食べさせようというのか」

女騎士「いや、料理って適当なものだろう」
魔王「そんなことはない。完璧なハルモニアとは
 完璧な準備と計算、そして連携に基づくものだ」

女騎士「そうなのかなぁ」

ぐらぐら、ぐらぐら

333: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:14:27.99 ID:chcZF3wP
勇者「にひゃくにじゅうにーにひゃくにじゅうごー」

女騎士「随分湯が少なくなってきていないか?」

魔王「蒸発したのだろう。水分が気体となって
 空中へと拡散するのだ。理論的に正しい現象だ」

女騎士「煮詰まってるんじゃないの?」

魔王「いいや、蒸発だ。科学的な帰結だ」

女騎士「ふむ」

勇者「にひゃくさんじゅごーにひゃくさんじゅろーく」

ぐらぐら、ぐらぐら

魔王「そろそろかな」
勇者「にじゃくよんじゅーにひゃくよんじゅういちー」

女騎士「皿を出さなきゃまずいのではないかな」

魔王「はっ。そう言えばそうだ」

勇者「にひゃくななじゅうろくーにひゃくななじゅうしちー」

魔王「勇者、300で火力停止だっ!」
勇者「心得たっ! “氷結呪”っ!」

パリーン!!

345: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:23:11.22 ID:chcZF3wP
魔王「完成だ」 きゅるるー
勇者「ああ、長い戦いだったぜ」 ぎきゅるるー

女騎士「……」

魔王「さぁ、食べようではないか。勇者!
 この勝利を分かち合うのだ」
勇者「おう! 魔王! 女騎士もどうだ?」

女騎士「い、いや。わたしは結構だ。
 見過ごしてしまった良心の疼きは感じるが
 メイド長の教育の過程を邪魔したくはない」

魔王「そうなのか? いただきまーっす。あむっ」
勇者「いっただっきー! ばくっ」

魔王「……」
勇者「……」

魔王「うぐっ。なんでこんなに辛いのだ」
勇者「塩が、塩がっ!?」

女騎士「塩を入れすぎだろう」

魔王「まさかっ? 指示通りだったはずだ」
勇者「常識を越えた味だぞ」

魔王「ううー。水をくれ」
女騎士「やれやれ」 とぽととぽ

勇者「俺にもだ」

347: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:24:28.44 ID:chcZF3wP
女騎士「ああ。見てられない。貸してっ」

魔王「へ? 食べれないぞ、こんなもの」
勇者「塩辛すぎだ。生まれるのが早すぎたんだ」

女騎士「だからって捨てたらもったいないだろう。
 湖畔修道会は、質素、倹約、勤勉を説いてるんだし」

魔王「それはそうだが」
勇者「でも、さすがに食える味じゃないぞ」

女騎士「まぁ、多少は味が落ちるが仕方ない」

トタタタタタン

魔王「へ?」

女騎士「きざんで、水をかけて軽く塩を抜くだろう?
 で、ベーコンの脂身を炙ったフライパンで炒めて
 ……このきざんだ塩ソーセージとキャベツの細切れを
 入れてしまう」

じゃっじゃっじゃっ!

魔王「おおっ」

女騎士「火は調節するのが難しいから、
 距離で加減するんだよ。火から離れれば弱火だ。
 で、いい匂いがしてきたら、溶いた卵を六個入れる」

じゅわぁぁ~♪

勇者「なんだか料理みたいだ!」

348: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:26:00.14 ID:chcZF3wP
女騎士「卵を入れたら蓋をして、
 火から離してしばらく待つんだ。蒸らされるまでね」

勇者「いくつ数えればいい?」

女騎士「適当だよ。皿を出して待ってれば良い」
魔王「心得た!」

女騎士「ほら」 ぱかっ。ほわぁぁ~。

魔王「美味しそうだ」
勇者「美味そうだ!!」

女騎士「……なんだか2人は意気投合しているね」

魔王「うむ。もう同居も長い。絆だ」

勇者「空腹者は特有の連帯感を覚えるんだな」

女騎士「一つ屋根の下か。……ハンデだなぁ」

魔王「まだ食べてはだめなのか?」
勇者「もういいだろう? 女騎士っ」

女騎士「まだだめだ。両手にフォークを装備してもだぁめ。
 さらに、この固くなりかけのチーズを上から削ってかける。
 これで完成。皿を持ってね。半分ずつとるから」

魔王「ううう」
勇者「いい匂いだなぁ」

350: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 21:27:04.61 ID:chcZF3wP
女騎士「最近は、仲がよいのかな?」

魔王「仲は最初から良い」
勇者「まぁ、そうだな。がっふがっふ」

女騎士「そうか……」
魔王「美味しいな。女騎士は料理も出来るのか」

勇者「そう言えば、昔も作っていたな」

女騎士「修道士は自分の面倒を自分でみるのが基本だし。
 まぁ、パーティーで一番料理が旨いのは変態だった
 わけだけど」

魔王「変態?」
勇者「冬の国の執事のことだよ」

女騎士「昔のことだ」

魔王「そうか?」
勇者「もっきゅもっきゅ♪」

魔王「ところで今日は、どんな用事があったんだ?」
勇者「オムレット作ってくれに来たんだろう?」

女騎士「あ、いや。うん、たいした用事じゃないから」

勇者「そなのか?」

女騎士「うむ。戦略的に見て出直そうと思う」

368: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:04:45.62 ID:chcZF3wP
――新生白夜王国、兵舎付きの執務室

王弟元帥「どうだ? あの軍を率いてみて」

灰青王「悪くはありませんね」
王弟元帥「ほう」

灰青王「確かに農民ゆえ、無統制になる局面がありますが
 貴族の私軍とは違い、良くも悪くも素直ですな」

王弟元帥「マスケットはどうだ?」

灰青王「現状では、強力な石弓、しかし欠点も多い。
 そういった感じです。提出した書面の方は?」

王弟元帥「読んである」
灰青王「あそこにも書きましたが、沼沢地での戦闘ですと
 水気がある分、火薬が湿気ってどうしても不発が多くなる。
 不発が多いと暴発などの事故にも繋がる。
 負傷者のうち少なくない数が、
 自分のマスケットで怪我をした事例になりますね」

王弟元帥「ふむ」

灰青王「面白み、はあります」

王弟元帥「面白みか」

灰青王「現在までの貴族軍での戦争は、
 あまりにも貴族軍の連合体であると言う事実に縛られてきた。
 今回の戦で、その盲目については気がつかされましたよ。
 正直に言えば、戦争の覚悟のない農奴は、
 やはり所詮農奴ですよ。臆病で身勝手だ。
 しかし、そこに面白みのようなものがある」

369: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:06:44.40 ID:chcZF3wP
王弟元帥「現在の問題点は?」

灰青王「資料を」
秘書官「はっ」

灰青王「現場の指揮官としてでよろしいですね?」
王弟元帥「そうだ」

灰青王「まずは最初に、攻撃力の集中です。
 これは戦場の広がりに対して
 攻撃力を一点の集中させると言うことでもあるし
 時間の広がりに対して、ある一瞬に攻撃力を
 集中させると言うことでもあるわけですが、
 これがなっていない」

王弟元帥「ふむ」

灰青王「古来この戦力集中については、兵士の質的向上。
 つまるところ個人的な武勇の研鑽と、指揮官の采配に
 素早くしたがうことが出来るか否かという点によって
 改善されてきた歴史がある。
 しかし今回のこの、元帥閣下の軍。聖鍵遠征軍においては
 個人の武勇、と言う点にそこまで重きを置きたくはない。
 そうでしょう?」

王弟元帥「ふふふっ」

灰青王「で、あれば練兵は指揮に従うためのものを
 中心にそれだけをみっちりと仕込み、
 攻撃集中力そのものの強化は、武器の進歩……。
 いわば改良に期待をしたい」

371: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:09:13.78 ID:chcZF3wP
王弟元帥「ふぅむ」
灰青王「いかがです?」

王弟元帥「すでに新型マスケット、
 フリントロックの作成は発注済みだ。
 しかし、工作精度の問題で数が出そろうの先になる」

灰青王「かまいません。どうせ運用しながらでないと、
 実戦訓練にはなりませんからな。
 次の問題点は防御能力です」

王弟元帥「それは、書面でも触れられていたな」

灰青王「ええ、マスケットは一回撃ったらお終い。
 もちろん再装填をすれば良い訳ですが、
 混乱する戦場でそれだけの余裕を持つのが至難。
 そして、撃った直後から著しい防御力の低下がある」

王弟元帥「うむ」

灰青王「これについては、王弟元帥がかねてから
 提案なさっていたとおり、槍兵との連携運用で
 解決がつきます」

王弟元帥「よかろう。ほかには?」

灰青王「マスケット単体の問題ではありませんが
 参加している貴族達とのあいだの意識の乖離。
 特に貴族側の、マスケット兵に対する嫌悪感と軽蔑。
 これは問題です」

王弟元帥「貴族だからな」

灰青王「ええ。そうです。
 しかしマスケット兵は、その攻撃力と数において
 瞠目すべき点がありますが、あくまで農奴中心の部隊。
 専門的な軍事訓練を受けたわけではない。
 やはり高速で多様な軍事機動などは、
 貴族の持つ騎馬兵力に頼らなければならないような
 場面が今後も数多くあるでしょう。
 それゆえ、現状貴族とも上手く付き合わなければなりません。
 マスケットは無敵の兵ではないのですから」

372: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:10:48.20 ID:chcZF3wP
王弟元帥「その点について、何かの具申はあるか?」

灰青王「それは、今後、王弟元帥がどのような
 国家を作っていくかの想定次第でしょうねぇ」にやり

王弟元帥「……ほぅ」

灰青王「今のままの体制を維持し、貴族と王族が
 互いに助け合い、と言えば聞こえはいいですが、
 牽制し合いながら民の上に君臨してゆくか、
 王族が民を直接統治してゆく絶対王政を敷いてゆくか」

王弟元帥「……」

灰青王「現在の中央国家群は、国家乱立とは云え、
 その実、教会による横のつながりの輪の中に囚われた
 複数の馬のようなもの。その中で長兄たる聖王国の
 影響力は消して小さくはないでしょうな」

王弟元帥「ふっ。戯れ言だ。我ら聖王国も
 光の精霊の1人の信徒に過ぎない。
 こたびの遠征軍も、諸王国、諸貴族、そして民の自由な
 信仰心の発露によるもの……」

灰青王「ははははは。だが、その自由を許していては
 反感も連携の不備もどうにもなりません」

王弟元帥「――ふっ。大主教がどのようにお考えかは
 自ずと別として、わたし自身は今後も貴族は
 必要不可欠と考えている。ただ、時代によって
 その求められる資質が変わるだけなのだ」

373: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:12:43.43 ID:chcZF3wP
灰青王「そう言うことであれば、信賞必罰。
 武門のよって立つ所にしたがいて、軍規をつくり
 これに王族、貴族から率先して従うことにより、
 民に範を示す。また貴族にはその働きに応じて
 褒美を取らせる。
 お定まりの手ですが、これを実行してゆけば
 いずれは軋轢も少なくなりましょう。
 本来的には同じ魔族と戦う軍なのですから。
 
 傭兵が混じるとこの種の法はやっかいだが
 元々我ら国家にとって傭兵は、兵力が足りない時の
 予備兵力だった。今回の戦いでも、貴族の私兵としての
 傭兵はあっても、聖鍵遠征軍として雇った傭兵はいない。
 で、あれば問題ないでしょう。
 問題ある貴族がいるのならば、その貴族は……
 そう、おそらく――背教者なのだから」にやっ

王弟元帥「司令官が言うのであればそうなのだろうな」

灰青王「では、そのように軍規を改めましょう」

王弟元帥「期待しているぞ」

灰青王「今回の指揮で、マスケットの射程や、
 その攻撃タイミング、クセなどはつかみました。
 次回からの前線指揮は
 より確実なものにしてご覧に入れましょう」

王弟元帥「それでこそ、霧の国の若き英雄王だ」
灰青王「ははっ」

377: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:26:35.46 ID:chcZF3wP
――冬の国、城下町の一軒家の前

「にゅーっほっほっほ、にょーほっほっほ」

女騎士「……」

「わ! これは素敵ですぞぉ!
 ふくらみ、まろみ。淑女のレディですなっ!」
「もう、お怪我にさわっても知れませんよ?」

「いやいやいや。これがあるから治るのです。
 そーっれ、ぱっふぱっふ」
「きゃ。うふふふ。ぱっふぱっふ♪」

女騎士「……」

「そーれもういっちょー♪」
「いやん、元気すぎ~っ」
「ぱっふぱっふ。にょほほほ~」
「うふふふっ。ぱっふぱっふ♪」

ガチャリ。

女騎士「失礼する」

執事「……」
看護の娘さん「……」ぴきっ

女騎士「あー。いい加減にした方がいいと思うぞ」

執事「なっ。なにもしておりませんぞっ!?」

383: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:29:45.44 ID:chcZF3wP
――冬の国、城下町の一軒家のなか

女騎士「もういいのか、爺さん」

執事「ごほっ、ごほっ。お気遣い無く。
 わたくしはもう年老いた老兵に過ぎません。
 老兵は死なず、ただ去りゆくのみ。
 ……あの葉が落ちる時には、この爺めも」

女騎士「なんで死にそうな爽やかさなんだ。
 さっきまであんなに楽しそうだったのに」

執事「あれはですねっ。
 全然全くやましい事など無いのですぞ!」

女騎士「“そーれもういっちょー”」

執事「なっ! ど、どこから聞いていたのですか!?」

女騎士「何も聞いてない……ことにしたい」

執事「とにかく何らやましい事はないのですぞ。
 それどころかあの状況で奮い立たなかったら
 男としてのやましさを感じること請け合いですぞ」

女騎士「全く、いつまでたっても年をとらないなぁ」
執事「にょっほっほっほ!」

女騎士「褒めてないからなっ」
執事「しょぼん」

384: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:30:43.62 ID:chcZF3wP
女騎士「でも、元気そうで安心した」
執事「まぁ、これでも鍛えていますからな」

女騎士「治癒術はしたのか?」
執事「ええ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

女騎士「これは見舞いだ。梨なんだが」
執事「嬉しいですね」

女騎士「剥いてもらうといいぞ。胸のでかい娘さんに」
執事「にょっほっほっほ」

女騎士「……胸のでかい娘さんになっ」
執事「こほん。いえ、ありがとうございます」

女騎士「……ふぅ」とさっ
執事「どうしました?」

女騎士「……じつは」
執事「……」

女騎士「……うん」

執事「なにかあったのですか?
 勇者との仲を決定的にすべく、
 この老爺の知恵でも借りに来たのですかな?」

女騎士「何で判ったのだ!?」

執事「年の功と申しますか、はははっ」

386: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:33:32.25 ID:chcZF3wP
女騎士「そうなのか?」

執事「女騎士が勇者にほの字なのは、
 それもう、最初からばればれでしたからね。
 にょっほっほっほっほ」

女騎士「そうか……」

執事「ええ、そうですよ。
 一緒に旅をしていたあの当時から、あなたたち2人の
 視線の先にはいつでも勇者が居ましたから。
 とんだ迂闊の童貞ボーイですよ。にょほほ」

女騎士「2人?」
執事「いえ、それは何でもありませんよ。
 ところで、何処まで進んだのですか?」

女騎士「どこまで?」きょとん
執事「勇者との男女の仲ですよ」

女騎士「ああ、剣を受け入れてもらった。
 わたしはもう勇者のものなのだ」えへんっ

執事「……はぁ」

女騎士「何でため息をつくっ!?」

執事「こともあろうに“騎士の宣誓”を男女の仲の
 進展具合にカウントするとは。この執事も情けなくて
 笑い声が出てしまいます。にょっはっはっはっは!!」

女騎士「笑ってくれるな。わたしだってきわきわなんだし」

387: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:35:03.52 ID:chcZF3wP
執事「まぁ、お二人とも奥手ですからね。
 おまけに相手はあの勇者ですし。
 まぁ、相当の難物ですよ」

女騎士「そうなのか?」

執事「ええ、魔王も困っているでしょう」

女騎士「そういえば魔王のことは、
 冬寂王には報告しないで良いのか?」

執事「それは、この爺には手に余る案件です。
 いずれ時が至れば、若が己で知るでしょう」

女騎士「そうか……。困るって、勇者はもしかしてその……」

執事「ん?」

女騎士「もしかして私たちのことを嫌いなんだろうか?」

執事「いえいえ、そんなことはないと思いますよ。
 ただ、勇者は難しい相手だ。
 とこのように申し上げただけで」

女騎士「それはなんでだ?」

執事「ふぅむ」

女騎士「昔のよしみだ。何かヒントをくれないか?
 わたしだって変態の知恵を借りるのは忸怩たる思いだが
 いい加減魔王に差を付けられていて、
 このままでは色々取り返しがつかなくなりそうなんだ」

404: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:57:57.67 ID:chcZF3wP
執事「差、ですか」
女騎士「うん」

執事「差なんてついてないと思いますよ」

女騎士「そんなことはない。
 二人は一緒にソーセージを茹でたりして、
 なんだかすごく仲の良い雰囲気だったぞ」

執事「そう言うこともあるでしょうが、相手は勇者ですからね」

女騎士「判らない」

執事「ほら、覚えていますか? 砂丘の都を」

女騎士「ああ、うん。旅をしたな」

執事「わたしと勇者が宿を抜け出して、
 朝までパフパフで遊んで、
 あなたにこっぴどく怒られたでしょう?」

女騎士「ああ、まったくだ。何であんな事がしたいんだか」

執事「それに、ほら。あの演説のあとの、
 歌い手のお願い事件。あのときも勇者は喜び勇んで
 まるでトンビか鷹のように飛び出してゆきましたよね」

女騎士「思い出しても腹立たしい」

執事「いやはや、それは男性にとっては当たり前なのですよ」

405: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 22:59:22.90 ID:chcZF3wP
女騎士「?」

執事「“女の子と親しくなりたい、ちやほやして欲しい”
 そういう言う気持ちは、多かれ少なかれ、
 男性になら誰にでもあるものです。
 でも、勇者は人よりもそれが大きい。
 なぜだか判りますか?」

女騎士「スケベだからだろう?」

執事「まぁ、こほん。それも無きにしもあらずですが。
 本当は少し違います。
 勇者はね、やっぱり怖いんです。
 あれだけの力を持っていますから。
 人間から嫌われることが、
 人間から怪物だと思われてしまうことが怖いんですよ。
 
 だから、ああやって親しくされたり、
 優しくされると、つい嬉しくなってしまうんです」

女騎士「わたしは怪物だなんて思ったりしない。
 嫌いになんてならないのに」

執事「みんながそうであれば良かったんですけれどね……」

女騎士「……え?」

執事「それにね……」

女騎士「?」

執事「その一方で、特別な人が出来るのも、
 やはりとても怖いんですよ」

406: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:00:42.18 ID:chcZF3wP
女騎士「……」

執事「人間に嫌われるのが怖い臆病な勇者ですからね。
 あんまり臆病すぎて、私たちを置き去りにして
 一人で魔王のところへ行ったほどの勇者ですから。
 
 特別な人を作って、出来てしまって
 その人が離れていくのはたまらなく怖いでしょう。
 
 勇者が、魔王やあなたと深い関係になっていないのならば
 もちろん空気が読めないお調子者だというのもあるけれど
 どこかしら無意識のうちに、そう言った関係になるのを
 勇者が怯えて避けているのかも知れませんね」

女騎士「そうなのかな……」

執事「なんちて。にょほほほほ。
 真実なんて判らないですが、そうも見えると言うだけの
 話なんですけれどね」

女騎士「うん……」

執事「まぁ、そう落ち込まないでください。
 この老爺に素晴らしい策があります」

女騎士「本当か?」

執事「ええ、もちろん」こくり

女騎士「どんな策なのだ?」

執事「まず、勇者を人間だとは思わないことです」

女騎士「へ!?」

407: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:01:50.87 ID:chcZF3wP
執事「馬です。勇者を馬だと思いなさい」

女騎士「何で馬なのだ? いや待った」
執事「どうしたのです?」

女騎士「メモをとる」
執事「真剣ですね」

女騎士「藁にもすがりたい気分なのだ」
執事「はっはっは! この爺の策は縦横精緻にして
 脱出の隙を許しませんぞ。にょっほっほっほ」

女騎士「馬でどうするのだ?」

執事「馬ならば手慣れたものでしょう?
 馬を馴らす時にはどうします?」

女騎士「話しかける」
執事「それから?」

女騎士「触るな。首筋を撫でたり。
 ブラッシングをしたり。
 とにかく自分にわたしが触るのは、
 当たり前で、気持ち良いことだと思わせる」

執事「その通りです」

女騎士「さらには、人参やリンゴを与えたりもするな」
執事「それも標準的な手続きです」こくり

女騎士「そんな簡単なことで良いのか!?」
執事「基本は全く変わりません」

410: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:03:26.03 ID:chcZF3wP
女騎士「そうだったのか……」
執事「そして、そのあとは正攻法です」

女騎士「正攻法」メモメモ
執事「はっきり面と向かって自分の要求を伝えるべきです」

女騎士「よ、要求」
執事「キスをしたいであるとか、抱きしめて欲しいであるとか」

女騎士「はっ、はしたないっ」

執事「勇者相手ですからはっきり伝えないと始まりませんぞ。
 だいたいのところがおつむの程度も馬と同程度なのですから
 馬が迷ったり困ったりしている場合、それは乗り手の
 指示がはっきりしていないのです」

女騎士「それは……。確かにそう言うものだが」

執事「もちろん、普段の信頼関係なく、横暴な命令を出せば
 そのような乗り手は振り落とされてしまうでしょう。
 普段のさりげない接触が大事。こういうわけです」

女騎士「ぐっ。……そうだったのか」
執事「どうしました?」

女騎士「魔王め。もふる、もふると、
 子供じみていると思いきや
 まさかそんな深謀遠慮があったとは……」

執事「……良く判りませんがすごい殺気ですね」

女騎士「いや、感服したぞ、老師」
執事「老師っ!?」

414: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:05:26.12 ID:chcZF3wP
女騎士「一筋の光が射したような思いだ」
執事「にょっほっほっほ! それは良かった」

女騎士「あとは、まぁ。……うう」どよん
執事「どうしました」

女騎士「いや、いいんだ。これも現実」
執事「ははぁ」

女騎士「現実は己の力で乗り越えなければ」
執事「いやはや、それは浅はかですぞ。女騎士」

女騎士「え?」

執事「長所であれ、短所であれ、それは己の特徴っ」
女騎士「?」

執事「己の特徴、得意とする戦場で戦わずして
 どうやって勝利をつかむというのですっ!!」

女騎士「た、たしかに」ごくり

執事「そんな女騎士に、爺からのささやかなプレゼントを」

ごそごそ、しゅた

女騎士「これは……?」

執事「布地節約の決戦装備。もちろん未使用です。
 心が定まった時、この紙袋を開けなさい」

女騎士「良く判らないが、厚意はつたわった!
 やってみるぞ、この思いをぶつけてみるっ!」

執事「にょほほほほっ。面白ければ何でも良いのです。
 頑張ってください、女騎士よ!!」

425: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:17:48.90 ID:chcZF3wP
――大空洞、工事現場、いくつもの橋

コォォン! コォォォーン!

中年商人「いつ来てもすごいなぁ!」
土木子弟「おお。中年商人さん! 出来ましたよ!
 完成です、やっとここまできたんですっ!」

中年商人「ええ、一足先に宿舎によってきましたよ」
土木子弟「そうか。みんなも喜んでいたでしょう?」

中年商人「ええ、すごい有様だった。今晩は宴で?」
土木子弟「ええ、完成祝いですからねっ!」

コォォン! コォォォーン!

中年商人「やっと、ですね」

土木子弟「はい。これでも、色々心にかかる所はあるんですが、
 それでも当初の予定よりも石の橋を一つ増やし、
 出来る限りの場所を安全に通行できるようにしたつもりです」

中年商人「もうすでに橋を渡った商人仲間からも
 沢山の報告をもらっています。みんな感謝していますよ。
 この橋と、近日にでも出来る、リフトのお陰で
 多くの荷物が運べるようになる」

土木子弟「いいえ、俺こそ、こんな大仕事に抜擢してもらって。
 技術者として誇ることの出来る仕事を出来ました」

426: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:19:41.71 ID:chcZF3wP
中年商人「本来であれば、この大空洞にもう一つの計画通り
 八年かけた石造りの立派な街道もお願いしたいのですが」

土木子弟「やはり、資金ですか?」

中年商人「いえ、資金の件は我らの領分です。
 必要とあらばなんとしてでもかき集めますが。
 どちらかというと……」

土木子弟「もしかして……」
中年商人「ええ」こくり

コォォン! コォォォーン!

土木子弟「……」

中年商人「このあたりにも、もしかしたら斥候が
 来ては居ませんか? 旅商人の話では、大空洞の
 人間界側ではたびたび姿を見かけるようなのですが」

土木子弟「ええ、人間の軍が、と言う話ですね」

中年商人「そうです。ですから、ここも近いうちに
 戦場になるかも知れません」

土木子弟「……」

中年商人「そのような顔をなさらずとも!
 我ら人間は、ほら、わたしのように商人も多い。
 それが有益であるならば、いたずらに破壊したりはしない」

土木子弟「だといいのですが……」

429: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/01(木) 23:21:55.25 ID:chcZF3wP
人魔族作業員「大将! お先にあがりますぜぇ!」
人夫「こんばんは、羊の鍋ですぜ-!」
巨人の作業員「まっている……ぞー……」

中年商人「……」

土木子弟「そうですね。ここの仕事は済ませたんだ。
 俺たちが居座って護ったとしても、
 橋を護りきれるはずもない。それに作業員の命は
 何よりも大切だ。もし橋が壊れたのならまた直す
 機会だってやってくるはずです」

中年商人「はい……。さーてっ、報酬の残りも
 お支払いしなければなりません。開門都市へ?」

土木子弟「そうですね。今晩んは騒いで、明日にでも」

中年商人「今後のご予定はおきまりですか?」

土木子弟「いえ、特に」

中年商人「では、一つ依頼があります」
土木子弟「なんですか? 工事かな」

中年商人「私たちのつかんだ情報によれば、
 いずれ開門都市が戦場になる可能性は低くない」

土木子弟「……」ごくり

中年商人「今回は私たち『同盟』の商人からではない。
 まだ依頼書も資金集めも終わっていない状況です。
 満足に賃金を支払えないかも知れない」

土木子弟「引き受けましょう」

中年商人「いいんですか? そんなに躊躇いなく」

土木子弟「ええ。どっちにしろ、
 帰りを待たなきゃならないひともいるもんですから。
 都市の防壁を作る。一度挑戦したかったテーマでもあります」

506: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 17:27:19.46 ID:iOYUExkP
――新生白夜直轄領、王宮行政庁舎

参謀軍師「なんだと?」

聖王国兵士「いえ、ですから……その」
聖王国騎士「予定していた量の硝石がないのです」

参謀軍師「無いだと? ふざけるな。
 この王宮を占拠した直後に確認したではないか」

聖王国騎士「ええ、もちろん確認した程度にはあります。
 木箱にして64個ですが……」

参謀軍師「あの倉庫の木箱は、では他には何が入っていたのだ?」

聖王国兵士「空でした」

聖王国騎士「倉庫入り口付近の木箱にだけ硝石が入っていて
 その他の木箱は空だった模様です」

参謀軍師「……っ」

聖王国騎士「いかがいたしましょう」

参謀軍師「その他の物資の状況は?」

聖王国騎士「衣料品や防寒具などは、おおよそ5万人分
 食料はこのままの人数で言えばひと月持つかどうか」

参謀軍師「……」

聖王国兵士「また、現在船を建造中ですが
 工具と、タールが大きく不足しています」

507: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 17:29:34.30 ID:iOYUExkP
参謀軍師「まずは、この白夜の国の領内の開拓村から
 強制徴収せよ。それで当面の工具や防寒具などは
 まかなえるはずだ」

聖王国騎士「いえ、それが……。
 事前の報告より白夜王国ははるかに貧しいようなのです。
 さらに、開拓村の殆どが無人で……。
 どうやら付近の国に難民として流出しているようで」

参謀軍師「……南部の乞食国家はこのざまか」

聖王国騎士「これもお耳に入れるべきかとも思うのですが
 諸国の王族や貴族の中には、すでに商人と手を組み
 自国や中央で買い付けた物資の海上輸送を
 始めているようです。
 聖鍵遠征軍内部でも嗜好品を中心に
 価格の高騰が始まっています」

参謀軍師「……っ。勝手なことを」

聖王国兵士「……」

参謀軍師「わかった。価格については教会や
 諸王国ともはかって適切な手を打つとしよう。
 海上運送については窓口を一元化し
 必需品の価格を統制する」

聖王国兵士「はっ」

参謀軍師「硝石については、追って調べろ。
 そもそも蒼魔族が半分しか持たずに我らを罠に
 かけたとは考えにくい。
 おそらく、何者かが硝石を持ち出したのだ。
 馬車で数百台にもなる荷物、
 人目につかずに隠しおおせるわけもない。
 難民にも聞き取り調査を行なえっ」

聖王国騎士「はっ!!」

512: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 17:55:06.67 ID:iOYUExkP
――冬越しの村、森の中

 ヒュッ! シュバッ!!

勇者「……っ!!」

 ヒュワン、シュバンッ!!

勇者「はっ!!」

女騎士「……」じぃっ

ビシッ!! ギリギリギリッ!

勇者「“雷雲呪”っ! “落雷呪”っ!!
 おおぉぉぉぉ!! “電撃呪”っ!!」

ビッシャーン!!!

勇者「はぁ……はぁ……」
女騎士「おい、勇者」

勇者「え? あ。女騎士」

女騎士「張り切りすぎだ、勇者。顔が真っ青じゃないか」

勇者「そんなことはない。リハビリだし」

女騎士「……」

勇者「もっともっと力を付けないと」
女騎士「勇者」

513: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 17:56:41.71 ID:iOYUExkP
勇者「へ?」

女騎士「いいから、ちょっと来い」ぎゅ

勇者「痛たた。なんだよ」
女騎士「それ以上は練習禁止」

ざっざっざっ

勇者「そんなこと言われたって」
女騎士「見てて痛々しいよ」

勇者「そうかなぁ……」
女騎士 こくり

ざっざっざっ

勇者「でも、他になんにも取り柄がないしさ」
女騎士「そんなことも言うな」

勇者「……」
女騎士「勇者は別に戦闘が強いから勇者になった訳じゃない」

勇者「光の精霊の啓示を受けたからだろう?」
女騎士「ちがう」

勇者「じゃなんだよ」
女騎士「さぁ……。わたしにも判らないけれど」

ざっざっざっ

514: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 17:58:10.26 ID:iOYUExkP
――冬越しの村、湖畔修道会、本部修道院

勇者「でかくなったなぁ」
女騎士「色々建て増しした結果だ。
 ただいま……。戻ったよ」

修道士娘「院長。あ、それに剣士様」

勇者「どもども」しゅたっ

女騎士「湯は沸いているか?」ぐいぐい

勇者「いい加減はなせよ。耳千切れる」
女騎士「だめだ」

勇者「恥ずかしいっての」

修道士娘「ええ、水晶農園の方でしたら」

女騎士「ありがたい。行くぞ」

ざっざっざっ

勇者「ちょ、ま。まっ」

女騎士「少しも待たない」

修道士娘「院長さま、ご武運を~」

517: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 17:59:48.16 ID:iOYUExkP
――冬越しの村、湖畔修道会、本部修道院、水晶農園

がちゃん!

勇者「う、うわっ」
女騎士「どうした?」

勇者「すごい湯気だな」

女騎士「湯で暖房しているんだ。
 暖かい地方の植物を試験的に育てる仕組みだからね」

勇者「そうだったのか」
女騎士「初めてか?」

勇者「ああ、初めてだ。有るってのは聞いてたけれど」

女騎士「こいつはとんでもない金食い虫だよ。
 魔王に言われて作ってはみたものの、
 毎年暖房費が馬鹿にならないのし」

勇者「そりゃそうだろうよ」

女騎士「よし、ここだ」
勇者「ん?」

女騎士「湯だよ。暖房に使う湯の一部を、
 湯浴みに使えるようにしてあるの。
 汗を流したいだろ?」

518: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 18:01:48.89 ID:iOYUExkP
勇者「ああ、それはありがたいけど」

女騎士「脱げ」
勇者「脱げるよっ! 1人でっ。
 ってかこっちくるなよっ! へ、変態っ」

女騎士「変態とは失敬だな。一緒に入るなんて云ってない」
勇者「じゃぁなんだよっ」

女騎士「背中を流す」
勇者「~っ!!」

女騎士「いいじゃないか、腰には布でも巻いておけば」
勇者「そりゃそうだけど」

女騎士「ほら、脱げ」
勇者「判ったよ。脱ぐよっ! あっち向いてろよ」

女騎士「最初から素直に云えばいいんだ」
勇者「軽く負けた気分なんだぜ」

女騎士「もういいか?」
勇者「まだっ。だめだっ」

女騎士「ふむ」
勇者「……」もそもそ

女騎士「もういいだろう?」
勇者「むぅ。いいぞ」

519: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 18:02:44.24 ID:iOYUExkP
女騎士「良し、そこに座れ」
勇者「こうか?」

女騎士「湯をかけるからな。熱かったら云えよ?」
勇者「うん」

女騎士「~♪」

ざっぱーん

勇者「うわ、あったけー」
女騎士「気持ちよいだろう?」

勇者「おお。いいな!」

ざっぱーん

女騎士「冬場に招待できないのが残念だ」
勇者「なんでさ? 冬の方が気持ちよいじゃないか」

女騎士「冬にここで湯に入ったら、
 魔王の屋敷に帰るまでの雪の中で、
 湯冷めどころか凍り付いてしまう」

勇者「ああ、そういえばそうだな」

ざっぱーん

女騎士「……泊まっていけばいいんだけどな」
勇者「へ?」

女騎士「なんでもない」

531: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 19:57:29.96 ID:iOYUExkP
ざっぱーん

女騎士「~♪」 ごしごしごし

勇者「それ、なんだ?」

女騎士「柔らかいブラシだ。豚の毛で出来てる」
勇者「気持ちいいなー」

女騎士「だろう? わたしも愛用の品だ」
勇者「そうなのかぁ」

ざっぱーん

女騎士「~♪」 ごしごしごし

勇者「なんか、すごい手際がいいな。得意なのか?」

女騎士「仮にも騎士だからな。ブラッシングは得意だ」
勇者「そうなのか?」

女騎士「痒い所はないか?」
勇者「耳の後ろかな」

女騎士「よしきた」 ごしごし
勇者「はぅー」

女騎士「言葉がしゃべれる生き物の相手なんてちょろいものだ」

532: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 19:58:45.26 ID:iOYUExkP
勇者「なんのことだ? 今ひとつ良く判らないな」
女騎士「こちらの話だ」

ざっぱーん

勇者「ううっ」ぶるぶるっ
女騎士「耳に入ったか? 済まないな」

勇者「平気だ」

女騎士「次は腕だ、右腕をかせ」
勇者「うん。あー」

女騎士「~♪」 ごしごしごし
勇者「えっとさ」

女騎士「なんだ?」
勇者「いや、なんでもないけど……」

女騎士「変なヤツだな」
勇者「……いや、変じゃないんだけど」

女騎士「?」
勇者「くすぐったいのですが」

女騎士「男だろう? それくらい我慢しろ」

勇者「男だから我慢できないと云うこともあるわけで」

534: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:01:46.50 ID:iOYUExkP
女騎士「もうちょっとだから」 わしゃわしゃ
勇者「ううー」

女騎士「真っ赤だぞ」
勇者「女騎士が服着ててほんと助かってる」
女騎士「?」

勇者「熱い。水掛けて」
女騎士「うん、わかった」

ざぱーん

勇者「ふぅ……」

女騎士「次は左手を貸せ」
勇者「うん」

ごしごしごし

女騎士「勇者は、ちょっと頑張りすぎだと思うぞ」
勇者「……」

女騎士「少なくとも、わたしは、勇者に助けて欲しくて
 勇者を好きになった訳じゃない。それは多分、魔王も一緒だ」

勇者「え……。うぅ」
女騎士「何を真っ赤になってるんだ?」

535: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:03:02.46 ID:iOYUExkP
勇者「いや、そんなことを突然云われても……」

女騎士「ああ、そうか。
 面と向かっていったのはもしかして初めてだったかなぁ。
 わたしは勇者のこと、好きだぞ。
 好きじゃない相手の剣になりたい訳がないだろう?」

勇者「……」

女騎士「固まっちゃだめだ」 ごしごしごし

勇者「えっと、すまん」

女騎士「うん。良いんだ。時間がかかるのは理解したから」
勇者「……?」

女騎士「勇者は強いよ。戦ったら、多分わたしなんか
 足元にも及ばないだろう? 
 でも、だから、その方法で強くなるのはもう限界だと思う」

勇者「……」

女騎士「限界というか、その方向で強くなっても、
 もう実際には勝てる相手は増えないんだ。最強なんだから。
 勇者が強くなるには、もっと自分を好きにならないと」

勇者「……そんなの出来るわけないし」

女騎士「出来るよ」
勇者「……」

ざっぱーん

536: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:04:20.97 ID:iOYUExkP
女騎士「絶対できると思うぞ?」
勇者「そうかなぁ」

女騎士「一緒に旅をしていた頃の勇者も優しかったけれど
 今の勇者の方が何倍も優しいし、何倍も大きいさ」

勇者「……」

女騎士「だから、今勇者が抱えている悩みや、苦しみも
 そう言うの全部綺麗になくなるなんて云えないけれど
 もし仮に抱えたままでも、もっと強くなれるよ」

勇者「そうなれば、いいな」

女騎士「よっし。流すぞ~」

ざっぱーん!

勇者「これで終わりか?」

女騎士「いーや、ユブネに入る」
勇者「ユブネってなんだ?」

女騎士「そこの大きな桶だ。お湯が入ってる。
 肩まで湯につかるんだ。サムラーイの修行らしいぞ?」

勇者「そうだったのか。サムラーイなら仕方ないな」

女騎士「身体を煮ることによって精神を鍛えるんだ」
勇者「精神……。俺に足りないのはそれだな!」 くわっ!

女騎士「100数えるまで出ちゃだめだぞ」

546: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:29:52.78 ID:iOYUExkP
――冬の王宮、広間、対策本部

冬寂王「ふむ……。ではこれで」
妖精女王「ええ、準備は良いようですね」
羽妖精侍女 ぱたぱた

執事「よろしかったですな」

冬寂王「うむ。とりあえず、停戦、および平和条約の
 締結に向けての一歩を記すことが出来ましたな」

商人子弟「内容の方を一応確認いたしますと
 まず第一に大空洞から距離10里を中立地帯とし、
 その内側への武力介入の原則禁止。
 前二回の聖鍵遠征軍遠征、および極光党戦役における
 捕虜の引き渡し条項。また、同戦闘の責任追及の禁止。
 以降、互いの領土内にある事物の
 所有権を主張することの禁止。
 冬の国首都、および開門都市において
 互いの領事館を作りその連絡に努める。
 ……こうなっております」

冬寂王「何度か確認させていますが、
 念を押しますとこの条約は南部連合として行なうものであり
 連合加盟国の合意と署名は受けていますが
 中央諸国家のそれは受けていない。
 そのことを理解していただけるよう……」

従僕「……」

妖精女王「ええ、理解しています。あとはこの書類を
 わたしの側では、氏族会議の書き族長から、
 書名をいただいて」

冬寂王「こちら側では連合参加諸国の書名を全て記入し
 互いに交換すれば、締結ですな。内容についての
 判断は終わっているので、あとは形式的な処置と
 なりますが」

547: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:31:19.16 ID:iOYUExkP
妖精女王「この一歩は偉大な一歩です」
羽妖精侍女「デスデス」

商人子弟「そうなればよろしいですね」

執事「ところで、鉄の国の氏族連合軍の件はいかがしますか?」

妖精女王「蒼魔族があのように瓦解した以上、
 魔界へと引き上げさせるべきかと考えますが、
 連合のお考えはいかがでしょう?」

冬寂王「こちらとしても異存はありません」

妖精女王「では、近々知らせを立たせましょう」
羽妖精侍女「ハーイ」

商人子弟「さて、これからも忙しいですね」
従僕「はいっ」

執事「課題は山積みですなぁ」

冬寂王「我らがこれを言うのもなかなか微妙ですが
 中央諸国は白夜王国を占領し、新生白夜直轄領を
 宣言しました」

妖精女王「直轄領……」

冬寂王「教会勢力の運営地、ということですな。
 これにより、彼らは極大陸への足がかりを得たことになる。
 報告の知らせによれば、彼らは魔界へと侵攻し
 『聖骸』なるものを狙っているとか」

548: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:33:08.47 ID:iOYUExkP
妖精女王「その話は聞いておりますが、
 『聖骸』などというものはわたしも知りません。
 氏族会議でも学者に調べさせているはずですが
 現在までの所それが何であるかは判っていないのです」

羽妖精侍女 ぱたぱた

商人子弟「ふむ」

冬寂王「あるいはそれは実在しないのかも知れませんな」
商人子弟「そうですね……」

妖精女王「どういう事でしょう?」

冬寂王「ただ単純に領土的欲求を強く持った中央の諸国家が、
 地上から見て新たな可能性に満ちているように見える
 魔界に発展の余地を見いだし侵略する。
 その口実としてのでっち上げかも知れないという意味です」

妖精女王「その可能性は、悲しいですがあるのでしょうね」

執事「ですが、同時に彼らは『開門都市』の攻略をも
 予定しているようです。
 確かにゲートをくぐり抜けた、いままでは大空洞ですか。
 それをくぐり抜けた先で、魔王の城へと向かうのであれば
 あの都市は理想的な補給位置にあるのですが、
 だからといって他に目標と出来る場所が
 全くないわけでもなく。意図は良く判りませんな」

妖精女王「ええ、鬼呼、蒼魔、人魔のいずれの領地で
 あっても攻め得たはずです。確かにあの当時は我ら
 魔界の氏族は互いに不信感を居抱き合い、
 連携面では問題が多くありましたから、
 そこを突くには、竜族の保護下にありながら比較的
 開放されていたあの都市を落とすのが
 楽だったのでしょうけれど」

550: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 20:35:45.65 ID:iOYUExkP
執事「しかし、今度はちがうのでしょう?」

妖精女王「はい。今回は氏族会議の結束も固くなり
 決して望みはしませんが、以前のようなことはないかと
 考えています」

冬寂王(だが、魔界は未だにマスケット銃なるものを
 十分に理解していないのではないだろうか?
 あの武器が充分に配備された兵が、
 本当に十万もいるのだとすれば、魔界の抵抗などは
 薄紙のごとく破れてしまうに違いない……)

妖精女王「私たち妖精族は、身体も大きくはありませんし
 魔力はともかく、戦闘能力には劣ります。
 ですから、戦争は是が非でも避けたいのですけれどね」

商人子弟「そうですね、戦争にならずに済むのが
 一番ありがたいんですが」

冬寂王(それは難しいだろうな。
 ……ここまで諸国家や貴族を巻き込んでしまった以上、
 一戦も交えずに帰るというわけにはもはや行くまい)

執事 ちらり

冬寂王「ええ、それが最も望ましい結果ですな。
 しかし、同時に備えなくしての平和もまた
 あり得ないでしょう。
 大氏族会議の皆様方、また魔界を統べるという魔王に、
 くれぐれもよろしくお願いいたします」

556: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:05:00.94 ID:iOYUExkP
――冬越しの村、魔王の屋敷、執務室

魔王「んっ。うぅーん」ぽきぽき
メイド長「お背中が痛いですか? まおー様」

魔王「うむ、ちょっと根を詰めてしまった」
メイド長「肩でもおもみしましょうか?」

魔王「たのむぅ」
メイド長「ぐてぐてしてらっしゃいますね」

魔王「うむ……」
メイド長「手強いですか?」

魔王「なかなかになぁ。方策は思いつくのだが
 工作精度や冶金技術は一足飛びには上がらぬ。
 工具を作るための工具も必要だと思うし……」

メイド長「そうですねぇ」

魔王「あの遠征軍とやらは何とかならぬのかなぁ」
メイド長「そんなにあれが問題ですか?」

魔王「へ?」
メイド長「いえ、そんなに強大な脅威だとは
 思えないのですよね」

魔王「そうか?」
メイド長「はい」

557: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:07:51.03 ID:iOYUExkP
魔王「どうする気だ?」

メイド長「いえ、出かけていって、
 首脳部を100人ばかり上から順に殺せば済むのではないかと」

魔王「ああ、まぁ、確かにな」
メイド長「……」

魔王「だが、それで皆は納得するのかな」
メイド長「納得、ですか?」

魔王「ああ、納得だ」
メイド長「判りませんね」

魔王「そうだなぁ。うん。
 実を言えば、わたしの当初考えていた課題は
 殆どクリアされているんだ。
 
 たとえば、人間世界側の飢餓の問題は、
 馬鈴薯および玉蜀黍の栽培で随分緩和された。
 もちろん政治指導の混乱で飢餓が起こりえることは
 あるだろうが以前のような、
 根本的な飢餓は少なくなったと確信できる。
 また、女魔法使いの助力も得て種痘が広がり始めた。
 人間世界も魔界も、これで人口は増え始めるだろう。
 
 人間世界には南部連合なる経済圏が誕生し、
 しばらくは軍事的緊張が続くだろうが、
 その状況さえ乗り切れば、
 中央諸国家とも良い関係が築けるのだと思う。
 
 中央側がどう考えようと、多様性は世界安定の鍵だ。
 二つの経済圏が存在した方が、発展の速度も安定度も
 増すことは確実なのだからな」

559: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:12:03.81 ID:iOYUExkP
魔王「また、魔界では長い間続いていた種族間のわだかまりも
 合議制の会議と、いくつかの事件を経てゆっくりとだが
 融かされつつある。魔族という氏族社会に、人間という
 異分子が紛れ込んだことによって、潤滑油的な効果が
 有ったのかも知れない。
 
 現在進んでいる交易街道の計画は、
 確実に氏族同士の架け橋となるだろう。
 魔界は歴史の新しい局面へと入ったのだ。
 
 こうして考えてみると、
 “人間界の飢餓”“南部と中央の使役関係”
 “魔界の側の氏族間の対立”。
 どれも解決の道しるべは出来たのだ。
 
 もちろんいずれも根の深い問題だし、
 これからもトラブルはあるだろう。
 だが、それらは乗り越えられないものではないはずだ。
 またそれら全てをわたしが背負うつもりもない。
 ここはみんなの住む世界なのだから、みんなだってその
 進歩には参加してもらわねば困る」

メイド長「そうですね」

魔王「しかし、だとすると、
 今これから起きようとしている戦争
 ……つまり、中央の教会が考えている第三次聖鍵遠征軍は
 “システム上避けえない戦争”では無いということになる。
 
 追い詰められて否応なく行なう戦争ではない。
 欲望に駆られたのか、
 それとも何らかの狂信によるものなのかは
 わたしには判らない。
 けれど、そこには飢餓や経済的な逼迫とは
 また別種の力学が働いているように思われるのだ」

560: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:16:25.99 ID:iOYUExkP
魔王「だが、以上の考察を正しいとすると
 原因を取り除く……、つまり、食糧の自給率を
 上げるであるとか、話し合いによって氏族間の鬱積した
 わだかまりを低下させるとか、
 その種の手法で解決させられるのかどうかは疑問だ。
 
 聖鍵遠征軍首脳部にはそれなりの能力もあれば損得勘定も
 有るのだろうが、少なくとも参加している民衆は
 宗教的な情熱に突き動かされているわけであろう?
 そうであれば、損得勘定で矛を収めさせることも
 難しいと予想することが出来る。
 
 これはなかなかの難問だ。
 そんな彼らを“納得”させる方法は、
 暗殺なんかじゃないと思うんだよ」

メイド長「ではなんです?」

魔王「その答えがわからないから悩んでいる」

メイド長「困りましたね」ぎゅぅ
魔王「ううう。痛いぞ。メイド長」

メイド長「すみませんっ」なでなで

魔王「何か見落としているような、
 間違っているような気もする」

メイド長「そうなんですか?」

魔王「食糧の問題も雇用の問題も外交の問題も
 経済を中心に回っている。
 経済が上手く行かなければ世界は幸せにはなれない。
 でも、経済が上手く行くだけでも
 幸せにはなれないのかもしれないな……」

563: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:47:45.37 ID:iOYUExkP
――鉄の国南部、辺境の森、獣人族の大天幕

ばさっ

東の砦将「よう!」

軍人子弟「お邪魔しているでござるよ」

東の砦将「あんたも飽きないな!
 こんな森の中へ何度も何度も。
 何か面白いことでもあるのか?」

軍人子弟「面白いもなにも、見ず知らずの世界の話が
 聞けるなんてそうそうできる事じゃないでござるよ」

メイド妹「うんうんっ♪」

東の砦将「そりゃそうだが。おや?
 ……こっちのちっこいお嬢さんはなんだい?」

軍人子弟「ああ、これは拙者の妹分でござる」
メイド妹「ござるー♪」

東の砦将「元気いいなっ!」
獣牙戦士「面白い娘だぞ」

東の砦将「そうなのか?」

人間傭兵「なかなかに気合いが入ってるな。あははは」

564: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:49:17.76 ID:iOYUExkP
軍人子弟「今日の所は、差し入れにきたでござる」
メイド妹「うん、そうそう!」

東の砦将「差し入れ?」

獣牙戦士「すごく美味いぞ」

軍人子弟「この娘は、なんというか、
 料理の妙を心得てござってなぁ」

メイド妹「どんどん食べて!」
  「美味いぞう」「おう、たいしたもんだ!」

人間傭兵「もういっぱいくれや」
東の砦将「ほほう」

軍人子弟「本人の希望もあって今日は一緒にきたでござるよ」
メイド妹「ですです。魔界のお料理の話も聞きたかったから」

東の砦将「そうかそうか。嬢ちゃんは料理人かい」
メイド妹「未来の宮廷料理人ですっ」

ばさっ

銀虎公「何事か?」

軍人子弟「本日もお邪魔させていただいたでござる」
銀虎公「ふむ」

軍人子弟「もうそろそろご出立だとか」

565: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 21:52:06.96 ID:iOYUExkP
銀虎公「今朝知らせが入った。
 偵察部隊と合流の上、明後日には出立する」

軍人子弟「ならば、それまでには是非、一献なりと
 さしあげないと、帰すに帰せないでござる」

銀虎公「……」

軍人子弟「人間界の酒も、決して悪くないでござるよ。
 これは、鉄の国で取れた強い酒でござる。
 雅な華やかさはないでござるが、この大地の酒でござる」

銀虎公 ちらっ「料理を振る舞ってくれたのか?」

メイド妹「美味しいので一杯どうぞっ」

銀虎公「物怖じしないのだな」
軍人子弟「拙者の妹分は特別でござるよ」

メイド妹「ささ。熱いうちに!」
銀虎公「いただこう」

軍人子弟「酒もつぐでござるよ」
銀虎公「うむ」

とくとくとく……

軍人子弟「魔界には月がないと聞いたでござる」

東の砦将「ああ」ごっくごっくごっく
銀虎公「あの、白いものか」

軍人子弟「今宵は月が沈むまで飲むでござるよ」

572: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:18:10.44 ID:iOYUExkP
――蔓穂ヶ原にほど近い廃砦

ガサガサッ!!

傭兵斥候「おい。まずいぞっ!」

ガサガサッ!

傭兵弓士「どうしたんだ?」

傭兵斥候「遠征軍の部隊が、こちらに向かってくる。
 マスケットとか言うヤツも一緒だ」

ちび助傭兵「どれくらいなんだ?」

傭兵斥候「随分横に大きく広がってて判らない。
 一つの部隊は20人~50人くらいだが、
 そんな部隊がわんさとある。
 どうやら、硝石を持ち逃げしたのがばれたらしい」

傭兵弓士「そりゃぁ、あんだけ難民にも見られているしな」

器用な少年「や、やばいじゃないか! 逃げようぜ」

生き残り傭兵「そうも行かない」

ちび助傭兵「ああ、逃げてはだめだ」
若造傭兵 こくり

574: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:19:31.61 ID:iOYUExkP
器用な少年「なんでだよ。相手はあの火を噴く杖を
 持っているんだぞっ! 俺っちたち、殺されちまう」

生き残り傭兵「だが、俺たちはもう傭兵じゃないしな」
ちび助傭兵「うん」

器用な少年「傭兵じゃないか!」

生き残り傭兵「いいや。隊長が残した約束と、
 貴族の旦那の約束を信じれば、俺たちは冬の国の、
 そして白夜の国の騎士なんだぜ?」

ちび助傭兵「そうだ。騎士は逃げない」

器用な少年「なに馬鹿言ってるんだよっ!
 あんちゃんなんか逃げまくりだぞ!?
 あの人貴族だけど、相当逃げ足のプロだぞっ!」

生き残り傭兵「お前は騎士じゃないから逃げろ」

ちび助傭兵「そうだな」
若造傭兵「まだ距離がある。お前は逃げられる」

傭兵弓士「どれくらいあるんだ?」

傭兵斥候「多分、一日二日は平気だ」

器用な少年「そんな……。だってさ」

575: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:20:33.34 ID:iOYUExkP
生き残り傭兵「さて、どうする?」

ちび助傭兵「……」
若造傭兵「討って出て戦うか、この砦で待ち構えるか」

傭兵弓士「相手が集まる前に、
 少しずつ削っていくしかないだろう」

生き残り傭兵「だが、相手の数を考えれば
 到底削りきれる数じゃないな」

ちび助傭兵「その時はその時だ。
 隊長みたいに勇敢に歌いながら戦えばいい」

器用な少年「ばっ。ばっかじゃねぇの!?
 ばっかじゃねぇの。
 3回言っちまうぜ。お前らばっかじゃねぇの!?」

ちび助傭兵「おまえ、隊長を馬鹿にするなっ」

器用な少年「するよ、しちゃうね、しちゃうとも!
 こんなところで戦ったって、別に誰も喜ばないし、
 ただの犬死にじゃねぇ。
 そんなの格好悪い騎士だっての。
 もっかいいうけど、ばっかじゃねぇの?」

生き残り傭兵「騎士は逃げない」

器用な少年「なに守るんだよっ。
 もう白夜王国なんて終わっちゃってるんだぞ。
 守るモノ無しで戦おうなんてかっこつけだっての!!」

577: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:24:17.28 ID:iOYUExkP
若造傭兵「……」

傭兵弓士「だからといって、逃げてこいつを
 奪われてしまったら困ったことになるのではないか?」

生き残り傭兵「そうだな。貴族の旦那が隠した理由も
 それだろう。この硝石というのは、敵の火を噴く筒の
 秘密に関係があるんだ」

器用な少年「多分、関係あるけどさ。そりゃ……」

生き残り傭兵「だったら、これを奪われるわけには行かない」

ちび助傭兵「そうだな」
若造傭兵「やはり闘うしか、ないか」

ガサッ

傭兵弓士「だれだっ!!」

貴族子弟「やぁ」
メイド姉 ぺこり

器用な少年「あんちゃん!! 帰ってきたのか!!
 ……こっちの人は誰?」
生き残り傭兵「貴族の旦那!」

貴族子弟「こんな事になるんじゃないかとはうすうす
 思っていたけれど。
 済まないね、こんな場所で見張りをさせて」

ちび助傭兵「いや、これは仕事だ」
若造傭兵 こくり

578: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:27:26.81 ID:iOYUExkP
傭兵弓士「旦那、どうやら遠征軍が嗅ぎつけた。
 連中はここを目指しているし、これだけの荷物は
 今から馬車を調達しても簡単には運べない」

生き残り傭兵「運び出せても、後ろから追われてしまう」

器用な少年「だから逃げろって云ってやってくれよ。
 あんちゃん頼むよ、後生だからさっ!」

貴族子弟「どうします? 二代目」
メイド姉「……」

ちび助傭兵「二代目?」
若造傭兵「?」

貴族子弟「ああ、この部隊もいつまでも隊長無しでは
 困ると思ってね。で、苦労して探し出してきたんだ。
 ……新隊長だよ」

ちび助傭兵「え? でも。……女じゃないですか」
若造傭兵「冗談だろう?」

貴族子弟「いやいや、冗談じゃないよ」
メイド姉「はい。お誘いを受けました」こくり

ちび助傭兵「俺たちの隊長は1人だけだっ」
傭兵弓士「隊長が居なくても、俺たちはやっていけるっ」

メイド姉「判っています。事情も聞きました。
 しかし、氷の国は、連絡用の名目であっても
 隊長に当たる人物が居ないと困ると言うことなんです。
 たとえそれが肩書きだけであっても」

582: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:32:50.39 ID:iOYUExkP
貴族子弟「そして、君たちを預かっている
 このぼくが推薦するのが彼女だ。云っとくがとびっきりだぞ?」

メイド姉「……」ぎゅ

ちび助傭兵「頼りになるのかよ」
若造傭兵「……」

傭兵弓士「そんなことより、いまはこの場の戦闘を
 どうするかの方が先だ」

器用な少年「逃げるってば!」
生き残り傭兵「それこそ隊長の腹一つだろうよ」

貴族子弟「だ、そうだよ?」

メイド姉「まず第一にわたしは隊長になるつもりはないです。
 ――代行、とでも呼んでください。
 時期が来たらこの騎士団生え抜きの人の中から
 新しい隊長が決めればそれで良いと思います。
 それから、わたしは戦闘は苦手です。
 剣の振り方は多少習いましたが、戦闘指揮なんて
 やったこともありませんし、出来るとも思えません」

傭兵弓士「それじゃなんの役にも立たないじゃないか」

生き残り傭兵「なんのための司令代行なんだよ」

メイド姉「わたしは民間人ですから、騎士団の……。
 ここにいる皆さんが護ってくれると信じています」

583: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:35:35.10 ID:iOYUExkP
ちび助傭兵「へ?」
若造傭兵「……」

メイド姉「次に、わたしは皆さんを
 戦闘以外のものから護ります。
 戦闘で護ってもらうのとおあいこですね。
 それからわたしは今から行かなければ
 ならない場所がありますし、どうしても護衛が必要なんです」

ちび助傭兵「訳がわからないぞ」
若造傭兵「……」

傭兵弓士「頭は大丈夫なのか? なぁ、貴族の旦那」

貴族子弟「ああ、保証する。
 保証はするんだが、この娘さんは僕らの兄妹弟子でも
 相当にとびっきりでね。真面目になればなるほど、
 頭がおかしい人と思われてしまうんだ。
 後から考えるとなるほど、と言った具合なんだけどね。
 それ側が師匠の教えを受けた生徒の悪癖なんだなぁ。
 出来れば温かく見守って欲しいな」

メイド姉「お願いします」

ちび助傭兵「そんなこと言われてもなぁ」

傭兵弓士「逃げるか闘うか、それを聞かせてくれ。
 逃げるって言うなら、俺はあんたを認めないぜ」

器用な少年「逃げなきゃ死んじまうよ!!」

メイド姉「なぜ択一なのですか?」

傭兵弓士「……はぁ?」

メイド姉「逃げるけれど闘う。あるいは逃げない上に
 闘わない。そう言った選択肢を選びたいと思います」

588: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 22:59:48.76 ID:iOYUExkP
――人間界、極大陸、凍てつく大地

光の斥候「目視では付近に人影有りません」

光の兵士「あんまり遠くを見るなよ。
 白すぎて目がつぶれちまうぞ」

光の銃兵「そうだな。斥候に任せよう」

光の船乗り「ふぅ。そりの方も大丈夫だ」

光の斥候「思ったよりも、寒さも雪もないな」
光の兵士「足下の凍土だけか」

光の銃兵「この凍土の中を進むんですか?」
光の船乗り「もちろんだ」

光の斥候「ほんの150里ほどです」
光の兵士「ほんの、で済むか。こんななんにもない大地を」

光の銃兵「だが、商人達の使う通商道が近くにあるはずだ」
光の船乗り「それを探すのが先決だな」

光の斥候「もし商人の部隊に遭遇したら?」

光の兵士「俺たちがここに居るのは軍事機密なんだ。
 知られるわけにはいかないさ」

光の銃兵「お前だって久しぶりに、
 あばら肉のたっぷり入ったスープが飲みたいだろう?」

590: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:15:04.09 ID:iOYUExkP
――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場

巨人伯「今日は……最初、おれ……」
碧鋼大将「うむ」

巨人伯「山の穴を三つ……作った……俺たちは……
 工事は……得意だ……」

鬼呼の姫巫女「設計から拳五つの幅のずれもなく
 両側から掘り抜き連結されたそうだな」

火竜大公「ほう! それは見事な」

巨人伯「わが……巨人族……高く、買ってくれ……」
鬼呼の姫巫女「鬼呼の土木組もよろしく願いたい」

火竜大公「ふぅむ。取り急ぎ、我が領地と開門都市のあいだ。
 そして開門都市と旧蒼魔族の領地のあいだの道の補修を
 頼みたい所だな」

副官「それらの資金については、例の札および
 我が開門都市自治員回の補助金でまかなうことが
 可能だと思っております」

巨人伯「……よかった」
鬼呼の姫巫女「うむっ」

火竜大公「よろしく頼むぞ」

碧鋼大将「こちらもそれはありがたい。
 旧蒼魔族の領地の統治には大きな助けになるだろう」

591: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:16:53.76 ID:iOYUExkP
紋様の長「そうだ。その蒼魔族の様子はどうなのだ?」
鬼呼の姫巫女「うむ」

碧鋼大将「問題は多い。まずは物資面だ」

紋様の長「ふむ」

碧鋼大将「特に衣料品と食糧が不足している。
 蒼魔軍はこれらの品に関しては
 かなり大規模に持って行ってしまったようだ」

副官「食料に関しては、我が都市の備蓄から
 当面必要な分は移送しましたが、
 おそらくはまだ足りないかと」

鬼呼の姫巫女「鬼呼の地は豊作だったゆえ、
 今年の食糧備蓄は潤っておる。送ろう。
 代金は、金属でかまわぬ。なに、来年以降でな」

碧鋼大将「感謝する」

紋様の長「ほかには?」

碧鋼大将「その他物資面では殆ど不足がない。
 蒼魔の軍は略奪などは行なわなかったので、
 住居や施設が壊されたということもない。
 鉱山などもそのまま残っているので、
 すでに採掘は再開されている。
 
 だが……」

592: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:18:20.22 ID:iOYUExkP
火竜大公「だが?」

碧鋼大将「精神面では、非情に問題がある。
 元々蒼魔族は厳格な身分制をもつ階級社会だった。
 その身分制度の上位陣は軍人が占めていたと言っても良い。
 残された民間の労働者は、身分制度の下半分を構成していた。
 そう言った社会に慣れきっている彼らは、
 指導階級が居なくなり……」

紋様の長「まさか暴動が!?」

碧鋼大将「いや、暴動ですらなく、呆然としてしまったのだ。
 自分たちが“遺棄された”と言う現実を受け入れることが
 出来ないらしい。
 年老いた労働者の中には、精神が弛緩し、空中を見つめた
 ままになってしまう者もいる」

紋様の長「なんと……」
鬼呼の姫巫女「そのようなことになろうとはな」

火竜大公「ふむ……」

巨人伯「こまった……な……」

碧鋼大将「彼らは命令には従順で、
 特に何らかの武器を用いて脅すと、
 勤勉な勤労姿勢を見せるが、そのような管理は
 我らが魔王殿から与えられた任務に背くし
 もちろん、われら機怪族の好む所でもない」

副官「ふむ……」

碧鋼大将「このような事態には、いささか手を焼いている」

593: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:20:29.29 ID:iOYUExkP
鬼呼の姫巫女「しかし、それは一朝一夕には
 なかなか解決しなさそうですな」

火竜大公「うむ」

碧鋼大将「何か良い知恵はないだろうか?」
紋様の長「……」

火竜大公「おそらく、何か、かき混ぜるような
 手段が必要じゃろうな」

巨人伯「かき……まぜ、る?」

碧鋼大将「とは?」

火竜大公「厳格な身分制度とは、思考の硬直化を生むのだろう。
 つまり自分の範囲、自分の周辺だけを見させられることにより
 考え方や知識も凝り固まってしまうのだ。
 効率は多少落ちるだろうが、たとえば鉱山労働者に
 農作業をやらせるであるとか、その逆であるとか。
 人材をかき回して、見聞を広げさせるのがきっかけと
 なるだろう」

副官「良いアイデアだと思います。どうでしょう?
 定期的に、隊商を組織して我が都市に品物をお売りに
 なりにこられては?」

巨人伯「そうだ……道路敷設の……参加も……歓迎だ」

紋様の長「そういえば、着任当初に魔王殿が大学を
 建てるなどと云うことを云っていましたね。
 あれも今考えてみると、これを見越してのことだったのかと」

594: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:22:57.04 ID:iOYUExkP
鬼呼の姫巫女「あの魔王殿なら、そう言うこともあろうな」

副官「ところで、その魔王様はどうなんです?
 それからうちの宿六族長は」

巨人伯「どうだろう……」

火竜大公「うぉっほん! それについては、
 会議宛に報告が届いておる」

碧鋼大将「聞きましょう。蒼魔族については、さきほどの
 ご協力を各族長にお願いすれば、目処が立ちそうだ」

紋様の長「うむ」

火竜大公「まず、地上における第一の目標、
 蒼魔族の討伐に関してはこれを成し遂げたとのこと」

副官「おお!」
巨人伯「よかった……」

火竜大公「そして、その争いの際、
 共闘することになった、地上における国家連合の一つ、
 南部連合とは停戦条約を含む合意に至ったとある」

副官「南部連合……」

巨人伯「南部連合……とは、なんだ……」

火竜大公「この報告によれば、地上の大陸なる場所では
 30以上にもわたる国家が乱立しているとのこと」

595: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:25:05.18 ID:iOYUExkP
副官「国家とは魔界で云う氏族のようなモノです。
 ただし、生まれや出自よりは住んでいる場所を
 基準にした集まりですね。
 たいていはひとつながりの領地をもち、1人の王
 ……族長の指導のもと、領地で暮らしています」

巨人伯「西巨人族と北巨人族のように……
 わかれては……いないの……だな……」

火竜大公「南部連合とは、その中で7つの国といくつかの
 都市を抱え込んだ第2の連合と云うことだ」

副官(三ヶ国通商はそこに着地したのか)

碧鋼大将「そこと停戦条約を結んだのか」
紋様の長「ふむ」

火竜大公「しかし、中央諸国と聖なる光教団はどうやら
 魔界へ三度目の侵攻を企んでいる模様、
 十分な注意が必要である……。こう結んである」

副官(……やはり一筋縄ではいかないようですね)

巨人伯「中央諸国? ……聖なる光教団?」

副官「それは地上の大陸で最も勢力のある教会と国家群ですね」

596: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:26:09.47 ID:iOYUExkP
碧鋼大将「勢力とは?」

副官「20あまりに国が参加した巨大な軍でしょう。
 南部連合ですか。それが成立するまでは、
 唯一にして無二の勢力だったわけです。
 魔族会議に少し似ていますね。
 
 その会議が、第二回の……つまり、我が開門都市が
 人間に攻められた時のような聖鍵遠征軍を組織して
 魔界に攻め込むという決定を下したと。
 
 その辺のことは詳しくは書いてないのですか?」

火竜大公「そなたの所の族長から、そなたあてに
 書状が同封されておるぞ。ほれ」

ペラッ

副官「ふむふむ……。おい。……あちゃぁ」

ペラッ

副官「……」

紋様の長「何が書いてあるのです?」

副官「えーっと、こちらは数字入りの詳しい戦況解説です。
 まず、先ほど解説した、聖鍵遠征軍ですね。
 これは中央諸国が聖なる光教団の指示のもと招集した
 軍なわけですが、すでに成立して出発しています。
 かれらは、白夜の国」

碧鋼大将「蒼魔族が占領したという?」

副官「そうです。その白夜の国を蒼魔族から奪い返し、
 自分たちの領土としてしまったようです」

597: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:28:01.25 ID:iOYUExkP
碧鋼大将「それは、人間の世界では良くあることなのか?」
紋様の長「他の氏族の領土を奪うという」

副官「あまりあることではありませんが、
 全く聞かないと云うほどのことでもありませんね。
 しかし問題なのはむしろ、これらの行動はどうやら
 意図的だったということのようです。
 白夜の国は、極大陸へ航海する場合への
 玄関口になり得ます。
 
 どうもうちの大将は、聖鍵遠征軍は港を欲しいがために
 白夜国を落としたのじゃないかって勘ぐっているようですね。
 
 軍の規模は、約20万。さらに増えていますが……。
 その全軍を持って魔界へ侵攻するというのが
 彼らの目的であろうとのことです。
 20万は、第二次の倍ですよ」

巨人伯「……人間が……くるのか」

碧鋼大将「攻めてくる人間と停戦条約をするとは
 魔王殿も解せぬことを」

鬼呼の姫巫女「人間とひとくくりには出来ぬ。
 そう言うことだろう。我らと蒼魔族のようなものよ」

副官「そうですね。その南部連合に含まれている国々は
 この書状にもありますが、冬、氷、鉄、湖、葦、梢、赤馬。
 数こそ七つと少ないですが、どれも特産品があったり
 面積が広かったりとなかなかに強力な国々です。
 
 もしこの停戦協定がなかったとしたら、
 魔界に攻め込んでくる軍勢は30万になったかも知れない」

600: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:35:13.39 ID:iOYUExkP
巨人伯「……そうか」
碧鋼大将「ふむ」

鬼呼の姫巫女「いや、それ以上だろう。
 もし、その七つの氏族を中立に出来なければ、
 攻め込んでくる軍勢の数が増えるばかりか
 その軍勢は背後の敵を気にせずに向かってこれる。
 
 南部連合とやらが魔族と停戦をしたからには、
 聖鍵遠征軍都やらは南部連合の動きにも
 注意を払わねばならぬのが道理だ。
 
 銀虎公、そして衛門の族長。
 何より魔王殿は戦うことなく10万の敵を討ったに
 等しい働きをされたと思うぞ」

火竜大公「その通りだな」

副官(魔族でも族長ともなれば、
 なんて早い飲み込みをするんだ……)

巨人伯「だが……それでも……20万……」

碧鋼大将「戦になるというのは確実なのか?」

副官「それはわたしには判りません。
 おそらくそうならないように魔王様は
 お残りになっているのかと思うのですが」

601: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:36:54.91 ID:iOYUExkP
巨人伯「どうすれば……よい……?」
碧鋼大将「ふむ」

紋様の長「どう思う、副官殿は」

副官「それがしは一介の副官に過ぎませんが……。
 
 この書状には、その聖鍵遠征軍の持つ新しい武器
 マスケットなるものについても書かれて居ます。
 詳しくはまた説明してくださるとも思いますが
 強力な新兵器だとか。やはり、ここは戦争の
 対策を練らざるをえないでしょう。
 当面は軍の再確認と装備などの補充、練兵、
 指揮系統の確認。
 その後戦場となる可能性のある地域の測量、
 および連絡体制の強化。物資の貯蓄量の確認ですか。
 
 その後のことについては、魔王様が戻ってくると思います」

鬼呼の姫巫女「戦場となる可能性のある地域、か」

火竜大公「おおよそ大空洞の近くであろうな。
 殆どは荒れ地だが、候補となると……
 わが竜族の領域、開門都市、鬼呼族の辺境、
 そして旧蒼魔族の領域か」

巨人伯「……監視」

碧鋼大将「そうですな。監視網を引き続き充実させるべきです」

紋様の長「妖精の一族の女王は地上におられますが、
 妖精族は引き続き監視を行なってくれています。
 伝令も我が一族が受け持つでしょう」

鬼呼の姫巫女「では当面はそう言った雑事を片付けるとしよう」

火竜大公「うむ。おのおの方も気付いたことあれば
 すぐにでも知らせて欲しく思う」

606: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:47:06.63 ID:iOYUExkP
――霧の国、地方都市、閑散とした市場

ざわざわ……

咳き込む乞食「げふっ。旦那様……。旦那様……。
 どうかこの哀れな乞食に、パンの一切れを……」

痩せた市民「……」カッカッカッ

咳き込む乞食「奥様……奥様……。げふっ、げふっ
 どうか……もう四日もなにも食べていないのです……」

中年の婦人「おおいやだ! 疱瘡もちじゃないか。
 近寄らないでおくれよっ!!」

咳き込む乞食「げふっ、げふっ。どうか……どうか……」

ざわざわ……

  痩せた市民「では、新金貨10枚でどうだい?」
  旅の商人「それでは、半袋がいい所ですね。旦那」

  痩せた市民「なんて値段だ! うちには6人の子供が
   いるって云うのに」
  旅の商人「うちにだってメシを待ってる子供がいるんでね」

ざわざわ……

穀類商人「入荷~! 入荷~! うずら豆にエンドウ豆!
 つやつや張ったまめが入ったよぉ!」

中年の婦人「エンドウ豆、一袋でいくらだい?」

穀類商人「へぇ、金貨6枚と半分で」

607: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/02(金) 23:47:58.61 ID:iOYUExkP
中年の婦人「相変わらず高いね」

穀類商人「このご時世、何処も値段が高くって。
 仕方がありませんや。お買い上げで?」

中年の婦人「はぁ……。一袋。綺麗なまめを
 取り分けておくれよ。病人に食べさせるんだから」
穀類商人「へぇ」

中年の婦人「困ったもんだねぇ。おや、もう日暮れだ」
穀類商人「そうでございますよ」

中年の婦人「教会の鐘は鳴ったかい?」

穀類商人「ご存じないんで?」
中年の婦人「なにをだい?」

痩せた市民「ああ、鐘の話だろう?」
穀類商人「教会塔の鐘は、召し上げられちまって
 融かされちまったんでさぁ」

中年の婦人「融かされた?」

穀類商人「ええ、中央教会にね。精霊のお心に
 叶うためには、今は一つでも多くの武器が必要だって
 云うんで、金は溶けて、魔族を討つ武器になったって
 話ですよ」

中年の婦人「魔族ねぇ……。
 そんなもの、見たこともありやしない」

痩せた市民「どうにかして腹一杯食べさせてくれる。
 精霊さまもそんな恵みを下されればいいのに」

645: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 14:13:44.50 ID:F.ztGjEP
――蔓穂ヶ原にほど近い、森の中、擬装騎士団

生き残り傭兵「たいまつが接近していく。
 俺たちはまだ砦にいると思い込んでいるな。
 距離はおおよそ四半里」

ちび助傭兵「まだまだ引き寄せられる」

メイド姉「いいえ、無用です。火矢をお願いします」

生き残り傭兵「いいのか? 一網打尽に出来るぜ」

貴族子弟「……」

メイド姉「その場合は生き残りが少なく、
 厳しく事情を聞かれてしまうと思います。
 詮索が厳しくなって、目的に沿いません。
 ……それに、大打撃を与えたいわけでもないですし、
 五百人、千人倒した所で戦争が終わるわけでもないですから」

生き残り傭兵「……」

メイド姉「お願いします」

生き残り傭兵「よし、やろう。弓士!」

ぎりぎりぎり

傭兵弓士「ていッ!」 ひゅるひゅるひゅる……ぼっ

生き残り傭兵「着火確認ッ!」

646: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 14:15:41.48 ID:F.ztGjEP
ちび助傭兵「いくか?」

貴族子弟「ええ、離れるとしましょう」
メイド姉「はい」

器用な少年「なんでぇ、見ていかなくていいのかよお?」
貴族子弟「まぁまぁ。少年離れますよ」

がさがさ

生き残り傭兵「これで大丈夫なのか?」
メイド姉「硫黄、硝石、木炭です。はい」

生き残り傭兵「硫黄と木炭はあんなもんで良かったのか?」

メイド姉「当主さまの話によれば、
 原材料の重量比で云う七割五分は硝石ですし、
 そこまで攻撃力を求めているわけでも有りませんから。
 極端に云えば、騒ぎを起こして
 硝石を“使い切る”事ができれば良いわけです」

ちび助傭兵「でも、遅いな。もう燃えたかな」
若造傭兵「燃えてるんじゃないか?」

傭兵弓士「油と藁に着火するのは確認した」

器用な少年「なんでぇ。
 俺っち、あの敵の武器みたいに派手な音が
 するのかと思ってたぜ」

メイド姉「すると思います」

器用な少年「え?」

メイド姉「すると思いますよ。早く離れましょう」

648: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 14:18:04.79 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「でけぇ音がするとなると
 途端に見たい気持ちが湧いてくるなぁ」

ちび助傭兵「いいや、離れるべきだろう。
 中央の聖鍵遠征軍小部隊の間もつまってきている。
 俺たちの人数じゃ、早めに行動しないと発見される」

若造傭兵 こくり
傭兵弓士「そういうこったな」

器用な少年「ちぇーっ」

貴族子弟「あんまりがっかりしないで済むと思うよー」
メイド姉「はい」こくり

生き残り傭兵「?」

ゴッコォォォオオオオオォォォォオオオオオン!!!!

ちび助傭兵「!!」 若造傭兵「っ!」
傭兵弓士「!?」

器用な少年「なっ、なっ、なっ」

貴族子弟「いたた。耳痛いな」
メイド姉「はい」キーン

器用な少年「なんじゃそらぁぁ!! べっくらこくわぼけぇ!」

貴族子弟「騒がしいよ、少年」

649: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 14:20:10.36 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「おったまげたな、ありゃなんだ」
ちび助傭兵「耳がうまく聞こえない」

メイド姉「これで、認めてくれますか?」

   ドォォーン……  ドン、ドドォーン

生き残り傭兵「……」

メイド姉「わたしを、代行だと認めてくれますか?
 わたしはどうしても自分の脚で
 行かなきゃならない場所があるんです。
 そこにたどり着くために越えなければならない障害は多い」

生き残り傭兵「……」

ちび助傭兵「……はぁ」
若造傭兵「俺は認める」
傭兵弓士「仕方ないな」

器用な少年「おいおい」

生き残り傭兵「心意気に感じるってのが、
 俺たちが隊長から受け継いだ大事な宝もんだ。
 そりゃぁ、しかたねぇ。これだけ派手にこなしてくれる
 お嬢さんだ。代行だってつとまるだろう」

メイド姉「それじゃぁ」ぱぁっ

生き残り傭兵「ああ」

ちび助傭兵「仕方ない。よっしゃ、光のなんちゃらとやらの
 装備を引っぺがすぞ! そんでもって白夜国へ潜入だ。
 そうなんだろう? 代行」

メイド姉「ええ。そうして情報を集めて、
 そのあとは。……船をぶんどりましょう」にこりっ

658: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 14:50:16.83 ID:F.ztGjEP
――魔界(地下世界)、辺境部、銀砂河

ひゅいんっ!

魔王「よし、ここだ」
メイド長「ええ、まおー様」

勇者「こんなところで良いのか?」

魔王「うん。ばっちりだ。ここからならさほど遠くない」
メイド長「ここまでで結構ですよ、勇者様」

勇者「そっか」

魔王「悪いな。別に秘密というわけでもないんだが」

勇者「図書館、か」
メイド長「はい」

魔王「我が一族の本拠地は一族以外は入れなくてな」

メイド長「まぁ、よろしいでしょう? 乙女の私室にはいるのは
 いま少し経験を積まれてからの方が」くすくす

勇者「そんな良い場所なのか?」

魔王「あー。大したことはないな」
メイド長「本が沢山あるだけです」

勇者「そっか」

魔王「連絡が取れなくなってしまうが、適当に迎えに来てくれ」

勇者「適当って?」

659: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 14:51:18.56 ID:F.ztGjEP
魔王「おそらく調べ物に三日ほどかかるだろう。
 わたしの情報開示レベルだとその程度で済むと思う」

勇者「ふむ」

魔王「もし調べ物が早く終わったら、
 この場所あたりまで歩いてきているし、付近を探してくれ。
 三日目にいなかったら、五日目だ」

メイド長「そうですね」

勇者「ん。判った。何を調べるんだ?」

魔王「冶金技術と、工学系だな。今回は技術的な問題に的を絞る」

勇者「魔王にも判らないことがあるのか」

魔王「判らないことだらけだよ。今回は専門でもないしな。
 本は持ち出せないから、資料作成もしなければならない。
 鋳造で作れるような形状ではないし、確か随分高度な
 加工になったと思うんだが……」

勇者「いいのか?」

魔王「今回の場合はな。あまり高度な技術は伝播しても
 広まらないが、今回は世界全体に
 影響を与えるのが目的ではない。
 かえって伝播しなくても良いかも知れない。
 もっともボルトやナットの原型がある以上、
 いずれは発明されるのだろうが」

勇者「よく判らないが、そっちは任せた」

魔王「わたしのいない間、頼むぞ」
勇者「おう!」

メイド長「では参りましょう。まおー様」
勇者「おー! メイド長もお役目頼むなー!」

魔王「いってくる」
メイド長 ぺこり

668: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 15:27:22.55 ID:F.ztGjEP
――冬越しの村、厨房

勇者「じゃーん!」

勇者「本日の勇者クッキングの時間がやって参りました!」

しーん

勇者「まずはー! パンを切ります」

ぎこぎこ

勇者「斜めになっちまったけど、まぁいいや」

勇者「ここに、チーズを切って塩をふって挟みます!」

勇者「チーズパン完成ー!! どんどんぱふぱふー!」

もそもそ

勇者「……もそもそする」

もそもそ

勇者「しょっぱい気分になって参りましたっ!
 さぁて、次のレシピはなんだこんちきしょー!
 メイド長のやつ俺を見くびってるんじゃあーりませんかー!?」

女騎士「いや、正当な評価だろ」

669: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 15:29:23.77 ID:F.ztGjEP
勇者「っ!? いつから居たんだ、お前!?」
女騎士「“どんどんぱぷぱふー”くらいからだぞ?」

勇者「……負けた」がくり

女騎士「よしよし」なでなで

勇者「……」ぴきっ

女騎士「びっくりさせたか。
 ……そうか、突然さわるのもだめなんだな。
 そう言えば当たり前か」

勇者「この間から、なんだか女騎士がおかしい」
女騎士「そんなことはない。全て順調だ」

勇者「この落ち着きがおかしい」

女騎士「これ持ってきてやったぞ?」
勇者「……くんくん」

女騎士「ベーコンとキャベツとあばら肉の、壺煮シチューだ」
勇者「おおっ!!」

女騎士「まだ火はあるだろう?」
勇者「いや……。メイド長が火を使う料理は作るなって」

女騎士「何処の子供だっ。勇者は!」

675: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 15:36:05.15 ID:F.ztGjEP
勇者「いや、おれだって頑張ったんだ。
 頑張ったんだよ! ちっきしょー!!」

女騎士「無駄に青春風味になってるなぁ」

勇者「暖かいものが食いたい」
女騎士「うん。……ほら、手のひらに小さく火炎出せ」

勇者「“小火炎呪”」
女騎士「でかい」

勇者「“半分小火炎呪”」
女騎士「で、この壺もって、しばらく我慢」

ほわぁ~♪

勇者「うっわ、いい匂いだぞ!」
女騎士「葡萄酒で煮込んだからな。
 妹には敵わないがなかなか悪くないと思うぞ?」

勇者「いやいや。ありがとうな」

女騎士「もういいだろう。ほら、食べろ?」

かぽっ。とろーり。

勇者「おうっ! もっきゅもっきゅ」
女騎士「……」

勇者「お前は食わないのか?」
女騎士「ん? ああ。じゃ、一口だけ」

勇者「いっぱい食べればいいのに」
女騎士「修道院で食べてきたからな」

勇者「そっか。……ああ、美味いなぁ♪」
女騎士「ご機嫌か?」

勇者「ご機嫌だぞ」

709: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 19:44:53.65 ID:F.ztGjEP
女騎士(そうか。……世間の女子が料理を重んずるのは
 このように餌付けを行なうためだったのか……。
 なんて簡単なことを見落としていたんだ、わたしはっ)

勇者「……ふぅ。ひとここちついたわ」
女騎士「よく食べるな」

勇者「俺は燃費悪いんだよ」
女騎士「あれだけ魔力持ってるから仕方ないのかな」

勇者「うーん、そうかもな」
女騎士「どれ。レシピをよこせ」

勇者「へ?」

女騎士「メイド長からもらってるんだろう? 食料とレシピ」
勇者「うん」

女騎士「魔王とメイド長が居ない間は面倒を見る」

勇者「いいのか?」

女騎士「今更遠慮するな」

勇者「そうか? これだ」

女騎士「……パンと水。
 チーズサンドと水。
 キャベツの酢漬けとパンと水。
 薄切りのハムとパンと水。
 パンを買いに行く。
 買いだしたパンとハムと水。
 チーズサンドと水……」

勇者「……」
女騎士「……」

710: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 19:47:30.30 ID:F.ztGjEP
勇者「なんか横暴だよな!?」ガクガクガクッ
女騎士「横暴というか、なんというか……」

勇者「つか、素直に居酒屋で食ってきて
 良いって言えばいいじゃんな!!」

女騎士「まぁ、その通りなんだけど……」

勇者「このあいだ魔王と2人で食い歩きに行ったのを、
 メイド長は根に持ってるんだ」
女騎士「そうなのか?」

勇者「そうに違いない」
女騎士「そうなのかなぁ……」

勇者「だから、なんか作ってくれ」
女騎士「まぁ、いいけれど。
 すごく上手な料理は期待するなよ?」

勇者「おう! チーズサンドじゃなきゃ何でもいいよ……」
女騎士(そんなに寂しかったのか……)

勇者「食った食った!」
女騎士「よし、休憩したら剣でもやるかー」

勇者「へ?」
女騎士「食事を作った代金だ。
 少し稽古を付けてくれても良いだろう?」

勇者「それくらいなら、かまわないけど」
女騎士「終わったらブラシしてやるからな」

717: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 20:02:55.52 ID:F.ztGjEP
――銅の国、農村部

痩せた老人「……ふぅ」
飢えた農奴「腹が減ったなぁ……」
農奴の女性「秋なのに、なんで小麦も大麦も食えないの?」

作付け頭「そりゃ、兵隊さん達に送らなければ」

痩せた老人「兵隊か、この村もすっかり人がいなくなって」
飢えた農奴「これじゃ秋まき小麦の世話もおぼつかないよ」

農奴の女性「でも、やらなけりゃ春に飢えてしまうわ」

作付け頭「ほーら、手を動かせ」

痩せた老人「へぇへぇ……はぁ」
飢えた農奴「力が出ないな」

農奴の女性「ああ……。もう気の滅入る匂い」
作付け頭「ん?」

農奴の女性「荼毘の煙よ」
作付け頭「ああ。南の小屋ごと燃やしているんだ。
 あそこの疱瘡にかかった一家が腐り始めてしまうからな」

痩せた老人「天然痘か……」
飢えた農奴「おお、怖い」

農奴の女性「そんな事を云うのはおよしよ。
 あたしらだって何時かかってしまうか判ったものじゃない」

作付け頭「まったくだ、うちの息子だって」

飢えた農奴「そんな事言うなら、どの村だって疱瘡には
 やられちまっているってこったよ」

718: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 20:04:54.17 ID:F.ztGjEP
片腕の農奴「いや、そうでも無いさ」

飢えた農奴「え?」

片腕の農奴「俺は片腕を失って帰ってくるまでにずいぶん
 歩いたけれど、葦の国では疱瘡の薬があるって話だ」

農奴の女性「クスリ?……。治るのかい!? 疱瘡が!?」
作付け頭「まさか、そんな話は聞いたことがないっ!」

片腕の農奴「その話が広がっちまうと、
 農奴が逃げ出すから伏せてあるのさ。
 だが本当のことだ。
 まぁ、薬と云っても、治るという話じゃないらしい。
 疱瘡にかからなくなるんだと。
 それに梢の国では疱瘡にかかった人は修道院の人が
 世話をしてくれるって話だ」

痩せた老人「そんなクスリが……」
飢えた農奴「修道院で世話? そんな話があるのか!?」

片腕の農奴「俺だって家族がいなければ、
 居着いてしまおうかと思ったよ」

農奴の女性「……」

作付け頭「葦の国かぁ。遠いのかねぇ。
 なんとか薬を分けてはもらえないだろうか」

飢えた農奴「薬だなんて。兵隊と金儲けに関係ないことに
 貴族が金を出すわけがねぇさ」

痩せた老人「……そりゃそうだ。……はぁ。
 わしらを哀れんでくだせぇ、光の精霊様……」

727: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:03:10.27 ID:F.ztGjEP
――魔界、開門都市、仮設作業所

 「よいせっ!」「おっこらせっ!」

  人魔族作業員「おーい! コロもうひとつ」
  人間技術者「いいぞー回せ-!」
  巨人の作業員「ほうい……! よっせ やっせ!」

中年商人「これはこれは!」
土木子弟「やあ! 商人さん」

中年商人「結構な人出じゃないですか!」
土木子弟「そうですね」

中年商人「どうやってあつめたんです?
 とてもこれだけの人数を集めるほどの資金は
 お渡しできていないでしょう?」

土木子弟「ええ、まぁ」

火竜公女「妾の手柄ゆえ」
中年商人「これは姫さま」

火竜公女「それはいうな」
中年商人「ははははは。で、どうやって?」

土木子弟「この方が、街の人を紹介してくださってね」

火竜公女「いやいや。土塁や防壁を作ると言っても
 それは予算や自治委員会が動かないと、なかなかに
 資金も集まらぬゆえ。
 神殿の修復と言うことで街の衆には手助けを頼んだのだ」

中年商人「神殿の?」

728: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:04:24.44 ID:F.ztGjEP
土木子弟「元々開門都市は片目の神や無名の神を始め
 いくつもの神殿やほこらがあります。
 ことに都市を囲む九つの丘に建てられた神殿は作りも強固で
 要塞と言っても通用するほどですよ。
 さいわい、例の街道を通すはずだった山の切り通しから
 石材はいくらでも出てきますからね。
 まずは神殿の補修です」

中年商人「しかし、そんなことをしていて間に合うのですか」

土木子弟「この図を見てください」

火竜公女「ふむ」
中年商人「この近辺ですな?」

土木子弟「この九つの神殿とその敷地を防壁で囲み、
 それらの防壁を重ねるように、都市そのものの防壁を
 伸ばしていくのです。
 確かに距離は多少長くなり、作業量も増えますが
 元から有る神殿の壁を利用できるために全体での
 作業量は減るはずです。
 神殿の補修と言うことであれば、それぞれを信じている
 氏族の方にも手伝っていただけますしね。
 寄付もあつめやすい。
 いただいた資金は、全て食料を買ってしまいましたよ。
 働いていただいた方には、日当よりも、
 食事を腹一杯食べてもらう。そう言う方式にしました」

火竜公女「働いている方も、楽しそうだ」

中年商人「何とか動き始めましたか……」

土木子弟「ええ。自治委員会を説得するにしろ
 ある程度形や現場がないと難しいようですしね」

火竜公女「見通しが立たぬと計画書も提出できぬゆえ」

729: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:06:29.40 ID:F.ztGjEP
中年商人「それにしても、この図だと神殿を
 抱き込むような構造ですね」

土木子弟「神殿を鐘楼代わりに用いる事になりますから」

火竜公女「ふぅむ。この部分は?」
土木子弟「掘ります」

火竜公女「なにゆえ?」

土木子弟「空堀ですよ。見かけ上防壁の高さを
 増すためのものですね。この地方はさほど水が
 豊かではありませんし」

中年商人「随分壁が厚くはありませんか?」

土木子弟「ええ」

中年商人「個々までの厚さが必要ですか?
 石にしろ土にしろ、これだけ積み上げるには
 相当の手間がかかるのでは無いかと思いますが……」

土木子弟「これは、まぁ。うん」
火竜公女「?」

土木子弟「必要になるでしょう。
 この世代でも、次の世代でも。
 そもそも相手は魔族じゃないのでしょう?
 ……で、あればこの防壁が意味を持つこともあるでしょう。
 聞いている話が真実であれば、なおさらに」

731: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:28:43.43 ID:F.ztGjEP
――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋

ガチャ、ポイッ

勇者「うーん」

ガチョン! キュィィンっ!

勇者「ちげぇ、これじゃねぇや。……どこやったかなぁ」

ギュイイイン!!

勇者「刃の鎧とか、今考えると迷惑装備だよなぁ」

ポイッ。ポイッ

勇者「水鏡でもなくて……」

「おーい」

勇者「こっちだぞー。なんだー?」

がちゃ
女騎士「……何をやってるんだ?」

勇者「装備の整理をな」
女騎士「整理どころか、ぐちゃぐちゃじゃないか」

勇者「いくつか捜し物があってさ-。祈りの指輪とか
 エルフの飲み薬とか」
女騎士「ふむ……」

733: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:30:03.68 ID:F.ztGjEP
勇者「それよりどうしたんだ? めし出来たか?」はうはう
女騎士「そればっかりか。勇者は」

勇者「いや、べつに。そんなに卑しくはないぞ」
女騎士「ほんとうかー?」

勇者「本当だ」

女騎士「いずれにせよ、あと二時間は煮込まないとだめ。
 それから、今日はわたしは、
 修道院で大事なミサがあるから。
 夜ご飯は作りに来れないんだ。悪いな」

勇者「そうなのか?」

女騎士「そんなに困った顔をしてはだめだ。
 シチューをいっぱい作ったのはそのためだし。
 夜になったら、温めなおして食べればいい。
 チーズもパンも足りてるだろう?」

勇者「おう。そのくらいなら任せておけ!」

女騎士「勇者」

勇者「なんだ?」
女騎士「どうどう」なでなで

勇者「どうしたんだ? 女騎士」
女騎士「ふむ。撫でても平気か」

勇者「?」
女騎士「頃合いや良しっ!」 すくっ!

737: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:33:13.90 ID:F.ztGjEP
勇者「なっ。何がどうしたっ!?」

女騎士「勇者」ビシッ
勇者「はいっ」正座

女騎士「この件に関しては、いささか乙女としての
 恥じらいに疑問を覚えないでもないのだけれど
 話が錯綜するのも、混乱するのも、
 誤解を受けるのも、曖昧になるのも困る。
 故にはっきりという」

勇者「あ、ああ」

女騎士「魔王が戻り次第、勇者と褥を共にしたい」

勇者「……」ぴきっ

女騎士「大丈夫だ。勇者は心配することはない。
 私たちだって初心者だが
 その辺はうまく乗り越えてみせるさ」

勇者「あー」

女騎士「冗談ではないぞ?
 それから夜のおしゃべり会とか言う
 びっくりどっきりでもない。
 私たちは、勇者と、しとねを共にしたい。
 ――お互い判らない年齢でもないよな?」

勇者「う、うん」
女騎士「そ、それからなっ。
 いやだったら事前に断るのがマナーだからな?」

勇者「そうではないんですけれど」
女騎士「うん……」 なでなで

勇者「なにこれ?」
女騎士「いや、作戦行動の一環だ」

740: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:37:47.06 ID:F.ztGjEP
勇者「えーっと、さ。その、さ」
女騎士「無理にコメントしなくていい」

勇者「……うう」
女騎士「っていうか、しないで欲しい」

勇者「……」

女騎士「こっちだって顔から火が出そうだ。
 無理矢理押さえつけてるんだぞ」

勇者「う、うん」
女騎士「この件は一応魔王も了承済みだからなっ」

勇者「そうなのか」
女騎士 こくり

勇者「すっげー口がへの字じゃない?」
女騎士「い、要らない突っ込みだ」

勇者「……」

女騎士「どうしてもだめなのか? その……。
 こんな事言いたくないけれど、やっぱり。
 “次”は大勝負というか、
 すごく大きな戦争になってしまう気がするし。
 そう言うつもりではけしてないのだけれど……」

勇者「いや。……うん。判った」
女騎士「良いか?」 ぱぁっ

勇者「判った。ばっちりだ。覚悟完了だ!」

女騎士「それでこそ勇者だ!」にこっ

748: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:54:54.75 ID:F.ztGjEP
――聖王国某所、秘密大鉄工所

ガァン! ゴォン!!

労働者「おうっ! あぅっ!」

作業監督「どうした! 炉の動きが重いぞぉ!
 木炭を持ってこぉい!!」

ガァン! ゴォン!!

作業監督「ガンガン炊くんだ!!」

ガァン! ゴォン!!

職人の長「なんだって?」
技術者「いえ、ですから、木炭の備蓄が
 底をついてしまったのでして……」

職人の長「どうしてこうなったのだ?
 会計、会計はおらぬか!」

会計官「ギルド長、こちらにおります」ぱたぱたぱた

職人の長「木炭が足りぬではないかっ!」

会計官「はぁ。しかし、ギルド長の許可された分は
 全て購入し倉庫に入れておきましたが」

職人の長「そうなのか?」

技術者「このところの増産ペースで、
 備蓄分を使い切ってしまったようなのです」

750: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:57:43.51 ID:F.ztGjEP
熟練技師「木炭は元々鉄鉱石ほどの大きさの倉庫では
 ありませんから、本気で使えば一週間と持ちませんよ」

会計官「そうでしたなぁ。ふぅ、熱い」

職人の長「では新たに商人に運ばせよ」

会計官「それが、少々難しい雲行きでして」

職人の長「ん?」

会計官「連日の木炭買い付けで、
 木炭の価格が急騰しているのです。
 先週の三倍にも達しようかというほどに。
 さらに今までは夏でしたが、今や季節は秋も半ば。
 どの村でも、冬越しのために木炭を貯め込む季節となり
 なかなかたやすく買い付けも……」

職人の長「しかしそれでは、王弟閣下の望むだけの
 マスケットもカノーネも、弾薬も送れないではないか。
 うぅむ。そうだ! この間話してていた策はどうだ?
 石炭から取れるコウクスなるものは?」

熟練技師「あれは、長の方で一回却下なさったでは
 ありませんか。林業ギルドとの関係が悪化する、とかで」

職人の長「だがしかし、情勢が変わったのだ。
 木炭がなければ仕方有るまい。
 今ひとつ信頼しきれぬ新方式だが、試す価値はあるだろう」

熟練技師「であれば、試すにやぶさかではないのですが
 砂丘の国も、礒岩の国も石炭の採鉱権は譲渡したと
 聞きました」

職人の長「どういうことだ?」

751: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 21:59:44.98 ID:F.ztGjEP
熟練技師「商人が高額で権利を押さえたとの話です」

職人の長「なぜそのような! いや、それ以前になぜ阻まぬ!」

熟練技師「お忘れなのですか? 長よ。
 我々は当分石炭を使用しない決定を下したんですよっ。
 購入しない、金も払わないで
 どうして権利だけを押さえることなど出来ますっ!!」

会計官「まぁまぁ」

技術者「だがしかし。と、なれば木炭を買うしかないでしょう。
 国家備蓄を進めている国はどうですか?
 我々は王弟閣下の口添えをいただいているわけですし。
 貴族や領主に木炭を出させる、というのは」

会計官「それならば出来るやも知れません」

職人の長「よかろう! ではわたしが早速手紙を出す。
 会計官は使者を用意させろ。隊商を作り、近隣の
 領主や王国から、木炭を送ってもらうのだ」

技術者「ええ、梢の王国などは、以前から林業に
 置いて大きな実績があります」

熟練技師「梢の王国の木炭であれば、きっと立派な
 鉄を作り出すことが出来るでしょう!」

会計官「早速手配して参ります」

たったったった

職人の長「フリントロックの方はどうだ?」

熟練技師「やはり精度が高いですが、
 何とか月産50丁のラインには乗って参りました」

職人の長「よし、今月の荷として、港から船で運ばせよ!」

763: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 22:31:04.32 ID:F.ztGjEP
――白夜の国、港

メイド姉「やはり、気が緩んでいる感じですね。
 警備もろくにしていませんし、これだけの軍が集まると
 敵が来るはずはないと言うことなのでしょうか?」

生き残り傭兵「元々はどうあっても農民だ。
 夜になったら寝るって言う暮らしをしてきた。
 そこまで敵の怖さってものが骨身にしみていないんだろうぜ」

ちび助傭兵「しっ!」

かつん、かつん、かつん……

    「ふわーぁ。早く宿舎で寝てぇよ」
    「ぼやくなよ。酒を持ってきてあるんだ」
    「いいね、身体が温まる」

……かつん、かつん、かつん

若造傭兵「……いったみたいだ」
傭兵弓士「よし」

貴族子弟「流石にドキドキしますね」

メイド姉「ええ、聖王都の大聖堂に忍び込んだ時以来です」

生き残り傭兵「このお嬢ちゃんはどういう
 経歴の持ち主なんだ?」

貴族子弟「この度胸と思い切りの良さは、生まれつきかなぁ」
メイド姉「そんなことはありませんよ」むぅっ

764: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 22:32:49.34 ID:F.ztGjEP
生き残り傭兵「で、どうすんだ?」

メイド姉「はい。貴族子弟さんは、
 打ち合わせ通り本隊80人を率いて船を接収してください。
 出来れば荷下ろし前の食料が載っている船がよいです。
 私たちは操船技術がないので、
 当直含め船乗りさんが乗っている船を選んでくださいね」

貴族子弟「人使い、荒いなぁ」
メイド姉「おねがいします」ぺこり

貴族子弟「やりますけどね」

メイド姉「で、私たちの部隊は、
 あちらの税関に忍び込みます。
 ここ数日調べた感じでは、この時間あの建物の中には
 5~8人が寝泊まりして居るのみ。
 可能な限り血は流さない方法で無力化してください」

生き残り傭兵「ふむ」
ちび助傭兵「判った」

生き残り傭兵「俺はそっちでいいか?」

メイド姉「はい、お願いします」

ちび助傭兵「じゃぁ、さっさと済ませるとしようか」
若造傭兵「おう」

765: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 22:33:53.48 ID:F.ztGjEP
――白夜の国、港、税関の建物

がちゃがちゃ

生き残り傭兵「鍵がかかってるな、流石に」

メイド姉「出番ですよー」つんつん

器用な少年「俺かよっ!?」

メイド姉「はい、お願いします」

器用な少年「何で俺がこんな事を……」
ちび助傭兵「さっさとやれ」こんっ!

器用な少年「くっそう。こんな鍵がなんだってんだよ」

ぴんっ!

器用な少年「おら、出来たぞっ!」
メイド姉「お見事です。良くできました」にこり

器用な少年「朝飯前のこんこんちきだ。ちきしょう」

かちゃり

生き残り傭兵「入るぞ」
ちび助傭兵「後方確認、担当する」
若造傭兵「前方制圧行く」

傭兵弓士「援護了解」

器用な少年「むちゃくちゃプロじゃねぇか」

766: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 22:35:15.20 ID:F.ztGjEP
  光の衛兵「うぐっ!!」
  どさっ

生き残り傭兵「ふぅ」

ちび助傭兵「こっちの部屋もふんじばったぞ」

  光の衛兵「だれだ、きさまらっ!」
ひゅばっ!
  光の衛兵「ぐぅっ!」

若造傭兵「よし。こっちも問題ない」

傭兵弓士「周辺の建物に気付いた様子はない。
 この税関に何の用事があるんだ?」

器用な少年「とっととずらかろうよ」びくびく

メイド姉「少し待ってくださいね。
 このあとは船をお借りして移動する予定なのですが
 あいにく、わたし持ち合わせが少なくて……」

器用な少年「わかった! 聖王国からぶんどろうって腹だな!」

メイド姉「とんでもない。それは非道ですよ。
 まぁ、危急の事態なので多少犯罪的な手法を
 とる覚悟はあるのですが、そこまで悪辣なことは
 出来ません。盗みは良くないことです」

生き残り傭兵「じゃぁ、何でこんな所に」
メイド姉「借ります」

767: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 22:36:42.40 ID:F.ztGjEP
器用な少年「はぁ?」
メイド姉「ですから、資金を少々お借りしようかと」

生き残り傭兵「……」
ちび助傭兵「……?」

器用な少年「盗みと何が違うんだ?」

メイド姉「借用書を書きます」

サラサラサラ、サラサラサラ

生き残り傭兵「……」
若造傭兵「……」

  器用な少年「なぁ、この姉ちゃんまじなのかなぁ?」
  生き残り傭兵「貴族の旦那が言うには本気なんだろうな」
  ちび助傭兵「良いのかなぁ。こんなのが代行で」
  若造傭兵「乗りかかった船だ。諦めるしかない」


メイド姉「出来ました。この借用書を、机の上に置いて。
 えーっと、金貨を運び出しましょう。
 数えている暇はないので、その箱五つで良いでしょう。
 重いのにしましょうね。軽いのは使っている最中かも
 知れませんし、二度手間もいやですし」

生き残り傭兵「やることは結構豪快だな」

ちび助傭兵「うんうん」

メイド姉「この資金で、船員さん達へせめてものお詫びに
 支払いをします。食料も買い上げて、極大陸へ」

生き残り傭兵「え? 極……!?」

メイド姉「混雑しないうちに魔界へと行きましょう。
 あちらでやるべき事が山積みですから」

783: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:07:02.11 ID:F.ztGjEP
――鉄の国、職人街、ギルド会館前

しゅわんっ!

魔王「っふぅ」
メイド長「くらくらしますね」
勇者「3連続転移はきついか」

魔王「うむ、ちょっと頭が痛くなるな」
メイド長「わたしは目が回っています」

勇者「慣れの問題なんだけどな~」

魔王「悪いな。迎えに来させた上に、足代わりに使って」

勇者「気にするなって。急ぎなんだろう?」

魔王「ああ、今回、大量生産するつもりはない。
 おそらく、充分な硬度の刃さえ作れれば、
 一ヶ月もあれば試作品は出来るはずなんだが……」

勇者「それもこれも職人に話さなきゃ始まらないぞ」

魔王「う、うん。行ってくる。行くぞ、メイド長っ」
メイド長「はい、まおー様っ」

勇者「いってこーい!」

785: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:10:01.95 ID:F.ztGjEP
魔王「ああ、勇者っ!」てってってっ

勇者「なんだ?」

魔王「今日は、鉄鋼工房の職人と打ち合わせがあるだけだ。
 夕方までには終わる。そこらの酒場で食事でもしているか、
 見物でもしていてくれ。今日こそ屋敷に戻りたい」

勇者「わかった」

メイド長「あまり沢山は食べちゃだめですよ? 勇者様。
 今日は腕によりをかけてご馳走を作りますからね。
 留守番のご褒美と、送迎の埋め合わせです」

勇者「わかったよ! ひゃっほう!」

魔王「じゃぁ、いってくる。待っていてくれ!」

たったったったっ

勇者「ふぅ……」

勇者「それにしても……」

――魔王が戻り次第、勇者と褥を共にしたい。

勇者「もしかして……。それって今夜か?」

勇者「ってなんかすげぇ焦ってきたぞ。
 やばいな。変な汗が出てきた。
 刻印王とやった時でもこんなに戦慄はしなかったぜ。
 ど、どうするんだ。どうすればいいんだ?
 ――落ち着け?
 ですよね。そうですよね。まずは落ち着くべきですよねー」

女魔法使い こくり

791: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:16:51.62 ID:F.ztGjEP
――鉄の国、職人街、裏路地

勇者「何処にいたんだよ、お前っ」
女魔法使い「……用事があった」

勇者「なんのっ」
女魔法使い「……入稿?」

勇者「訳判らないよ」
女魔法使い「……すぅ。……くぅ」

勇者「寝るな」 がくがくっ
女魔法使い「……はっ」

勇者「起きたか?」
女魔法使い こくり

勇者「なんだかなぁ」
女魔法使い「……勇者は」

勇者「うん」
女魔法使い「ごきげん?」

勇者「ぼちぼち」
女魔法使い「……へへ」

勇者「女魔法使いは、ご機嫌か?」
女魔法使い「……。ふつう」

勇者「そっか。ご機嫌になるといいな」

798: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:19:37.57 ID:F.ztGjEP
女魔法使い「……」

勇者「?」

女魔法使い「……」ぽけぇ

勇者「女魔法使いは、普段なにしてるのさ」

明星雲雀「ピィピィピィ! ご主人は長い長い間
 苦しい修行ぴっ! ピィピィ! なにするですかご主人っ」

女魔法使い「……タツタバード」ぼひゅん

勇者「それ、相棒か?」
女魔法使い「……目覚まし時計」

勇者「目覚ましあっても起きないじゃないか」
女魔法使い「……鳴らなかったって言い訳できる」

勇者「お前賢いな!」
女魔法使い こくり

勇者「……」
女魔法使い「……」

勇者「なんかあるのか?」
女魔法使い こくり

勇者「困り事か?」
女魔法使い「……ある意味、そう」

802: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:25:46.31 ID:F.ztGjEP
勇者「話、聞くぞ」

女魔法使い「……経済的な均衡状態、また発展状態を
 作り出すためには、該当する経済レイヤに対して
 政治および技術レイヤから健全な影響が無くてはならない。
 またこの健全な影響が充分に経済機構に行き渡るためには
 一定の時間が必要とされる。
 
 一方、政治、技術により不健全な影響を受けた周辺レイヤの
 ひずみは、そのまま外交や政治そのもののレイヤに逆照射し
 他の分野や領域をもまきこんだ引き攣れを見せる。
 これらの引き攣れは、
 軽度のものであれば時間と共に拡散していくが、
 重度のものである場合たわみを反発材料として、
 主に軍事的レイヤにてその緊張を解放しようとする」

勇者「……?」

女魔法使い「軍事的な衝突は、周辺レイヤに大きな爪痕を残す。
 技術レイヤには比較的ダメージが少ない。
 なぜならば知識とは本質的に無形であり破壊不可能だから。
 戦争により技術が発展するというのは、
 必要によって技術が発展するという点と
 技術が破壊不可能だから戦争によって消費されにくいという
 二点から導き出される結論。
 
 しかし、軍事的衝突は、政治レイヤ、経済レイヤには
 深いダメージを残すことがままある。
 また、これらの軍事的抗争は政治および技術レイヤから、
 経済レイヤへの転換を、大きく後退させる。
 なぜなら“財”と言う形で蓄積されたドライブフォースを
 無為に消費してしまうから。
 文化レイヤにおいては、民族的鬱屈から回復不能なまでの
 ダメージを受けることすらあり得る。
 
 ゆえに軍事レイヤに何らかのアクションを行なわせる
 ことなく滑らかに周辺レイヤを発展させるべき。
 ――これが魔王の出した回答」

勇者「……」

804: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:28:22.78 ID:F.ztGjEP
勇者「どういうことだ?」

女魔法使い「“優れた問いは、優れた答えに勝る”」

勇者「……」

女魔法使い「“なぜ、勇者と魔王という特別な存在が
 この世界には1人ずつ存在するのか?”
 
 たとえば魔王が2人で勇者は居ないであるとか、
 その逆であるとか。また勇者が3人いて、
 魔王は2人であるとかいう状況は、なぜ無いのか?」

勇者「へ?」

女魔法使い「そのような状況は歴史上
 かつて一回も記録されていない」

勇者「……なぜ」

女魔法使い「“なぜ勇者と魔王は戦うのか?”」

勇者「俺たちは戦ってなんか居ない」

女魔法使い「……このような例は今回が初めてで
 今までは常に戦ってきた。
 今回は特殊な例外と考えた方がいい」

勇者「話が見えてこないぞ」
女魔法使い「……」

勇者「おい、魔法使い」

806: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:30:16.04 ID:F.ztGjEP
女魔法使い「勇者と魔王の近似」

勇者「え?」

女魔法使い「魔界における勇者が、魔王。
 人間界における魔王が、勇者。
 模倣子を造り出す経路が違うけれど、
 本質的には同じもの。
 
 同じものが、二つ。
 なぜ二つしかないのか?
 なぜ同じものなのか?
 特異点的存在とは一体何を目的として“ある”のか?」

勇者「そんなのに答えなんてあるのかよっ」

女魔法使い「答えは常にある。
 人によって同一とは限らないけれど」

勇者「なんでなんだよ」

女魔法使い「……」

勇者「……いや、聞いたらまずい気もする」
女魔法使い「教える」

勇者「ちょっとたんま」
女魔法使い「またない」

勇者「だからっ」

女魔法使い「2人の勇者、もしくは2人の魔王は
 有る存在の二つの終端、切り口だから」

807: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:31:28.40 ID:F.ztGjEP
勇者「切り口……?」

女魔法使い「そう。特異点が二つあると言うことはあり得ない。
 この世界にそれが二つも存在する確率はあまりにも低すぎる。
 
 両者は二つの特異点ですらない。
 一つの特異点。
 現世においてそれが二つの存在として見えている」

勇者「わかんないぞ」

女魔法使い「いわば、ひも。
 ひもの右端が、勇者。
 ひもの左端が、魔王。
 
 ――これが答え。
 常に両者がセットで存在し、2人にも3人にも増えず
 一つの時代にあつらえたように対峙する理由。
 
 そして同時に戦う理由でもある。
 
 二つの端子が接触した時から、このひもは収斂を開始する。
 端子同士が接続し、ひもは円環となり、世界が完成する。
 世界を縛るひもは、世界ごと小さくなり、世界と共に
 “始まり直す”」

勇者「はぁ!?」

女魔法使い「炎のカリクティスの古から続いてきた
 あのやりきれない伝説の正体がこれ」

809: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:35:37.14 ID:F.ztGjEP
勇者「……頭がついていかない」

女魔法使い「今の世の魔王はそのあまりある力を
 戦闘には全く用いなかった。
 どのような奇跡か判らないが、
 歴代魔王を継承するという魔王の模倣子相続システムから
 自由だったゆえに、別の道を夢見た。
 もしかしたら、夢見た故に自由だったのかも知れない。
 
 そしてその能力を、世界の拡張に当てた。
 
 また、偶然か必然か、勇者も魔王を殺害して良しとせずに
 その拡張に力を貸した。
 拡張は技術や経済から始まったが、やがて次々と
 隣接レイヤに波及し、政治、外交、文化、
 はては伝承の域にまで影響を与えようとしている。
 
 端子同士がたどのような形であれ接触した今、
 収斂力は作動している。にもかかわらず、
 魔王と勇者は世界を拡張させようとする。
 
 この拡張する速度と縮退する速度が均衡して
 世界は停止しかけようとしている。
 
 魔王の出した答えは間違っては居ない。
 けれど、それを実行するためには、
 この世界は根本的な病理を抱え込んでいる」

勇者「病理? 停止?」

女魔法使い「そう。それは罪ではなく、病理。
 そのために現実的な事象はおそらく次々と立ち現れる。
 助長系の歪みもその一つ」

勇者「何か、起きるのか」
女魔法使い こくり

勇者「ひどいことか?」
女魔法使い「……おそらく全員死ぬ」

勇者「……っ!」
女魔法使い「……」

817: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/03(土) 23:41:20.28 ID:F.ztGjEP
勇者「嘘、じゃないんだよな?」
女魔法使い「……」

勇者「どうしたらいい? 解決策はあるんだろうっ」
女魔法使い「……」

勇者「おい、魔法使い」がくがくっ
女魔法使い ぐらんぐらん

勇者「おいっ」

女魔法使い「機構上の要素のひとつが、
 機構を変更することは出来ない。
 現象とは機構が許容する状況の一切片にすぎないから。
 ――それが従来の答え、でも」

勇者「なんだよっ」
女魔法使い「……」

勇者「何でもするから言ってくれよっ!」
女魔法使い「絶対?」

勇者「絶対する」
女魔法使い「……」

勇者「頼むよ。お願いだ。……お願いだからさっ」
女魔法使い「……勇者は、いつもずるい」

勇者「え?」

女魔法使い「…………」ぎゅっ

勇者「魔法使い……?」

女魔法使い「そのときが来たら、躊躇っては、いけない」


830: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 00:09:36.62 ID:TQ3NwHwP
――鉄の国、職人街、ギルド会館

魔王「よっし。終わったぞっ!」くるっ
メイド長「どうです? 成果は」

魔王「これで女騎士のリクエストに
 応えられる性能を確保できそうだ。射程は3倍になるだろう。
 戦争なんて出来るなら未然に防ぎたいが
 もし衝突があるのなら最小限の損害でやり過ごしたい。
 敵も。そして味方もだ」

メイド長「そうですね」

魔王「勇者は何処だろう? いや。
 この場合は勇者を捜す前に仕立屋に行くべきか?」

メイド長「あらあらまぁまぁ」

魔王「いや。別に特別な意味はないんだぞ?」ぱたぱた

メイド長「そう言うことにしておきましょうね」

女魔法使い ぼへぇ

魔王「うわっ。……お、女魔法使いではないか」

女魔法使い「……」こくり

メイド長「古城民宿以来ですね」

女魔法使い「……図書館族、勢揃い」
メイド長「……」

832: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 00:11:50.64 ID:TQ3NwHwP
魔王「今まで何処に?」

女魔法使い「……山ごもり」
メイド長「?」

魔王「……ふぅ」

女魔法使い こくり

メイド長「どうしたんです?」

魔王「我ら図書館族は、こうして触れあう機会は滅多にない。
 そもそも個体数が少ないし、現世界に出て活動するのは
 滅多にいない。研究室と書架を往復する連中が殆どだ。
 触れあうことは、珍しい。
 わたしとメイド長が例外なんだ。
 ……だから」

女魔法使い「……」

魔王「何があったのだ?」

女魔法使い「……二つある。
 まず『天塔』の場所を知りたい」

メイド長「てんとう?」

魔王「……」

女魔法使い「魔王であれば知っているはず。
 それが口伝なのか記憶転写なのかは判らないけれど。
 歴代魔王は全て、その場所を知っている。
 確証はないけれど、全ての伝承はそれを示唆している。
 勇者の首を捧げる祭壇の場所として」

魔王「もう一つは?」

女魔法使い「勇者は旅に出た。あなたと全てを救うために。
 あなたも、あなたの勤めを果たすべき時がきた」

953: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 21:25:46.50 ID:TQ3NwHwP
――冬越し村、魔王の屋敷、客間

女騎士「お風呂よし、髪の毛よし、肌のお手入れも一応よし」

女騎士「……」

女騎士「よ、よっし」

ぱしぱしっ!

女騎士「気合入ったぞ」

女騎士「……入ったぞ?」

女騎士「うむ。……これはなんだ。いざとなると不安だな。
 後から後から弱気な気分がわいてくる……。
 ええい、湖畔修道会の最終兵器ともあろう私がどうしたことだ」

女騎士「……」

そぉっ。――なでなで。

女騎士(……やはり、これかな)

女騎士 しょんぼり

女騎士「こればかりはなぁ……。魔王の4分の1も無い。
 いや、あるのだ。無いわけではない。無いのでは、けしてない
 つまりゼロではない。小さいだけだ。
 ほ、ほらな? なでれば膨らんでるのは判るぞっ。
 ちゃんとあるではないか!」

女騎士「……」

女騎士「虚しいな」

956: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 21:28:10.25 ID:TQ3NwHwP
女騎士「相手がアレでさえなければ、
 もうちょっと気負わないで済んだのだろうが……」

女騎士(いや、ちがうか。――同じだな。
 相手は問題ではない。自分の気持ちの持ちようだ)

女騎士(……そういえば、老子は何をくれたんだ?
 馬作戦は“こうかは ばつぐん”だったからな)

がさごそ、しゅるる

女騎士「ぱんつか。……まぁ、そんなことだろうと思っていた。
 老師に格上げされても変態は変態なのだしな。
 ……つまり、役に立つ変態と云うことだな。
 ん? こっちは絹の靴下か? 高価そうではあるが」

もそもそ

女騎士(あれ? ……上手く履けないな)

もそもそ

女騎士「なんか変だぞ」

もそもそ

女騎士(……これは、もともとこういうものなのか?
 なんだか半分しか履けてないような、ずり落ちてるような。
 ろーれぐ? 何だその解説は。
 張り付いているようで……。は、は、は……)

かちゃ

女騎士「はしたないではないかぁっ!」

魔王「……」

女騎士「ひゃっ!?」

957: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 21:29:29.42 ID:TQ3NwHwP
魔王「……」

女騎士「まっ。魔王。お邪魔しているぞ、早かったな」

魔王「……うん」
女騎士「どうした?」

魔王「うん」
女騎士「……?」

魔王「今日は、中止だ」
女騎士「何かあったのか?」

魔王「勇者は、お出かけしてしまった。
 ……どうやら、タイムリミットらしい」
女騎士「?」

魔王「チャンスを逸してしまったらしい」
女騎士「どういうことだ?」

魔王「私にも良く判らない。
 でも、今のこの流れを変えるために、
 勇者は何かを知って、それをするために旅に出た。
 ……女魔法使いが教えてくれたんだ」

女騎士「……」

魔王「……勇者は、だから、いないんだ」
女騎士「……」

魔王「置いて行かれてしまった」
女騎士「……」

魔王「私は、置いて行かれてしまった」
女騎士「……」

958: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 21:31:00.91 ID:TQ3NwHwP
魔王「……」つぅ……
女騎士「魔王」ぎゅっ

魔王「女騎士?」

女騎士「面倒くさい事を考えてはダメだ。魔王」

魔王「……」

女騎士「勇者はちゃんと帰ってくる。きっと大丈夫。
 わたしは。ははっ。……自慢にもならないけれど、
 置いていかれるのは二度目だぞ?
 でも、大丈夫。勇者はちゃんと戻ってくる。
 だってあのときよりも勇者は優しいし、強いじゃないか」

魔王「……」

女騎士「戻ってきた時に女が増えていたらそれはそれで
 拷問をしなければいけないけれど……ちゃんと帰ってくる」

魔王「……そうだろうか」ぽたっ。ぽたっ。

女騎士「きっとそうだ。だって勇者は守るために行ったのだろう?
 帰ってくるために出かけたのだろう? だから、あの日とは違う」

魔王「……」

女騎士「それよりも、勇者を助けなきゃ」

魔王「助ける?」

女騎士「そうだよ。……きっと何かが起きているのだろう?
 そうじゃなくても、勇者の代わりをしなければならない。
 普段仕事をしないように見えて、
 いなくなると困ってしまうのが勇者なんだ。
 勇者の代わりをするのは、魔王と私しかいないだろう?」

魔王「……」

960: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 21:33:58.75 ID:TQ3NwHwP
女騎士「蔓穂ヶ原の戦いが終って、
 ほっとしたけれど……。
 ずっとどこかで感じていた。
 ああ、少しも終っていないな、って」

魔王「……」

女騎士「これで私たちの戦争は終わり。
 もしかしたら中央が魔界へ攻め入って、
 後は魔界で戦争になるかもしれないけれど、
 それは私には関係ない……
 なんて、考えなかったわけじゃないけれど
 そんなことはないよね。
 勇者は絶対にそんなところで諦めたりはしない。
 そんなところで諦める勇者なら好きにならなかったと思う」

魔王「……」こくり

女騎士「だから、たぶん勇者は、そういうのもこういうのも、
 全部どうにかしにいったんだよ。
 いまならなんとなく感じる。
 本当はあの日にもそれを感じられていれば良かったけれど……。

 勇者はきっと魔王と私に、ここは任せて出かけたんだ」

魔王「そう、なのかな……」
女騎士「きっとそう」

魔王「私のやる事は、まだあるのだな……」
女騎士「もちろん」

魔王「……うん」
女騎士「気合入れないとな!」

魔王「う、うん。判った」
女騎士「よっし。じゃぁ、今日のところは解散しよう」

魔王「あ、女騎士」
女騎士「なに?」くるっ

魔王「それでも、そのぅ。云いずらいけれど……
 そのぱんつはさすがに小さすぎると思う」

970: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 22:12:46.10 ID:TQ3NwHwP
――冬の国、王宮前広場、領事館

冬寂王「ここか?」

従僕「ここですよー! 僕は何回も来ているんです」
将官「ほほう」

大工頭領「おう、坊主!」
従僕「こんにちはー!」

冬寂王「どうかね、調子は」

大工頭領「こいつは、王様じゃありやせんか!
 いいんですかい!?
 こんな所におつきの兵隊も連れないでのこのこ出歩いて」

将官「失敬な。わたしがいます」
商人子弟「まぁ、止めてもお忍びで出て行っちゃう王様ですからね」

冬寂王「ははは! 良いのだ。
 ここは我が愛する冬の国。その中心ではないか。
 この街を安全に歩けないようでは、わたしには所詮
 王としての器がないのだ」

大工頭領「はっはっはっは! そう言われちゃかなわねぇ」

商人子弟「工事の様子を視察に来たんですよ」

大工頭領「そうかいそうかい。おろ!」

羽妖精侍女 ぱたぱた、ぺこり

大工「うわぁ!」
人夫「へぇ~」

大工頭領「こいつがもしかして」

冬寂王「こいつなんて云ってはいけないよ」

羽妖精侍女「羽妖精デス。コノ領事館ニ住ミマスデスヨ」

971: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 22:14:10.26 ID:TQ3NwHwP
大工頭領「喋ったぞ!」

羽妖精侍女「オ話好キデス、ハイ!」

大工「うわぁ。浮いてるよ」
人夫「初めて見たぞ、あれが魔族なのか?」

羽妖精侍女「?」ぱたぱた

大工頭領「は、は」
商人子弟「葉?」

大工頭領「はーわいゆー?」

羽妖精侍女「妖精一族ノウチ、羽妖精族ノ、羽妖精侍女デス。
 領事館ヲ作ッテクダサッテアリガトウゴザイマス。
 女王様ニ変ワッテオ礼申シ上ゲマスデス」

大工頭領「な、なんでぇ喋れるじゃないかっ!」

商人子弟「最初から云ってるでしょうに」

従僕「大工さーん。この人は、羽妖精侍女さんでね。
 猫とも喋れるすごい人ですよー。
 この領事館に住む予定なのです」

がやがや
  冬の国市民「あれが魔族なのか?」

冬寂王「公表したとおり、魔界の一部との停戦協定の結果だ。
 わだかまりはあるやもしれぬが、ここはわたしの顔を立てて、
 一つよろしくお願いしたい」

商人子弟(どんな反応になるんだ……)

羽妖精侍女「……?」じぃっ

973: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 22:16:24.68 ID:TQ3NwHwP
大工頭領「……ふむふむ。羽があるのかぁ。お嬢ちゃんは。
 それで三階の小部屋には階段がいらないってぇ話なんだなぁ。
 こいつは驚き……だが納得したぜ」

がやがや

大工「小さいなぁ」
人夫「こんな娘っこ相手に俺たちは戦っていたのかい?」

将官「いやいや、魔族って云っても色々いるって事ですよ。
 この街に来るのは、ちゃんと審査をして、友好的に暮らしたり
 連絡や通商の業務を出来る人だけになるんです」

大工「そうなのか」

中年の女性「そうだね! こんな娘っ子に負けたとあっちゃ、
 うちの爺さんだって浮かばれないからね! あっはっはっは」
街の少女「……ぱたぱた、きれい」

大工頭領「あっしも大工だ。細かいことはぐだぐだいわねぇ。
 引き受けた仕事だ、住む人に喜んでもらえるもんをつくりやす」

冬寂王「そうか、ありがたい」

商人子弟「……思ったより冷静だな」
従僕「それはそうですよー」

商人子弟「そうなのか?」

従僕「湖畔修道会では、魔族も光の子って教えていますから」
将官「云われてみれば、そうだな」

羽妖精侍女「ソウナノデスカ?」

冬の国市民「修道士さんはそういってたぞ?
 不幸にして戦うことになってしまったけれど、
 それは人間の国同士でも無くはないことだしなぁ」

痩せた軍人「しかし魔族は信用が出来ない。
 監視を怠るべきではないのではないか」

 がやがや

974: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 22:18:23.08 ID:TQ3NwHwP
中年の女性「色んな魔族がいるんじゃねぇ。
 爺さんは帰ってこないけれど、それもこれも
 恨んだからって帰ってくるわけじゃなし……」

初老の男「なんの。もしまた攻めてきたら、
 極光島の時のように戦えばいいのだ! 騎士将軍万歳!」

冬寂王「……」
商人子弟「ふむ……」

将官「――タイミングが、良かったのかも知れませんね」
商人子弟「とは?」

将官「極光島が取り戻せていたからこそ、
 全員ではないにしろ、納得できる人もいる。
 それに湖畔修道会が色々広めてくれたようですし」

大工「それだよ。天然痘の予防も、
 魔界で見つかったって云うんだろう?」

人夫「ああ、俺もそう聞いたぞ」

冬の国市民「俺もちくっとして貰ったぞ」
街の少女「あたいもー!」

冬寂王「予防を受けておらぬものはいないか?
 隣近所にもしっかり話を回すのだぞ?
 もし受けていないものが我が国の国民ではなくても、
 その場合は王宮に届け出れば相談にのる」

商人子弟「そうですよー! ちゃんと接種を受けて下さいよ!」

従僕「家族全員で受けて下さいねー!」

羽妖精侍女「デスヨー?」ぱたぱた

大工「あははっ、声もちいせぇや」
人夫「まったくだ」

大工頭領「よぉっし、じゃぁ、この侍女さんと王様に
 俺たちの作っている領事館の案内をしちまおうじゃないか」

977: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:00:58.02 ID:TQ3NwHwP
――交易船『海の翼号』、船上

ざざーん
 「よーそろー!」「よーそろっ!」

貴族子弟「冷えますね」
メイド姉「はい」

器用な少年「うっわぁ! うっわぁ! すげぇな!
 あんちゃん、俺船は初めてだよっ!」

貴族子弟「あんちゃんではなく、師弟様、とか、師匠とか。
 そういう呼び方で読んで下さい。
 ああ。ご主人様、は禁止します。
 それは見目麗しい少女に呼ばせると決めていますから」

メイド姉「……」

器用な少年「なぁなぁ! あんちゃん!
 あれなんだ? 鳥か!? うっわぁ!
 すっげぇ! 海に突っ込んだぞ、なにやってんだ!」

がちゃ

生き残り傭兵「よぅっ。見張りを交代するぞ」
ちび助傭兵「助かる」

若造傭兵「おはよう」
傭兵弓士「良い天気だな。おーい、船長さんよ」

船長「なんだごろつきども」

メイド姉「すいません、すいません」ぺこぺこ

生き残り傭兵「まぁ、その辺は勘弁してくれよ」

船長「まぁ、たっぷり弾んで貰ったからな。諦めはしたがよ。
 このまま極大陸で良いんだな?」

メイド姉「お願いします」

船長「ふんっ。まぁ、こんな事は今回限りにして貰いてぇな」

980: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:02:38.95 ID:TQ3NwHwP
器用な少年「感じ悪いなぁ」
生き残り傭兵「仕方ねぇさ」

メイド姉「あの方は本来ただの商人さんです。
 遠征軍のように“殴りかかってきた相手”と云うわけでは
 ないですからね。巻き込むのは気が咎めるのですが、
 この場合は他に手段もありませんでしたし……」

器用な少年「でも、目の玉飛び出るほどふんだくられたぜ?」

生き残り傭兵「あはははっ。小僧の金ってわけでもないだろう?」
ちび助傭兵「それはそうだ」

器用な少年「でも、もったいないじゃんかよう」

メイド姉「お金なんて生きていなければ使えませんよ?」

器用な少年「――」

生き残り傭兵「やぁ。あはははは。いっぱしの傭兵でも
 チョット言えないような台詞を平気で言うな、代行は」

若造傭兵「うん」

貴族子弟「さぁって、これで大空洞まではいけるだろう。
 この船の荷物も買い取ったから、防寒着や食料も十分だ。
 新型の銃まであるとは驚いたけれどね」

メイド姉「そうですね」

器用な少年「銃って云うのか? あの筒」

生き残り傭兵「使えれば戦力になるかな」
ちび助傭兵「どうだろうな」

傭兵弓士「石弓に似たものだな」

981: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:03:59.51 ID:TQ3NwHwP
貴族子弟「それよりは、いまは今後の予定だな」
メイド姉「ええ」

生き残り傭兵「そいつだ」

若造傭兵 こくり

傭兵弓士「この際、代行の目的やこの遠征のことも
 聞かせて貰いたいな。一応雇われた身分になったとはいえ、
 戦闘は俺たちが引き受けるんだろう? 落ち着かないぜ」

貴族子弟「ああ、そうなるね」
メイド姉「はい」

生き残り傭兵「極大陸から、魔界へ行こうってのは判った。
 それでどうするつもりなんだい?」

貴族子弟「僕たちの目的は殆ど同じだ」

  若造傭兵「だんだん判ってきた」
  傭兵弓士「何をだ?」
  若造傭兵「代行と上手く付き合う方法を」
  傭兵弓士「どうするんだよ?」
  若造傭兵「考え得る材料で一番とんでもない想像をしておくんだ」

貴族子弟「魔界へ先回りして、
 聖鍵遠征軍と魔族の停戦交渉の準備をする」

メイド姉 こくり

生き残り傭兵「……」
ちび助傭兵「はぁ!?」

  若造傭兵「ほら。な?」
  傭兵弓士「あ、ああ」

982: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:05:15.22 ID:TQ3NwHwP
貴族子弟「いや、まぁ。まってくれ」

生き残り傭兵「何を言い出すんだ、俺たちは百人もいないんだぞ?」

貴族子弟「まぁ、まぁ。話を聞いてくれ。
 何も、本気で停戦が出来るとは僕も考えていないよ。
 魔族はどうあれ、聖鍵遠征軍は巨額の費用をかけているし
 大陸の国家の半数以上が参加しているんだ。
 出発はしましたが何もしないで帰ってきました、
 なーんて訳にはすでに行かなくなっている。
 
 だが、ちょっと待ってくれ。
 戦争をするのは、では仕方ないにしても、
 どこまでやるのかって問題はあるだろう?」

器用な少年「どこまで?」
生き残り傭兵「ふむ」

貴族子弟「本気で相手が全滅するまでやるのかって事だよ」

器用な少年「やるんじゃないか? そういう感じだったろ、遠征軍」
生き残り傭兵「まぁ、な」

貴族子弟「でもそれにしたって限度という物がある。
 たとえば梢の国と銅の国は過去に戦争したことがあるけれど
 最終的には痛み分けだ。お金を払ったり払われるかといった
 形に落ち着いた。
 月砂の国は戦に負けて滅んだけれど、それだって砂丘の国に
 吸収されて終わったんだ。別に皆殺しになった訳じゃない」

傭兵弓士「そう言えば、そうだな」

貴族子弟「戦争に参加していない一般の市民まで殺すなんて
 ナンセンスだ。第一、人数的に見たって現実的じゃない。
 仮に遠征軍が勝っても、負けたとしてもどこかで妥協は
 必要になってくるんだ。
 停戦協定は、その時にきっと役に立つ。
 成立しなかったとしても、その中で作った連絡手段はね」

983: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:07:03.33 ID:TQ3NwHwP
メイド姉「わたしはかなり本気で停戦を
 成立させたいと考えています。
 でも、やはり難しいとも思っています……。
 
 わたしが考えているのは、貴族さんとは少し違って
 この戦争の危険性と、参加者の意識のずれです」

生き残り傭兵「なんだそれ?」

メイド姉「戦争は痛くて苦しいではないですか?
 人が沢山死にますし、飢えたり寒かったり辛いことばかりです。
 
 人は自由な生き物ですし、それは国家もまた同様であるべきです。
 わたし個人は戦争を憎みますけれど、
 戦争そのものは否定出来ないかも知れないと思います。
 言葉に出来ないほど悔しいですが……。
 
 この世界には戦争という行動でしか解決できないことも
 あるのかもしれません。
 しかし今回の戦争には、全員が全てきちんとした
 自由意志で参加しているかと云えばそうではないように思える。
 
 停戦協定を一度は試みてみるべきだと思うのは
 “本当はやめたい人”にチャンスを提供するためです」

器用な少年「えーっと」

ちび助傭兵「なんだか滑らかな言葉に説得されそうだけど
 それってすげー上から目線じゃねぇか?
 云ってることは“いまならまだ許してやる”に近いぞ?」
若造傭兵「……あー」

メイド姉「ええ、そう言ってるわけです」

989: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:26:18.99 ID:TQ3NwHwP
器用な少年「は、はぁ?」
生き残り傭兵「はぁー!?」

メイド姉「そんなに驚かなくても……。
 平和的な交渉で事態を収拾するチャンスを与えないのは、
 それはそれで狭量ではないですか?」

生き残り傭兵「いや、そうかもしれないけれど。
 そう言う台詞は、武力で圧倒している側が云うんだろっ」

メイド姉「そういえば、そうかもしれませんね。
 でも、聖鍵遠征軍も魔族のほうも全滅の危機ですよ?」

貴族子弟「ふむ」

メイド姉「聖鍵遠征軍も、おそらく魔族の方達も
 わたしから見ると背筋が凍るほど危ない橋を渡っています。
 ……十度渡って一度渡りきるか否かと云うほどの。
 伝える方法がないのが、もどかしいですが」ぎゅっ

生き残り傭兵「どういう事なんだ?」

メイド姉「損耗率です。
 ……これに気が付いているのは
 世界中でも十人もいないかも知れません」

若造傭兵「損耗率?」

貴族子弟「一度の戦闘で参加者のどれくらいが死ぬか、と云う話さ」

生き残り傭兵「そりゃ、なんだ。そんなのは常識だろう?
 千人同士の戦で一日戦って、20人かそこらが死ぬか不虞になる。
 50人、運が悪いと100人は戦闘できなくなるな。
 半年もすれば治る程度だろうが」

ちび助傭兵「そんなもんだろう?」

メイド姉「それは不変ではありません」

991: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:27:49.65 ID:TQ3NwHwP
生き残り傭兵「よく判らないな」

メイド姉「まだピンとは来ませんよね。
 わたしも詳しく実際に調べたわけではありませんが
 マスケットを持った1000人の兵同士が半日戦った場合
 その死者の数は100人を越えるでしょう」

貴族子弟「……青ざめるね」
生き残り傭兵「100人っ!?」

ちび助傭兵「ってことは、あれか?
 いままで一週間かかっていた戦争が一日で片付くって話なのか!?」

メイド姉「もちろんそう言う側面も、あります」

生き残り傭兵「理由は?」

メイド姉「理由は沢山あります。
 まず、マスケットは高い攻撃力をもっています。
 至近距離であれば板金鎧を打ち抜くほどに。
 攻撃力は性能と距離に依存します。
 しかし、マスケットで防御力は上昇しません。
 この船に積まれているのは、おそらく新型のマスケット
 “フリントロック”ですが、これはマスケットの性能を
 向上させて利便性や連射性能を向上させたものです。
 これもまた、防御力という意味ではマスケットと同じく
 “先に倒すことによって身を守る”と云う程度の
 ものでしかありません。
 つまり、防御力に比して攻撃力が突出しているのです」

貴族子弟「ほかにもある。マスケットの登場によって
 戦場には非常の多くの歩兵が存在できるようになってしまった。
 見ただろう? あの聖鍵遠征軍のおびただしい数を」

992: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:30:01.01 ID:TQ3NwHwP
傭兵弓士 こくり

貴族子弟「彼らはマスケットを討つ訓練を受けた農奴なんだ。
 君たちは傭兵として長いから判っているだろう?
 戦場で生き残る大事さと、大変さを。
 生き残りさえすれば、戦場ではいずれ手柄をあげられる。
 チャンスは生きてさえいれば巡ってくるんだからね。
 だが彼らは生き残ることよりも、
 敵に射撃をすることを教えられて送り出されている。
 “生き残る訓練”をしていないんだ」

生き残り傭兵「……それは、判る」

メイド姉「先ほどは“いままで一週間かかっていた戦争が
 一日で片付く”と云っていましたが、もちろんそれは一例です。
 例えば、それとまったく同じ理由により
 “司令官がちょっと目を離した隙に取り返しが
 つかないほど多くの兵が死ぬ”と云うこともあり得ます。
 
 さらに最悪なのは“一時的な怒りに駆られて
 本来殺す必要がなかった人々まで一時に殺せてしまう”
 と云うことです。
 
 たとえば、鎧と剣を装備した二人の騎士が
 打ち合う場合、腕が互角であればなかなか勝負がつきません。
 疲労もするでしょう。
 今日のところは引き分けと云うことになれば
 もしかしたら明日は仲直りするチャンスがあるかも知れない。
 それが出来なくても、嫌いな相手として顔を合わせないように
 過ごすことも出来るでしょう。
 
 でも、マスケット以降の戦いではそうはいかない可能性が
 高くなって行くんです。
 ――“仲直りする前に相手を殺していた”。
 それは言葉に出来ないほど恐ろしいことです。
 
 それに……。魔族も、マスケットは持っています」

生き残り傭兵「そうなのかっ!?」

993: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/10/04(日) 23:32:17.90 ID:TQ3NwHwP
メイド姉「仮に持っていなかったとしても、
 その技術を入手できる位置にいる事は確実です。
 いえ、もしかしたらそれ以上の武器さえも。
 当主様は決して争いを好みはしませんが。
 それでも
 ――殺しあいをするには、危険すぎる線上の綱引きです」

ちび助傭兵「……傭兵には荷が重すぎる話だ」

メイド姉「時代の曲がり角が要求する血の量は、
 もしかしたら、魔族と人間の血の全てあわせたよりも
 多量なのかも知れない。だとすれば、それは世界の終焉です」

貴族子弟「?」

メイド姉「いえ。……こちらの話です」

生き残り傭兵「それで、その損耗率の話で互いを説得できるのか?」

メイド姉「おそらく魔族側は説得の必要があまりないと
 思うんですけれどね」こくり

貴族子弟「そうなのかい?」

メイド姉「ええ。知己がいます。話のわかる」

貴族子弟「それは有り難いな。
 交渉ってのは顔見知りかどうかが重要だからねぇ」

若造傭兵「まぁ、その交渉のために、俺たちは代行を
 魔界の旅の間守り抜けばいいわけだ」

メイド姉「ええ、そのためには幾つか策も必要なものも
 あるのですが……。いずれにしろ名前のないわたしが
 突然聖王国の指導者にお会いできるわけもありませんしね」

ちび助傭兵「常識的なことを云うとかえって不気味だな」

メイド姉「とにかく、魔界へとたどり着くことです」

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